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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十四章

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14-32.水桃の王国(5)

※2016/2/8 誤字修正しました。

※2016/2/9 一部修正しました。

 サトゥーです。鏡や写真を見ずに自分の顔を描けと言われて、すぐに似顔絵を描ける人というのは少数派だと思うのです。意外なほど、自分の顔って覚えていないんですよね。




「イチロー兄、あれ見て!」


 ヒカルが指差すのは玉座の背後の壁らしい。

 見たいというアリサを抱えて宙を飛び、ヒカルの指し示すモノを見上げた。


 ――絵?


 ピンク色の髪をした幼女を抱える黒髪の青年が描かれている。

 日本人っぽい容姿だが、なんとなく見覚えがある。スポーツマン風に髭を伸ばしているのだが、お世辞にも似合っているとは言いがたい。


「なんだか会ったことないのに見覚えのある顔ね~」

「そうだな――」


 アリサが絵を見て首を傾げる。

 ヒカルが驚いていた理由が判らないので、オレの横に飛び上がってきたヒカルに尋ねてみた。


「この絵がどうしたんだ?」

「え? 本当に判らないの? よく見てよ!」


 信じられないとばかりに、ヒカルがオレの腕を引きよせて絵を指差す。


 ――判らん。


「イチロー兄ぃの以前の姿じゃない!」

「オレはあんな風に髭を伸ばしたことはないぞ」

「それ以外はそのままでしょ」


 ヒカルはそう言うが、そんなに似てるかな?

 オレはあんなに変な顔じゃないぞ?


「何かロリコンっぽい顔ね」

「あれは子供を愛でる父親の顔だろ?」


 アリサの評価は厳しい。

 似ていると言われたせいか、絵の青年を擁護する発言をしてしまった。


 ――危機感知。


 絵の隙間から、影が溢れてきた。


 ようやく、この部屋の守護者が姿を見せたようだ。


「イチロー兄、あの影はヤバイよ。すっごく嫌な予感がする」

「同感だ」


 アリサとヒカルを抱きしめて玉座の上に移動し、王女二人を「理力の手マジック・ハンド」で回収して玉座の間から撤退する。

 普通に閃駆を使うとアリサはともかく王女二人が大怪我をするので、「衝撃吸収ショック・アブソーブ」と「慣性中和イナーシャル・ニュートライザー」の二種類の魔法を発動して保護した。


 魔法の試射で開けた穴を潜り、城の外へと飛び出す。


「ふぅ、死ぬかと思った……」


 腕の中でぐったりとしたアリサが暴言を吐く。


「イチロー兄、来たよ」

「みたいだな」


 王女二人とアリサをヒカルに委ね、オレは城の方を振り返る。


 AR表示されるヤツの情報は――UNKNOWN。

 前にシガ王国の王都に現れた「魔神の落とし子」や狗頭の魔王と戦った時に現れた幼女と同じ表示だ。


 ――ならば、あれは神。


 あるいは神の眷属に違いない。


「ヒカル、三人を連れて結界壁の所まで逃げろ」

「うん、分かった!」

「ご主人様も無理しちゃダメよ」


 どこか心配性の母親みたいな発言をするアリサを連れてヒカルが彼方へと飛び去る。


 それを見た影が三日月のような口から怪しい咆吼を上げる。

 聞いているだけで精神が不安定になりそうな怪しい響きの声だ。


 ――LOWRWYEEEE。


>「神代語」スキルを得た。


 今の謎咆吼は言葉だったのか。

 呪文詠唱かと思って魔法破壊の準備をしたのが無駄になった。

 無駄な戦いが避けられるかもしれないので、急いでスキルを有効化アクティベートする。


『神の花嫁を奪う不届き者よ』

『人違いだ。あれはルモォーク王国の王女だ』

『小さき者よ、世迷い言は不要。花嫁のしるしたる桃色の髪を持つ娘を奪うつもりか』


 ふむ、どうやらルモォークの神話はある程度事実に則したモノだったらしい。


 でも、まあ、いたいけな幼女を生け贄に捧げる気はない。


『あなたが神か? それならば、名を名乗られよ』

『我は神にあらず。神の留守を守る使徒なり』

『使徒殿の主はいずこの神なりや』


 いかん、使徒の言葉に釣られてオレまで変な言葉遣いになってしまった。


 それにしても使徒対策に用意した「竜のお守りタリスマン」が全く役に立っていない気がする。


『神の御名を尋ねるとは不遜なり。この世を治める主上の御名は尋ねるまでもなく、あまねく世界に知られておろう。至高の御方を崇め祈るが良い――』


 微妙に話が通じないというか、出来の悪いAIと会話している気分になってくる。


『――しからば無痛の内に、この世を去り、あらたなる生へと廻るであろう』


 影が広げた両手をコマ落としのような速さで左右から叩き付けてきた。


 ――速い。


 カマイタチが発生しそうな速度で飛んできた手が眼前で打ち合わされる。

 間一髪でそれを避けつつ、手にしていた聖剣デュランダルで斬り付けてみたが、予想通り素通りしてしまう。

 やはり、このアンノウン・シリーズを傷つけるには神剣が必要なようだ。


 例の聖魔剣も恐らく傷つける事はできない予感がする。

 万が一の場合に備えて、神剣に代わる何かを準備しておくべきかも知れないね。


 影はなおも幼児のように雑な攻撃を繰り返すが、一つ一つの攻撃が速すぎてソニックブームのような衝撃波が巻き起こる。

 避けられないこともないのだが、なかなか大変だ。


 余波で結界内の森の木々が酷い惨状を呈してきた。結界の外に影響がないのが救いだ。

 マップを見た限りではヒカル達は無事に結界の外に出られたらしい。


 これで後顧の憂いなく戦えそうだ。


 分身して見えるほどの速さで、駄々っ子パンチの連打が飛んでくる。

 それを閃駆を駆使して回避し、なんとか隙を見つけて影の懐へと飛び込んだ。


「うおっ」


 影の胸元から、鋭利な影帯槍が襲いかかってきた。

 オレは盾のように体の前に構えた神剣で受け止める。


 紫と漆黒の火花が飛び散り、影が目の前で両断されていく。


 相手が人形ひとがただったので油断した。

 だが、このピンチをチャンスに変えてやる。


 そのまま胸元へと辿り着き、神剣をゾフリと突き立てる。


『馬鹿なぁああああああああああ』


 影の悲鳴を無視し、そのまま頭に向けて斬り上げる。


『小さき者に、不可侵な神の眷属を傷つけられるはずがない』


 オレを止めようと襲ってくる影の手を間一髪でかい潜り、口の形だけで驚愕を表したのっぺりした黒ベタの顔を斬り裂く。


『貴様は……何者だ……』


 神剣は見た目よりも影にダメージを与えていたらしく、斬り裂いた場所から紫色の塵になって消えていく。


『勇者ナナシ』

『……パリオン……走狗め……』


 影と共に城までが塵となって徐々に消えていく。


>「影絵の神兵」を倒した。


 パリオン神国のエセ神兵とは大違いだ。


 戦利品の自動回収オート・ルートが働かない理由は、エリア内にいる冒険者と彼女達が持ち込んだ鼬人の探査プローブのせいだろう。

 オレはマップ検索で発見したプローブを回収し、満身創痍で財宝を抱えていた冒険者達をヒカル達のいるエリアの外へと放り出す。

 致命傷ではないようなので、しばらく痛い思いをして自身の無謀さを反省してもらおう。


 時間を掛けすぎたのか、城の崩壊と同時に殆どの戦利品が巻き込まれて塵になってしまったらしく、基底部の動力炉部分しか手に入らなかった。

 貴重な神代とやらの資料は、また次の機会まで待つ事になりそうだ。


「おかり~?」

「ただいま、タマ」


 結界の外に帰還したオレの頭にタマが飛びついてきた。

 心配を掛けたことを詫びながら、後始末を行う。


 オレは王女達を騎士に押し付け、皆を回収し孤島宮殿へと帰還した。


 今日は疲れた。

 新たな謎を考察するのは今度でいいだろう。


 いつものように仲間達と同じベッドに身を横たえる。

 気のせいかいつもよりも人数が多い気がするが、追及は目が覚めてからにしよう。


 睡魔に負けたオレは泥のような眠りについた。





「殿下、あれがそうでしょうか?」


 影城から王女達を助け出した翌日、オレ達は観光省の飛空艇でルモォーク王国に正式な訪問を行なっていた。

 王城での挨拶のあと、日本人召喚のあった跡地を見たいと国王にお願いしたところ、快く・・許可してもらえたので、さっそくやってきたのだ。


「そうだ、ここからだと亀裂があって進めない。少し面倒だが、向こうの尖塔を回り込んでいく必要がある」


 恐れ多いことに案内役は、この国の王太子殿下だ。

 始めはメネア王女の異母妹である第四王女が案内してくれるはずだったのだが、彼が強引に割り込むように案内役を買って出たのだ。


「ペンドラゴン子爵、ここが日本人を召喚していた場所だ。見ての通り上級魔族の襲撃で建物は倒壊し、召喚をしていた魔法装置も壊れ、肝心の召喚陣も半分以上が砕けてしまっている」


 そして王太子に案内された先にあったのは半壊した宮殿だった。

 そこから見える王都の景色は昨日の祭りで見た町並みとは全く違うものだ。


 王城を挟んだ反対側の町並みは廃墟のように見える。

 焼け野原のように炭化した柱や瓦礫が積み上がり、屍肉を求める烏が不気味に蠢いている。


 それでも復興自体は始まっているらしく、兵士達に監督された奴隷達が労働に従事していた。


「あれは上級魔族によるものですか?」

「――そうだ。ヤツらがその気だったなら、この国は既に地図から消えていた事だろう」


 オレの問いに王太子が苦々しげに答える。

 この国には魔族と戦えるクラスの強者が殆どいないから無理もない。


「子爵様、召喚陣の確認を致しませんと」


 護衛のレディーK役をこなすヒカルが、本来の目的を思い出させてくれる。


「ああ、そうだな――殿下、よろしいでしょうか?」

「もちろんだ」


 既に国王の許可は貰ってあるのだが、同行してくれている王太子の顔を立てて確認を行なった。


「ふ~ん、これが異世界からの召喚魔法陣か……」


 ヒカルが小声で呟く。


 ――なんだ、コレ? 普通に読めるぞ?


『ヒカル、この魔法陣が読めるか?』


 オレの『遠話テレフォン』による無音の問いに、ヒカルが小さく首を横に振る。

 どうやら、オレだけが読めるらしい。


「鼬人の魔法使いがサガ帝国の召喚陣を書き写してきたモノを改造したと自慢していた。なんでも神代文字で書いてあるそうだ」


 王太子、情報感謝だ。


 オレが読めるのは昨日の影の神兵と戦った時に得た「神代語」スキルのお陰らしい。

 イージーモードで実に良いね。


 書いてある文字が分かれば、壊れていてもある程度の内容が分かる。

 これ単体では意味が無いだろうけど、サガ帝国にある勇者召喚陣と比較する事で元の世界に戻る方法が判るかも知れない。


 既に永住する気まんまんだが、元の世界の人達と縁を切っても良いと思えるほどドライにもなれないし、アオイやシンが元の世界に戻りたいと言った時に送り返してやれるかもしれないからね。


 必要な情報をゲットしたあと、何気なく見回していると瓦礫の隙間に紫色の物が見えた。


 AR表示によると「ユリコの髪」となっている。

 たぶん、召喚の要になっていた転生者の王妹ユリコの物だろう。


「ペンドラゴン子爵、その髪は我が叔母上の物だ」

「叔母というと――」


 紫色の髪を手に取っていたオレに、王太子が固い顔で手を差し出した。

 オレが髪を彼の手に乗せると、ハンカチに髪を包んで大切そうに懐にしまった。


「叔母上は上級魔族の攻撃魔法で弔う亡骸も残らなかったのだ。貴国やサガ帝国からしたら大罪人の叔母かもしれぬが、私には大切な家族だった……せめて王家の墓に髪の一本なりとも入れてやりたい」


 ――遺体が残らなかったのか。


 広範囲攻撃の上級魔法や禁呪なら遺体が残る方が珍しいが、これが少年マンガだったら「実は生きていた」とか言って再登場する前フリなんだが……。


 それよりも、「大罪人」ってどういう事だろう?

 日本人視点だと拉致誘拐犯だから「大罪人」って言われても仕方ないと思うけど、シガ王国やサガ帝国には「日本人召喚をしてはならない」という法律でもあるのかな?


 そんな取り留めの無い事に気を散らしていたせいか、特に印象に残らないままにルモォーク王国を後にする事になってしまった。

 前日のイベントが濃過ぎたせいに違いない。





 さて、国を去る前に幾つか確認しておこう。


 リミア第六王女を誘拐した犯人達は当然のように処刑された。

 王都を無断で抜け出したルミア第五王女は、罰として10日間の謹慎とオヤツ抜きの刑に処されたそうだ。

 飲酒して王族を攫われた使用人や兵士達も処刑が検討されたが、王女二人の嘆願と王都の人材不足を理由に減給と罪に応じた鞭打ちで済んだらしい。

 ずいぶん甘い処分な気もするが、よその国の事なのであまり気にしないでおこう。


 黒幕らしき鼬人の商会は国に没収されたそうだが、商会の主である鼬人は国を去っており、没収した商会の財貨も規模に比べて少なすぎる事から、計画的な犯行と断定し、国王から鼬帝国へ正式な抗議の書状と使者が送られたとの事だ。


 冒険者の三人は無事に影城で手に入れた神代の秘宝アーティファクトを持って国外へ逃亡したらしい。

 手に入れた秘宝アーティファクトの半分を、命の恩人だと誤解したヒカルに礼として押し付けたそうだ。


 そして、金髪のリミア第六王女だが――。


「ありがとうございます、子爵様」

「大した事はしていませんよ。私がしたのは国王陛下に、殿下を公都まで送ると申し出ただけです」


 年に似合わない利発な王女を、シガ王国の王立学院幼年学舎へと留学する手伝いを行なっただけだ。


 髪がピンク色でないコンプレックスも、別の場所なら意識せずに済むだろうし、王都なら困ったときに彼女の姉であるメネア王女が助けてくれるはずだからね。


 不用意に幼女とのフラグを立てないように注意しつつ、オレは船の針路を公都に向け、粛々とタクシーの運転手として行動した。


 移動の途中、トマトの苗の補給に寄った「プタの街」で、隻腕の魔狩人であるコン少年と再会した。

 いつの間にかシガ八剣の手解きを受け腕を上げていたうえに、謎の黒装束の怪人から魔剣をゲットしていたのだ。


 ……豪運にも程がある。


 迷宮都市へ行きたいという彼を、リミア王女のついでに飛空艇で公都まで送ってやった。

 旅の間にリミア王女と仲良くなっていたので、そのまま彼女の護衛として王都まで行く事だろう。


 後の事はトルマに押し付けたので上手くやってくれるに違いない。



 なお、ルモォーク王国のその後だが、結界内の影城がなくなった事は勇者ナナシとして王に伝え、オレが張り直した結界は「ルモォーク王」が合い言葉コマンドワードを唱える事で解けるように設定してある。

 なお、観光に配慮して、結界の外からはオレが撮影した影城の立体映像が見えるようにしておいた。


 動力炉部分にあった各種魔法装置はどれも危険すぎて、小国が所持すると余計に不幸を呼びそうだったので、その代わりに領土内にある未発見の金鉱と炭鉱を試掘して王に場所を教えておいた。


 10年もあれば貧乏国とは言われなくなるだろう。



※次回更新は 2/14(日) の予定です。


※2016/2/8 結界から脱出完了時にタマとのエピソードを少し追加しました。

※2016/2/9 「大罪人」についてサトゥーが疑問に思うシーンを追加しました。

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ISBN:9784040761442



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[気になる点] 誤変換?:進路 >不用意に幼女とのフラグを立てないように注意しつつ、オレは船の針路を公都に向け、粛々とタクシーの運転手として行動した。
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