14-SS1:古竜の大陸の人々
※2016/5/12 誤字修正しました。
※今回はサトゥー視点ではありません。
「くそ、これだけ歩いて竜鱗の一つもなしか……」
「魔王でも古竜様には傷一つ負わせられないって事だろう」
旅装束の騎士達が言葉を交わす。
古竜大陸の南方にある国が調査に派遣した集団は、騎士を含めて50名。全員が機動性の高い走鳥に騎乗している。
「おーい! 早く来てくれ!」
荒れ野の向こうで、斥候に出ていた兵士の一人が大きく手を振っていた。
一緒に行った四人は尾根の向こう側に目を奪われていてこちらを振り返る事もない。
「こ、これは……」
「信じられねぇ」
若い隊長が斥候の一人から遠見筒を奪い取り、目の前の光景の詳細を見つめる。
彼の横に現れた赤毛の女性副長が同じようにして手に入れた遠見筒を覗き込んだ。
「荒れ野の向こうに肥沃な土地が広がっているなんて」
「驚くのはそこじゃねぇよ、あそこを見ろ! 都市が無事じゃねぇか」
「ありえん。このカタヒラ王国の都が魔王軍に焼き払われるのを、俺は確かに見た。城壁だって魔王軍の巨大魔獣に半分以上が砕かれていたんだ」
今までの荒れ野と異なり、調査隊の眼前には緑溢れる自然と人が住んでいそうなほど整然と家屋が並ぶ都市の姿があった。
「ここからじゃ何も判らん。都市に向かうぞ」
「で、ですが、魔族の罠かもしれません」
「なら、召喚師に伝書速鳥を呼ばせて報告書を送れ」
部下に命じ終わった隊長が走鳥に鞭を入れて駆け出した。
「斥候隊! 隊長より先行しろ! 危険を見逃すな!」
「「「承知!」」」
副長の命令に、斥候達が慌てて走鳥に飛び乗った。
軽装な彼らなら、すぐに隊長を追い抜いて都市に入るだろう。
副長は後続部隊を引き連れ、粛々と謎の都市へと隊列を向けた。
◇
「――誰も住んでいないのか?」
いつでも住めそうな家が並んでいるのに誰一人いない。
備え付けの家具はあるものの、食器や食料など生活の痕跡が見当たらなかった。
信じられない事に、どの家にも上水道と下水道が完備されていた。
「隊長、中央の城も扉が開け放たれたままです」
「そうか、外壁の門も我らが触れたら勝手に開いた」
「俺達を招いているんですかね?」
「わからん」
不気味に思いつつも、隊長達は探索を止めて引き返そうとはしない。
二月近くも荒れ野を彷徨ってようやく辿り着いた都市跡――否、新品同然の空き家だらけの都市を放置する事などできない。
「でも、不思議な建物ですよね。こんな建物は見たことがありません」
「ああ、地震に弱そうだ」
火山の多い古竜大陸では、シガ王国風の石造りの建物が珍しかったらしい。
建築魔法によって作られた家屋敷は見た目以上に地震に強いのだが、初見でソレを見破れるような鑑定スキル持ちは後続にしかいなかった。
中央の城に侵入したところで、ようやく走鳥を降り、前庭の噴水に手を浸す。
走鳥達が首を突っ込んで水を飲み出したので安全と判断したようだ。
「安全みたいだ。俺達も飲もう」
「やったー! こんな澄んだ水なんて半月ぶりだ」
「うめぇ、飲んでもジャリジャリしねぇぜ」
水魔法による飲料が手に入っていた隊長と違い、泥水を漉して飲んでいた隊員達は我先にと噴水に頭を突っ込んで水を飲み始めた。
遅れて到着した後続隊も、噴水に突っ込む仲間の姿に我を失って駆け寄り、副長に叱られていた。
「それで、あれはありそうですか?」
「ああ、外壁の門が自動で開いたし、噴水も動いている。可能性はある」
隊長は副長と護衛の兵士達を伴って、斥候達が発見した地下への回廊に向かう。
護衛の兵士は回廊の入り口で結界に弾かれたが、隊長と副長の二人はそのまま階下へと向かう事ができた。
「やはり、高位貴族にしか入れぬか」
「領主となれる者だけなのでしょう」
階下から漏れる青い光に、隊長が駆け出す。
『ようこそ、資格ある者よ』
年齢不詳の男と女の声が重なって聞こえてきた。
声の発信元は宙に浮かぶ輝く結晶体――「都市核」からだった。
『前王「」より、最初に訪れた資格ある者に王位を譲る、と命令を受けています。どちらの方が領主として登録されますか?』
都市核の問いに隊長が一歩を踏み出す。
状況に浮かれた二人は、都市核の告げた前王の名前が空白になっていた事にも気がついていないようだ。
「私が継ぐ。ナテンハ元王子、ジェバ・ナテンハがこの地の新たな主だ」
『ジェバ・ナテンハを登録します』
隊長の体を光が包み、彼の頭部に不思議な輝きの王冠が現れた。
隊長――ジェバ国王の脳裏に、異国の地で不遇な暮らしをする臣民の姿が浮かぶ。
そして、新天地へと導いた臣民達からの歓呼の声もまた。
「殿下、ご立派なお姿です」
「殿下はよせ。これからはこの新ナテンハ王国の王だ」
「はい、陛下」
感動を分かち合う主従を余所に、都市核は『都市名をカタヒラからナテンハに変更しますか?』とマイペースな質問を発していた。
こうしてタナボタで滅亡した国の復興の礎を手に入れた王子だったが、同様の都市が滅亡前と同じだけ用意されている事を知るのはもう少し先の話だ。
これらの都市を復興したのが神ではなく、只人であるとは彼らの想像の埒外であった。
ましてや、その人物の目的が魔法の実地実験と将来観光に来たときに復興が終わっているように、という適当な理由だったとは思いも付かないだろう。
「そして、ハリュ。お前が最初の王妃だ」
「ジェバ様」
どうやら、新しい王は国に続いて伴侶も手に入れたようだ。
二人の将来を祝福するように、再生を司る古竜の歌が大陸に響いた。
※次回更新は 5/15(日) の予定です。
※「14-幕間1:古竜の大陸と原始魔法」の後日譚です。
※サトゥーが作ったのは上物の都市だけ、都市核は元々あったものです。







