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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十五章

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15-18.インターミッション

※2016/9/6 誤字修正しました。

 サトゥーです。昔から、頭の回転の速い人には敵いません。一を聞いて十を知るという言葉を体現するような人は本当にいるのですよ。



◇



「ご、ご主人様! こ、こっそり帰ったりしないわよね?」

「ああ、もちろんだ」


 アリサがオレの手をガシッと掴んで尋ねてきたので即答する。


「もし、里帰りするにしても、その時はみんな一緒に地球観光をしよう」


 きっと、東京の摩天楼やサブカルチャー溢れる秋葉原あたりを喜んでくれるに違いない。


「そ、そうよね」

「それに、手紙やハヤトのお陰で転移先の座標は分かったけど、直ぐさま上級の転移魔法で遊びに行けるわけじゃないしね」


 試算してみたけど、普通の魔法だと神授の聖剣一本分の魔力を使っても数グラムの物体移動が限界みたいだった。

 どうも、世界間の距離が遠すぎるらしい。


 ルモォーク王妹のユリコが使っていた『世界を繋ぐ力』やパリオン神の勇者召喚のように、ユニークスキル経由――神の力(・・・)経由でないと難しそうだ。


 オレのユニット配置なら可能な気がするが、残念ながらハヤトの世界に拠点が存在しないので使用不可能だった。

 こんな事なら折りたたみ式の犬小屋でも持ち帰ってもらって、向こうで組み立ててくれるように頼めば良かったかもしれない。


 問題が魔力量だけなら、ちょっと宛てはあるから、イタチ帝国やサガ帝国の件が落ち着いたら、本格的な研究に取り組んでみよう。


 サガ帝国で勇者の召喚陣も見物できる約束だしね。



◇



「サトゥー子爵。サガ帝国にいらしたら、いつでも訪ねていらっしゃい。その時にあの約束を果たします」

「はい、一度シガ王国に帰還してから、お伺いいたします」


 次元潜行船ジュールベルヌの前で、勇者の従者達と別れを交わす。


 そういえば、メリーエスト皇女だけじゃなく、他の従者達もオレを家名のペンドラゴンではなく名前で呼ぶ。

 一昨日の祝賀会や昨日の勇者を偲ぶ会で、何か彼女達の琴線にふれるような事でもしたのだろうか?


「サトゥー様、また美味しいお酒があったら送って下さいね」

「ええ、ロレイヤ様が気に入りそうな銘柄を見かけたら必ず」


 ロレイヤ嬢とそんな約束をする。


「あたしとフィフィはサガ帝国に戻ったら、武者修行の旅に出るからさ、シガ王国に寄った時にでも手合わせしてよ」

「うん、あたしも手合わせしたい。魔王のあの動きについていけるのがハヤトやルスス以外にもいるなんて思わなかったからさ」


 ルススとフィフィがニヤリと笑ってそう告げた。

 その時はタマとポチに相手を頼もう。


「サトゥー、観光が好きならサガ帝国の耳族保護区に来ると良い。耳族は人族との交配が可能だから、強いサトゥーはきっと歓迎されるはず」


 次にオレの前に現れたのはウィーヤリィ嬢だった。

 耳族保護区には興味があるが、種馬的な扱いをされそうなので、ちょっと躊躇っちゃうね。


「またね、サトゥー。シガ王国に間者として遊びに行くよ」

「いえいえ、普通に遊びに来て下さい。歓迎しますよ」


 そんな不穏な発言をしたのは斥候のセイナ。


「サトゥー殿、ご助力を感謝いたします。サガ帝国の皇帝陛下より、後日シガ王国に書状が届くはずです。内容は恐らく勲章授与と名誉貴族の授爵でしょう。授爵はともかく、勲章は私達とお揃いなので受けていただけると嬉しいです」


 そして最後に、文官ノノが事務的な報告をしてくれた。

 なぜか「お揃い」のところで頬を染めてたりしたので、アリサとミーアの鉄壁コンビが柳眉を逆立てていた。

 完全な誤解なので、オレは堂々と無罪を主張したい。


 銀色の船が次元の狭間に消えるのを見送り、オレ達も帆船でイタチ帝国を後にした。


 そして、その五日後、オレは再びデジマ島へと訪れる事になる。

 今度はクロとしてだ。



◇



「勇者ナナシの従者クロ。王弟閣下への面会許可を感謝する」


 ここはデジマ島の行政府にある謁見の間だ。

 目の前にはすらりとしたイタチ人の王弟が玉座に座っている。


「レベル五〇か。勇者の従者にしてはレベルが低い」

「それは失礼した。我は移動と折衝が役目故」


 王弟のあおりを適当に流す。


 元々、サトゥーとして王弟を表敬訪問する予定はあったが、クロとして面会する気はなかった。

 では、なぜ会っているかというと、イタチ商人に頼んだイタチ皇帝への謁見を彼が仲介してくれる事になったので、一度会う事になったのだ。


「――カガク」


 王弟が呟く。


「ふん、顔色一つ変えんか。帝国本土から出る者はレテ市で記憶消去を受けるというのは知っているか?」

「記憶消去? 精神魔法か?」

「いや、紫髪共によるユニークスキルだ」


 紫髪――アリサと同じ転生者か。


「それで?」

「せっかく皇帝と会えても、記憶を消されては意味がなかろう? ワシの頼みを聞いてくれるというなら、記憶を消されないように密出国を手伝ってやろう」


 ユニット配置で一瞬で出国できるから、特に必要のない取引だが、王弟にどんな意図があってそういう提案をしているのかは興味がある。


「頼みとやらを聞こう」

「デジマ島は帝国より離脱する。シガ王国に後ろ盾を頼みたい」


 独立か――だけど。


「遠く離れたシガ王国の後ろ盾があっても意味はなかろう? 帝国本土から攻められたら、シガ王国から援軍がくる前に滅びよう」

「その心配は無用だ。帝国は早晩滅びる。その時に巻き添えで滅ばぬように、独立するのだ。帝国外縁の教区も水面下で動いているはずだが、あいつらは敬虔な信徒達ばかりだから放置しても問題あるまい」


 どうやら王弟はイタチ帝国が神の怒りを買いそうな危うい状態にある事を知っているようだ。

 シガ王国を後ろ盾にするのは、食料の供給やデジマ島が住めなくなったときに難民を受け入れてもらうためらしい。


「滅びを回避しようとは思わぬのか?」

「皇帝の意志は固い。もとより、神の介入も予定の内と嘯いておったわ」


 オレの問いに、王弟が吐き捨てるように告げた。


「皇帝には神に対抗するような手段があるのか?」

「同じ問いをしたが、愉快そうに哄笑するばかりで、答えは返ってこなかった」


 不快そうな顔をしていた王弟が、何かを思いついたように口を開いた。


「そういえば、ハゲ軍師が『誰もが知るが故に、誰もそこに辿り着けぬ』と偉そうに呟いておった。賢者気取りのあやつの妄言に振り回される気はないが、一応教えておいてやる」

「そうか、貴公の親切に感謝する」


 素直に感謝したのに、なぜか鼻で笑われてしまった。


「感謝するなら、行動で示せ」

「後ろ盾の件か。構わぬが、イタチ帝国の滅亡より、貴公の破滅が先になるかもしれんぞ?」


 さすがに、イタチ帝国とデジマ独立国との戦争に介入する気はない。


「もし滅びなくても、失うのはこの首一つだ。イタチ人族の血と文化を絶やさぬ為にも、今やる必要があるのだ」

「よかろう、シガ王国の国王に持ちかけてみよう」


 オレがそう答えると、身を乗り出し気味になっていた王弟が、満足したように玉座に身を委ねた。


「では勇者ナナシ、吉報を待つ」

「間違えるな、我は――」

「ふん、下手な演技をしよって。部下のフリをするなら、権限を越えた案件を即答するな」


 しまった、あんまり気にしていなかったよ。



◇



 さて、先ほどの案件だが、ヒカルを連れて国王に面会したところ、意外な事にヒカルの援護射撃前にあっさりと承諾されてしまった。


 もちろん、無条件で、ではない。


 シガ王国へのテロ活動に使っていた「転身丸(リボーン・シード)」を禁止薬品として流通や生産だけでなく研究も禁止する事、そして亜人を忌避する門閥貴族達を黙らせる利権を幾つか要求する事になった。


 初めのうちはオレが伝書鳩のようになって両国を飛び回っていたのだが、面倒になってきたので、王弟をシガ王都へ連れていって直接折衝させた。


「では『ヤマト条約』をここに締結する」


 こうして王弟と出会ってから一月後にようやく、デジマ島の独立を承認し、後ろ盾となる条約が締結された。

 その間にサガ帝国から、魔王討伐に参加したペンドラゴン子爵への感謝状や宝物の山が届けられて、王城の人達がプチパニックになる騒動もあったが、サトゥーとしてのオレは船で航海中になっているのでこの騒ぎに巻き込まれることはなかった。

 サトゥーがシガ王国に帰還するのは半月後の予定なので、それまでには小康化している事を祈りたい。


 ヒカルはシガ国王の護衛を兼ねて毎回会議に出ていてくれたので、オレは安心して遠出していた。


 その行き先は――。



◇



「サトゥー君、あれがサガ帝国の旧都かね!」

「ええ、そうですよ」


 オレはムーノ伯爵を連れてサガ帝国を訪問していた。


 今回同行しているのはムーノ伯爵とカリナ嬢、ソルナ嬢、そしてソルナ嬢の許嫁で最近授爵したハウト名誉士爵、それからムーノ伯爵お気に入りのタマとポチの二人だ。


 次期ムーノ伯爵のオリオン君も行きたがっていたが、伯爵と次期伯爵が同時に国を離れるのは良くないと執政官のニナ女史に止められて、泣く泣く断念していた。

 彼には何か旧都で土産でも買っていってやろう。


 なお、リーングランデ嬢に会わそうとセーラも誘ったのだが、にべもなく断られてしまった。

 彼女達の仲直りはもう少し先になりそうだ。


 なお、勇者の召喚陣があるのは現在の帝都ではなく、なんとか公爵の治めるこの旧都の方にある。

 オレ達が飛空艇で乗り付けた旧都の空港には、サガ帝国の大型飛空戦艦が三隻も停泊していた。


 人口はシガ王国の公都より多く王都より少ないくらいで、通年で気温が低く温かそうな服装の人が多い。

 黒髪の者が多く、日本人風ののっぺりした顔立ちの者もちらほらと見かける。


「少し肌寒いですね」

「ソルナ、これを羽織ると良い」

「ありがとう、ハウト」


 ソルナ嬢とハウトのそんなやり取りを、カリナ嬢が羨ましそうに見つめている。

 カリナ嬢の服は空調機能付き全天候型の装備なので、この程度の寒さに上着は必要ない。


「さむい~?」

「これくらいへっちゃらなのです」

「タマ君とポチ君は寒さに強いのだな」


 ムーノ伯爵が身体を震わせながら、タマとポチを褒める。


「伯爵様、こちらの外套をどうぞ」

「ああ、サトゥー君、ありがとう」


 悔しそうに指を噛むカリナ嬢が視界に映った。

 自分の父親に嫉妬してどうする。


「サトゥー、お待たせしたかしら?」

「いえ、先ほど到着したばかりです」


 迎えに来てくれたメリーエスト皇女に続いて豪華な馬車に乗り、旧都の郊外にある「勇者の丘」へと向かう。

 他の従者達は帝都での祝賀会や貴族達のパーティーでひっぱりだこ状態だそうだ。


 異様に見晴らしの良い丘の上に白い石でできた建物がある。

 ギリシャ建築の古い神殿の遺跡に近い形で、床柱天井のみで壁がない。


「おぉおおおおおお! こ、ここが歴代勇者様が召喚された聖地!」

「え、ええ、そうですわ」


 テンションが振り切れたムーノ伯爵の勢いに、メリーエスト皇女が引き気味だ。

 ソルナ嬢とカリナ嬢の二人も、ムーノ伯爵ほどではないが、キラキラした目で聖地を見回している。


 三人が落ち着くのを待っていたら日が暮れそうだったので、適当なところで先を促して建物の内部へと入る。


「メリーエスト殿下、こちらがムーノ伯爵とペンドラゴン子爵ですか?」

「ええ、そうよ。魔王との戦いで言い尽くせないほど協力していただいた方です。失礼の無いようにね」

「勇者様がお約束したのならいたしかたありません」


 渋い顔をした年配のパリオン神殿の神殿長に、メリーエスト皇女が事務的な口調でそう告げた。


 両者はあまり仲が良くなさそうだ。


「では、こちらへ」


 結界を解除した神殿長に続いて、神殿へと足を踏み入れる。


 ――おおっ、これは凄い。


 一見普通の神殿だが、魔力視を有効にすると床の魔法陣だけじゃなく、天井や柱などにも積層型の魔法陣が複雑に刻みつけられている。

 それぞれの魔法陣が相互に作用し合う芸術的な魔法陣で、色々と勉強になった。


 魔法陣を読んで気がついたのだが、「勇者の丘」の地下全体が魔力を蓄積する巨大な魔法装置になっているようだった。

 旧都の気温が妙に低いのは、地脈を流れる魔力のほとんどが都市核ではなく、この魔法装置に回収されているからに違いない。


「そろそろ満足しましたか?」


 神殿長に声を掛けられて、けっこう長い間神殿内を眺めていた事に気がついた。


「ええ、ありがとうございました。神秘的な雰囲気に恥ずかしながら我を忘れてしまいました」


 オレは詐術スキルのサポートを得て、神殿長の疑惑の視線を回避した。

 ここの魔法陣は地下の隠し魔法装置も含めて完璧にトレースしたので、幾らでも複製ができる。


 そのままだとパリオン神を仲介するようなので、そこだけは改変する必要がありそうだ。


「神殿長! メイコ様が――」

「ら、来客中ですよ」


 神殿を出ようとしたところで、巫女の一人が駆け込んできて、あきらかな失言をした。


 日本人ぽい名前だったので検索してみると、「メイコ・カナメ」という新しい勇者が旧都を散策していた。

 不用心な事にユニークスキルを隠蔽しておらず、情報が丸見えになっている。


 彼女のユニークスキルは四つ、「最強の刀(きれぬものなし)」「無敵の機動(あたることなし)」「無限武器庫(はてなきつるぎ)」「先見の明(さきよみ)」というのがあった。

 召喚されたばかりだと思うのだが、彼女のレベルは60もあり、勇者ハヤトの初期レベル50よりも高い。


「サトゥー、行きましょう」

「皇女殿下――」

「分かっています」


 口止めをする神殿長に当然だとばかりにメリーエスト皇女が答え、オレ達を神殿の外までエスコートしてくれた。

 たぶん、勇者メイコの事は秘密なのだろう。


「申し訳ないのだけれど、私はこれから帝都に戻らないといけないの」

「いえいえ、こちらこそお忙しいところ、お手数をお掛けいたしました」


 本当に申し訳なさそうなメリーエスト皇女に礼を告げ、オレ達は旧都の空港で彼女と別れた。



◇



「では、城下町観光とまいりましょうか」


 オレはムーノ伯爵一家と旧都を散策し、歴代の勇者が立ち寄ったというラーメン屋や甘味処をはしごした。

 次は土産物屋で勇者神殿の模型や、勇者のフィギュアなんかを購入しにいこう。


「もう! どうして砂糖漬けみたいな甘ったるすぎるのか、和菓子しかないのよ! 可愛いケーキやパフェはないの!?」


 声に振り返ると、生意気そうな顔の14歳ほどの少女がいた。


 お付きにはメガネのイケメン神官がいる。

 なんとなく気が弱そうな感じだ。


「すみません、メイコ様。シガ王国には『ルルのケーキ』というのがあるそうなのですが」

「ルル? 風邪薬みたいな名前ね。まあ、いいわ、買ってきて」

「え?」

「それを買ってきなさいって言っているの。二度も言わせないで」


 なかなか無茶を言う。


 ほぼ同郷の少女だが、ここは関わり合いにならずにスルーするべきだろう。

 彼女なら立派にこの国で生きていけそうだ。


「ちょっと! そこの黒髪!」


 なのになぜか、先ほどの少女が目の前にいる。

 どうやら、瞬動を使ったようだ。


「私ですか?」

「ええ、そうよ! あんた地元民でしょ? スィーツの店に案内してよ。あたしは生クリームに飢えてんの!」


 早く連れていきなさい、と少女はなかなかの剣幕だ。


「メ、メイコ様いけません」

「やかましい!」


 一方で付き人の神官はオレ達の服装から、他国の貴族だと推察したようで、顔を青く染めて彼女を翻意させようと必死だ。


「なまくりーむ?」

「ポチも甘い物が食べたいのです」

「そういえば前に食べたケーキは美味しかったですね」


 タマとポチの言葉にソルナ嬢がおっとりと混ざる。


 三人だけでなく、ムーノ伯爵も「そろそろ、お茶の時間だね」と言い出した。

 人の良いムーノ伯爵は、生クリームを求める少女に同情したようだ。


「あるの?!」

「ええ、ありますよ。そこの喫茶店に参りましょう」

「メイコ様、騙されてはいけません! そこは青紅茶こそ出しますが、お菓子は先ほどまで見たのと同じ種類の物しかありません」


 少女が嘘だったら許さないとばかりに、こちらを睨み上げた。


「お店にはありませんが、この鞄の中にケーキがあります。店には持ち込み料金を支払えばいいでしょう」

「そう? なら行きましょう」


 即断即決の少女と一緒に、落ち着いた感じの喫茶店に入る。

 メガネ神官はこの店の常連だったらしく、すぐに個室へ通してもらえた。


「へー、なかなか美味しそうじゃん」


 カットしたルルのケーキを前に、少女が偉そうな態度で言う。

 だが、口調とは裏腹にケーキを見つめる瞳はキラキラと輝いていた。


「うまっ! 何これ美味し過ぎるっ」

「びみびみ~?」

「やっぱりルルのケーキは美味しいのです」


 子供達が嬉しそうにケーキを頬張るのを眺めながら、ゆっくりと青紅茶を飲む。

 ソルナ嬢やカリナ嬢だけでなく、ムーノ伯爵も甘い物が好きなようで、さっきからうっとりとした表情でケーキを味わっている。


「美味しかった~。さっきのがルルのケーキなの?」

「おふこ~す」

「ご主人様が作ってくれたのです」


 食べ終わったケーキを称賛する少女に、タマとポチが自慢気に答える。


「あんた、今日から勇者の従者よ! 料理番として付いてきなさい」

「申し訳ありませんが――」


 オレが断ろうとしたところに、偉そうな神官風の銀髪男が飛び込んできた。


「ロレンス! メイコ様を神殿に戻せ! 今日はあの(・・)ペンドラゴン卿が来るから、外に出すなと言っただろう!」

「ウ、ウォーレン様!」


 はて? オレと新勇者を会わせたくないのはどうしてだろう?

 オレと目が合った神官ウォーレンが、顔を青ざめさせた。


「はじめまして、サトゥー・ペンドラゴン子爵と申します」

「ペ、ペンドラゴン卿?! ま、魔王殺しがどうしてメイコ様と一緒に?!」


 なかなか酷い呼び名だ。

 もしかしたら、「魔王殺し」ってこの世界だと褒め言葉なのかな?


「魔王殺し? 先代勇者と一緒に魔王を倒したっていうシガ王国の勇者?」

「私が勇者ですか? もしかして、シガ王国の勇者ナナシ様とお間違えでは?」


 メイコの質問を疑問符と質問返しではぐらかした。


「メイコ様、このペンドラゴン卿は――」


 銀髪神官が小声で勇者メイコに耳打ちする。

 彼が話す内容は概ね間違っていないが、決して同意できない内容だった。


 なので、誤解が深まる前に相互理解を進めようと声を掛ける。


「メイコ様――」

「よ、寄らないで! この性欲魔人!」


 怯えたように勇者メイコが部屋の端まで飛び退いた。

 それにしても、性欲魔人は酷い。


 視界の端でメガネ神官が必死に謝っている姿が見えるが、そんな事でオレの傷付いた心は癒えないのだ。


「何かの誤解では――」

「十人以上の女性を侍らせて、小学生くらいの女の子から大人まで毎晩一緒に寝ているんでしょ!」

「それは事実ですが、決して――」

「聞きたくない、聞きたくない!」


 彼女は両耳を塞いでイヤイヤと首を横に振る。


「ペンドラゴン卿、メイコ様のご加減が悪いようなので失礼する」

「ま、待ってください巫女長様!」


 銀髪神官が勇者メイコの肩を抱いて飛び出していった。


 メガネ神官は巫女長と呼んでいたが、銀髪神官の性別は男である。

 微妙に謎だが、特に興味はないのでスルーしておこう。


「し、子爵様――」


 この店の料理長が決死の表情で、ケーキの試食を願い出てきた。


「レシピじゃないのかい?」


 オレの問いに料理長が神妙な顔で首を横に振った。


「それはあまりに厚かましすぎでしょう。私も料理人の端くれです。一度食べれば、いつかその味に辿り着いてみせます」


 なかなか凄い事を言う人だ。


「いいよ、それなら彼女が気に入りそうなお菓子を何種類か置いていくよ」


 ちょっと楽しくなったので、そう告げてケーキやカステラといったお菓子をテーブルの上いっぱいに並べた。

 タマとポチまで目をキラキラさせている。

 君達にはこのあとサガ帝国の肉料理フルコースを食べさせてあげるから、今は我慢してね。


 オレは料理長にエールを送り、肉料理ツアーへと出発した。

 もちろん、留守番をしていた仲間達には、ツアーで食べた肉料理を再現してあげたのは言うまでもない。


 さて、英気も養った事だし、そろそろクロとしてイタチ帝国の帝都へと出発しよう。


※次回更新は 9/11(日) の予定です。



※活動報告にデスマ8巻なろう特典SS「赤い実のヒミツ」をアップしてあるので、宜しかったらご覧下さい。

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