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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十四章

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14-39.飛竜の王国(6)スィルガ王城

※2016/4/24 誤字修正しました。

※2016/3/28 一部修正しました。

 サトゥーです。噂を鵜呑みにして、話した事も無い人を悪し様に罵る人がいます。噂が真実の場合もありますが、実際に会って話してみたら「意外にいいヤツだった」と評価が変わる事の方が多い気がします。





「ペンドラゴン子爵様、お迎えに参上いたしました」

「ご苦労様」


 オレ達は侍女の案内で謁見の間へと向かう。


 今日のレディーKはカリナ嬢ではなくヒカルだ。

 リザの事でカマを掛けられたときに、カリナ嬢だとすぐ顔に出ちゃうからね。

 ゼナさんやヒカルも顔に出やすいが、ポチとカリナ嬢は別格だから……。


 ――おや?


 レーダーに敵でも味方でもない色のマーカーがある。

 前にルモォーク王国で冒険者達を影城に送り込もうとしていた鼬人の商人だった。


 マップを開いて確認してみたところ、水平位置が近いだけで、向こうは遥か地下――牢獄の中に収監されているようだ。

 牢獄には彼の奴隷である兎人の「飛竜騎士ワイバーン・ライダー」やアイテムボックス持ちの人族の娘もいるらしい。


 この国で何をしたのか知らないが、牢獄に会いに行くほど興味も無いしスルーでいいか。

 影城への潜入も、「飛空核(フロート・コア)」や城内の秘宝(アーティファクト)狙いだったみたいだしね。


「――俺は黒竜山脈へ女神を探しに行く!」


 そんな事を叫びながら、謁見の間を飛び出してきたのは昨日のマッチョ戦士だ。


 ぶつかりそうになった彼を軽く投げ飛ばす。

 悪いけど、普通に避けたら後ろの王女やセーラが跳ね飛ばされるから仕方なかったんだ。


 軽く投げたので、マッチョ戦士は空中で一回転して普通に足から着地した。

 全身鎧のくせにすごい運動能力だ。


「失礼、お怪我はありませんか?」

「大した腕だ――貴公、どこかで会った事がないか?」


 昨日会った時に身に着けていた認識阻害の魔法道具のお陰で印象に残っていないようだ。

 神殿や食べ歩きの時は市販品を使っていたから心配だったが、杞憂だったらしい。


「気のせいではありませんか?」


 明確に否定はしない。

 彼に看破系のスキルは無いけど、王族に近い地位の世襲貴族が類型アイテムを持っている可能性は高いからね。


「待て! 次期国王が出奔など、許される事ではないぞ!」


 中から駆け出てきた赤鱗族のイケメン王子が、マッチョ戦士の肩を掴んで強引に振り向かせる。

 内緒話がしたいのか、額がくっつきそうなくらい両者の顔が近い。


「まぁ」

「ぉお」


 王女とヒカルの間から腐臭に満ちた吐息の漏れる音が聞こえた。

 オレは紳士らしく、二人の反応をスルーしておく。


 若者の熱い語らいに部外者は邪魔だろうから、オレは二人に会釈だけして謁見の間へと進む。

 王女とヒカルから、若干恨みがましい視線を感じたが、お仕事優先なのだ。





「シガ王国子爵、サトゥー・ペンドラゴン卿――」


 入り口付近にいる赤鱗族の騎士が大声で叫ぶ。

 どうやら、入場する人間の紹介らしい。


 自己紹介を省略できて楽ちんだ。


 国による違いのあまりない挨拶を国王と交わし、謁見は本題へと入る。


「――なるほど、カンコウとは他国の文化や民の生活を学ぶことか」


 なぜか、観光という単語に興味を持ったスィルガ王に解説する事になった。


「ならば、ワシも退位後はシガ王国やサガ帝国を観光してみるとしよう」

「それは素晴らしいお考えですね」


 追従のようにも取れるが、これはオレの本心だ。

 人も国家も相互不理解が争いの元凶だと思うんだよね。


 国のトップに影響のある人が知見を広めるのは、とても良い事だと思う。


「時に子爵、貴公の家臣には、かの『不倒』殿を倒した槍の名手がいるそうだな」

「はい、キシュレシガルザ卿は私の家臣の中でも一番の槍の使い手です」


 感心したような国王の口調に、「来た」と内心で警戒しつつ、リザを自慢する。

 国内だと、シガ八剣は国家を守る武力の象徴だから、リザが勝ったのを自慢しにくいんだよね。


「た、ただの噂かと思っていたが、あの武の化身たるジュレバーグ卿に勝ったのはまことだったのか!」


 国王が玉座から立ち上がって叫ぶ。

 そんなに驚く程の事なのかな?


 戦闘力なら勇者やリーングランデ嬢、それに勇者の従者である軽戦士のルススとフィフィも、ジュレバーグ卿に勝てそうなんだけど……。


「王位に就く前に手合わせしてもらった事があるが、かの者は別格だった……あれほどの武人が仕えるシガ国王を尊敬しておったのだが、家臣のそのまた家臣の子爵がそれほどの武人を従えるとは……」


 脱力したスィルガ国王が玉座に腰を落とした。

 リザを褒めてくれてるのか、オレを貶しているのか判断に迷う。


「陛下、武力だけが人を測る物差しではございません。ペンドラゴン卿は素晴らしい方です」

「僭越ながら、子爵様はその類い希なる徳でキシュレシガルザ殿を心酔させているのです」


 凄く誇らしそうな顔で、システィーナ王女とセーラが国王に語る。


 この国は男性上位らしく、二人が国王に話しかけたことに不快そうな反応が出ている。

 ざわざわと聞こえよがしに愚痴を言うのは好きじゃないな。


 でも、ケンカを売りに来たわけじゃないから、ここは大人な態度で行こう。


「陛下、私の随員が失礼いたしました」

「構わぬ。子爵は女性にょしょうに好かれるようだ」


 オレが王女とセーラを控えさせて、スィルガ国王に詫びると、彼も呵々と笑って済ませてくれた。


 場の雰囲気が和やかに弛緩した隙を突いて、国王が唐突な直球を投げ込んできた。


「ボウリュウ様を倒した女槍士はキシュレシガルザ卿だな?」

「――なんの事でしょう?」


 事前に想定していたので、絶妙の間を挟むことができた。

 即答しすぎるのも怪しいから、アリサの指導で予め練習しておいたのだ。


 なんだか、就活の圧迫面接を思い出したよ。


「ボウリュウ様という方はどなたなのでしょう?」

「そうか、ペンドラゴン卿は知らぬか。ボウリュウ様は聖なる山に座する竜様達の長をされている我が国の守護神のような方だ」


 ――ほほう?


 ボウリュウ君はただの暴れん坊じゃなかったのかな?


「北に蛇竜ナーガの群れを見つければ眷属と共に退治に赴き、東に多頭蛇ヒュドラが出たと聞けば嬉々として戦いを挑む――我が国の平和は竜様達の活躍があればこそ」


 やっぱり、ただの暴れん坊じゃないか……。

 役に立っているようだからいいけどさ。


「これでもワシは槍を使うのだ。キシュレシガルザ卿の指南を一手受けたいのだが、卿に間を取り持ってもらえぬかな?」

「スィルガ王の仰せとあらば否とは申したくないのですが――残念な事に、彼女は迷宮都市セリビーラで今もなお探索の途にあるのです」

「なんと、危険な旅路に武に長けた家臣を連れてきていないと申すのか?」


 余裕綽々だったスィルガ国王がオレの返事を聞いて驚きを露わにする。


 ――そんなに変かな?


 そう途中まで考えて、確かにおかしいのを自覚した。

 完全に失念していたが、この世界の旅は命の危険があるんだった。


 しかも、わりとオッズの高い危険度だったっけ。


 どう説明したモノかと思案していると、謁見の間に鐘の音が聞こえてきた。


「警鐘――この音は国境か」


 聞き耳スキルがスィルガ国王の呟きを拾う。

 どうやら、国境で何かあったらしい。


 マップを開いて確認したところ、東の国境に人々を示す光点が集まっている。

 この国の兵士が800名と隣国の兵士を含む一般人が1000名ほど。


 一般人側は怪我人も多く、スタミナが枯渇寸前になっている者が殆どだ。


 隣国のマキワ王国と鼬帝国の間で緊張が高まっていると噂に聞いていたが、既に開戦していたようだ。


 そこに伝令が駆け込んできた。


「陛下! ご報告いたします――」


 席を外そうかと思ったのだが、なぜかスィルガ国王が「ペンドラゴン卿も聞いていけ」とオレを引き留めた。


「――東の国境に、マキワ王国の平民1000名強が押し寄せております」


 兵士の報告に、謁見の間にいた高官や武官の間にざわめきが起こった。


「ついにマキワ王国と鼬帝国の間で戦が始まったのか……」

「1000名もの流民が出るという事は、鼬人族との戦いに敗れたのか?」

「陛下はどうなさるおつもりか」

「いくら陛下でも、亜人嫌いのマキワ王国の者を引き受けるような酔狂はなさらぬよ」

「人族以外を蔑む輩に、手を差し伸べる謂われはないからな」


 一方で、スィルガ国王の表情に変化はない。

 彼はこの事態を予想していたようだ。「鎮まれ!」と一喝した後、伝令に続きを促す。


「それで、そやつらはなんの用でやってきたと言っている?」

「平民達の代表を名乗る者はシガ王国への移民を希望しており、我が国を通過する事を求めております」


 なかなか、無謀な話だ。

 徒歩でスィルガ王国を横断するだけでも大変そうだけど、スィルガ王国とシガ王国の間にある魔物の領域を突破するのは不可能だと思う。


 ちらりとストレージ内の観光省規範を確認したところ、副大臣権限で移民を受け入れる事はできるらしい。

 ただし、受け入れた者が後見人となって職や生活の面倒を見る必要があるようだ。


「ペンドラゴン卿、貴公は慈悲深い事で有名だ。同族を助けたいと願うなら、我が国の通過を許可するのも吝かではない」


 ふむ、困っている人を助けるのは構わないが、高官の一人が言っていた「亜人嫌い」というワードが気になる。

 ムーノ領に不和の種を持ち込んでまで人助けをしたいわけじゃないんだよね。


 かといって、他の領地に丸投げするのも憚られる。

 セーリュー伯爵領あたりの亜人と交換できたら、八方丸く収まるのかな?


「サトゥー、私は反対です」

「サトゥーさん、寄る辺なき人達に慈悲を与えてください」


 システィーナ王女は反対、セーラさんは賛成か。

 視線を護衛役の二人に向ける。


 ヒカルは助ける気満々の期待に満ちた瞳をしているし、ゼナさんも「できれば助けてあげたい」と言いたそうな微妙に困った顔をしている。


「――人族ってのは面倒だな。同族なら助けてやればいいだろう?」


 決断を迷うオレに助言したのはマッチョ戦士だ。

 シンプルでいいね。


「即答はしかねます。一度彼らと会って話してみようと思うのですが、許可戴けますか?」

「よかろう、許可しよう」

「なら、俺が国境まで送ってやる」


 国王の許可を貰ったオレにそんな提案をしたのはマッチョ戦士だ。

 なぜか王子まで同行してくれるらしい。


 オレの安全確保の為というよりも、マッチョ戦士がそのまま出奔しないように見張るためだろう。


「ワイバーンには二人までしか乗れない。子爵の随員は一人だけにしてくれ」


 下級竜や黒竜には乗ったことがあるが、ワイバーンは初めてだ。


 さて、随員は誰にしよう。

 反対していたシスティーナ王女と護衛役のヒカルは留守番として、セーラとゼナさんのどちらか一人となると――セーラを連れていこう。


 彼女の神聖魔法なら、困っている流民達を大っぴらに癒やせるしね。





「見えてきたぞ!」


 マッチョ戦士の身体が邪魔で見えないので、少し身体を乗り出して地上を見下ろす。

 国境には「万里の長城」風の土の壁が続き、街道と接続する関所の前に流民が集まっている。


 風に乗って、ここまで喧噪が聞こえてきそうだ。


「彼らの頭上を一度旋回してもらえませんか?」

「――あん? 構わんが狙撃されても面白くない。矢の届かない高度でいいな?」

「はい、お願いします」


 マッチョ戦士のワイバーンが国境を越えたところで、全マップ探査を実行する。

 これで国境の向こうからの不意打ちを警戒しなくて済む。


 ――マズイ。


 流民の集団の中に「扇動」スキルや「洗脳」スキルを持つ工作員がいるのは想定内だったのだが、集団の中に「スキル不明」なヤツがいるのは予想外だった。

 集団の後方にいるようなので、マーカーだけ付けておいて後でこっそりと接触しよう。


 ケイという名前からして転生者だとは思うが、「ザイクーオンの信徒」という称号と「偽使徒」という隠し称号が気になる。

 やっぱり、コイツが「塩の柱」事件に出てきた「使徒」なんだろうか?



※次回更新は 4/3(日) の予定です。

 新刊の見所などは来週末にでも活動報告にアップしたいと思います。


※今年は諸般の事情により、エイプリルフール特別回はありません。


※マキワ王国は9章に出てきた放火魔貴族ダザレス侯爵の祖国です。


※2016/3/28 最後の行を「彼」⇒「コイツ」に変更しました。

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レーベル:カドカワBOOKS
 発売日:2025/8/8
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