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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十四章

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14-30.水桃の王国(3)

※前話から少しだけ時間が巻き戻ります。


※2016/2/1 誤字修正しました。

 サトゥーです。死亡フラグを最初に流行らしたのは誰なんでしょうね。もっとも、「単位が取れたら彼女とスキーに行くんだ」と呟いていた友人が追試になったのは、モテない仲間達の怨念な気がします。惚気は口に出してはいけないのですよ。





「どしたの、ご主人様?」

「――この国のお姫様が誘拐された、みたいな話が聞こえてきたんだ」


 訝しげなアリサの問いに簡潔に答える。


「大変! それならわたしが助けに行ってくるわ。場所はドコ?」

「たいへんたいへん~?」

「ポチも助けに行ってあげるのです」

「幼生体の保護は必須で義務でマストであると告げます」


 ヒカルが当然のように救出に向かおうと立ち上がる。

 それに釣られるように、タマ、ポチ、ナナまで立ち上がった。


 ポチとタマは肉料理の刺さったフォークを持ったままだ。


 別段、知り合いという訳でもないし、この国の者が自分たちで助けると思うのだが、ヒカル達にはそんな事は関係ないらしい。


「ちょっと調べるから待って――」


 オレはそう言って皆を宥め、マップを開く。

 噂だけじゃ、本当に誘拐されたかどうかも判らないしね。


 噂ではルミア王女が誘拐されたと言っていたが、祭りの山車だしに乗っていたのは妹のリミア王女の方だった。

 ここは個別検索ではなく、「王女」で検索しよう。


 王城内にある光点は無視するとして――都市外にある光点は二つ。


 影城のある別マップの外縁部の近くにリミア王女がいるようだ。

 彼女の周辺には馬に乗った何人かの犯罪ギルドの連中がいたのだが、すぐにリミア王女を連れて影城のある別マップに入ってしまったので何人いるのかは判らなかった。


 もう一つの光点は王都と影森の中間地点あたりの山中におり、騎馬以上の速度で影森方向へと向かっている。

 こちらはルミア王女らしい。


 ルミア王女の周囲にもマーキング済みの光点がある。


 どうやら、鼬人と契約していた女冒険者が一緒みたいだ。

 彼女のマーカーを確認したときは王都にいたから、その後にルミア王女を連れて王都を出たのだろう。


 王女達のマーカーを基点に空間魔法の「遠見クレアボヤンス」を発動して近況を確認する。


 女冒険者はゴーレムを移動に使っており、頭部にある操縦席の中にルミア王女がいた。

 王女は目をつぶって必死に女冒険者の腰に掴まっており、拘束されたり乱暴をされたような痕はない。

 多分だが、リミア王女を助ける為に女冒険者の協力を求めたのだろう。


「――どう?」

「リミア王女が犯罪ギルドの連中に誘拐されて影森にいる。それをルミア王女が追いかけているみたいだ」


 王女の名前を言っても、人物鑑定スキルのあるヒカルとアリサ以外はピンと来ていない様子だったが、名前はあまり重要ではないので追加説明は省略しておく。


「ちょっと助けてくるよ」


 わりと他人事だったが、気分良く祭りや料理を楽しむために、王女達をサクサクと助けてくると宣言する。


「待って」

「お待ち下さい、ご主人様」


 立ち上がるオレをアリサとリザが制止した。


「一人でもできるだろうけど、分業した方が楽でしょ?」

「そうです。せめてタマをお連れ下さい」


 アリサとリザの言葉に首肯し、ルミア王女方面にヒカルとアリサを派遣し、リミア王女方面にタマを連れていく事にした。

 アリサをヒカルと一緒に行動させるのは、転移による移動補助の為だ。


 ――それはともかく、リザ。


 鹿肉を咥えたタマの胴体を持ち上げて、ヌイグルミみたいに差し出すのは止めてあげてほしい。


「なんくるないさ~」





「それじゃ、こっちは頼んだよ」

「おっけー」

「うん、そっちも油断しちゃダメよ」


 空間魔法の「転移門ゲート」で、ルミア王女の移動先にヒカルとアリサを連れてきた。

 ヒカルはナナシの衣装、アリサは黄金ドレスの盛装だ。


 続けて影森の手前に「転移門ゲート」を開け直し、タマと二人で影森の手前に移動する。

 迷宮下層の「真祖」バンの城もそうだったが、影森のマップも転移禁止区域のようで、直接転移ができなかったのだ。


「お城真っ暗~?」


 タマの指差す先に、森の木々の上に影絵のように漆黒な城の尖塔があった。

 影城とよばれるだけあって、蜃気楼のように頼りなく揺らいで見える。


 オレはアリサが転移の目印にできるように、アリサ用に作った刻印板を物陰に設置しておく。


「さ、行こうかタマ」

「あいあい~」


 ぴょんっ、と飛んだタマがオレの肩口に着地し、肩車の体勢で落ち着く。

 タマは黄金鎧を着ているので、少し肩が痛い。


 森を少し進むと別マップになったので、「全マップ探査」の魔法を使って空白地帯を詳らかにする。

 ヒカルは影の番兵が守っていると言っていたが、森の半分程を占める城の中には誰もいない。

 リミア王女と犯罪ギルドの連中は、城を守る結界に阻まれて立ち往生をしていた。


 ヒカルの話だと「宝鍵ほうけんの首飾り」というアイテムを持った王族がいれば結界は解けるという話だったのだが、何か問題が起きて入れないようだ。


「――偽物だと?」

「ニセモノ、じゃ、ないもん」


 彼らの近くでそびえ立つ、真っ黒な杉の枝に着地するとそんな会話が聞こえてきた。

 犯罪ギルドの頭目の手にはピンク色のカツラが握られており、リミア王女の髪が金色に変わっている。

 彼女はルモォーク王族の特徴であるピンク色の髪をしていないようだ。


「王族の髪の色じゃなきゃ、意味がねぇんだよ! このニセモノがっ」


 激昂した犯罪ギルドの頭目が理不尽な文句をつけて曲刀を振り上げる。


 ――おっと、まずい。


「空蝉の術~?」


 白煙を目くらましに、忍者タマが王女と丸太を入れ替えた。

 それは「変わり身」の術じゃないのかと突っ込むのもヤボなので軽くスルーしつつ、この隙にオレもナナシの仮面を被り直す。


「――誰だ!」

「やあ、はじめまして。短い付き合いになると思うけど、よろしくね」


 久々のナナシ口調を懐かしく思いながら、対人制圧用の「誘導気絶弾(リモート・スタン)」で犯罪ギルドの連中を打ち倒していく。

 悲鳴を上げて逃げ惑ったり、樹木や仲間を盾にしようとする者もいたが、ものの10秒ほどで制圧が完了した。

 彼らの持っていた松明は、落ちる前に忍者タマが器用に集めている。


「怪我は無いかい?」


 オレがそう問い掛けても、王女は青い顔で震えるばかりで答えない。


「どこか痛い~?」


 タマの問い掛けにふるふると首を横に振った王女が、震える声で問い掛けてきた。


「森に入ったリミアを罰しに来た影の番兵様ですか?」

「違うよ」


 彼女の勘違いを正すと、安堵の表情になって気を失った。


 まあ、無理もない。

 箱入り幼女がこんな人相の悪い連中に誘拐されていたんだから。


 幼女を近くに寝かせ、タマに誘拐犯達の捕縛を頼んでから、オレは森の中に逃げ散った馬たちを集めに回る。

 最後の馬を回収した頃に、ルミア王女一行を連れたアリサ達が到着した。


 目印用に盗賊の松明を再利用した篝火を用意しておいたのだ。


 アリサ達とは別件だが、この国の第二王子の手勢らしき騎士達もこちらに向けて移動中らしい。

 王女達を親元に連れ帰る役目は彼らに押し付けよう。


「リミアぁああああああ」

「お姫ちゃん、走ると危ないよ」


 リミア王女を見つけたルミア王女が大声を上げて妹に駆け寄る。

 転びそうになる彼女を女冒険者が保護者のような気遣いでサポートしていた。


 女冒険者の後ろからは有人ゴーレムに騎乗した彼女の仲間二人も続いている。

 同行しているヒカルやアリサの表情からして、冒険者達がルミア王女を攫った訳ではないようだ。


 気絶したままだと、感動の再会にならないので覚醒魔法でリミア王女を目覚めさせる。


「――姉様?」

「リミアぁああああああ」


 髪色以外に違いが分からない幼い王女達が抱き合って、安堵の涙を流している。


「相変わらず素早いわね~」

「普通の犯罪者相手だったしね」


 そんな幼女達を眺めながら、アリサがオレに話しかけてきた。


「いいじゃない、平和が一番よ」


 そんなアリサの頭に手を置いて、ヒカルが笑顔で締め括る。

 そうそう、ハプニングがないのが一番だよ。


 オレはレーダーに映る高速移動光点を確認しながら、空を見上げた。



※次回更新は 2/7(日) の予定です。


※後半を書き直していたら時間が足りなくなってしまいました。

 後半部分は火曜か水曜にでも追加投稿しますね。


※活動報告に重版&3億PV記念のポチSSをアップしてあるので、良かったらご覧下さい。

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