14-27.東方諸国の旅路
※2016/1/16 誤字修正しました。
サトゥーです。趣味に没頭すると時間が経つのが早い気がします。仕事でも、高速化の工夫や難易度の高いルーチンの作成は早く、バグ修正や仕様変更の作業は長く辛いものです。
◇
雪の国――キウォーク王国出発から、既に1ヶ月半が経過した。
オレ達はゆったりとしたペースで色々な国や小部族の里を訪問し、飛空艇による移動期間はレベル上げや修業に勤しんだ。
もちろん、アリサ主導のレクリエーションも適宜挟んでいる。
今日は一人でボルエナンの森まで、アーゼさんに新作を見せに遊びにやってきていた。
「すごいわ、サトゥー! ついに成功したのね!」
「ええ、まだまだ消費魔力量が多すぎるから、完成までには至っていませんけどね」
ボルエナンの森にある樹上の家の上空に出現した飛空艇を見上げる。
エルフの光船や勇者ハヤトの次元潜行船ジュールベルヌには及ばないが、初めての自作の次元潜行機能付き飛空艇を飛ばす事ができたのだ。
エルフのベリウナン氏族とブライナン氏族からの技術供与のお陰でもある。
「本当に凄いですよ。光船は世界樹が修理や製造をしてくれるので、次元潜行の仕組みを知っている者も少ないですし、実際に作れるのはベリウナン氏族かブライナン氏族のハイエルフ様くらいですもの」
横で見ていたルーアさんが、尊敬の眼差しで称賛してくれる。
アーゼさんと良い雰囲気を作る間もなく、新型船を見つけた技術系のエルフ達が次々とやってきた。
「よう、サトゥー。ついに光船まで作ったって?」
「まさか、飛空艇の手解きをしてやった人族に追い越されるなんてね」
「そうだ、この前貰った属性石で自動製氷機作ったから、持っていけ」
「あれだけ属性石がふんだんにあったら、なんでも作れそうだよね」
後半のエルフ達が言っている属性石とは、キウォーク王国で得た氷石の事だけではない。
あの国を出たあとに、魔物の領域で凍死しかけていたコゲォーク王国の第三王子達の軍勢を助けたのだが、その恩に報いるといって大量の風石を貰ったのだ。
隣国のキウォーク王国で氷石を製造していたように、この草原の国コゲォークでは魔法装置で人工的に風石が作られていた。
もちろん、技術供与をしていたのはキウォーク王国と同様に鼬人達だった。
彼らがなんの為に属性石を集めているのかが気になるが、なんとなく金儲けの為という答えが返ってきそうな予感がする。
紆余曲折とポチの活躍により、コゲォーク王国で風石製造魔法装置の残骸をゲットでき、キウォーク王国で得た資料や氷石製造魔法装置との比較で、おおよその属性石の作り方が判った。
簡単に言うと、精霊にシンプルな属性を帯びさせ大量の魔素を与える事で魔素が結晶化して属性石となる。
この「精霊にシンプルな属性を帯びさせる」のが周囲の環境と属性石製造魔法装置の役割なのだが、オレの場合は自作の精霊魔法によって精霊を任意の属性に変化させられるので、大量の魔素さえ用意できれば簡単に属性石を作る事ができるわけだ。
大量の魔素に関しては供給場所に当てがあったので、現在進行形で各種属性石の量産が進行している。
少量だが、より純度の高い晶珠系の属性石も採れているので、仲間達の新装備に使おうと計画中だ。
――夢が広がるね。
また、懸案事項の使徒の件だが――。
コゲォーク王国の他にも3つの王国を巡り、そのうち2ヶ所で白いローブの使徒の痕跡に出会った。
子供の奴隷を使い捨てにしていた鉱山経営者や魔人薬系のドラッグを捌いていた犯罪ギルドの構成員が塩の柱に変えられていた。
どちらも実行犯のみの成敗で、その後ろにいたオーナーや黒幕には手を出していなかったので、同様の行いが再発していた。
前者はエチゴヤ商会謹製の小型採掘ドールと子供奴隷を交換し、後者は黒幕を暴いて国王に突き出してドラッグ類の製法を完全に喪失させておいた。
ドラッグの製造を強要されていた錬金術師や薬師は、シガ王国王都のエチゴヤ商会の工房に転職させてある。
なお、キウォーク王国の人達が塩に変えられていないか心配で、クロとして訪問したときに調査したが、使徒と思わしき人物は見付からなかった。
◇
今日は後発組はセリビーラの迷宮上層奥まで新武装評価を兼ねたレベル上げに、ヒカルは元欝魔王の所にシベリアンハスキー似の犬を見せてもらいに遊びに行っている。
そして、チームペンドラゴンの皆は――。
「そろそろ勢子に出かけていたタマとポチが帰還します。準備は良いですね?」
「『網』の設置は完了していると告げます」
「ん、完璧」
「三式拡散砲弾の準備も大丈夫です」
「こっちも空間魔法の『迷路』を設置済みよ。撃ち漏らしを根こそぎにできるわ」
オレが様子見に来たのは、ちょうど雑魚を始末するタイミングだったみたいだ。
廃都市の向こうから、雲霞のごとく魔物達を引き連れたタマとポチの姿が見える。
勢子というのは後ろから追い立てる役だった気がするのだが……まあ、いいか。
ここは王国の南西にある「碧領」奥地の都市の一つだ。
旅の合間のレベル上げで、セリビーラの迷宮中層や下層の魔物が枯れそうだったので、最近はこちらを狩り場に変更している。
今顔を出したら皆の集中が乱れそうなので、もう少し後ろで見物していよう。
「いちばん~」
「ポチの方が一歩速かったのです」
同時にゴールした二人の後ろで、光の網が持ち上がる。
これはナナの「城塞防御」機能に追加した麻痺粘着機能付きの捕縛壁だ。
「射撃開始!」
リザの合図で、ルルの加速砲塔が火を噴く。
無数の弾丸の雨が小型の魔物を蹂躙し、数を大きく減らしていく。
「大っきいのが来るわよ。右側から1、左側から2。どっちもレベル50クラスよ」
「承知。ミーア、砂地獄を」
「ん、実行」
アリサの報告を受けて、リザが次の指示を出す。
ミーアが頷くと、前方の広場に撒かれた砂が生き物のように蠢き始める。
そこに蛇に羽を付けたような大型蛇竜が姿を現した。
その後ろには眷属風のレベル40前後で緑色をした屍毒蛇竜達の群れが見える。
蛇竜は蛇という名前がありつつも翼の他に四足を生やした魔物で、トカゲとの違いは胴の細さと長さくらいしか思いつかない。
命名した者を問い詰めたいネーミングだ。
「蛇の分際で竜を騙るとは片腹痛いと告げます!」
ナナの挑発が中型と大型を引き寄せる。
「アリサ、翼を」
「おっけー、次元斬いっくよー」
無詠唱で実行されたアリサの空間魔法が、大型蛇竜の翼を切断し、後ろから追従していた中型蛇竜を切り刻んでいく。
「アリサだめだめ~」
「そうなのです! 美味しい蛇竜をあんな斬り方したら、モツが食べられなくなっちゃうのですよ!」
蛇竜の肉は淡泊で蒲焼き風に食べると美味いので、タマとポチがアリサの蛮行を咎めている。
「二人とも文句は後になさい。左翼の二匹を任せます」
「あいあい~」
「はいなのです」
リザの指示に、タマとポチが金色の光を棚引きながら駆けていく。
「えりえりぶーん、なのです!」
黄金鎧に新しく追加したエアリアルブースト機能の名前を言い間違えたポチが、文字通り風のような速さで蛇竜目掛けて飛んでいく。
このエアリアルブースト機能は核となる風石が大量に手に入ったついでに作ってみたモノなのだが、思ったよりも便利そうなので、他の子達の鎧にも追加しようと思う。
リザが瞬動を使って右翼の蛇竜を狙って突撃する。
「捕縛」
ミーアがぽつりと呟くと、地面の砂が持ち上がって蛇竜達の足や胴体を搦め捕る。
セリビーラの上層で「階層の主」相手に使った砂巨人を、今回はトラップとして配置したようだ。
「影分身斬り~?」
ピンクマントに黄金鎧を着たタマが12体に分身して、蛇竜達を翻弄している。
オレもタマ先生に教えてもらって忍術をマスターしたが、あまり実地で使っていないのでタマほど有効活用ができていない。
そして、タマの横では身長の三倍くらいまで拡張した魔刃で大型蛇竜の首を切断するポチの姿があった。
「ぽち、交代~?」
「らじゃなのです」
一撃の攻撃力があるポチが大型蛇竜を、多数を翻弄しながら削っていけるタマが中型蛇竜の群れを担当するらしい。
タマが「ニンニン」と言いながら、一匹ずつ中型蛇竜の首をはねていく。
ちゃんと、毒腺を傷つけないようにしているようだ。食べる気まんまんだね。
「リザさん、そろそろヌシが動き出したわよ」
「承知」
索敵に専念していたアリサが、2本槍で無双していたリザに注意を促す。
リザの持つ竜槍ヘイロンは以前のままだが、魔槍ドウマの方は改修を経て魔槍ドウマ改に進化している。
錬成で魔槍ドウマの穂先表面にアダマンタイトをメッキしてみたのだ。
均等なメッキではなく、魔刃を出すときにドリル状の刃が発生するように加工してみた。
そのお陰か、魔刃砲も二割ほど貫通力がアップしている。
「ゴーレムさん、2体ずつで行動して魔物の肉を傷めないように運んで下さい」
――MVA。
ルルがゴーレム部隊に命じて、魔物の死骸を回収させている。
崩れた都市での活動を想定していたので、上半身が人型で下半身が蜘蛛型の多脚ゴーレムを配備しておいた。
「にくー」
「なのです!」
耳をピンと立てたタマと尻尾をパタパタ揺らしたポチが、蛇竜の首を抱えて帰ってきた。
二人に言わせると、ここの肉が一番美味しいそうだ。
そんな和やかな雰囲気も、先ほどアリサが警告したヌシが姿を見せた事で一変する。
廃都市の中心、城跡から瓦礫と堆積した土をまき散らして姿を現したのは、天竜にも匹敵する巨大な蛇の魔物だ。
蛇竜のように羽はないが、地上スレスレを滑るように浮かんで、こちらを目指して動き出した。
「うっは、レベル90ってマジかー。さすがにご主人様を呼んだ方が良さそうね」
久々の強敵だ。
「レベル90、ですか……相手にとって不足はありません」
「なんくるないさ~?」
「だ、大丈夫なのです。あれくらいポチはへっちゃらなのです」
リザが魔槍ドウマ改を妖精鞄に収納し、悲壮な感じで竜槍ヘイロンを握り直す。
タマはお気楽な感じだが、ポチは尻尾が足の間に隠れそうなくらい不安げな表情になっている。
確かに、今の仲間達のレベルでは勝てそうにない相手だ。
ちなみにこの場にいる仲間達はミーア以外、全員レベル60になっている。
必要経験値の多いミーアだけはレベル58だ。
『ご主人様、エマージェンシーよ。なんかレベル90の大蛇が出た』
『了解、すぐに向かう』
アリサから「遠話」による救援依頼が来た。
オレは今転移したばかりのフリをして、アリサ達の後ろに姿を現す。
「来たよ」
「はやっ」
そりゃ、さっきから後ろで見ていたからね。
普通に戦うと肉や素材が傷みそうなので、上級の水魔法を使って大蛇を麻痺させる。
皆に一通り攻撃させながら、「遠話」で元欝魔王シズカの所に遊びに行っているヒカルを呼び戻す。
「お待たせ、何あの大蛇」
「ここのヌシらしい。丁度いいレベルだから、理槍の一つも打ち込ませてやろうと思って呼んだんだよ」
「えへへ、ありがとう、サトゥー」
ヒカルもオレをサトゥーと呼ぶのに慣れてきたようだ。
強敵の時は今回のようにヒカルも呼ぶようにしていたので、彼女のレベルも二つ上がってレベル91になった。
無詠唱で撃ち出したヒカルの理槍が動きを止めた大蛇に命中する。
後は「理力の腕」で持ち上げた大蛇の首を上級光魔法「光子力線」で切り落として終了だ。
「相変わらず理不尽な強さね……」
「さっすが私のサトゥーね」
呆れるアリサの言葉を、嬉しそうなヒカルの声が上書きする。
だが、「私の」は余計だ。
他の子達は食欲優先なのか、肉の回収に突撃していった。
オレは二人の頭をポンポンと叩き、大蛇の死骸をストレージに回収するために皆の後を追った。
◇
「都市核を支配したら、ここにも移民を誘致するの?」
「いや、その予定は無いよ。一応、魔物が入ってこないように空間魔法と森魔法の結界で覆うけどね」
「それじゃ、何も使い道無し?」
「南国風の気候だし、城壁内を整地してゴーレム達に果樹園か田んぼを作らせようと思っているんだ」
都市核とリンクさせておけば、魔核無しのゴーレムでも術者による魔力供給が不要となる。
迷宮内のゴーレムと同じような仕組みだ。
「それで、ミト。シズカの様子はどうだった?」
「ん~、なんていうか、ボッチライフを満喫しているわよ」
――なんだ、そりゃ?
「アラサー乙女の楽しいシングルライフを体現するような感じね。畑で野菜やハーブを育てて、ハーブからお茶やポプリを作り、リビングドール達が森で収穫してきた果物やハチミツでジャムやお菓子を作ったり。朝夕にはシベリアンハスキーのワン太と一緒に散歩がてら、河原で魚釣りや綺麗な石拾いをしているって言ってたわ」
普通の田舎暮らしにも思えるが、楽しいならそれでいいか。
衣食住の基本的な事はリビングドール達の働きで自給自足できるようにしてあり、たまにブラウニー達やヒカルに様子見がてら外から調味料や本を配達しに行かせてある。
ヒカルの話だと、シズカは創作好きらしく、薄い本を色々描いているそうだ。
なぜかオレには見せてくれなかったが、無理強いするのも悪いのであまり深くは追及していない。
今日のお昼にする分の肉を残して、それ以外はストレージへと回収しておく。
アリサ達は残敵掃討後に都市内の探検をするとの事なので、オレは一度セリビーラの迷宮に顔を出してから探検に参加する事にした。
ヒカルはシズカの所に戻らず、そのままアリサに同行するらしい。
なお、この都市には魔法的に隔離された書庫や宝物庫があるそうなので、今から楽しみだ。
◇
後発組は植物エリアで、爆裂玉蜀黍やデミゴブリンやデミオーガを操る魔操怪花と戦っているようだ。
先発組よりもペースが遅いが、後発組も全員レベル40を突破し、ゼナさんがレベル41、セーラがレベル42となっている。
なお、エチゴヤ商会の面々は本業が忙しすぎて迷宮でレベル上げする時間が取れないので、レベル30台前半のまま変化無しだ。
アオイ少年や新規参入の店長候補達は上げやすいレベル15までパワーレベリングしてある。
「…… ■■■■■ 光線」
光杖を持ったセーラが、中級まで使えるようになった光魔法で巨漢のデミオーガ達をまとめて輪切りにする。
人型の魔物の死骸は、パワーレベリング用の魔物を育てるエサにしか使えないので、ぞんざいな扱いでも問題ない。
旅の間に訪れた国で疫病に苦しむ人を大量に癒やしたせいか、単にレベルが上がったせいかは判らないが、今のセーラは祈願魔法を除くほとんどの神聖魔法が使えるようになっている。
部位欠損や内臓破裂などの致命傷も楽々癒やしてくれるので、最近はオレの魔法薬の出番がないくらいだ。
近くの茂みから飛び出てきたデミゴブリン・アサシンを、セーラが危なげなく投げ飛ばす。
ルルから護身術を学んでいる成果が出たようだ。
セーラだけでなく、王女やゼナさんも一緒に護身術を学んでいる。
最近では杖術にも興味があるようだ。
「近衛ゴーレム3番!」
セーラが投げたデミゴブリンを、王女の指示を受けたゴーレムが刺殺する。
その王女の視線が、空を舞うゼナさんに向けられる。
「ゼナ! 一人で突出してはいけません!」
「すみません、ティナ様」
飛行魔法で、デミオーガ達を操る魔操怪花を捜していたゼナさんに、王女の注意が飛ぶ。
そんなゼナさんに向けて、茂みの向こうから爆裂玉蜀黍が褐色の弾丸を放つのが見えた。
「――キャッ」
ゼナさんが短く悲鳴を上げたが、彼女の近くで爆発した褐色の弾丸は事前に掛けられていたセーラの防御魔法によって防がれている。
「トウモロコシなんて、わたくしが倒して差し上げますわ」
『カリナ殿、左方にも魔物の反応だ!』
ヘビーメイス二刀流のカリナ嬢が、ラカの警告したスライム状の金属蝕粘液を左手のヘビーメイスで殴りつける。
「ラカさん!」
『承知』
魔力操作の苦手なカリナ嬢に代わって、ラカがヘビーメイスの放電回路を起動し金属蝕粘液を焼き尽くし、そのまま茂みの向こうに飛び込む。
茂みの向こうから、カリナ嬢が両手のヘビーメイスで爆裂玉蜀黍を殴打する音が響き渡る。
前に主武装にしていたハンマーは不器用なカリナ嬢では使いこなせなかったので、今では打点が単純なヘビーメイスへとシフトした。
ラカを核とした格闘系ブースト装備はリーチが短いので、予備兵装的な扱いになっている。
「…… ■■■■ 神威空刃」
爆裂玉蜀黍の群れに囲まれそうになっていたカリナ嬢に、風杖を持ったゼナさんから援護の魔法が届く。
上級の風魔法の威力は素晴らしく、カリナ嬢の直近にいた一匹を除いて戦闘不能な状態に変わった。
群れに交ざっていた風属性に耐性のある魔物を、ゼナさんが新しく覚えた魔法やライフル型の魔法銃で始末していく。
ゼナさんは上級まで使えるようになった風魔法に加え、雷魔法と氷魔法を初級まで使えるようになったのだ。
どちらをサブにするかは決めかねているらしい。
「皆様! 『どろーん』ゴーレムが魔操怪花の本体を見つけました。重装ゴーレム1番から6番は三時の方角に突撃!」
王女の報告に、セーラ、ゼナさん、カリナ嬢が集まる。
王女の使う「ドローン」型自律飛行ゴーレムは彼女自身が錬成と魔法を駆使して作り上げたモノだ。
ゴーレム操作を担当していた影響で、元々覚えていた錬成が高じて魔法道具作りに興味を持ち始め、今ではオレの弟子のようなポジションでゴーレムや魔法道具作りを行うようになった。
護身術を覚えこそしたものの、彼女は直接戦闘には向かないので特別な武器は持たず、スタン機能を持った小動物型のゴーレムを常に傍らに置いて護衛させている。
「ゼナ!」
「はい、カリナ様!」
カリナ嬢を抱えたゼナさんが空を舞い、天井スレスレから魔操怪花に向かって急降下を掛ける。
「行きます!」
ゼナさんと互いの足の裏を合わせたカリナ嬢が、お互いの蹴り足で更に加速した。
「急発進カリナキ――」
最後まで口にする前に、カリナ嬢のキックが魔操怪花の花弁の中央に突き刺さった。
――FUWANNNNNNNNA。
怪しい花粉をまき散らしながら、魔操怪花が動きを止める。
死骸の中から、盛大に咳き込みながらカリナ嬢が這い出してきた。
セーラが慌てて駆け寄って、カリナ嬢に解毒魔法を掛けている。
……突撃もほどほどにね。
◇
迷宮で後発組を回収し、アリサやヒカル達と合流して廃墟探検を楽しんだ。
「まさか、碧領に足を踏み入れる事があるとは思いませんでした」
「こ、ここが緑の魔境、なのですね……」
セーラと王女が言葉を詰まらせながら廃墟を見回す。
カリナ嬢とゼナさんは碧領についてピンときていないような感じだ。
せっかくなので、宝物殿に誘導しよう。
「ここがヘン~?」
「肉の匂いはしないのですよ?」
誘導先の隠し魔法陣の前で、タマが首を傾げる。
ポチが鼻をスンスンさせるが、興味のある匂いはしないようだ。
「聖別の儀式をした形跡がありますね。瘴気が感じられません」
セーラが魔法陣を触りながら、そう評する。
魔法陣に魔力を流すと、文字が浮かび上がった。
「古代語の碑文と合い言葉が書いてあるみたい。えーっと、『海嘯に都市は滅べども、人は滅びぬ。都市を解放せし者に褒美を与える』って書いてあって、合い言葉が――バァルス?」
「一文字違いでセーフね」
ヒカルの告げた有名アニメの滅びの言葉もどきを聞いてギョッとなったアリサが、勘違いに気付いて安堵の言葉を呟く。
オレ以外の周りの子達は意味が分からずに不思議そうな顔をしている。
『再生を』
>「古代語」スキルを得た。
ヒカルが古代語で合い言葉を唱えると魔法陣が輝き、一枚の扉が何もない空間から出現した。
その扉を開けると、黄金色の輝きが目に飛び込んでくる。
中は広く、空間魔法の「格納庫」で作られたような質感の内壁が見えた。
黄金色の輝きの中に、皆が楽しそうに駆け込んでいく。
カリナ嬢やゼナさんは、大量の宝物に気後れしているみたいだ。
「きんぎん~」
「バールもあるのです」
ポチが拾い上げたバールのような物は、「幻想砕き」という魔法道具らしい。
一応、秘宝に分類される品のようだ。
「これはフルー帝国時代の失われた工芸品ですね」
「懐かしいね、あの国の貴族は嫌いだったけど、王宮とか建物は凄く立派だったよ」
セーラは壁際の絵や美術品に興味があるらしい。
ヒカルにとっては眠りに入る前を想起させる品物のようだ。
武器を検分していた獣娘達や可愛い小物を物色していたナナとルルの向こうから、オレを呼ぶ声が聞こえた。
「サトゥー! 奥には書庫があるようです」
「やったー、魔法の書はあるかな?」
「期待」
王女が見つけた書庫に、アリサとミーアが嬉しそうに駆けていく。
戦利品を物色し、孤島宮殿に帰ったオレ達は蛇竜の蒲焼きや爆裂玉蜀黍を使ったポップコーンをお昼に戴いた。
「うみゃ~」
「やっぱり、ルルのお重は美味しいのです」
風鈴の音を聞きながら、鰻重ならぬ蛇竜の蒲焼きに舌鼓を打つ。
肉厚で脂が乗っていて実に美味だ。
こうした和やかな日々を送るオレ達とは裏腹に、勇者は今も鼬帝国僻地の迷宮地下で奮闘中だ。
たまに大怪我をしているのが気になるが、定時連絡によると魔王の分体を倒しつつ本体に迫っているらしい。
鼬帝国が提供した魔法道具が役に立っているそうだ。
ちょっと魔王攻略に時間が掛かり過ぎな気がしたが、ヒカルによると魔王討伐に数ヶ月を費やすのは当たり前の事らしい。
自分の場合は年単位の時間が掛かったと言っていた。
――がんばれ、勇者。
オレが心の中で勇者ハヤトにエールを送る頃、観光省の飛空艇はピンク髪のメネア王女の故郷、ルモォーク王国の領内へと入った。
ルモォーク王国で異世界人召喚の資料が見れるといいね――。
※次回更新は 1/17(日) の予定です。







