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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十四章

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14-38.飛竜の王国(5)黒竜山脈にて

※2016/3/27 誤字修正しました。

 サトゥーです。コンピュータRPGをしていると、シナリオの進行に合わせてNPC達のセリフが変わることがよくあります。たまに「その情報は最初に言えよ!」みたいなつっこみを入れたくなることもありますけどね。





『う、うむ、やはりクロとの戦いは愉しいぞ』

『ああ、こっちもいい汗がかけたよ』


 黒竜山脈についた黒竜ヘイロンが久々にオレと戦いたいと言い出したので、黒竜山脈を写し取った異界を創って模擬戦を行なっていたのだ。

 黒竜側はブレスも牙もありだったので、どこが模擬戦だったのか疑問が残るが、オレは無傷だし、黒竜も末端部位がそれなりに弾け飛んだ程度なので問題無いだろう。


 またしても黒竜の牙を折ってしまったが、天地神明に誓ってわざとではない。


 オレが牽制に放った魔刃砲の前に黒竜が飛び込んできてしまったのだ。

 食材確保用のギロチン型魔刃砲を使わなくて本当に良かった。


『血は止まったけど、牙は生えてこないね』

『構わん、山羊とクジラを沢山喰って、沢山寝ればすぐに生えてくる』


 呵々と笑う黒竜の言うように、今日の戦闘前には以前折ったはずの牙が生え替わっていた。

 何年もかかるような事を言っていたのに不思議な話だ。


 オレ達はそんな話をしながら、領域の端にある安全地帯で見学していたリザの所に戻る。


「ただいま、リザ」

「ご主人様――」


 あれ? リザなら喜ぶかと思って黒竜との戦闘を見学させたんだけど、なぜか表情が硬い。

 もしかして、じゃれあうような黒竜との戦闘はお気に召さなかったのかな?


「――ご教授ありがとうございました!」


 ズサッと音を立ててリザが片膝を突き、真剣な口調で語り始めた。


「下級竜を打ち倒したくらいで慢心するなというご主人様の教えを、このリザ、目に焼き付けました。真の強者同士の戦いというモノは、ああも凄まじいモノなのですね」


 リザが夢見るような瞳でオレを見上げる。


 たしかに、下級竜のボウリュウと黒竜はレベルこそ近いモノの、戦闘力は全く違う。


 ブレス一つとっても、目視から簡単に避けられる遅い火炎ブレスと予兆を感じたら即短距離転移しないと避けられないような高威力レーザーのブレスじゃ大きく違う。

 さらに、黒竜の巨体から放たれる物理攻撃は山の地形を変えるし、短い詠唱で複合魔法をガンガン撃ってくるしね。

 先ほどの模擬戦でも、黒竜が口から吐き出す弾幕のような新魔法には手を焼いた。


「リザもそのうち黒竜と戦えるくらい強くなるよ」

「私に、できるでしょうか」

『無理だ――』


 リザの問いに「もちろんさ」と答える前に黒竜が割り込んだ。

 黒竜山脈への移動中の会話のために、翻訳魔法を掛けておいたのが仇になり、リザにも黒竜の言葉が伝わってしまった。


「そんな事無いさ」

『クロよ。無理なのだ』


 オレのフォローの言葉をまたしても黒竜が否定する。


『その娘の武器では我を傷つける事ができぬ』


 そう語る黒竜がリザの手から魔槍を取り上げる。

 もちろん、黒竜の鋭利な爪では魔槍を傷つけるので、魔法で作り出した光る雲のようなもので包んで持ち上げていた。


『ふむぅ、「始原の魔物」の素材を軸に強化を繰り返しているようだが、これでは我が鱗を破る事はできん。表面を傷つけるのさえ一苦労するだろう』


 今の魔槍ドウマはアダマンタイトコーティングしてあるので、素の状態の鱗ならなんとか傷つけられると思うが、さすがに戦闘中の黒竜の鱗は幾重にも強力な魔法でガードされているので、魔刃付きでもリザには破れないだろう。


 ――今はまだ、ね。


『竜を傷つけうるのは竜の武器のみ――むろん、我が友クロのような例外はあるが』


 聖剣エクスカリバーを持ったポチなら、傷つけられないかな?

 聖句付きならいける気がする。


「ですが、私は……」


 返却された魔槍を受け取ったリザが、視線を手元に落としたまま呟く。


『その槍が気に入っておるのならば、今日折れたばかりの我が牙を融合すれば良いのだ。無粋な魔法金属で覆うよりは、よほど強くなるぞ。器用なクロならできるのではないか?』


 黒竜がさも当然のように語る。

 残念ながら、オレの魔法にもそんなファンタジーなラインナップはない。


 錬成の奥義に似たような製法があるが、あれはもう少しランクの低い素材でしか実行不可能なのだ。


『さすがに、そこまで器用な技は持ち合わせていないよ』

『ふむ、ならば今の魔術ではなく、いにしえの魔法が得意な者にやらせればいい。南の大陸の古竜の婆様か東の大陸の古老樹人エルダー・トレントあたりならできよう』


 ふむ……魔法が得意な者か。


 アーゼさんに尋ねるのはデフォとして、次点は誰にしよう?

 ビロアナン氏族かベリウナン氏族のハイエルフに尋ねるのもアリだが、ここは確実に呪文を知っていそうな南の大陸の古竜から尋ねてみよう。

 衛星軌道上から眺めた事はあるけど、南の大陸にはまだ行った事がないんだよね。


 オレが思案していると、落雷のような轟音が鳴り響いた。


『――クロ、我は腹が減ったぞ』


 やっぱり、黒竜の腹の音だったか。


 リザの槍強化に良い情報をくれた黒竜に首肯し、異界の外で宴会の準備をしているルル達の所へとゲートを開いた。





「マヨウマ~?」

『うむ、このカラマヨは実に素晴らしい。山羊には合わぬが、クジラ肉が何倍も美味くなったぞ!』


 黒竜の鼻先に座ったタマが、マヨネーズを塗ったクジラの肉串に齧り付く。


 そんなタマを気にした様子もなく、黒竜は辛子マヨネーズを塗った半トンサイズの巨大クジラ肉の串焼きを一口で食べきる。


 いつもならタマの無礼を叱るリザも下級竜との戦いで疲れたのか、燃料補給のような勢いで食事をした後は気絶するような早さで眠りについていた。


「でりぐらソースも負けていないのです!」

『うむうむ、デミグラスソースも甘くて美味い。こちらは山羊に合う。やはり人族の調味料は良い。クロもさる事ながら、そちらの娘の料理も実に美味だ』


 下級竜のリュリュとクジラ肉を分け合っていたポチが、黒竜の横で主張すると、黒竜も大きな頭を上下して同意した。


 ブレスで炙った山羊にドロリとしたデミグラスソースを豪快に掛けたものを口に放り込んだ黒竜が満足そうに咀嚼する。


 ――ぴぴる!

 ――KYEWWROUUUN。


 孤島宮殿との間に繋いだままにしていたゲートから、緑色の幼竜が飛び出してきた。

 背中にヒカルが乗っているから、ヒカルの移動に便乗してきたようだ。


 暢気な顔で手を振るヒカルに、手を振り返してやる。


 ――ぴぴる! ぴる! ぴる!


 幼竜の頭の上で偉そうに鳴いているのは翡翠色の小鳥だ。


 物怖じしない翡翠と違い、幼竜は黒竜に怯えてオレの背後に隠れようと移動した。

 身体の大きさが違うので、まったく隠れられていない。



『幼竜ではないか?』


 ――KYEWWROW?


 黒竜の問いに幼竜が首を傾げる。

 何か変だと思ったら、幼竜は竜語が話せないようだ。


『ふむ、言葉を話せないような幼い者を放置するとは親竜は何をしておるのだ』


 バトルジャンキーな黒竜とは思えない良識のある発言だ。


『よし、我が竜語や魔法を教えてやろう。竜に相応しい強さと不屈の闘志を身に付けさせてやる』


 黒竜が良い笑顔で幼竜に語りかける。


 ――KYEROWN?

 ――ぴぴるるるる。


 言葉が通じていないので、幼竜の代わりに翡翠が答えているようだ。


 言葉は話せないが、翡翠は人や竜の言葉が分かるような仕草をする。

 もしかしたら、神鳥という種族は頭が良いのかも知れない。





 宴会が一段落したところで、翡翠を連れて王都へと向かう。


 幼竜なら黒竜山脈から自力で王都まで飛んでこられるだろうが、小鳥である翡翠にはとても無理なので、オレが連れ帰った。

 何日も王都を留守にしたら、翡翠の飼い主であるドリス王女が悲しむだろうからね。


 ――ぴるる。


 エチゴヤ商会の屋上で名残惜しそうな翡翠を解放したあと、執務室へユニット配置で移動した。


「業務ご苦労。これは皆で食べてくれ」

「ありがとうございます」


 宴会料理の折り詰めをティファリーザに手渡す。

 彼女もルルの料理は好きらしく、氷の美貌が僅かに緩んでいる。


「まあ、クロ様! お帰りなさいませ!」

「ただいま、支配人。重要な報告事項があったら聞こう」


 相変わらずテンションの高い支配人から、王都の様子やオレが太守を務めるムーノ領の都市への移民の募集状況を聞かせてもらう。


 王都は概ね平和との事だが、大陸西方は相変わらず動乱が収まらないらしい。

 中でもパリオン神国は周辺の国々から再侵攻されて、いくつかの都市を失っているそうだ。


 国内の騒動の方も、ビスタール公爵領の領都奪還に成功し、公王を名乗っていたビスタール公爵の長男は公爵領北端の城塞都市に落ち延びたらしい。

 完全決着に至っていないのは、王都から公爵領へ戻ったビスタール公爵が余計な事をして王国軍の足を引っ張っているからだそうだ。

 隣のレッセウ伯爵領ほどではないが、少なくない数の領民が王国直轄領や隣のエルエット侯爵領に流れているらしい。


「そういった事情もありまして、移民の募集定員200名に対して10倍の応募がございました」


 支配人にはクロの正体がサトゥーであると伝えてあるせいか、オマケ業務に過ぎない移民募集にずいぶん力を入れているようだ。


「それにしても10倍は凄いな」

「ペンドラゴン卿は慈悲深く裕福であるという噂が平民の間で流布しておりまして、その影響もあるかと」


 なるほどね……まさかと思うけど、その噂を流布しているのがエチゴヤ商会の人間じゃないよね?


「また、流民が増えた影響で、王都の下町で職にあぶれた者達が起こす犯罪が急増しておりまして、王国政府から下町の者達へ職を斡旋してほしいと要望が届いております」

「許可する」


 支配人は有能だから、許可さえ与えておけばバランス良くこなしてくれるだろう。

 今のところエチゴヤ商会は極端な黒字だから、この辺で多少赤字が出ても問題無い。


「増え続ける移民問題は王国政府でも苦慮しているようです。そこでクロ様に、宰相様よりお手紙が届いております」


 ティファリーザの繊手から一通の手紙を受け取る。

 綺麗な模様の入った封筒を開け、中の文面に目を通してから支配人に手渡す。


「近日竣工する大型飛空艇の4番艦と5番艦を移民計画に使用していいとは……」


 読み終わった支配人が、そう呟いて絶句した。


 その気持ちは分かる。

 平民の移動に新造艦を派遣するなんて普通はしない。


 国王や宰相はナナシとサトゥーが同一人物とは知らないはずだから、王都の復旧に尽力したエチゴヤ商会への便宜と解釈するのが正しいだろう。


 魔法が自在に使えるようになった今なら、旅の合間に毎月100隻くらい大型飛空艇を造れるが、そんな事をして神々に目を付けられるのもばからしいので、自重している。


「ここはありがたく使わせてもらおう。一隻の定員は100名ほどだが、居住性を無視して詰め込めばその3倍は乗れるだろう」

「さ、3倍ですか?!」

「はい、可能です」


 オレの提案に顔を引きつらせた支配人とは裏腹に、ティファリーザは氷の美貌を冴え冴えとさせたまま、平坦な声で首肯した。

 支配人の心配はもっともなので、補足しておく。


「心配無用だ。本来なら5日の旅程だが、夜間のうちに行程を短縮する。一晩だけなら、多少居住性が低くても問題ないはずだ」


 オレがそう説明すると、ようやく支配人も納得してくれた。

 ムーノ領側の廃村や畑のリフォームはオレの魔法によって完了しており、周辺区域の魔物も大幅に間引いてあるので、いつでも移民を受け入れ可能だ。


 公式にはサトゥーが莫大な代金でエチゴヤ商会に依頼して、クロが魔法で実行した事になっている。

 面倒な話だが、多重生活を円満にするには多少の税金はやむをえないのだ。


 技術者は最優先で受け入れるとして、移民にはいくつかの注文をつけてある。

 雪の国――キウォーク王国などから受け入れた外国移民もいるので、他国の者や異種族に偏見の無い者や農業や牧畜業などの一次産業に携わったことのある者を優先するように改めて指定しておいた。


 やっぱり、不和の種は少ない方がいいからね。





 エチゴヤ商会から宴会場に戻り、仲間達を連れて孤島宮殿に戻る。

 幼竜がついてきたがるかとおもったが、すっかり黒竜に懐いていたので、そのまま黒竜山脈に置いてきた。

 立派な成竜になるのを期待しよう。


「それじゃ、ちょっと人形と同期してくるよ」

「ほーい! わたしはご主人様の身体がイタズラされないように見張ってるね」


 オレの言葉に、アリサが朗らかな顔で返事をする。


 ――いやいや、全然安心できないよ。


「ルル、ミーア、悪いけど、アリサがイタズラしないように見張っていてくれ」

「はい、お任せ下さい」

「ん、了解」


 力強い二人に後を任せ、オレは魔法を使ってスィルガ王国に派遣中のサトゥー人形と同期する。

 本来は使い魔と同期する為の魔法なのだが、少しアレンジしてリビング・ドールであるサトゥー人形と同調できるように改造したのだ。


『……サトゥーさん?』

『ええ、そうです』


 オレが瞬きをしただけで、セーラが同期を察知した。

 目を開けたときにセーラの顔が近かった気がするが、きっと気のせいだろう。


『――それではスィルガ国王への謁見はまだなんですね?』

『はい、「謎の女槍士が下級竜を圧倒した」という話で喧々囂々の大会議中だそうで、予定外に王都を訪れた私達への面会は翌朝となりました』


 国王や貴族との面会は叶わなかったものの、大国の高官の来訪という事で、かなり贅を尽くした晩餐が出たらしい。

 サトゥー人形経由だとレーダーやマップが効かないので、どの程度の会議かは知るよしもない。


 ――いや、全マップ探査後だから、孤島宮殿からでも情報は見られるね。


 城内の偉そうな役職の貴族や五鱗家とやらの重鎮も顔を並べているようだ。

 例のマッチョ戦士も列席している。


 ふむ、明日の謁見時にリザの事でカマを掛けられそうだが、適当にしらばっくれればいいだろう。

 公式にはセリビーラの迷宮内にいる事になっているし、明日の朝にでも向こうの迷宮から出てきたっていうアリバイを作れば人違いで済む。


 それに万が一、真実がバレたとしても問題無いしね。


『殿下、身代わりとはいえサトゥーさんの前にそんな格好は、ダ、ダメです』

『うふふ、将来の旦那様に見せる練習です。ね、カリナ様』

『わ、わたくしは、そんなつもりは……』


 隣室から現れたのは透け透けネグリジェのような薄物を身に纏っただけのシスティーナ王女といつもより胸元の色っぽい寝間着のカリナ嬢、そしてシンプルで清楚なパジャマ姿のゼナさんの三人だ。


 ――おおっ。


 カリナ嬢の胸元に飛び込みそうな視線を、意志の力で強引にねじ曲げる。

 対魔王以上の激しさだった心の中の天使と悪魔の戦いを気合いで制した。


『サ、サトゥーさん! こちらにいらしてたんですか?』

『ええ、先ほど』


 セーラと同様に一目で見抜いたゼナさんに答える。

 もちろん、顔は美女達から逸らしたままだ。


 顔を真っ赤にした王女とカリナ嬢が、可愛い悲鳴を上げて隣室へ駆け込む。


 ――いやはや、眼福だった。


 身体のラインが浮き上がるシルクのネグリジェをもっと普及させたら、後継者問題に苦しむ王族はいなくなりそうな気がするね。


『もう、サトゥーさんったら! 大きさだけが全てじゃありませんよ』


 オレの腕を抱え込んでセーラが囁く。

 非常に残念ながら、サトゥー人形では感触までは届かないのだ。


 隣室の二人が戻ってくるまでの間、オレはセーラとゼナさんから、この国の印象や城の様子を聞いて過ごした。


 なお、途中でアリサを叱りに戻った事を追記しておく。


 まったく――イタズラはほどほどに、ね。


※次回更新は 3/27(日) の予定です。


「飛竜の王国」編はもう少し続きます。


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