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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十四章

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14-45.戦乱の王国(3)イタチの狙い

※2016/4/24 誤字修正しました。

※2016/4/17 一部修正しました。

 サトゥーです。海外に行くと日本のサービスの良さを実感させられますが、同時に態度の悪い客に対する毅然さが無いのもまた感じます。ハンムラビ法典ではありませんが、無礼な相手にまで過剰な礼儀を払う必要はないと思うのです。





「陛下! 東門へ出した斥候より、ゴーレムの残骸の陰にジザロス閣下のご遺体を発見したとの事です」

「水のミザラス伯爵に続いて、土のジザロス閣下までも、か……」


 戦後処理の話をしに寄ったマキワ王国の王城では、若い王様と側近が戦死者の報告を受けているところだった。

 オレは空気を読んで、しばらく登場を控える。


 寸前で戦争を止めたつもりだったが、やっぱり死人は沢山出たようだ。

 まったく、戦争なんてやりたがるヤツの気がしれない。お山の大将になって威張り散らすのが楽しいのだろうか?

 好きこのんで面倒事を抱え込みたがるなんてマゾもいいところだ。


 今回はマップ検索で奴隷狩りに追われる難民を見つけてしまったから、主義を曲げて介入したけど、こんなのは今回限りにしたいものだ。

 オレは気の合う友人達や仲間達と、面白おかしく物見遊山の観光旅をする方がいいね。


 そんな風に考えているうちにも、謁見の間での会話は進んでいた。


「それで、轟震杖は遺体の傍にあったのか?」

「いえ……現在、ジザロス閣下の家臣団が中心となって捜索中です」


 手持ち無沙汰だったので検索してみたが、轟震杖というアイテムは国内に存在していなかった。

 恐らく東門のところに転がっていた超巨大ゴーレムの下敷きになって、壊れてしまったのだろう。


 なお、生存していた要救助者は空間魔法の引き寄せやタマの忍術で救出済みだ。


「恐らく、いずこかの間者が持ち去ったのでしょう。轟震杖と波濤杖が失われ、紅蓮杖を持つダザレス侯爵代理も行方不明。こうなってみると、自分の領地で日和見を決め込んだムザリス伯爵の颶風杖だけが無事という皮肉な結果になり申したな」


 いやみな口調で若い国王を口撃したのは、この国の貴族ではなく、サガ帝国から派遣された駐在武官のようだ。一応、伯爵様らしい。


「――いずこか? イタチ帝国と言えばよかろう」

「大臣、敵は前だけではないぞ。隣のスィルガ王国やシガ王国にとっても、四宝杖は魅力的だ」

「サガ帝国は――いや、貴官は『四本の宝珠を捧げれば、神代に海に沈んだ空中都市ネネリエを目覚めさせる』というお伽噺を本気で信じているのか?」

「夢があって良いではないか。それに――」


 ふむ、ルモォークで見た影城みたいなのか――いや、ネネリエという名前に聞き覚えがあると思ったら、ガニーカ侯爵領沖の海溝に沈んでいた海底都市の事じゃないか。

 もしかして、ボルエナンから迷宮都市へ行く途中に見つけた広大な海底遺跡も、海に沈んだ浮遊大陸だったとかいうオチはないよね?


 謎の海底遺跡の方はともかく、海底都市「ネネリエ」は影城より遥かに巨大な遺跡だったから、あれが飛ぶとなったらなかなかの質量兵器になりそうだ。

 場所も判っているし、遺跡が動き出したら判るようにマーキングしておこう。


 イタチ帝国の侵攻はそれが目的だったのかな?


 念の為にと思って、シェルミナ嬢の紅蓮杖をマーキングしたところ、かなりの速さで東へと移動している事が判った。

 どうやら、何者かに強奪されたらしい。

 あそこには鷲獅子騎士(グリフォン・ライダー)を三騎ほど残しておいたのに、よく盗み出せたものだ。


 オレは繋いだままにしていた「戦術輪話タクティカル・トーク」でアリサに話しかける。


『アリサ、追加任務だ』

『おっけー、何すればいい?』


 二つ返事で引き受けてくれたアリサに紅蓮杖奪還を依頼する。


 その間に四つ目にあたる颶風杖を検索してみたが、轟震杖や波濤杖と同様に国内には存在していなかった。

 既に強奪された後だったらしい。

 颶風杖の所有者であるムザリス伯爵については、なんとなく見付からない気がしたのでスルーした。


「それで、あの竜騎士達は結局何者なのだ?」

「我が国を滅亡の危機から救った英雄達でございます」


 若い王の質問に大臣が答えになっていない返事をした。

 リザ達のいる場所に出発した将軍達が接触して戻ってくるには、少なくとも一時間はかかるはずだから適当に煙に巻いたのだろう。

 どうも、この若い王は大臣達から軽く扱われているようだ。


 丁度良い、オレ達の話題になった事だし、登場させてもらおう。


「――その通りだ」

「何者!」

「竜騎士ウーティス。シェルミナ殿は保護してある」

「ぐ、紅蓮杖は!」


 おいおい、形だけでもシェルミナ嬢を心配してやれよ、王様。


「我が保護したときは所持していた」


 なんとなく事実を伝えたくなくて、こんな言い方になった。


「そ、そうか……」


 ほっとした顔になった王が、玉座にへたり込む。


 その時、ログ表示に動きがあった――。


 マキワ王国の西側にある都市奪還をさせていたゴーレム部隊が、「指示待ち」状態に変わったとログ表示された。

 一緒に行動させていた鷲獅子騎士(グリフォン・ライダー)達は、オレのいる王都を目指して移動を始めたようだ。

 こっちに来ても仕事が無いので、他の都市で捕虜になっている人達の救出に向かわせておいた。


「竜騎士殿、此度の貴殿の働き、まことに見事であった。国を救った大英雄に相応しい褒美はおいおい考えるとして――」


 ダメな王様に代わって、腹黒そうな大臣がオレを褒めるふりをして交渉の前面に出てきた。

 空手形でなんとかしようとする気らしい。


 報酬は必要なかったんだが、踏み倒す気満々の相手なら遠慮は無用だろう。


「我が要求は三つ――」


 なので、こちらから遠慮無く要求を突きつけた。


「――我らが倒した魔物およびイタチ帝国軍関係の捕虜や我らが鹵獲した軍備一切の所有権を主張する。また、マキワ王国西方の都市を奪還した報酬として金貨10万枚を――」


 オレが「金貨10万枚」と口にした瞬間、王や大臣達から悲鳴が上がった。

 都市核の対価なら安いものだと思うんだけど、彼らの価値観だと暴利に映ったようだ。


「――要求したいところではあるが、都市を追われた者達への全面的な援助を行うと確約するなら、それで手を打ってやろう」


 ふわっとした要求だが、王様には都市核を用いて通常の「契約」を一方的に破棄する事が可能なので口約束以上を求める事はできない。

 もちろん、オレの「強制ギアス」なら完全に縛れるが、今回の場合は自国民の事なので、国王も守るだろう。

 契約が履行されたかは、後日サトゥーとして観光に訪れたときに判るはずだ。

 もし、履行されていなければ、ポチとリュリュに王城の上をクルリと一周してもらえば約束を思い出すに違いない。


「そして、三つ目はイタチ帝国への報復の進軍を3年間禁止する」


 王様のメンツとしては報復は必須だと思うが、それに付き合わせられる国民はたまらないだろうから、国を救った竜騎士からの要求として押し付けた。

 なお、イタチ帝国からの再侵攻があった場合は、三つ目の条件は失効する事にしてある。


 もっとも、竜騎士がマキワ王国に味方した事は伝わっているはずだから、イタチ帝国の再侵攻の可能性は低いと思う。


 おっと、三つと言ったけど、もう一つ忘れていた。


「時に国王」

「……な、なんだ」


 オレに呼びかけられて、若い国王が引きつった笑みを浮かべて返事をした。


「貴国の国民が我ら蜥蜴人を『蛙喰い』のような蔑称で呼ぶという噂を聞いたが――」


 威圧スキルが乗らないように注意しながら、若い国王をチロンと睨み付ける。

 口をパクパクさせる国王が言葉を紡ぐ前に、オレは続きを口にした。


「――事実ではあるまいな? 人族以外に寛容であった前王への敬意があればこそ、我らは貴国の危機にはせ参じたのだ。もし、そのような蔑称を口にするような下衆げすの集まりであったのなら――」


 今度は「威圧」スキルを発動して、王以外の取り巻き達を息もできないほど脅しつける。


「――その時はイタチ人に落ちた竜の吐息がどこに向かうか、しっかりと想像するがいい」

「わ、わかった。貴公の、ち、忠告を、肝に銘じて、治世に励もう」


 一人だけ威圧していなかった王が、途切れ途切れでオレの脅迫に答えた。

 これで亜人差別がなくなるとは思わないけど、上の方の意識が変われば差別を押しつける者がいなくなり、下の方に亜人からの実利を与えていけば、人々の意識も徐々に変わっていくはず。


 いっそサトゥーとして訪問して、材料を秘密にした蛙料理で食通達を虜にしてやるのも良いかもしれない。





「お帰りなさい、ご主人様!」

「ただいま、アリサ」


 王城での任務を終えたオレは仲間達と合流する。


 とー、とポチのようなかけ声をしたアリサが飛びついてきた。

 耳元でアリサが「複葉機なんて聞いてない」と呟く。


「回収は上手くいったか?」

「もっちのロンよ!」


 アリサがオレに紅蓮杖を手渡した後、空間魔法「格納庫(ガレージ)」に隙間を空けて、中に入っている複葉機を見せてくれた。

 レトロなフォルムだが、確かに飛行機だ。


「くっつきすぎ」


「ミーアの指示を実行すると告げます」

「あん、もうちょっとくらいいいじゃない」


 ミーアがナナに指示して、オレからアリサを引き剥がした。


 オレは「理力の手(マジック・ハンド)」をアリサの「格納庫(ガレージ)」に伸ばして、複葉機をストレージへと移動する。

 驚いた事に、複葉機は魔法装置ではなく、科学的な内燃機関を搭載していた。後で迷宮下層のムクロの所に持ち込んで調べてもらおう。


 次に精霊魔法の「濃霧ミスティー・フォッグ」を発動して、王都からこちらの様子が見えないように霧の壁を作り出した。


「ご主人様、王都近辺の捕虜は武装解除して邪竜達に見張らせています」

「ありがとう、リザ」


 倒した魔物の残骸や鹵獲物が一箇所に集めてあったので、「理力の手(マジック・ハンド)」を伸ばしてストレージへと移動しておく。


「マスター、将軍と士官は別にしてあると告げます」


 邪竜達の傍で、乗馬鞭を片手に見張りに参加していたナナが報告してくれた。

 オレは杖による範囲拡張を行なった「倦怠空間ウェアリネス・フィールド」と「集団睡眠マス・スリープ」を発動して帝国軍を全て眠らせる。


「ご主人様、この者達は奴隷としてマキワ王国に売却するのでしょうか?」

「盗賊なら、それも良いけどね」


 リザの問いに首を横に振った。

 国の要である領主達を殺されたマキワ王国に売却したら、まず間違いなく亜人達は全員なぶり殺しにされる気がする。


「とりあえず、しばらく異界に閉じ込めておいて、頃合いを見て解放するよ」

「相変わらず甘いわね~、せめて、イタチ帝国から身代金くらいは取った方がいいわよ」

「そうだな、考えておくよ」


 アリサからの忠告に首肯し、オレは捕虜の移動を開始した。


 一般兵と奴隷兵を分けて、オレの所有する異界に送り込んでおく。

 最終的にはイタチ帝国に送り返すのだが、このまま解放するとマキワ王国内でろくな事をしないだろうから、向こうにゲートを開くまでここに収監しておくのだ。

 異界内には魔法の試用で作った農地や住居があるので、月単位で放置しても大丈夫だろう。


 なお、ヒャッハーしていた一部の人族傭兵達は過酷な「荒地」の異界に送り込んだ。

 ある程度精神的に追い詰めてから、更正できそうなら農地エリアに移動させ、無理そうならマキワ王国の牢屋行きにしようと思う。


 将軍と士官、それに近代兵器の搭乗員達は碧領にある牢獄に入れておこう。

 彼らからは色々と聞き出さないといけないからね。



 アリサ達を孤島宮殿に送り返し、残りの都市や街に駐留するイタチ帝国軍の留守居部隊を、オレの指揮する鷲獅子騎士(グリフォン・ライダー)達と邪竜親子だけで無血制圧した。


 この世界の侵略戦争はなかなかに凄惨だ。


 都市の前には幾百幾千の兵士達の死体が転がり、都市の中にも処刑された貴族や官僚らしき影が風にゆれていた。

 仲間達を先に帰したのはこういう光景を見せたくなかったからなのだが……できればオレも見たくなかった。


 オレは今更ながら、幻術で視界をモザイク表示に変え、機械的にイタチ帝国軍の捕虜達を異界へ送り続けた。

 マキワ王国の外へ逃げ出した部隊もいたが、マキワ王国の外は魔物の領域が数十kmも続くのでその多くが魔物のオヤツになったようだ。





 その日の晩は約束通りハンバーグのフルコースをふるまったが、食欲の出なかったオレは冷や奴と冷酒で軽く済ませた。


「哀愁ヒーローなんてガラじゃないわよ?」


 宮殿の展望テラスで夜闇に揺れる椰子の木を眺めていたら、湯気の上がるおでんと熱燗にした竜泉酒を盆に載せたアリサが現れた。

 自分で呑むつもりはないらしく、オレの前に熱燗を置いて、自分はハンペンを摘まみながらコーラを手に取った。


「気分が沈んでいる時は冷たいモノはダメよ。死にたくなるくらい落ち込んじゃうから――温かい飲み物を飲んで、アツアツのおでんを食べて、身も心も温かくするのが一番よ!」


 アリサの薦めるままに、熱燗を口に含む。

 燗にした酒から、芳醇な香りが嗅覚を刺激する。


 はぐっ、と大根を囓ると大根とダシの旨みが咥内をほっこりと幸せ色に染め上げてくれた。


 胃に落ちたおでんと熱燗が、お腹の底からホコホコと温めてくれる。

 なんだか、悲しくないのに泣きそうな気分だ。


「うん、ちょっとマシになった」


 アリサが短距離転移で手摺りの上に移動し、オレの顔を覗き込む。


「ご主人様はなんでもできるけど、なんでもしなくちゃいけない訳じゃないんだからね?」


 茶化した感じの言い方だったが、アリサの目は真剣だ。


「ご主人様は支配者向きの性格していないんだからさ。魔王を倒すのは勇者の役割だからしかたないけど、それ以外は『見捨てるのがイヤだから助けた』くらいでいいじゃない」


 なんとなく無責任な感じのアリサらしくないセリフだ。


「捨て猫や捨て犬と違って、自分で生きている人達だもん。自力じゃどうしようもないところだけ助けてあげれば、あとは自分たちでなんとかするわよ。その為に王様や貴族がいるんだからさ。税金で贅沢してきたんだから、『高貴なる義務ノブレス・オブリージュ』ってヤツを果たさせたらいいのよ」


 オレも一応、貴族だけどね。


「それにさ、なんでもかんでも手助けしたら、どんどん堕落してダメになっていくだけよ。優しさは必要だけど、過剰な優しさは毒になるんだから。ご主人様は考えすぎないで気まぐれなくらいで丁度いいのよ」


 冗談めかした口調で、クスクスとアリサが笑う。


「そうだな――」


 観光時々人助け、たまに勇者――くらいのスタンスが精神衛生上良さそうだ。


 オレは励ましてくれたアリサに礼を言い、戸口からトーテムポールのように頭を覗かせていた仲間達を呼んで、夜空の下でおでんパーティーと洒落込んだ。


 こういう風に、皆と一緒にわいわいやるのが平和でいいね。


※次回更新は 4/24(日) の予定です。


※2016/4/17 ネネリエと海底遺跡は別物でした。その辺りの記述を修正してあります。

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― 新着の感想 ―
アリサいい奥さんしてるねぇ サトゥーにはこういう包容力がある伴侶が居ないとダメだね(幼女なのはさておき)
[一言] アリサ大好き。幸せになって欲しい。
[良い点] アリサまじメインヒロイン
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