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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十四章

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14-46.戦乱の王国(4)尋問

※2016/4/24 誤字修正しました。

 サトゥーです。捕虜の尋問というのは時代によって変わってきました。昔は肉体的苦痛で聞き出していた尋問も、現代では自白剤という薬を用いるようになったようです。もっとも、ぜんぶ漫画や映画から得た知識ですけどね。





「さて、質問に答えてもらおうか?」


 すこし気恥ずかしい朝食のあと、オレはイタチ人の将校を尋問していた。

 蜥蜴人スーツのオレを将校が蔑む目で見上げる。


「ふん、軍人が易々と情報を漏らすと思うのか? これだから頭の悪いトカゲには参るのだ」

「さすが、帝国軍人は立派だ。あの魔獣達といい戦車といい、たいしたモノだ」


 耳障りなイタチ人の言葉は脳内変換し、オレも彼に合わせて取得したばかりの「イタチ人語」で会話をしていた。

 人族の口だと喋るのが難しいので、いつものように「腹話術」スキルの助けを借りている。


「その通り! 皇帝陛下から与えられた無敵の魔獣軍団は騎士を蹂躙し、特車部隊は山のようなゴーレムすら打ち砕く! まさに我が帝国は無敵!」

「マキワ王国を瞬く間に侵略した進軍速度は過去に例がない」

「当然である! あのハゲ軍師はいけすかんが、陛下の構想を形にできるのはあやつだけ……」


 べらべらと喋る将校に、適当に合いの手を入れて欲しい情報を手に入れていく。


 自白剤ではなく精神魔法の「正直者オネスティー」「お喋りスピーカー」「思考劣化空間フーリッシュ・フィールド」の三つでサポートしている。

 スキル最大の「尋問」スキルにこれらの魔法が相乗効果を発揮して、聞かないことまで話してくれるのは楽で良い。


「ほう、どんな構想なんだ? さぞかし素晴らしいモノなのだろう?」

「当然だ! クロガネの煙車が都市を結び、前線へ物資と兵士達を運ぶのだ! 優れた兵站とネジによる魔獣兵団、そして魔喰いにカガク特車隊が重なれば、シガ王国もサガ帝国も敵ではない!」


 特車ってのは戦車の事だったはず。


 魔喰いは仲間達から報告のあった魔法無効化フィールドを発生させる魔法装置だろう。

 無傷で確保できたモノはないが、残骸からある程度の仕組みは判る。

 早めに対抗手段を用意しないとね。


 それにしても……煙車ってやっぱり蒸気機関車なんだろうなぁ~。

 迷宮下層のムクロの話だと、科学文明を進めると神の禁忌に触れるとか言っていたはずなんだけど、どうしてイタチ帝国は無事なんだろう?

 ムクロは「電波塔と鉄道網が神の怒りを買った」と言っていたはず。


 尋問が終わったら意見を聞きに行ってみた方が良さそうだ。


「ところで、神の禁忌って知っているかい?」

「やはりトカゲだな。無知蒙昧な神官共と同じ事を繰り返す」


 聞き飽きた説教を聞く子供のように、将校が不快そうに顔を歪めた。


「禁忌などない」

「――本当に?」


 自信満々に答える将校に、信じられないという表情を作って理由を語らせた。


「カガクを始めて10年。未だに神から天罰など落ちぬ」


 ――そんなに前から?


 しかし、天罰が落ちないから禁忌じゃないって言い分はわかるが――。


「天罰が落ちる前提で科学を発展させたのか?」

「偉大なる陛下が臣民を危険に晒すわけがなかろう? 禁忌に触れぬかは謀反者達に作らせた傀儡国家に行わせて、禁忌にならぬ事を確認してから帝国に持ち込んだのだ」


 なるほど、実験場を先に用意したのか。

 ちなみに、その傀儡国家――グフト共和国はシガ王国の観光省の地図に載っておらず、関連する資料にも国名が載っていなかった。

 なお、将校の話によるとその傀儡国家は5年ほど前に、帝国に牙を剥いた為に処分されたらしい。


「ところで、そんな偉大な帝国軍が、どうしてマキワ王国のような中堅国家を侵略したんだ?」

「ふん、トカゲどもは察しが悪くていかん」


 一瞬だけ「そんな事もわからんのか?」という顔をした後、お喋りの魅力に負けた将校が続きを話す。


「陛下の構想に必要な四つの宝杖の奪取と、魔喰いや特車の実戦投入実験に決まっておろう」


 ふむ、マキワ王国側の予想は当たっていたわけか。


 既に三つの宝杖がイタチ帝国に奪取されたようだけど、その内の一本はオレ達が確保できたのは幸いだった。

 持ち主のシェルミナ・ダザレス嬢に届けるのを後回しにしていたが、このままオレが所持していた方が良さそうだ。

 ヘタに返却したら、再侵攻や強奪部隊の襲撃がありそうだし、放火魔貴族の身内とは思えないほどまともそうな彼女を、無為に死なせるのは忍びない。


 オレ――トカゲ人の竜騎士ウーティスが所持している事を大々的にアピールして、時間をおいてからシェルミナ嬢へ返却すればいいだろう。

 スィルガ王国へ矛先を向けさせないように注意しないとね。


 さて、そんな感じで概ねスムーズに進んだ尋問だが、中には強情な者もいた。


「帝国軍西部方面軍、認識番号い-〇七〇〇八三五、イースカースト・トル・ウサン特尉」


 イタチ人の軍人が、米軍捕虜のような口上を告げる。

 それで義務を果たしたとばかりに口を閉ざした。


 カガク特車隊の車長をしていたこの士官は一向に口を割ろうとしない。

 精神魔法が効きにくいタイプのようだ。


 ――しかたない、奥の手を使おう。


 オレが腕を振って合図すると、扉の向こうから血も涙もない優秀な拷問吏達が姿を現した。

 手には百戦錬磨の拷問器具が握られている。


「尋問を開始せよ」


 笑みを浮かべる拷問吏達に実行を命じた。


「こちょこちょ~?」

「どこまで耐えられるかな~? なのです!」


 タマが素早く士官の頑丈なブーツを脱がせ、手製の羽箒を持ったポチが巧みな技で擽り始めた。

 笑い声を上げる彼が陥落するのに、それほど長く待つ必要はなかった。


 もっとも、タマとポチの二人の献身も、情報収集量の増加には貢献しなかったようだ。

 最初の将校がベラベラ喋ったせいもあるが、残りの者達から集めた情報はそれほど増えなかった。


 追加で得られた情報は――


 イタチ帝国は鎖国中であり、迷宮のあるデジマ島のみで外国と交易している事。

 21の州のうち、半数以上にカガクが普及している事。

 外交はデジマ島の離宮で、王弟陛下が行なっている事

 皇帝は人々の前に顔を晒さず、元老院の一部しか面識がない事。


 ――くらいだった。


 なお、複葉機に乗っていた親衛隊の情報将校からは、軍師なる人物についての追加情報が聞けた。

 軍師は士官の半分から蛇蝎のごとく嫌われているものの、彼を崇拝する者も一定数以上いるそうだ。

 フード付きのローブ姿で仮面を被っているため、中性的な体つきや声からは男か女かさえも分からないらしい。

 出自も不明で人族か妖精族かも判然とせず、噂では10年ほど前に皇帝がどこからともなく連れてきたとの事だった。

 軍師は皇帝のお気に入りで、皇帝からは「トウヤ・・・」と親しげに呼ばれているそうだ。


 ……実に日本人くさい名前だ。


 前シガ国王の庶子だったソウヤ少年の例もあるから断定はできないけどね。


 そういえば、神の命名だから前世の名前のままなのはいいとして、どうして転生者は日本人ばかりなんだろう?

 そういえば勇者も日本人ばかりだった。


 こっちの神様は日本人贔屓なのかな?





「――神の考える事なぞ知らん」


 久々に訪れた迷宮下層の宮殿で、骸の王キングマミーのムクロにイタチ帝国の事を相談したところ、返ってきたのはそんなつれない言葉だった。


「おいおい、ムクロ。カサカサのお前ぇを頼ってきた小僧にそんな冷たい言い方はないだろう?」

「カサカサで悪かったな。お前なんてガチガチじゃねぇか」


 取りなしてくれた鋼の幽鬼アイアン・ストーカーのヨロイの言葉に、ムクロが軽口を返してから、こちらを一瞥した。


「神のやることはわりと雑だ。明確な基準なんてない。『気に喰わないから殴った』みたいな感じだな」


 彼の言い方だと、神様が「甘やかされて育った我が儘な子供」に聞こえる。


「ワシの時は電波塔と鉄道網を作ったあたりから災害が頻発して、神官から『神の天罰』だと聞かされたが、ワシ自身が神と言葉を交わした事はない」

「ひょ? キサマ、核爆弾で神を脅したと言っていなかったか?」

「魔物の領域でちょっとしたデモンストレーションをしてから、『神託の巫女』経由で交渉したんだ。神のヤロウはもったいぶって出てこねぇし、のっぺらぼうの神の使徒は戦うばかりで会話にならなかったからな」


 ――使徒って「無貌のっぺらぼう」なのか。


 なお、神の使徒は大して強くないものの、こちらの攻撃が殆ど効かないので、封印系の魔法道具や魔法で対処したらしい。


「クロじゃないか! 遊びに来ていたなら、あたしにも挨拶しろよ!」


 姦しい声で乱入してきたのは青白い肌に波打つ黒髪の艶めかしい美女だった。

 彼女は迷宮下層で暮らす上級吸血鬼――吸血姫のセメリーだ。


「シンは元気にしていますか?」

「おう! ヨロイと二人で鍛えてやってるぜ」


 セメリーがニパッと吸血鬼らしくない明るい笑みを浮かべる。

 どうやら、元人造魔王で現勇者のシン少年は無事に更正しているようだ。


 オレが手土産に持ち込んだ各国の料理や酒に、セメリーが無遠慮に手を出し始めた。


「おい、セメリー、全部喰うなよ」


 ヨロイがそれを窘める。

 アンデッドでも嗜好品の摂取は楽しみらしい。


 ムクロは酒を飲むだけで、料理には殆ど手をつけないようだ。


「クロ、神は気まぐれだ。古文書や遺跡の石板で読んだだけだが、ほんの二万年前くらいまでは災害や天罰で都市や国を滅ぼしたりしていたみたいだぜ」


 うん、知っている。

 影城の件でも、そんな話を聞いた。


「最近は魔物や魔王が災害役をやっているせいで大人しいが、こっちの神はワシら日本人の常識にある『慈愛の神』や『見守る神』ってのとは根本的に違う。タチの悪い魔王の親戚くらいに思っておけ」


 宴会の途中で、オレだけに聞こえるようにムクロが呟いた。

 せっかくの忠告だし、心に刻んでおこう。


 なお、ムクロが使徒を封印するのに使った魔法の呪文や魔法道具を分けてもらえたので、神罰がイタチ帝国の外に広がっても、なんとかなりそうだ。


 帰りに寄った迷宮下層の常夜城で、真祖バンに彼が愛飲している安ワイン『レッセウの血潮』を届け、対価に血玉や血珠を貰った。在庫が不足していたので実に嬉しい。

 丁度、小鬼姫のユイカが遊びに来ていたので、孤島宮殿の結界のお礼も兼ねて諸国漫遊の土産話や名産品を贈った。


 帰りにユイカから貰ったぬか漬けは、アリサとヒカルよりも引きこもり魔王シズカに受けていた。

 ぬか漬けをお茶請けにするのは、なかなか渋い嗜好だと思う。





「やはり、イタチ帝国の狙いは四宝杖だったのだな!」


 オレは再び竜騎士ウーティスに変身して、事実関係を伝えにマキワ王国の王城に来ていた。

 ここに来る前に難民キャンプに寄ってシェルミナ嬢に事情を話し、紅蓮杖をオレの預かりにする事を了承してもらっている。


「幸い、紅蓮杖はここにある」

「おお! よくぞ死守した! ダザレス閣下の人を見る目は確かだったようだ!」


 紅蓮杖を持ったシェルミナ嬢を見た宰相が、彼女から杖を奪いそうな勢いで手を伸ばした。

 シェルミナ嬢はその手を避けるように身を引く。


「帝国の再侵攻を招かないため、この紅蓮杖はウーティス様にお預けする事にいたしました」

「ば、バカな! マキワ王国の至宝を、素性のしれない――」


 シェルミナ嬢の発言に、若い王が失言をしかける。


「紅蓮杖はダザレス侯爵家の宝です。叔父上が――ドォト・ダザレス侯爵が戻られるまで紅蓮杖を預ける約束をウーティス様と交わしました」

「東の守りはどうするのだ! イタチどもの再侵攻があれば、真っ先に呑み込まれるのはダザレス領ではないか!」


 若い王が捲し立てるが、そんな事を当事者が検討していない訳がない。


「王よ、心配無用です。ウーティス殿より『炎竜』『火炎巨人』『火蜥蜴』『不死鳥』を模した四体の守護ゴーレムを提供していただいております」


 防衛専用だけど、レベル50クラスのゴーレムが四体もあれば十分だろう。

 火炎巨人以外の三体は魔核付きのゴーレム作成呪文で作ったが、火炎巨人だけはエルフの里で学んだ手間のかかる方法で製造した。


 火炎巨人には「魔喰い」中でも活動できる仕組みを搭載してある。

 ゴーレムのAIが止まった場合用に、逸失知識スキルと手持ちのガラケーを解析して作った原始的な電子回路によるリモートコントロール機能を搭載しているが、たぶん必要無いだろう。

 イタチ人の「魔喰い」が周囲から魔素マナを奪う力よりも、「賢者の石」が魔素を保持する力の方が強いから、「賢者の石」を核に使ったゴーレムのAIが止まる事はないはずだ。


「ウ、ウーティス殿、ダザレス領だけでなく王都にもゴーレムを――」

「勿論構わぬ」

「――ほ、本当か!」


 この質問は予想していた。


「ただし、一体当たりの対価に金貨10万枚を要求させてもらう」


 オレの発言に王の笑顔が凍り付く。

 呪文で作ったヤツなら無料で提供してもいいんだけど、イタチ人の「魔喰い」で動かなくなっちゃうんだよね。


 このあと少々面倒な問答があったが、オレが妥協してやる必要も義務もないので、国の復興に関しては王や領主達に頑張ってもらう事になった。

 もちろん、オレの報酬である土地を追われた人達への支援は履行させるけどね。





「ウーティス様、もう行ってしまわれるのですか?」

「ああ、次の戦場が私を呼んでいる」


 シェルミナ嬢の声が妙に艶っぽい。

 彼女は人族なのに蜥蜴顔が好きなのだろうか?


「息災でな」

「――はい。ウーティス様が救ってくださった領民達は一人も欠かす事なく連れ帰ります」


 オレはマントをばさりと払って、待たせていた邪竜息子の背に乗ってその場から飛び去った。


 地上から見えない高さまで邪竜息子を上昇させると、迷宮下層の邪竜区画へとユニット配置で移動した。

 なぜか、この区画はオレの支配領域となっていたのだ。


「よく働いてくれたな。これは褒美だ。家族で仲良く分けろ」


 オレは邪竜親子を労い、トラックサイズにカットしたクジラのブロック肉を並べる。

 溶岩で熱せられた岩床に置いた肉から香ばしい焼けた匂いが広がった。


 ――GWLORWN。

 ――LURWOORWN。

 ――GWLOROROO。


 うん、邪竜親子が嬉しそうだ。

 待ちきれなくて生焼けのクジラ肉にかぶりついた邪竜息子を皮切りに、他の邪竜達も我先にとクジラ肉を堪能し始めた。


 オレはその様子を少し見守ったあと、クロに変身してエチゴヤ商会へと向かった。


 難民運搬の打ち合わせをする為だ。

 シェルミナ嬢はああ言っていたが、難民キャンプからダザレス領までは何十キロもあるので、そのまま頑張らせたら難民の何割かが脱落してしまうだろう。


「クロ様! 大型飛空艇二隻は無事に出港させてあります!」


 エチゴヤ商会の執務室にユニット配置で移動すると、いつもよりギラギラした瞳の支配人が詰め寄ってきた。

 なんとなく、ティファリーザの視線がいつもより冷たい。


「感謝する、支配人」

「……シハイニン」


 ――あれ?


 感謝の言葉が足りなかったのか、支配人のテンションが急落した。

 やはり、言葉ではなく感謝の品を贈るべきだったらしい。


 お守りは渡してあるし、杖や「魔法の鞄」なんかもプレゼント済みだ。


「支配人、甘いものは好きか?」

「は、はい。人並みには」


 ふむ、感謝の印だし、手作りのお菓子にしよう。


「こ、これは幻の『ルルのショートケーキ』ではありませんか!」

「私が焼いたものだが、仕事の合間にでも食べてくれ」

「ク、クロ様の手作り!」


 支配人が天に祈るような仕草でケーキを見つめる。

 どうやら、機嫌が直ったようだ。


「――エルテリーナ、私にも」

「分かっています。でも、他の子達には秘密ですよ? あの子達は遠慮を知りませんからね」

「承知」


 小声で支配人とティファリーザがこそこそと内緒話を交わしている。

 仲が良くて何よりだ。


 オレは二人の話が終わるのを待って、輸送計画とアリバイ工作についての打ち合わせを行なった。


※次回更新は 5/1(日) の予定です。


※ムクロの話は「11-16.地下帝国の戦争」をご覧下さい。


※ComicWalkerでデスマ漫画版18話が公開されたようです。

 ページ大増量の第18話「門前の襲撃者」は獣娘達が大活躍する回です!

 エルフの店長さん&ミーア、ついでに赤兜と小役人も登場します。


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一回名前で呼んだんだしそのまま名前で呼びなや…かわいそう
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