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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十四章

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14-44.戦乱の王国(2)ドラゴンライダー

※2016/4/18 誤字修正しました。

※2016/4/18 一部修正しました。

 サトゥーです。治安の良い国はそれだけで誇らしいと思うのです。だからと言って、夜の繁華街を半裸のような格好でねり歩くのは実にエロ可愛い――もとい、良識ある大人としては注意を喚起する必要があると思うのです。

 内心で「いいぞ、もっとやれ」と思っていてもね。





『敵見っけ~?』

『ご主人様! 悪者がいるのです!』


 防諜に優れた「戦術輪話タクティカル・トーク」からタマとポチの声が届いた。


 マキワ王国に入ったオレ達は、西へ逃げる難民の群れと、それを追いかける奴隷狩りの傭兵を見かけた。

 逃げる方も追いかける方も、どちらも人族だ。


『オレはあの集団を助けてくる。皆は王都前の決戦を止められそうだったら止めてくれ』

『おっけー、邪竜たん達が一緒なら、余裕っしょ』


 アリサの言うように、今回の戦闘では威圧効果を考えて、迷宮下層から邪竜一家を召喚してある。

 オレ以外を乗せるのを渋るかに思えた邪竜父だったが、前日一緒に遊んだ黒竜の気配を感じて存外素直に騎竜役を務めてくれた。


 なお、黒竜ヘイロンは張り切りすぎて暴走しそうだったので連れてきていない。


『リュリュだって一緒なのです!』


 ――LYURYURYUUU。


 ポチを乗せた白い下級竜のリュリュが独特の鳴き声を響かせる。


 今日は極秘作戦なので、黄金鎧偽装バージョンを装備していた。

 防御力は初期型黄金鎧と同等だが、見た目が蜥蜴人や色々な獣人に見えるようになっているのだ。これは魔法ではなく、サトゥー人形と同様の特殊メイク風の技術で作られている。


 リザとミーアは兎獣人、ポチタマは蜥蜴人、ナナとルルは鳥人、アリサは猫人の偽装だ。

 残念ながら、ヒカルは居留地の監督、ゼナさん達は飛空艇および孤島宮殿で控えてもらっている。


 このような偽装をしているのは、正体を隠す為に加えて、マキワ王国の亜人嫌いを払拭する狙いがある。


 それはさておき、追われている人達を助けよう。


 王都へと向かうアリサ達に手を振って、オレは新型疑似精霊「鷲獅子騎士(グリフォン・ライダー)」達を産み出して地上へと急降下した。

 少人数だとやっぱり、正体がオレ達だと思う人もいそうだしね。





「ひゃっはー! 逃げろ、逃げろ、ゴミ屑ども!」

「こわ~い、お兄さんに追いつかれたら、奴隷にされちゃうぞ~?」


 泣き叫ぶ難民達を追いかける傭兵達は、嗜虐に歪んだ笑みを浮かべてわざと追いつかないように追いかけている。


「お頭、アレ!」

「ばかやろう、隊長と呼べ!」


 仲間に促されてこちらを見上げる傭兵隊長の顔が、恐怖に歪む。

 どうやら、自分たちが狩られる側に変わったことを悟ったようだ。


『総員、蹂躙を許可する』


 ――PYWEEEE!


 背中に乗せた空洞騎士に会話機能がないので、グリフォン達がオレの命令に応えた。

 100騎を超える「鷲獅子騎士(グリフォン・ライダー)」が傭兵達を狩り立てる。


 もちろん、不殺はデフォだ。


 グリフォンの爪やクチバシには対人制圧用の「柔打ソフト・スタン」の魔法と「麻痺パラライズ」の魔法が、グリフォンの背に乗る空洞の騎士が持つ馬上槍ランスには上記二つの魔法に加えて、「苦痛打ペイン・フォース」の追加効果がある。


 この「苦痛打ペイン・フォース」は外傷を与えずに痛みだけを与える精神魔法なのだ。

 拷問や尋問用の「苦痛ペイン」という魔法を改良して作った懲罰専用のオリジナル呪文で、間違って激痛で死んだりしないように「麻酔なし抜歯」程度の痛みで止まるようにリミッターを設けてある。

 むしろ、改良前よりも拷問向きになっている気もするが、他に提供する訳でもないし別にいいだろう。


 鷲獅子騎士に蹂躙された傭兵達の間から、恐怖と痛みに苦しむ声が巻き上がる。

 傭兵達の捕縛は彼らに任せておけばいいだろう。疑似精霊の自律型AIは実に有能だ。


「奴隷狩りは始末した! 逃げなくても大丈夫だ! 繰り返す――」


 オレは傭兵達の蹂躙には参加せず、逃げる人達に危険が去った事を伝えて回る。


 ――あれ? 傭兵達に追われていた時よりも真剣に逃げていないか?


「鼬人の魔獣兵達よ!」

「逃げないと喰われるぞ!」


 聞き耳スキルが喧噪の中から、そんな必死な声を拾ってきた。

 しまった、グリフォンを見慣れていなかったら、魔物じゃなくて幻獣だとは気付かないか……。


 オレは騎乗していたグリフォンを送還し、ストレージから一人乗りサイズの小型飛空艇を取り出して、騎乗し直す。


「奴隷狩りは始末した! 逃げなくても大丈夫だ! 繰り返す――」


 今度は上手くいった。

 難民達の中で足を止めて、こちらに手を振る人達が出始めた。


「あれって、お伽噺に出てくるエルフ様の光船じゃない?」

「亜人が俺達を助けてくれるはずがないさ」

「きっと、サガ帝国の勇者様がお乗りになる銀船だろう」


 この国ではエルフも差別対象にする人がいるようだ。

 オレは難民の先頭集団までアナウンスを繰り返して回る。


 全長五kmほどなので、ほどなく完了し、先頭集団にいた馬車の前に着地する。


 オレが外に顔を出すまでの間に、馬車の中から20歳くらいの赤いドレスの女性が出てきていた。

 なぜか、布に包まれた棒状のモノを携えている。


 AR表示によると、布の中身は「紅蓮杖」という火属性ブーストタイプの杖らしい。


「このたびの救援を感謝いたします。私はシェルミナ・ダザレス、ダザレス侯爵領の代官をしておりました」


 ダザレス侯爵と言えば、白虎姫達を追いかけていた放火魔貴族の家名だ。

 この女性は病的な感じだった放火魔貴族と同じ一族とは思えないほど、落ち着いた雰囲気を醸し出している。


「ト、トカゲ」

「エルフかと思ったら蛙喰いだぜ」


 聞こえよがしな罵詈雑言を交わしているのは、シェルミナ嬢の後ろにいる貴族子弟達だ。


「トゲル、ベッソ、救援に来て下さった方を罵倒するとは何事ですか! 恥を知りなさい」


 オレは聞き流すつもりだったのだが、シェルミナ嬢が烈火の勢いで叱りつける。

 貴族子弟達は息の仕方を忘れたかのようにパクパクと口を動かした後、しぶしぶオレに謝罪の言葉を告げた。

 完全に形だけの謝罪だが、彼らと会う事はもうないので軽くスルーしておいた。


「あの、お名前をお聞きしても?」

「鷲獅子騎士団の竜騎士ウーティスと言う」


 今回限りの使い捨ての名前は、ギリシャ神話から「誰でもない」を意味する有名な偽名を選んだ。

 所属が少しややこしいが、仲間達が竜騎士として登場しているし、同じ方がいいだろう。


「ウーティス様、助けていただいたお礼もしないうちから、このようなお願いをするのは恥しらずかもしれませんが――」


 胸の前で両手を組んだシェルミナ嬢が懇願してくる。

 安全な所まで連れていってほしいと言いたいのだろう。


「――多くの民が鼬帝国の奴隷狩りに捕まっております。彼らを救うお手伝いをお願いしたいのです」


 ふむ、そっちだったか。


 手伝いと言っているが、彼女の戦力は騎士が10人だけ、貴族達が50人ほどいるが戦えそうなスキルを持つのは5人だけしかいない。


「分かった。願いを叶えよう」


 オレはマップで捕縛された難民達の現在位置を調べ、そこに鷲獅子騎士(グリフォン・ライダー)達を派遣した。

 疑似精霊達と術者の間には意思疎通用のチャンネルがあるので、こういった広域作戦では非常に便利だ。


「ありがとうございます。私と騎士達を囮にお使い下さい」


 貴族達が余計な事を言うな、という形相でシェルミナ嬢を後ろから睨み付けていた。

 保身に走る彼らを助けるようで気が乗らないが、オレは彼女の申し出を「不要だ」と簡潔に拒否する。


 なぜなら、急行した鷲獅子騎士(グリフォン・ライダー)の一部隊が、既に傭兵達を蹂躙中だからだ。


「女だからと見くびらないで下さいませ! こう見えても叔父上から紅蓮杖を預けられた身。紅蓮杖の秘術までは使えませんが、陽動ならばこなしてみせます」


 後ろの貴族達が止めるのも聞かず、杖に巻いた布を解いて見せてくれる。

 杖の先端にある宝玉はルビーのようでなかなか綺麗だが、宝玉の中に黒い蛇のような瘴気の塊がウゾウゾと蠢いているのが気持ち悪い。見ていたら呪われそうだ。


「不要だと言った。既に配下の者達を向かわせてある」

「配下?」


 そういえば彼女は鷲獅子騎士(グリフォン・ライダー)達を見ていなかったっけ。

 オレは一番近い場所で残党狩りをしていた鷲獅子騎士(グリフォン・ライダー)に、直上をフライパスさせて、その姿を見せてやった。


「猛禽類の頭に獅子の身体――あれは幻獣グリフォン!」

「しかも、背中に騎士を乗せているぞ」

「グリフォン騎士団だというのか!」


 そう叫んだのはシェルミナ嬢ではなく、彼女の後ろにいた貴族子弟達だ。

 人格はともかく知識は豊富なようだ。


「今の者が教えてくれた。民は全て救出を終え、傭兵達は全て始末してある――」

「貴公はスィルガ王国に縁ある者とお見受けする。我らを隣国まで護衛してくれぬか?」


 いつの間にかシェルミナ嬢の横に顔を出していた老貴族が、オレの言葉の途中でそんな要求をしてきた。

 彼の尻馬に乗った貴族達が異口同音に訴える。


「よかろう――だが、グリフォン達は主人と認めた者しか乗せぬし、我の船は一人乗りだ。迎えの大型船を寄越すから、この場所に民を集めておけ」

「ご厚情感謝いたす」


 老貴族が礼の言葉を述べる。

 オレの船に乗るつもりだった貴族達から落胆のため息が出たが、大型船が来るという言葉に元気を取り戻していた。


 オレはストレージから食料を取り出す。


 巨大藻ジャイアント・ケルプの粉末に、雑多な小魚の干物や大型海龍シーサーペントの肉を混ぜて作ったシリアル・バーのような形状の携行食だ。

 エチゴヤ商会で作らせたものではなく、専用の加工魔法で作ったので来歴を辿られる事も無い。


 雪の王国でも配ったが、こういう時に提供するには便利な品だ。


 続いて、土魔法で大きな溜池を作って、ストレージから飲料水を大量に取り出しておく。

 魔法で水を出しても良いが、魔力が勿体なかったのだ。


 最後に街が入るくらいの範囲に土壁を作り、害獣対策をしておく。

 難民達の護衛用に、鷲獅子騎士(グリフォン・ライダー)を三騎ほど残して、オレはこの場を去ることにした。


「ウーティス様、私をマキワ王国の王城までお連れ願えませんか? 民の安寧を確保できた以上、私は貴族としての責務を果たすべく、陛下の下に馳せ参じないといけないのです」

「先ほども言ったが、我が船は一人乗りだ。諦めろ」


 頑張れば乗れないこともないが、スタイルの良い美女と密着して過ごすのはなんだかアーゼさんに後ろめたいからね。





『こちらジャリューワン、グルゥヘッド応答せよ』

『こちらグリフォンヘッド。コールサインを間違えるな。何かあったのか?』

『それが大変なのよ!』


 アリサが言うには、テイムされた魔物を使役した大部隊の他に、戦車のような機甲部隊が存在していたそうだ。

 始めは有人ゴーレムかと思ったそうだが、間違いなく戦車のような形状をしていたらしい。


 戦車は確かに凄いが、現代の最新型戦車がここにあったとしても、そこまで脅威にはならないと思う。

 ただ、前に迷宮下層のムクロが言っていたように、神々の禁忌に触れたらヤバイ。

 鼬人族単独で滅びるなら自業自得だが、神様の天罰は大ざっぱなイメージがあるからね。


 いろんなルートで聞いてきた鼬人族の軍隊は、調教魔獣部隊と有人ゴーレムだったはず。

 アリサの見間違いでないなら、こんな科学兵器が突然出てきた理由を調べるべきかもしれない。


 戦車や装甲車の搭乗員達は当然尋問するとして、他にもスィルガ王国の地下牢に鼬人族の商人が捕まっていたはずだから、彼からも情報収集をさせてもらおう。

 知らないようなら、イタチ帝国に侵入して直接調べるしかないかな?

 ついでに、魔王退治をしている勇者の陣中見舞いに行くのもいいかもね。


『あ! 戦いが始まっちゃった!』

『マスター、突撃許可を』

『アリサ、対空砲やミサイル戦車みたいなのはいるか?』

『そっちはいないみたい。戦車が20両と装甲車が10両だけ』


 装甲車が少ない気がする。


『よし、介入を許可する。間違っても怪我をするなよ』

『あいあいさ~』

『らじゃなのです』

『ん、任せて』


 オレの許可に年少組が元気な返事をする。


『ステルス・システムを解除します。ナナとルルは防衛準備を』

『空対地防御は発動済みだと答えます』

『リザさん、私の方も大丈夫です』


 邪竜父に乗ったリザが、戦闘指示を行なっている。

 オレは華々しい戦いの様子を「遠見クレアボヤンス」の魔法で見学しながら、難民達の救出と誘導の任務をこなしていった。


 ついでに帝国軍から最寄りの都市を一つ取り返して、難民の収容先を確保しておくのもいいかもね。


※次回更新は 4/17(日) の予定です。


※2016/4/18 ウーティスの名乗りを少し修正しました。


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※2016/4/14 追記

「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」7巻重版いたしました!

 重版を記念して(?)活動報告に、なろう特典SS:「公都夜の秘密訓練!」をアップしました。タマ視点のお話です。

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