14-34.飛竜の王国(1)竜神殿への参道
※2016/2/22 誤字修正しました。
サトゥーです。某有名時代劇のキーアイテムである印籠ですが、子供の頃はその時代劇専用のアイテムだと思い込んでいました。祖父の家で印鑑入れに使われていたのを知った時は驚いたものです。
◇
「――勇者ですか?」
「へー、ポチが勇者かー」
ポチが下級竜を倒して勇者の称号を得た日の晩、オレはリザとアリサの二人を呼び出して保護者会を行なっていた。
ヒカルも呼ぶか迷ったが、シガ王国の王都で晩餐会に出席すると言っていたので後で教える事にしてある。
「ご主人様、ポチはその事を知っているのでしょうか?」
「いや、まだ話していない」
真剣な様子のリザの質問に首を横に振る。
「あ~、それなら当分は内緒にしておいた方がいいんじゃない? ポチってば迂闊だから」
「私もアリサに同意します。『勇者』という称号を得た事でポチが慢心しないか心配です」
どうやら二人も、オレと同様でポチに「勇者」の称号の事を伝えるのはデメリットの方が多いと考えているようだ。
結局、ポチがもう少し歳を取って、落ち着きが出るまでは内緒にしておこうという事で纏まった。
「そういえばご主人様、『勇者』の称号ってどんなメリットがあるの?」
「さあ、よく知らないよ」
アリサの質問に首を横に振る。
「な、なんでよ?」
「称号を変更しても、なんとなく『少し身体が軽いかな?』くらいの感じしか受けないんだよ」
意外そうなアリサにそう答える。
実際、能力値に変化があったとしても、上限までカンストしている状況では観測できないのだ。
その辺の変化はポチの戦闘を観察していく内に判ってくるだろう。
「ふ~ん、それなら取得条件はなんだと思う? ご主人様とシン君、それから今回のポチで三例もあるんだから、なんとなく判らないかな?」
――どうだろう?
オレは上級魔族、シン少年は赤縄の魔物、ポチは下級竜を倒して「勇者」の称号を得た。
敵の強さにも、それぞれ格下、格上、同格と共通性がない。
シン少年やポチはタイマンだったが、オレの時は領軍の兵士や魔法使い達も一緒だったはず。
少なくともオレはゼンの言っていた「勇者の称号は死線の先にある」という条件を満たしていないと思う。
「共通項が思いつかないな……」
「そっかー」
オレの発言にアリサが残念そうに嘆息する。
後日、ヒカルやムーノ伯爵に勇者の称号について尋ねてみよう。
◇
「ニク来た~?」
「丸かじりで入れ食いなのです」
肉断ち二日目の二人が、遠くから接近する四頭のワイバーンを食欲に満ちた眼光で見つめる。
この国の領域は初夏の気候なので、タマとポチは半袖のセーラー服姿をしている。
碧領でピクニック中のポチが同格の敵に挑むという禁止行為を行なったので、罰として食事から肉類を除去する罰を与えていたのだ。
タマは別段罰を与えられる事はしていないのだが「お姉ちゃんなのにポチを止められなかった」という理由で一緒に罰を受けている。
というか、タマがポチのお姉さんポジションだったのを初めて知ったよ。
なお、二人には教えていないが、狩猟禁止生物である下級竜を死なせかけたのは罰には含めていない。
「あのワイバーン達は狩っちゃダメだよ」
「ダメなのです?」
「ほら、よく見てご覧」
東方諸国から飛竜の王国とも呼ばれるスィルガ王国の領空に入ったオレ達の飛空艇を迎えたのは、この国の主戦力である「飛竜騎士」達だった。
首を傾げるポチの視線を誘導し、ワイバーンの背に乗った騎士達の姿を指摘してやる。
「ポチとリュリュみたいなのです」
最近ポチの騎竜となった下級竜のリュリュと自分に重ね合わせたのだろう。
飛竜騎士達を見るポチの視線が、急に仲間意識を感じさせるモノに変わった。
騎手は首元や手の先に赤色の鱗と蜥蜴人のような尻尾を持つ赤鱗族という種族らしい。この国は赤鱗族や蜥蜴人のような鱗族が多数を占めるようだ。
階下からゼナさんとリザが現れ、タマとポチの二人はリザが回収して機内へと連れていった。
獣娘達は同行していない設定なので仕方ない。
「シガ王国の飛空艇! 何用で我が国に訪れられたか!」
ワイバーンの背から騎手が大声で叫ぶ。
オレの横にいたゼナさんが風魔法の「囁きの風」を発動してから騎手に答えた。
「こちらはシガ王国観光省副大臣ペンドラゴン子爵の船です。目的は観光、スィルガ王城への表敬訪問を希望します」
「――カンコウ?」
観光という単語が分からないのか、飛行兜の内側で騎手が困惑の表情を浮かべている。
「陛下への表敬訪問の件は承った。先触れを出す」
騎手が合図すると、「飛竜騎士」の一騎が王城のある方へ向けて翼を翻した。
――ん、あれは?
視界の彼方、雲の隙間に小さな影が見えた。
「貴公らは我らが安全な経路で案内する故、高度を落とされよ。この高さでは――」
騎手の言葉の途中で、先ほど見つけた黒い影が雲を突き破ってぐんぐん大きくなり、瞬く間に飛空艇の近くまでやってきた。
残る三騎の「飛竜騎士」のうち、隊長騎以外のワイバーンが算を乱して逃げ出した。
「――しまった!」
隊長も自騎を抑えきれなかったのか、視界の外へと急降下して離脱していく。
「竜……」
「下級竜だね」
下級竜が船の前方で翼を大きく広げて急制動を掛ける。
「サトゥーさん、危ない」
ゼナさんが両手を広げてオレの前に立つ。
護衛らしい動きだが、下級竜を前にしてゼナさんの足が震えている。
ポチのリュリュに同乗したりして慣れているかと思ったが、テイムされた下級竜とは勝手が違うらしい。
竜の急制動で乱れた気流が飛空艇に届く。
飛空艇の姿勢制御装置が機体を水平に保とうと頑張るが、ここまで気流が乱れると無理があるようだ。
オレは「理力の腕」の魔法を発動させて、掴んだ船体を空中で安定させる。
余った腕でゼナさんのスカートが乱れないように押さえるが、いつもの「理力の手」より力がある代わりに器用さが足りなくて、上手く押さえきれない。
ゼナさんの意識は下級竜に固定されているし、下着も見えていないので良しとしよう。
綺麗なふとももが見えるくらいは役得って事でいいよね。
「――大丈夫ですよ」
船の揺れを収めたあと、ゼナさんの肩を叩いて力を抜かせる。
この飛空艇はシガ王国を出てから魔改造してあるので、成竜相手ならともかく下級竜相手に後れを取ることはない。攻撃力はともかく防御力はルル並だ。
――GURWRURRRUUUU。
下級竜が唸り声を上げながら、ケンカ相手を捜す中学生のような顔つきでこちらを睨み付ける。
残念ながら、こいつらは言葉を持たないので会話が成立しない。
「サトゥー、何があったの――って下級竜じゃない」
そこに現れたのはヒカルだ。
ヒカルは状況を瞬時に悟ると、伸ばした人差し指をビシッと下級竜に突きつける。
「そこのキミ! 理由のないケンカはダメだよ!」
子供を叱る教師のような口調だ。
――GU,GURWRUUUUU。
下級竜が少し怯んだ。
――そうだ、天竜の鱗で作ったお守りとか効果がないかな?
謎の使徒用に作ったモノだが、全く役に立っていなかったのでなんとなく取り出してみた。
――KYURWORUUUUUN。
訝しげな顔をオレに向けた下級竜が、悲鳴のような声を上げて逃げ出した。
今一つポンコツなイメージしかない天竜だが、竜の中のヒエラルキーはなかなか高いようだ。
オレが行くと怯えるので、美味しい蛇竜のフルコースでも作ってヒカルに差し入れさせよう。
しばらくして護衛に戻ってきた「飛竜騎士」達にエスコートされて飛空艇はスィルガ王国の王都へと向かった。
飛空艇の対外用巡航速度だと、王都への到着は日暮れ頃になりそうだ。
快速のワイバーン達には悪いが、この鈍足に付き合ってもらおう。
◇
スィルガ王国は今まで通り過ぎた東方諸国の平均的な国の倍ほどの広さがある大きめの国だ。
シガ王国でいうとセーリュー伯爵領の五割増しくらい、ムーノ伯爵領の一割ほどの大きさといったところか?
観光省の資料によると、国土の殆どが湿地帯となっており、湿地で育つ小魚や藻、蛙や水草が主食で農業よりも漁業が主産業になっている。
他の国に比べて、水魔法や土魔法の先天性スキルを持つ者が多く生まれるそうだ。
前者は漁の補助、後者は建材の少ない国土の不足を補えるので他の属性に比べて地位が高い。
おなじく燃料も不足しそうだが、油分を大量に含む水草が採れるそうでそれを活用しているらしい。
湿地に生息するカエルや蛇の魔物が多く、これらの魔物はスィルガ王国最大の戦力である飛竜騎士達の騎竜のエサになっているそうだ。
オレ達が向かうスィルガ王国の都は、そんな湿地の中にそびえ立つ峻厳な山の麓にある。
その山の頂上付近には10体近い下級竜が住み着いており、スィルガ王国の住民達の信仰の対象となっているそうだ。
他の国には無い竜神殿というものが山の中腹にあるらしい。
このスィルガ王国だが、他国に比べてレベル30台の騎士が多い。
その殆どが飛竜騎士達であり、国王や王子も飛竜騎士の一角を担う軍事国家でもあるようだ。
王や王子を含め、レベル40超えの者も4人ほどいた。
国王は血統による世襲ではなく、竜に選ばれた英雄がなるお国柄だと言われている。
もっとも、実際には五鱗家とよばれる対竜武器を持つ家のどれかから王が出ているので、有象無象が王になることはないようだ。
◇
「ここは孤島宮殿よりも暖かいのですね」
「そうだね、標高が高そうなのに初夏と言うよりは夏と言った方が合っていそうだ」
暖かい日差しに目を細めるリザにそう返す。
スィルガ王国の王都は下級竜の住処のすぐ傍なので、飛空艇が到着する前にリザと二人で下見にやってきたのだ。
タマとポチも来たがったが、予め「遠見」の魔法で確認したところ、肉串や焼き魚の屋台が沢山並んでいたので置いてきた。
肉断ち中には辛いだろうからね――。
「賑やかですね」
京都観光でよく見かけた神社の参道のような場所に入ると、幅2メートルほどの細く曲がりくねった坂道の両サイドに露店が並び、様々な工芸品や軽食が売られていた。
この道は山の中腹にある竜神殿に繋がっているので、「ような」ではなく参道そのものと言えるだろう。
歩く人達は鱗族でいっぱいだ。中でも蜥蜴人族、蛇頭族、赤鱗族、橙鱗族、青鱗族の五種族が多いようだ。
人族や獣人もいるが、鱗族に比べると割合は低い。
もっとも、赤鱗族、橙鱗族、青鱗族の三種族は腰から生える尻尾と首筋や手首がカラフルな鱗に覆われている以外は人族と変わらないので、ぱっと見は人族がいっぱいいるような錯覚を覚える。
地元の人達の間では二の腕やお腹が大胆に露出した服が流行らしい、スカートも短めで足はサンダル履きが多いようだ。
「ご主人様、良からぬ気配を纏った視線を感じます。私からあまりお離れにならないようにしてください」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
リザの杞憂を笑顔で否定する。
彼女が感じた気配というのは、蜥蜴人族の男達からリザへの秋波を帯びた視線だろう。
どうやら、蜥蜴人の美的感覚だと、リザは相当魅力的に映るようだ。
ちらちらと視線が来るが、リザに声を掛けようとする者はいない。
たぶん、警戒するリザが放つ威圧感に気圧されているのだろう。
そんな人通りの多い参道横の広場では吟遊詩人風の格好をした蛇頭族の女性が、不思議な響きの声で語り弾きをしていた。
「――狂王ガルタフトの弾圧から逃れた放浪者リゥイ。人の縁を繋ぎ『原初の魔女』に導かれて湿地へと足を踏み入れた――」
詳しくは覚えていないけど、狂王ガルタフトという名前はシガ王国の歴史書で見たことがある。
400年ほど前の幼い王様で、亜人弾圧を行なった事で有名だ。
確かボルエナンの森に勇者ダイサクが隠遁した件と関わり合いがあったと思う。
「――湿地の主たる古竜がリゥイに問う。『汝は我への生け贄か、それとも戦いを挑む戦士なりや』と。リゥイはそれに答えて曰く『我らは放浪者。安住の地を求めるものなり』――」
古竜というと黒竜ヘイロンと天竜の間くらいのグレードの竜だったはず。
少なくとも、この周辺にはいないから、この地を去ったか後年に脚色されたかのどちらかだろう。
オレがそんな事を考えている内にも物語は進み、古竜と放浪者リゥイの戦いのシーンが続く。
戦いは三昼夜も続き、最後はリゥイの剣が反射した朝日を浴びて古竜に隙ができたところを斬り付けて、片目を抉り竜の血を浴びるところで戦いが終わった。
ここでサイズ的に無理があるとか、突っ込むのはダメなのだろう。
理系の検証癖はいかんともしがたい。
物語好きのリザは絵本の朗読に耳を傾けるときと同様に、真剣な顔で詩人を見つめている。
「――血を流しつつも古竜は雄々しく語る。『我を傷つけし小さき者よ。汝に王の位とこの地を授けよう。そして我が眷属が汝とその子孫を見守ろう。だが、努々忘れるな。王が王たる強さと高潔さを失いし時、我が眷属は汝らから王権と国土を取り上げるだろう』――古竜はそう告げ、放浪王リゥイに牙と爪とトゲを与えたもうた。リゥイ王はそれらで武具を設え、盟友達と分かち合う。これがスィルガ五鱗家の始まりと今の世に伝わりぬ」
詩人が物語を結び、最後の余韻を締める。
観客達から惜しみない拍手と控えめなお捻りが詩人に降り注ぐ。
オレも銀貨を投げ入れる。
前に立ち寄った国で手に入れた貨幣なので丁度良い。
投げ入れられた銀貨を見て一礼する詩人に手を振って、オレ達は竜神殿に向かって歩を進めた。
※次回更新は 2/28(日) の予定です。
リザとのデートは次回に続きます。
※「勇者」の称号が聖剣を使うのに必須なのは「書籍版」の設定です。
※WEB版のリザの種族は「橙鱗族」ではありません。







