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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十四章

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14-47.事後処理

※2016/5/1 誤字修正しました。

※2016/5/1 一部修正しました。

 サトゥーです。物事は始めるよりも終わらせる事の方が何倍も難しいのです。誰かに最後のデバッグをやってほしいと思ったのは一度や二度ではありません。デバッグのない理想郷がどこかに無いものでしょうか……。





「これはこれはペンドラゴン卿ではないか?」

「白髪に頬傷――エチゴヤ商会のクロ殿ですね」


 この茶番はスィルガ王国の隣にある小国トナォークの王城で行われていた。

 サトゥー人形を連れた観光省メンバーの前に、エチゴヤ商会の支店開店許可の礼を言いに訪れたクロと偶然出会ったというていで、雑談を交わす。


 謁見の間への回廊につながる広間なので、トナォーク王城の人達の耳目が集まる。


「少々お耳を拝借――」

「なんと! イタチ帝国がマキワ王国へ攻め込んだというのか!」


 拡声スキルを利用したクロの大声は、王城の隅々まで届く。


「――クロ殿、少々声が大きいですよ」

「これは済まぬ! しかし、間にスィルガ王国を挟むとはいえ、このトナォーク王国も他人事ではあるまい。トナォーク王にはお伝えしたのか?」

「いえ、それはこれからです。その事をお知らせしようと寄ったのですよ」


 遠巻きに見る人々が不安そうな表情を浮かべた。

 奥の扉が開いて王の使いらしき人が顔を出したので、茶番を終了へと導く。


「ですが、ご安心を――」

「ほう? 『竜の谷』の竜騎士達が出向いたのか! それは重畳! なれど、難民達の輸送くらいは手伝わねば我が主に叱られてしまう」

「それは心強いですね。勇者ナナシ様によろしくお伝えください」

「委細承知、トナォーク王には支店開店許可の礼を告げに来たのだが、それは支店長のこの者に任せて、我は勇者の従者たる任務に戻ろう」


 茶番を最後までやりきったので、魔法で白い煙幕を発生させて忍者のようにその場から消える。

 こっそりとサトゥー人形と入れ替わるくらいはお手のモノだ。


 オレはアイコンタクトでサトゥー人形と入れ替わった事を、観光省メンバーに伝える。

 久々のレディーK役をしているカリナ嬢だけは気がついていないようだ。

 特に問題はないし、このままにしておこう。


「消えた?」

「あれが神出鬼没と噂のエチゴヤ商会のクロ殿か」

「さすが勇者の従者だけはある」


 何気に「勇者の従者」のハードルが上がったが、噂には尾鰭がつくものだし別に良いよね。


 目撃者を作り終わったオレは王への謁見を素早く済ませ、手土産に持ち込んだ「陸海栗」の解体ショーできな臭い緊迫感を打ち払い、晩餐に出たトナォーク王国の名産に舌鼓を打った。


 シガ王国と飛竜の国――スィルガ王国、そして黒竜山脈に挟まれる形でひっそりと存在する小国だが、思ったよりも変わった料理が多くて楽しめた。

 代用食品から発達したらしき木の実や山菜料理が主流で、中でも苔松の皮を漬け込んだという謎料理が、トナォーク王国の豆酒によく合って旨かった。どちらも単独だと微妙な味なのが面白い。


 木訥なトナォーク王国の貴族達からの縁談話を軽くスルーして、国内の名所を色々と教えてもらった。

 本格的な観光は一度出発した後に、仲間達と一緒に民間人としてこっそり訪れてからにしよう。

 やっぱり、難民輸送の段取りが完了してからじゃないと、気になってゆっくりと楽しめないからね。





「クロ殿、総員退艦せよとはどういう事か!」

「ちゃんと持ち帰るから安心しろ――」


 シガ王国の大型飛空艇二隻の乗員を眠らせてから、エチゴヤ商会の王都地下収容所に送り込む。

 マキワ王国とスィルガ王国の国境に、ユニット配置で運ぶ予定なので、彼らが一緒だと色々とマズイのだ。


「――諸君、君達の尽力に期待する」

「「「はーい」」」


 作りかけの内装をブラウニー部隊に任せ、オレは調律の甘い空力機関の最終調整を行う。

 半日と経たずに作業が完了したので、オレは二隻を順番に目的地にユニット配置で運んだ。


 あらかじめ、精霊魔法の「濃霧ミスティー・フォッグ」で霧を張っておいたので、突然大型飛空艇が現れても問題無い。


「イタチ人の飛行部隊が来たぞ!」

「に、逃げろ! 山の中に逃げ込め!」


 ――おっと、先に告知しておくんだった。


「こちらはシガ王国のエチゴヤ商会だ。ダザレス侯爵代理のシェルミナ閣下から依頼を受けて貴公らを故郷へ運ぶ。落ち着いて出立の用意をされたし。繰り返す――」


 オレは外部スピーカーで、難民達が落ち着きを取り戻しそうな名前を挙げて誤解を解く。


「ダ、ダザレス様?」

「よかった、姫様は無事だったんだ」

「ダザレスって東部の大領主だよな?」

「ああ、あの方なら私財をなげうってでもシガ王国を動かすさ」


 う~ん、なんだろう。

 放火魔貴族って、元はそんなに立派な貴族だったのか?


 オレの印象だと恨み辛みで正気を失った迷惑貴族だったんだけど、見る人が違うだけでこんなに違うんだね。

 彼らの知るダザレス侯爵が、オレの記憶にある放火魔貴族になるまでの間に何があったのか気になる。

 捕虜にしたイタチ人の車長の話だと、イタチ帝国の軍師はダザレス侯爵を警戒していたみたいだったし、彼をマキワ王国の東部から排除する為に「ダザレス侯爵が放火魔貴族になる」ような何か・・をしたのかもしれない。


 イタチ帝国を訪問するときは軍師を警戒した方がいいかもね。


 難民達は一つの都市の出身というわけではなかったので、何回かに分けて運ぶ事にした。

 詰め込めるだけ詰め込んで、魔法で眠らせて運搬する方法を選ぶ。


 ユニット配置用の移動基点をマキワ王国内に幾つか作っておいたので楽ちんだ。

 図らずも、シガ王国の王都からムーノ伯爵領へ移民を運ぶ練習になったよ。





「貴公がシガ王国のクロか。ワシの所にも噂は届いておる」


 難民輸送が完了した翌日、オレはクロの姿でスィルガ王国に立ち寄っていた。

 名目はシガ王国の大型輸送艦が国境近くを飛行する報告だ。


 本命の用事は、スィルガ王国の地下牢に捕まっているイタチ商人から、桃色髪のメネア王女の祖国であるルモォーク王国で、影城にちょっかいを出そうとした真意を聞き出す事だ。


「勇者ナナシのできぬ後ろ暗いことを専門にしていると聞いた」


 そんな後ろ暗いことはしていないはず。

 基本的に善行ですよ?


「大罪を犯したイタチ人の商人の身請けをしたいというのも、その裏の仕事の為か?」


 ――大罪?


 人の命が軽いこの世界だと、人殺しくらいじゃ「大罪」なんて呼ばれないはず。

 イタチ商人は何をやって捕まったんだろう?


 不思議な事にイタチ商人の罪科は真っ白だった。

 もしかしたら、冤罪で捕まったのかな?


 その答えは、乱入してきたマッチョ戦士が教えてくれた。


「王! 竜様の聖域に侵入したバカイタチを解放するってのは本当か!」

「まだ、交渉中だ。次の王になる気がないのなら下がっていろ」

「ぐ、ぐぬぅ」


 老練なスィルガ王にあしらわれたマッチョ戦士が悔しそうに唸る。


「飛空艇一隻だ。大型飛空艇なんて贅沢は言わん。ペンドラゴン子爵が乗っていたような小型船でいい」

「論外だ。イタチ人族の商人の命ではまるで釣り合わん」


 小型専用の空力機関ならすぐ作れるし在庫も豊富なのだが、シガ国王から飛空艇を国外に売るのはやめてくれと頼まれているので断らせてもらった。

 スィルガ王も、本当に飛空艇を要求しているわけではなく、交渉前の軽い牽制だろう。


「では何となら釣り合う?」


 本職の商人ってわけじゃないから、面倒な取引とかはしたくない。

 あまり他国に影響がなくて、スィルガ王国が即答で欲しがる物でいこう。


「――湿地用の船でいかがかな?」

「失望させるなよ、エチゴヤ商会のクロ。貴公らがシガ王国の大型艦を製造している事は田舎王国の間者でも掴んでいるぞ」


 オレの回答が気に喰わなかったのか、スィルガ王が獰猛な表情で睨み付けてきた。

 船の説明をする前に噛みつくのは止めてほしい。


「船は気に喰わぬか? ワイバーンには及ばぬが、風の魔法装置を搭載した高速船だぞ?」


 現代地球の湿地帯で活躍しているホバークラフトをモデルにした、風船かざぶねという名前の魔法の船だ。

 飛空艇よりも必要な魔力が少なくて済むし、似たような水上高速船はオーユゴック公爵領でも緊急連絡用に配備されている。


 しばしのにらみ合いの末、風船かざぶねの現物を見て気に入ったら、イタチ商人を身請けするという事になった。


 そして、実地体験してもらったところ――。


「おおう、これは凄い! 湿地の葦の上を滑るようではないか!」

「まさに! 風船かざぶねとはよくぞ名付けたものだ!」

「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ――始終こんな感じで、国王や王子に大受けだった。


 最後まで笑顔で叫んでいたマッチョ戦士がうるさかったが、これでイタチ商人の身請けは問題無いだろう。


「時にクロ殿。聖域に踏み込んだのはイタチ人の商人だけではなく、兎人の奴隷男や人族の奴隷娘もいてな。そやつらを助けたいなら、風船かざぶねをもう一隻――」

「交渉不成立という事なら構わぬ。風船かざぶねを持って引き上げるとしよう」

「ま、待て! 王子の先走りは許せ。詫びの代わりに奴隷共の所有権を貴公に譲ろう」


 王子が後出しで報酬の上乗せをしかけてきたので、「交渉」スキルのサポート通りの態度を取ってみたところ、凄い勢いで国王が引き止めてきた。


 ――そんなに気に入ったのか魔法駆動版ホバークラフト。


「ふむ、譲ってくれるというのなら否はない。では交渉成立だ、スィルガ王よ」


 オレから風船かざぶねの起動キーを受け取ったスィルガ王は、王妃や子供達を引き連れて意気揚々と港へと出かけていった。





「お前が竜の聖域に侵入して、スィルガ王国を滅ぼそうとした大罪人か?」


 オレが声を掛けると、憔悴した様子のイタチ商人が素早く牢屋の格子に飛びついてきた。


「人族? その話し方はシガ王国の人間だな? 取引がしたい」

「解放を望むか? 対価に何を出せる? 言っておくが金や女ならいらんぞ」

「我が家は元老院に席を持つ、なんでも欲しい物を身の代に要求すればいい。大抵の物なら叶えてくれるぞ」


 ただの商人かと思ったが、実家はそれなりの名家のようだ。


「そうだな、我が要求は三つだ。ルモォーク王国で何か企んでいただろう? それを話すのが一つ――」

「影城の調査だ。本当に神の番兵がいるのかを知る必要があったのだ。なんのために、とは聞くな。元老院にいる伯父からの依頼だ。詳細は知らぬ。ついでに神代の魔法道具が手に入れば御の字だったのだが、サガ帝国の冒険者は失敗したらしい」


 かなり喰い気味に、商人が情報を告げる。

 まだ精神魔法の「正直者オネスティー」「お喋りスピーカー」「思考劣化空間フーリッシュ・フィールド」を使っていないのに――。


「――随分と簡単に話すものだ」

「ここで秘密にしても意味がなかろう。皇帝陛下にどのような深慮遠謀があるのかは知らぬが、生き物というものは我が身がなにより可愛い。帝国の存亡が絡んでいたとしても、天秤に掛けるまでもない」


 利己的で合理的な種族だとは思っていたが、なかなか極まっている。


「では二つ目だ。なぜ自ら竜の聖域に忍び込んだ?」

「スィルガ支店の者やスィルガ王国の犯罪ギルドにやらせようとしたのだが、皆一様に『竜の怒りが怖い』と尻込みしたので、我らが行くしかなかったのだ」


 ふむ、スィルガ王国の住人にとっては神様みたいな扱いらしいから無理もない。


「誤魔化すな。『なぜお前が』ではなく『なんの目的で』竜の聖域に行ったのか聞いている」

「そうだったのか、言葉に非難するような響きを感じたのは気のせいだったようだ。目的は簡単だ。商会の儲けの為に竜鱗を求め、伯父の依頼で竜の爪や牙が落ちていないか捜すためだ」


 下級竜の鱗も劣化版の聖なる道具を作れるので需要があるのは分かる。

 だが、「イタチ帝国の元老院」にいる「伯父の依頼」で、か……。


「竜の爪や牙など何に使う?」

「問う意味などなかろう。武器以外の何に使うつもりだ。まさか竜の牙をネジ切りの工具にでもすると思うのか?」


 嘲るようにイタチ商人が吐き捨てる。


 だが、案外そのセンはありかもしれない。超硬度の金属を削るのに「全てを穿つ」竜の牙は非常に便利だ。

 下級竜のボウリュウの牙がある事だし、旋盤の工具に使ってみようかな?


「では、最後の要求だ。皇帝への面会を希望する。その間を取り持て」

「こ、皇帝陛下にか――」


 オレの言葉にイタチ商人が表情を固まらせた。

 帝国の最高権力者に他国の怪しげな男を面会させるのは難易度が高いはずだ。


「――王弟閣下ではダメか? あの方はデジマ島で外交を担っておられるから、伯父を介さずとも面会が叶うはずだ」


 そっちは普通に会えそうだし、彼に間を取り持ってもらう必要もない。

 それはともかく、王弟なら尊称は殿下じゃないだろうか?


「皇帝でなければ意味がない」

「暗殺を目論んでいるのか? 面会が叶ったとしても無駄だ。皇宮の宮殿騎士団はシガ八剣など相手にもならぬほどの超常の騎士達ばかりだぞ」


 宮殿騎士団テンプル・ナイツか、名前はなんとなく強そうだ。


「簡単に言えば宮殿騎士団の正騎士になるには最低でもレベル50が必要になる。そして、そんな連中が100人もいるのだ。いかに勇者の従者が埒外の存在でも数の暴力に圧殺されるだけだぞ」


 ――それは凄い。


 それだけの経験値はどこから調達したんだろう?

 イタチ人族の寿命は人族より短いくらいだったはずだし、迷宮一個分で得られる経験値でそんなに沢山の人間をそこまで鍛えられるものなのかな?


 それはともかく、人気の落ちてきた漫画のようなパワーインフレーションは遠慮してほしいものだ。

 うちの子達の方が強いが、初見殺しの技や魔法道具なんかもあるから安心できない。

 これは自重無しの新装備の開発をするべきか……。


「もう一度言うが暗殺は止めておけ」

「ばかばかしい。我は皇帝の暗殺など企んでおらん。煙車と言えば判るか? その話をしに行くだけだ」

「――煙車? なんだそれは? 貴公は商品の売り込みに行きたいとでもいうのか?」


 おかしい……今更汽車の事をとぼける必要も無いだろうし、彼の地位からして汽車を見たことがないはずもないんだが……。


 そういえばイタチ人族とは接点が薄かったが、噂話やヨタ話でも「煙車」なんてものの噂は聞いたことがない。

 もしかしたら、「強制ギアス」とは別系統の箝口令を敷くようなスキルや魔法で、外部に漏れたらまずい記憶を消去あるいは縛っているのかもしれないね。


 オレはメニューの鼬人族用のメモ帳にその懸念を追記しておく。


「皇帝との会話の内容まで知る必要はない。向こうが話を蹴るならそれで終わりだ。帝国が神の怒りを買って滅びるならそれで構わんが、そのとばっちりがこちらに飛び火しては困るから会いに行こうとしているだけだ」


 ほとんど教えているようなものだが、禁忌うんぬんの話を彼にしても一笑に付されて終わりそうだから、この程度で十分だろう。


「我が身には代えられんが、祖国にはそれなりに愛着がある。それに万が一皇帝が暗殺されても、王弟閣下が次の皇帝になるだけか……よかろう、人嫌いの皇帝陛下よりは商売や外交に明るい王弟閣下の方が都合が良い」


 だから、暗殺じゃないって言っているのに……。


「皇帝への面会に尽力する事を誓おう」

「貴様の誓いなどどこまで信頼できるか判らん、契約書を書いてもらうぞ」

「よかろう――」


 一枚の羊皮紙をアイテムボックスから取り出し、イタチ商人と契約を交わす。


「履行までの有効期間と、不履行時の罰則が書かれていないぞ」

「くっ、人族の癖にやるな……」


 そんな感じで契約書の文面を書き終わるまでに一悶着あった。

 会社員時代にプロジェクトリーダーのメタボ氏の付き添いで、クライアントとの契約に顔を出していた経験が役に立った。





「これで自由か――」


 城外に出たイタチ商人が、囚人服のまま伸びをする。


 そこに屈強な兎人の男が現れた。

 イタチ商人の元奴隷だった兎人だ。


「よう、大将。デジマ島まで金貨100枚で送ってやるけどどうする」

「ウザヒ、貴様も処分されなかったのか?」

「ああ、そこの人族が助けてくれたらしい」


 イタチ商人が問うような視線を向けてきた。


「足は必要だろう」


 没収されていた調教済みワイバーンの買い取りは少々高かったが、必要経費みたいなものだ。


「約束を果たすには帝都の伯父を動かす必要がある。三ヶ月、いや二ヶ月ほど時間が欲しい。準備ができたらデジマ島のノロゥイーノ商会の商館まで使いをやる」

「分かった。デジマ島で吉報を待つ」


 オレとイタチ商人の会話が終わった事を察した兎人が口笛でワイバーンを呼ぶ。

 ほどなくしてバサリと羽音を立てて着地したワイバーンが、二人を乗せて城門前の目抜き通りを助走する。

 悲鳴を上げて逃げ惑う人達を尻目にワイバーンは飛び上がり、上空を二度旋回したあと、東南方向へと飛び去った。


 次に会うのはイタチ帝国だろう。


「君は行かなくて良かったのか?」

「いい」


 物陰から見ていた女性に声を掛ける。

 彼女も兎人の男と同じく、イタチ商人の奴隷をしていた娘だ。


 レベルは20台後半なのに、持っているスキルは「宝物庫アイテムボックス」のみ。

 もちろん、中身は全てスィルガ王国に没収されている。


「行くところが無いなら、うちに来るか?」

「エチゴヤ商会?」

「そうだ」

「なら、行く。雇って」


 シガ王国出身じゃないのか、言葉が辿々たどたどしい。


「名前はなんというんだ?」

『キンコ』


 おい、イタチ商人…イタチ人族語で「金庫」と付けたな。


「奴隷になる前の名前はないのか?」

「ミュー」

「■■ 命名(ネーム・オーダー)、ミュー」


 オレは彼女の名前を変えてやる。


 こうしてミューはエチゴヤ商会の新しい金庫番として就職した。

 無口同士、ティファリーザとは仲良くやってくれそうだ。


 なぜか、支配人からミューへの風当たりが強かったが、しばらくして行ってみたら、普通になっていた。


 ――「仲良きことは美しきかな」だね。





「シャル、この娘の事は頼んだぞ?」

「はい、クロ様。うわ、こんなに路銀を貰っていいんですか?」

「構わん。道中のエチゴヤ商会の支店で補充を受けられるようにしておく、貧しい村や教会に寄付しても構わんぞ」


 オレは金貨が50枚ほど入った小袋を、元怪盗義賊でエチゴヤ商会員のシャルルルーンに手渡す。

 王都では怪盗業務があまりないので、彼女には偽使徒ケイの教師役を頼んだ。


 ケイのようなタイプは、ヨロイのような熱血とか、アリサやヒカルのようなまっすぐなタイプとかに反抗心を覚える気がしたので、アウトローの道を進み自分の手を汚しながらも善行をするシャルルルーンを教師に選んでみた。


「いくわよ、ケイ」

「う、うん」


 茶髪のカツラを被ったケイが捨てられた子猫のような瞳でサトゥー人形を見つめる。

 そんな顔をされたら罪悪感を覚えるけど彼女の再教育は必須だ。ここは心を鬼にして、彼女を送りだそう。


「ケイ、怪我や魔物に気を付けて行くんだよ。シャルさん、ケイをよろしくお願いいたします」

「お任せください、ペンドラゴン卿」


 サトゥー人形のセリフにシャルルルーンが胸を張って答える。


 ケイがシャルルルーンに手を引かれて出発していった。

 偽使徒として歩いた道を、今度は普通の旅人として辿るのだ。


 実はザイクーオン神を復活させる為に人々の祈りの力を集める方策は幾つもあるのだが、ここでオレがケイに答えを押し付けるのは間違っている気がするのでそれは自重した。


「――クロ様、それでは私も出立いたします」

「シャルルルーンには話してあるから、ケイにだけ見付からないように注意してくれ」

「承知いたしました」


 女二人旅だと悪者に狙われやすいので、万が一の保険にエチゴヤ商会の奴隷である元怪盗のピピンをサポートに付けた。


 彼らの旅立ちを見送ったあと王都へユニット配置で戻ったオレは、勇者ナナシの姿になってシガ国王と宰相にイタチ帝国と禁忌の話を伝えておいた。


 イタチ帝国の禁忌問題はまだまだ顕在化しなさそうだけど、二ヶ月後に面会予約が取れたら帝都を訪問して、皇帝に禁忌についての話をしようと思っている。


 二ヶ月間は色々と作りかけで止まっている魔法装置や実験の続きをやろう。

 他の大陸にいるという古竜にも会いに行かないといけないし、目処の付いた浮遊大陸案も進めたいし、できる事が増えるほどに、やることが指数グラフ的に増えていく。


 ――そうだ!


 イタチスーツでも作って、イタチ帝国に潜入してカガク観光するのもいいね。

※次回更新は 5/8(日) の予定です。

 幕間を2~3回はさんで15章イタチ帝国編を始める予定です。


※2016/5/1 web版では放火魔貴族とガルガオロンの間に会話が無かったので一部を変更しました。



・シャルルルーンとピピンについては13-27をご覧下さい。

・白虎騎士のガルガオロンについては書籍7巻や8-25をご覧下さい。

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 発売日:2025年12月10日
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漫画「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」19巻【特装版】が12/9発売予定!
  漫画:あやめぐむ
  原作:愛七ひろ
 出版社:KADOKAWA
レーベル:ドラゴンコミックスエイジ
 発売日:2025年12月9日
ISBN:9784040761442



― 新着の感想 ―
[気になる点] >「まだ、交渉中だ。次の王になる気がないのなら下がっていろ」 なんか言い回しがおかしい。 これだと、次の王になるきがあるなら、口を出せと言ってるように読める。
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