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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十四章

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14-35.飛竜の王国(2)竜神殿の出会い

※2016/3/2 誤字修正しました。

 サトゥーです。昔のマンガやドラマだと、仲人好きの叔母さんが見合いをセッティングするシーンが描かれていました。最近ではそういった人の代わりに、婚活パーティーを企画する会社が出てきたようですね。





 リザと参道沿いの露店を覗きつつ、終点にある竜神殿を目指す。


「ほら、リザ見てご覧」

「これは竜をかたどった木彫りですか?」

『お客さん、いい目をしてるにゃも』


 ――にゃも? どういう語尾だ?


 嫌な予感がしてAR表示を確認したが、この蜥蜴人の店主は普通の人らしい。

 ログを見たら「赤鱗族語」という言葉が増えていたので、既知の「緑鱗族語」が作用して変な方言に聞こえたのだろう。


 わざわざスキルにポイントを割り振るまでもなく、「翻訳トランスレート」の魔法を起動して、謎方言を駆逐した。


「これは髪留めや鱗飾りになるんだよ、ほらこうやってね」

「私には飾りなど……」


 店主が留め方を実践してくれたので、一つ手にとってリザに付けてやる。

 おお、意外に似合うじゃないか。


「うん、似合うね」

「ご、ご主人様がそう仰るなら」


 ぴこぴこと小気味に揺れるリザの尻尾が彼女の内心の喜びを表してくれる。

 オレは店主に代金の銅貨を手渡す。


「おや、シガ王国銅貨なんて珍しいね」

「使えないかい?」

「いんや、あの国の銅貨は銅をけちってないから大歓迎さ。外の商人にも受けがいいんだよ」


 そう言いながら、店主が錆びた銅貨を見せてくれる。

 この国の銅貨は不純物が多いみたいだ。


 そんな感じで、リザと二人で参道を見物する。

 参道の途中にある広場のような休憩所では、カピバラのような動物を丸焼きにしている屋台があった。

 丸焼きそのものを丸ごと売るのではなく、削いだ肉を黒いクレープ生地に挟んで食べる料理らしい。


「リザ、一つ食べていくかい?」

「申し訳ございません、ご主人様。本日は肉を控えさせていただきたいのです」


 おや? リザが肉を食べないなんて珍しい。


「体調が悪いのなら、この辺で引き返そうか?」

「いいえ、そういう訳では……」


 歯切れの悪いリザの表情は、痛みを我慢するかのように辛そうだ。

 何か悩みでもあるのだろうか?


「ポチやタマが罰で肉を食べられない間に、私だけが隠れて食べるのは……」


 なるほど、二人に遠慮していたのか。


 でも、食卓では普通に肉を食べていたので尋ねてみたところ、あれは二人に罰である事を認識させる為と、リザが肉を控えると他の者達にまで肉抜きを強要する事になるからだったそうだ。

 リザらしいと言えばリザらしいが、そこまで深刻に考えなくても良いと思う。


「なら、肉以外にしよう」


 オレはそう言って、近くの屋台で売っていた酢昆布モドキを買って半分をリザに手渡した。

 結構歯ごたえが良いから、リザの好みに合うはずだ。





「これが竜神殿なのですね」

「思ったよりも小さいね」


 竜神殿前の広場で、白いコンクリート造り風の神殿を見上げる。

 土魔法による漆喰がコンクリート風に見えるのだろう。公都や王都でもたまに見かけた工法だ。


 長方形の建物の屋上の一部がドーム状になっており、なんとなく天文台みたいな形をしている。


『――竜よ! わ、我が名は、獅子人族のバル、バウト! いざ、尋常に、勝負しろ!』


 風に乗って聞こえる名乗りは、掠れて途切れ途切れの大声だった。


 声の主は竜神殿の背後に見える陸上競技場くらいの広さの円形闘技場に立っている。

 三方を崖に囲まれた場所で、その崖の上が下級竜達のお昼寝場所になっているようだ。

 人垣で見えないが、マップによると竜神殿の裏手と円形闘技場の間には深い谷があり、一本の吊り橋で繋がっている。

 谷の向こうは禁足地なのか、くだんの獅子人の男以外は誰もいない。


「あの獅子の兄ちゃん、もう3日目か?」

「竜様に相手にされてなくて可哀相よね」

「実力も無しに死合場に立つからさ」


 周りの噂話が事情を伝えてきた。

 微妙に物騒な単語が聞こえたが、気にしなくていいだろう。


 観衆から男に飛ぶ罵声が耳障りだったので、オレはリザを促して竜神殿へと入った。


 神殿に入ってすぐの場所は、外から見えたドームの直下らしく、天井が高い。

 斜め奥方向の天井が円形に開いていて、お昼寝をする下級竜の一部が崖越しに見えるようになっている。

 参拝者達の中には、そんな下級竜を見上げて祈る者もいるようだ。


 ――そんな事より。


 ドームの内側を飾る壁画が素晴らしい。

 セーリュー市のパリオン神殿なんかにもあった宗教画のようなものが描かれている。


「異国の貴人様、よろしければ喜捨をお願い致します」


 露出の多い白い巫女服を着た橙鱗族の娘が声を掛けてきた。

 喜捨――神殿への寄付を求めているのに、媚びる様子の無い凜とした佇まいをしている。


 なんとなくリザに似た雰囲気の娘だ。


 そんな事を考えている間も、娘は落ち着いた様子で人形のようにじっと待っていた。

 リザに「ご主人様」と小さな声を掛けられて、自分の不作法を恥じる。


「すまない、少し考え事をしていた」


 オレは巫女の娘にそう詫びて、懐の隠しポケットからサガ帝国金貨が10枚ほど入った小袋を取り出して、少女の持つ喜捨用の盆に載せる。


 後日、サトゥーとして来るかも知れないので、身バレ要素を減らすためにサガ帝国金貨にしてみた。


「……こんなに」


 盆に載った袋から覗く金色の輝きと重さに、巫女の娘が初めて驚きの様子を見せた。

 その様子に気がついた露出の少ない巫女の一人が足早に近寄ってくる。


「まあまあ、なんて信心深い方なのでしょう! ここからは上級巫女の私がご案内いたしましょう」


 赤鱗族の上級巫女が満面の笑顔を寄せてきた。

 薄化粧だが甘やかな香水の香りが鼻孔を擽る。


「――今顔を覗かせたのが『シップウ』様です。まだお若いからよく王国の飛竜騎士ワイバーン・ライダーと追いかけっこをされていますね」


 オレの腕を引いた上級巫女が、興奮した様子で天窓から見える下級竜の解説をしてくれる。


 この竜神殿だが、「竜神」を祀った神殿ではないらしい。

 信仰の対象は竜という種族そのものとの事だった。


「あ! 今、ちらりと覗いた黒い尻尾を見ましたか? あれは最古参の『ボウリュウ』様ですよ! 滅多にお昼寝場にはいらっしゃらないのに!」


 興奮するのは良いが豊かな胸がオレの腕に当たって変形している。

 気持ちが良いので構わないのだが、下級巫女の娘が悲しそうに自分の胸元をペタペタ触っているので、その辺にしておいてあげてほしい。


 そんな暢気な上級巫女とは裏腹に、竜神殿の入り口の方から参拝者のざわめきと甲冑の音が聞こえてきた。


「おい、あれ――五鱗家の方じゃないか?」

「ああ、たぶん、『挑竜の儀』に挑まれるのだろう」


 聞き耳スキルが拾ってきた参拝者の言葉に興味を引かれて振り返る。


 マッチョがいた。

 豪奢な鎧を身に帯びた大柄な蜥蜴人の戦士だ。


 蜥蜴の顔なのにイケメンに見える。

 現に、竜神殿に参拝していた蜥蜴人の娘さん達が、マッチョ戦士に熱い視線を向けている。


「なかなか腕が立ちそうです。ポチやタマには及びませんが、カリナ様より強いかもしれません」


 そんなマッチョ戦士を見てリザが呟いた。

 特に容姿に関してのコメントは無い。


 彼が手に持つ槍は下級竜の角を素材にした逸品で、リザの魔槍ドウマ改二と同等の優れた性能を持つ。

 本人もレベル45と高く、近隣諸国の中でも五指に入りそうな強さがあった。


「――ほう?」


 マッチョ戦士がこちらに気付き、鋭い瞳をリザに向ける。


 火花が散りそうな熱い視線が交差した。

 戦士は戦士を知るといったところか――。


「娘よ、我が妻となれ」


 ――違った。


 マッチョ戦士の言葉に、竜神殿にいる人々に衝撃が走る。


「お断りします」


 リザが即答で断り、先ほどとは別の意味のざわめきと悲鳴が竜神殿を満たす。

 特に蜥蜴人の女性達からの陰口が酷い。


 面食らって惚けていたマッチョ戦士が破顔した。


「――ふははははは。面白い、この俺を振る女がいるとは思わなかったぞ」

「私は自分より弱い者をつがいにするつもりはありません。せめて、上級魔族を倒せるようになってから来なさい」


 楽しげに笑うマッチョ戦士を、リザが冷たくあしらう。

 リザ……そんな無茶な条件を満たせる男はいないと思うよ?


「上級魔族を倒してみせろか――実に興味深い娘だ」


 マッチョ戦士が余裕の表情でニヤリと笑みを浮かべる。

 どうやら、「自分より弱い」と言ったリザのセリフは聞き流したようだ。


「どこにいるか判らん上級魔族とは戦ってやれんが、後で竜と戦うところを見せてやる。その戦いを見て俺に惚れるがいい! 自分から妻にしてくれと言わせてやる」


 自信たっぷりに嘯いたマッチョ戦士が、神殿の奥から迎えに出てきた竜人ドラゴニュートの巫女長と一緒に神殿の奥へと立ち去った。





「――この壁画は初代王リゥイ様の偉業が描かれているのです」


 他の上級巫女達も一緒にマッチョ戦士についていったので、オレ達は橙鱗族の下級巫女から壁画の解説を聞いていた。


「あの6名がリゥイ王と五鱗家の始祖の姿です」


 下級巫女の解説によると、始祖達が持つ武器はそれぞれ竜牙槍、竜角槍、竜棘斧槍、竜爪双剣、竜爪大剣の5つらしい。

 先ほどのマッチョ戦士が持っていたのが竜角槍で、現王が竜牙槍を持っているそうだ。


「こちらは狂王ガルタフトの軍勢と戦う様子を描いたものです。リゥイ王と背中合わせに描かれているのがサガ帝国の勇者様です。こちらに小さく描かれているのがボルエナンのエルフ様の光船だと言い伝えられています」


 勇者ハヤトに似た青い鎧の勇者が描かれていた。

 青い光を放つ聖剣は、どこか日本の神話に出てきそうなフォルムをしている。


 そんな風に天井を見上げながら解説を聞いていると、不可思議な絵に行き当たった。


「こちらの絵は?」

「それはリゥイ王が『原初の魔女』の秘術で竜となる姿です」


 ――人が竜に?


「人が竜になるなどありえません」


 下級巫女の言葉をリザがバッサリと否定する。


「事実です。神殿の聖典だけでなく、王国の公文書にも明記されております」


 リザの言葉に威圧されながらも下級巫女が食い下がる。


 確かに、吸血鬼達が身体の一部を変形して作り出すコウモリやオオカミ型の眷属、それに人から狼に変身するライカンスロープやワーウルフなど、この世界でも姿を変える種族は存在する。


 それに精霊魔法による疑似精霊や土魔法によるゴーレムのように、何も無い場所から巨大なクリーチャーを産み出す魔法もまた存在していた。


 人から竜になるという伝説は、ファンタジー感に溢れていて非常に素晴らしいので、個人的には凄く存在していてほしい。


 だが――残念ながら、それはあり得ない。


 なぜなら、魔法の力に優れ、竜達の中でも竜神に次ぐ位にある天竜ですら、人の姿に変じる「人化」ではなくホムンクルスを遠隔操作していたからだ。

 もし、「人が竜に変身する」魔法があるなら、長生きの天竜が「竜から人に変身する」魔法を開発しないはずがない。


 たぶん、「竜変化」の魔法は初代王や竜神殿の権威付けのお伽噺の一つなのだろう。

 そう結論付けたものの、信仰を拠り所とする人に持論をぶっても誰も喜ばないので、口にする気はない。


「私の供が失礼しました」


 信仰を否定され怒りに燃える下級巫女に、まず謝罪の言葉を告げる。


「リザ、この国の神話を否定してはいけないよ」

「はい、ご主人様……」


 オレの言葉に自分の失言に気付いたリザが冷静さを取り戻す。


「巫女殿、先ほどの軽率な発言を撤回します」

「わ、分かれば良いのです」


 リザが詫びの言葉を告げると、下級巫女は泣きそうな顔で震えながらも気丈な言葉を口にした。

 信仰っていうのも、なかなか大変そうだ。





 気まずい雰囲気のオレ達を救ったのは神殿の奥から出てきたマッチョ戦士だ。


 なんだか鱗がしっとりしている上にキラキラと輝いている。

 マッチョ戦士のイケメン度がアップして、同族の蜥蜴人のお嬢さん達から先ほどよりも激しい黄色い悲鳴が上がった。


 神殿の奥に温泉でもあるのだろうか?


 そんな事を思わず思ってしまったが、AR表示によるとあの煌めきは水系の強化魔法や防御魔法によるものである事が判った。


 ここの巫女達は神聖魔法ではなく、水魔法を使うらしい。


「ふん、待っていたか」


 マッチョ戦士がリザを視界に捉えて満足そうに言う。

 その自信はどこからくるのやら。


「ついてこい、特等席で惚れさせてやる――」


 マッチョ戦士はそう告げるとリザの反応を待たずに神殿の出口に揚々と歩き去った。


 そのせいで、リザが処置無しとばかりに首を横に振ったのは見えていなかったようだ。

 大事な試合前みたいだし、モチベーションが下がらなくてなによりだ。


「リザ、せっかくのお誘いだし、見物していくかい?」

「はい、先ほどの戯れ言はともかく、竜と人が闘う姿には興味があります」


 オレの問い掛けにリザが武人の瞳で頷いた。

 どうやら、リザが色恋に胸をときめかせるのはまだ早いようだ。



※次回更新は 3/6(日) の予定だといいな~

(ごめんなさい、作者多忙につき、次回の更新が遅れる公算大です)

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