15-16.勇者vs魔王(3)
※2016/9/1 誤字修正しました。
※2016/8/21 一部修正しました。
サトゥーです。色々なメディアで「悪人に人権は必要か」という議論をたまに見かけます。これについては賛否両論あると思いますが、「犯罪は割に合わない」と思えるような訓戒は必要だと思うのです。
◇
「あちゃ~、これまでかー」
イタチ人の魔王はほんの一瞬だけ表情を固まらせていたが、すぐにチャラけた調子を取り戻した。
今のうちにイタチ魔王にマーカーを付けておこう。
「ネズ太っち、俺ちゃん達も、この辺で終わりみたいじゃん」
――ZHWUU。
イタチ魔王の言葉に、部屋の隅でネズミ人の魔王が力なく答える。
鼻先を隅に押し付けたまま、動く様子はない。
体力も尽きかけ、このまま放置したら、ほどなく死んでしまいそうだ。
「わるいけどさー、なるべく、痛くないように殺してねん?」
自分の首をトントンと叩き、情けない顔をこちらに向ける。
変だ。ずいぶん潔い――。
迷宮核の前で嘆くイタチ魔王が、その背中で反対側の手がせわしなく動くのが見えた。
――うん、そうだよね。
「迷宮核の操作を禁ずる」
迷宮核との間にあった操作板の上を動いていたイタチ魔王の指が止まる。
「こりゃ、まいったー」
イタチ魔王の体表に紫色の光が流れ――。
「ユニークスキルの使用を禁じる」
「ちょっと遅かったじゃん」
――イタチ魔王との間に、ミサイルのような物が現れた。
危機感知の激しい訴えに、オレは縮地でミサイルに触れ、ストレージに収納する。
目の前から消える一瞬の間、「USA製ICBM」とAR表示されていた。
ネズミ魔王の使っていた現代兵器召喚はこいつの力だったのか。
「ネズ太っち!」
――ZHWWWUUUUUUUWN。
死にかけていたはずのネズミ魔王が咆哮を上げる。
額にメダルが付いたような生物風ヒーロースーツを身に纏ったネズミ魔王が、自分の胸を左右に裂く。
――なんだ?
「ネズミ魔王! ユニークスキルの使用を禁じる」
オレは自在盾を正面に出しながら、ネズミ魔王に強制を使う。
次の瞬間、ネズミ魔王の胸元から放射された円錐形のブレスのような熱線が「迷宮の主の部屋」を焼き払う。
アリサの使う炎系の禁呪「煉獄の白焔」と同等かそれ以上だ。
打ち終わったネズミ魔王がその場にどうっと倒れ、ビクビクとけいれんを始めた。
どうやら、最後の力を振り絞った一撃だったらしい。
「さすがはネズ太っち! あの規格外も、あれだけの攻撃を受けたら只で済まない――死骸がない?」
「行動を禁ずる」
イタチ魔王の言葉に応える前に、オレはイタチ魔王の行動を縛った。
「ど、どうやって――」
「知る必要はない」
オレは続けてネズミ魔王の行動も縛り、死なない程度に回復させた。
「どういうつもりじゃん?」
「魔王と迷宮の主を止めるなら、命だけは助けてやってもいい」
只の人として、生ある限り贖罪の日々を送ってもらう。
「マジで?」
オレの答えにイタチ魔王が虚を突かれたような顔になる。
「ああ、約束する」
そう言うと、イタチ魔王が哄笑を始めた。
ひとしきり嗤うと急に真顔になり――。
「とんだ甘ちゃんじゃーん? 俺ちゃんヘドが出そう」
――そう吐き捨てた。
「もしかして、皇帝から俺ちゃん達の境遇を聞いちゃったー?」
境遇?
「あれ? 俺ちゃんやネズ太っちが皇帝のギアスに縛られて、無理やり魔王にされた挙げ句、迷宮の奥底で勇者を引きつける囮役をやらされてるってー?」
なるほど、黒幕はイタチ皇帝だったのか。
「もしかして、知らないで命を助けるとか言ってたわけ?」
イタチ魔王の質問に首肯する。
「うわっ、だだ甘すぎて意味がわかんねー」
処置無しとでもいいたそうな顔で顎を反らし、昏い目でオレを見下す。
「言っておくけど、俺ちゃんは悪人じゃん?」
それは分かっている。
「ダンマスだって気に入ってたわけ。ダンマスはいいぞー。残虐に、残酷に、人の命を弄び、エロく、無残に、人の尊厳を奪い、エグく、執拗に、人の理性を砕いて遊んだ」
イタチ魔王の周辺に、言葉と一致した映像が浮かぶ。
目を逸らしたくなるような蛮行が多い。
イタチ魔王に対して珍しく懲悪的な怒りが湧き上がる。
「元の世界だったら歴史に残りそうな凶悪犯の命を助けようっての? もしかして、死刑反対の人?」
だが、怒りで眩んだオレの心に、何かが警鐘を報せていた。
「悪人は殺せるウチに殺すべきじゃん? だってさ――」
――そうか! 映像だ。
迷宮核の力が使えないなら、表示できないはず。
ヤツにはオレの強制が効いていないあるいは、いつの間にか効果が解除されたのか――。
「時間切れ」
イタチ魔王の言葉と同時に、オレの姿は溶岩部屋の空中に排出された。
魔力中和はそのままのようで、魔力に依存する天駆スキルや魔法は使えない。
オレは重力に引かれて、真っ逆さまにマグマに向かって落ちていく。
「ばいばいび~」
イタチ魔王の哄笑がダンジョン内に響く。
――残念ながら、このくらいは逆境とも言えない。
オレはストレージから取り出した巨岩を蹴って飛び上がり、宙の一点に貫き手を放った。
「うぉあぇ?」
動揺する迷宮の主の声を無視し、迷宮の主部屋へと再侵入を果たす。
無駄な哄笑なんかするから、再侵入の手掛かりを残すのだ。
「おいおいおい、なんだそりゃ! なんなんだよ、あんた!」
迷宮核を操作していた魔王が、首だけを振り向かせて驚きの声を上げた。
「あんた神様かなんかかよ!」
「違う」
イタチ魔王がどうやってオレの強制を解いたか分からないので、オレは異界迷宮の入口を開いて、イタチ魔王をそこに投げ込んだ。
とりあえず、迷宮核から離すのが最適だろう。
ネズミ魔王の強制は解けていないようだったので、オレはネズミ魔王を残して異界迷宮に踏み込んだ。
「死んJAEえ、じゃんN!」
ずらりと並んでいた近代兵器が一斉に火を噴く。
銃弾が壁を抉り石筍を砕き、砲弾が床を抉り轟音と土埃をまき散らす。
多弾頭ミサイルが爆炎の花を咲かせ、巨大な弾道ミサイルが迷宮の床と天井を吹き飛ばした。
「MあだイキテルじゃNN!」
イタチ魔王がヤバイ。身体がボコボコ変形しながら巨大化を始めている。
「ユニークスキルの使用を禁ずる!」
「MうだムDAじゃんN!」
オレの強制は効果を現さず、イタチ魔王の周囲に対空機関砲や主力戦車が現れてこちらに銃弾と砲弾の雨を降らせてきた。
オレは「光線」の一薙ぎで現代兵器を無力化する。
――UHYOOOOWN。
ユニークスキルを使いすぎたのか、イタチ魔王が完全に理性を失い暴走状態になってしまった。
それと時を同じくして、AR表示にヤツのスキルや称号、そしてユニークスキルが表示されるようになる。
どうやら、暴走状態になったときに隠蔽が解けてしまったようだ。
イタチ魔王のユニークスキルは「物品召喚」「自由奔放」「悪行招力」の三つだ。
おそらく、二つ目のスキルがオレの「強制」を無効化したのだろう。
できればオレが保護している魔王シズカの能力で、「神の欠片」を除去して罪人としての余生を送ってほしかったが、それは叶わないようだ。
オレの「強制」が効かない以上、魔王シズカの安全が保証できないからね。
身内を危険に晒してまで偽善を行う気はない。
――UUUHYYYOOOOOOOWN。
天井や壁が無くなって広くなったフロアに、戦闘ヘリや垂直離着陸戦闘機が現れた。
――UUUHYYYOOOOOOOWN。
イージス艦や空母まで姿を現した。
もっとも、そんなにユニークスキルの力を行使して、イタチ魔王が無事なはずもない。
イタチ魔王の身体が裂け、その裂け目から暗紫色の光が脈動するように漏れている。
オレはそれらの軍勢を無視し、巨大化したイタチ魔王の足下に縮地で飛び込む。
すさまじい攻勢がオレを襲ったが、すべてオレの背後だ。
「《勝利を》」
聖句を受けて聖剣エクスカリバーの刀身が眩く輝いた。
わずか一振りで、魔王は二つに裂け、剣閃から溢れた青い輝きが魔王を蒸発させた。
『あんなんチートじゃん』
『ひどいやー』
『俺ちゃんかわいそー』
魔王のいた場所から現れた「神の欠片」を、神剣の一振りで一気に殲滅する。
暗紫色の光の粒子が神剣の黒い刀身に吸い込まれていった。
それにしても、イタチ魔王にオレの強制が効かなかった以上、イタチ皇帝の強制に縛られていたという話は話半分に聞いておいた方が良さそうだ。
◇
「地震?」
異界迷宮から戻ると、迷宮が揺れていた。
近くにあった迷宮核の操作板を調べる。
>称号「迷宮の主」を得た。
げっ、触っただけで迷宮の主にされるのか。
釈然としないが、今は調査が先だ。
「スタンピード設定だと?」
迷宮の魔物の再発生速度を最大にしたうえで、一定数以上になった時点で地上に向けて暴走するように設定してあった。
しかもログを確認すると、それらを実行するために、火山の噴火を抑制していた魔力を全部回していた。
このままだと、魔物のスタンピードと火山の噴火で迷宮島のみならず、デジマ島全体に甚大な被害が発生しそうだ。
「ちっ、ロックしてある」
パスワードロックなんて、なんの為に付けてあるんだ。
スタンピードする魔物が被害を出すまで15秒、噴火まで20秒ってところか。
『ヒカル! 手伝ってくれ』
『おっけー』
オレは孤島宮殿で待機していたヒカルに助力を求めた。
「おまたせー」
「時間がない。手短に言う。火山の噴火をしばらく止めておいてくれ! 30秒でいい」
本当はアリサの方が向いているのだが、先ほどまでの魔王戦で消耗しているはずなので無理をさせたくなかったのだ。
オレはスタンピードする魔物達を異界迷宮へ移動させる。
迷宮の主であるオレにとって、ここは自陣で、迷宮の魔物は自陣営のユニットなのだ。
ならば、ユニット配置で魔物達を移動させるなど、造作も無い。
ちょっと数が多くて面倒だっただけだ。
「お待たせ、ヒカル」
「はやっ」
術理魔法で溶岩の上に蓋をしてくれていたヒカルの肩を叩いて交代する。
ほんの数秒だが、ヒカルがいてくれなかったら、迷宮島に被害が出ていたはずだ。
「もう少し蓋を頼む」
「え、ちょっと!」
オレはマグマに飛び込み、「理力の手」を網の目状に広げ、それに触れた全ての溶岩をストレージに回収していった。
ちょっと熱かったが、服が燃える程度で済んだ。
「無茶するわね。アリサが聞いたら、また叱られるわよ?」
「そのときは素直に叱られるさ」
そして、孤島宮殿にて――。
「サトゥーさん、ユニークスキルを移し終わった」
「ありがとう、シズカ」
「ヒカル、後は頼む」
「うん、分かった」
オレはヒカルに元ネズミ魔王を預け、彼の持っていた「神の欠片」を「迷宮の主」の力で作り出した「鎧ネズミ」と「暴食イタチ」に移植した。
当然のように魔物達は「神の欠片」を受け入れきれず、魔王化し暴走状態となる。ネズミ魔王は四つも欠片を持っていたので、無理やり二つずつ押し込んでおいた。
もちろん、魔王のレベルが以前と同じか少し高くなるようにしてある。
それらは一旦迷宮内の守護者部屋に出しておき、順次、勇者達の部屋へと送り込んだ。
もちろん、「遠話」を使ってアリサに事前通告してからね。
◇
「ハヤト!」
「今だよ!」
ルススとフィフィが鎧ネズミ魔王の足を斬り付け、機動力を奪うのが見えた。
どうやら、勇者組が鎧ネズミ魔王、リザ達が暴食イタチ魔王の相手をしているようだ。
鎧ネズミ魔王の体表が暗紫色の光に包まれる。
「させない!」
ウィーヤリィ嬢の弓矢が魔王の体表に命中し、大きな爆発を起こした。
どうやら、ミーア用の装備を分けてやったらしい。
「閃光螺旋突き」
ユニークスキル「最強の矛」の効果が相乗された一撃が、魔王の紫色の防壁を貫き、その身に深々と潜り込む。
「《奏でろ》トゥーナス! 《歌え》アロンダイト!」
勇者の聖鎧が青い閃光を放ち、魔王の身体の中で聖剣が爆発的に輝く。
「砕けろ魔王! 閃光爆星斬!」
裂帛の気合いと共に、勇者が全身のバネを使って魔王を斬り上げる。
上に抜けた聖剣がそのまま斬り下ろされ、斬撃の軌道が五芒星を描いた。
魔王に背を見せて着地した勇者が、血振りをして聖剣を鞘に収める。
「来たわ!」
メリーエスト皇女の指差す先では、魔王の死骸から二つの紫色をした光が浮かび上がっている。
「「「神授のお守りよ! 邪悪を『封印』せよ!」」」
勇者の従者達が、「神授のお守り」を魔王につき出して叫ぶ。
紫色の光を青い格子が包み、メリーエスト皇女の持つ一回り大きなお守りに吸い込まれていった。
なるほど、歴代勇者はこうやって「欠片」を処理していたのか。
「メリー! 後は任す。俺様はサトゥーの仲間達の援護を――」
そう言って振り返った勇者は、言葉を詰まらせた。
「大勝利~?」
「勝ちなのです!」
「思ったよりも楽に勝てました」
暴食イタチ魔王の上で勝利のポーズを取る仲間達と、ガラケーのカメラで記念撮影をするオレの姿を見てしまったからだろう。
もちろん、「神の欠片」はオレの神剣で処分しておいた。
気まずい沈黙に負けず、コホンと小さく咳払いをしてから勇者の前に歩み寄る。
「ハヤト様、魔王討伐おめでとうございます」
「あ、ああ、ありがとう……」
釈然としないハヤトには悪いが、ここは一緒に勝利を祝おう。
※次回更新は 8/28(日) の予定です。
※2016/8/21 神の欠片処分後に、イタチ皇帝のギアスについて、サトゥーの見解を追加しました。







