14-20.雪の王国(1)
※2015/12/13 誤字修正しました。
サトゥーです。冬といえばコタツに入ってゴロゴロと漫画やゲームに興じる自堕落なイメージがあります。スキーやスノボも捨てがたいですが、やっぱり暖かい部屋の中の方が良いですね。
◇
「ユキ!」
「大変なのです! ユキなのです!」
ムーノ伯爵領を越え、魔物の領域を抜け、山脈の向こうにある東方小国群のキウォーク王国に入ると吹雪に見舞われた。
異世界初の雪なので、皆にも楽しんでもらおうと小型飛空艇の展望甲板を覆う「風防」を一時的に開放し、雪を積もらせてみた。
十分に雪と戯れられる程の雪が積もったところで、皆を呼びに行ったのだが、どうもタマとポチの様子がおかしい。
「ぽち!」
「タマ!」
二人がお互いの顔を見合わせたあと、オレの方に走ってきた。
「ユキだめ!」
「ご主人様、はやく団子にならないと危ないのです」
オレの腰にガッシリと抱きついた二人が、皆の方を振り向いて必死に手招きする。
「リザ、はやく~、ナナも~」
「アリサとミーアも、早くくっつくのです! ルルもカリナも早く! なのです!」
遊びかと思ったのだが、ポチの尻尾が足の間に隠れているし、二人の声が真剣過ぎる。
「ご主人様、失礼します」
しかも、呼ばれたリザが真面目な顔で正面からオレに抱きついてきた。
リザにしては珍しい。
「マスター、支援要請を受託しました。背中は守ります」
背中が温かくて幸せになった。
獣娘達の様子が気になるが、もうしばらく様子を見よう。柔らかいし。
「えへへ~、危ないのはダメよね~」
「ん、禁止」
アリサとミーアは楽しそうにペタペタと抱きついてきた。
「えっと、失礼します、ご主人様」
ルルがおずおずとした様子ながらも、右サイドからオレの首に手を回して抱きついてくる。
何気に一番密着度が高い。
「わ、わたくしは、その……」
「よく分かりませんが、私も」
「サトゥー様、失礼します」
逡巡するカリナ嬢を置き去りに、セーラとシスティーナ殿下がオレの左腕を抱き寄せる。
二人とも防寒具で着ぶくれているので、嬉しさが少ない。
「ゼナはやく~?」
「ゼナも急がないと死んじゃうのです」
「誰も死なないから大丈夫よ?」
ヒザを曲げてタマとポチと同じ高さに視線を下げたゼナさんが二人に事情を尋ねる。
「ユキはシニガミ~?」
「ユキは綺麗だけど、ユキが降ったらくっつかないと誰かを連れていっちゃうのです」
よく分からないのでリザに説明を求める。
「前の主人の時に降雪の酷い年がありまして……その時に人族や蛇頭族の奴隷達が幾人も凍死する事があったのです」
なるほど……前の主人の時のトラウマか。
「タマ、ポチ、ここにいる皆は大丈夫だよ」
オレはそれを証明してみせるように、展望甲板の雪を一瞬で除去し、飛行甲板を暖かな春の気温で満たした。
ついでに禁呪の「気候制御」で飛空艇の外で吹き荒れる吹雪を止めて雲を吹き払い、日差しを差し込ませる。
「ぬくぬく~?」
「ご主人様は、すごくすごいのです!」
タマとポチが幸せそうに目を細めて脱力する。
周りの子達が驚いて唖然とする中、アリサだけは諦めたようなジト目でオレを見上げてきた。
オレはそんなアリサの肩を叩き、出番を伝える。
「タマ! ポチ! これからアリサちゃんが、本当の雪遊びを教えてあげるわ!」
「にゅ~?」
「ユキで遊ぶのです?」
「そうよ! 雪合戦に雪だるま作りはデフォとして、かまくらを作って中で温かくて甘~いぜんざいやお汁粉を食べるの!」
「しるこ~?」
「肉は入っているのです?」
「そうね、お汁粉に肉は入れないから、けんちん汁なんかも一緒に作りましょうか? おでんもいいけど、あれは日本酒かビールが欲しくなるから除外よね」
アリサが次々とあげる雪国の楽しみ方に、タマとポチが引き込まれていく。
ポチの尻尾が元気に揺れはじめるのを確認したアリサが、勧誘から行動に移る。
「覚悟はいい?」
「あいあいさ~」
「らじゃなのです!」
アリサがビシッと雪原を指差す。
「じゃあ、行くわよ!」
「ご~」
「のんすとっぷ、なのです!」
雪原に着地した飛空艇から、アリサを先頭とした年少組が突撃していく。ナナとカリナ嬢も一緒だ。
新雪で柔らかいせいか、ズボズボと雪に埋没している。
それを見かねたのか、リザが魔鎧を応用したかんじきを足の裏に出して走っていった。
「この辺りで少し遊んでいきましょう」
オレは雪原を見渡す年長組に声をかけて、タラップを降りる。
「これが雪なのですね」
「冷たくて、指に触れると溶けますわ」
セーラとシスティーナ王女は雪が初めてなのか、楽しそうに雪を手にとって楽しむ。
ルルはゼナさんと一緒に雪兎を作って遊んでいるようだ。
オレは飛空艇の傍に、スキー場によくあるロッジ風の建物を魔法で作り出し、遠方にあった樹氷の付いた木々を建物の近くに移転させた。
続いて、ロッジの中にはダルマストーブもどきとコタツの魔法道具を用意する。
コタツは人数と文化を考慮して、掘りゴタツ式の大型の物と一般的なテーブル型の物を用意しておいた。
コタツの中で足が当たるのって、古き良き日本文化だと思うんだ。
◇
「みんな、おまたせ」
「甘い匂い~?」
「ぜんざい、なのです!」
「ん、おいし」
「良い香りですわね」
かまくらの中で七輪の火で手を温めていた年少組とカリナ嬢に、熱々のぜんざいを配る。
お昼ご飯にはまだ早いので、今回はオヤツ・ポジションだ。
「これ食べたら、次はソリで遊びましょう」
「ソリならポチが引っ張るのです!」
「タマも~?」
先ほど、オレが作っていた遊び道具を見ていたアリサが皆に提案している。
スキーやスノボを一瞥したアリサが「異世界にまでリア充の魔の手が……」と呟いていたが、楽しいスポーツをそんなくくりで否定するのは止めてほしい。
ナナはゼナさんと一緒に、謎ポーズのウサギの雪像を作っているようだ。
なお、雪だるまは既に人数分並んでいる。ツインテールの雪だるまなんて、どうやって作ったのやら。
セーラと王女の2人は寒いのが苦手なのか、ロッジの中に入ってコタツでミカンを食べている。
リザとルルはロッジの厨房で、お昼用の豚汁を作っているようだ。
「サトゥーさん、この板は何に使うんですか?」
雪像作りが一段落したゼナさんが、ロッジ前に立てかけたスキー板を見て首を傾げる。
セーリュー市にはスキーは無かったようだ。
年少組がぜんざいを堪能し終わるまで時間がありそうだし、ゼナさんにスキーを教えてあげよう。
「スキー板という雪上行軍訓練に使う道具ですよ。雪上での高速移動が可能なので、雪国では子供の頃から訓練するそうです」
「あ、あの! 私にも使えるでしょうか?」
「もちろんですよ」
軍事訓練と言ったせいか、まじめなゼナさんの食いつきが良い。
簡単なレクチャー後に、二人で滑りはじめた。
ゼナさんには飛行魔法を併用してもらっている。整備されたスキー場じゃないし、万が一の事故を考えての事だ。
「ご主人様、ずるい!」
「むぅ」
二人で斜面を滑り出したオレ達を見て、ぜんざいのお椀を片手にアリサとミーアがかまくらの外に飛び出してきた。
「ポチ、タマ、ミーア! 追うわよ!」
「らじゃなのです」
「あいあい~」
「ん、追跡」
ポチの牽くソリにアリサが、タマの牽くソリにミーアが搭乗する。
なんとなく電車ごっこをする子供のようだが、スノーモービル顔負けのポチタマエンジンを搭載する高性能ソリだ。
後ろから雪煙を巻き上げて2台のソリが追いかけてきた。
二人の蹴り足の力は雪を吹き飛ばしてしまって上手く推力に繋がっていないらしく、見た目ほど速くなさそうだ。
「ゼナさん、先に追いつかれた方が負けですよ」
「サ、サトゥーさん、待ってくださいー」
久々のスキーを堪能する為に、チートなスキル類や魔法は一切使っていない。
ニセコに負けないパウダースノーを堪能し、ゼナさんと踊るようにシュプールを雪山に刻んでいく。
ゼナさんは飛行魔法を併用しているので、初心者とは思えないほどの腕前だ。
「待ちなさい! 愛の逃避行なんて許さないんだから!」
「まて~?」
「まて~、なのです!」
「速すぎ」
ポチゾリに乗ったアリサが雪で真っ白になりながら、よく分からない叫びを上げている。
タマゾリのミーアは顔色が少し青い。
オレの横を滑るゼナさんが「愛の逃避行」と呟いて顔を赤く染めた。
さっきからスキーが雪面から浮いてますよ?
――あれ?
足が下に引っ張られるような錯覚のあと、オレの身体は空中に投げ出された。
どうやら、足下の雪は崖になっていたらしい。
「サトゥーさーん!」
ゼナさんが、懸命に伸ばしてくれる腕を掴む。
天駆を使えば良いのだが、せっかくなのでゼナさんの飛行魔法の成果を見せてもらうとしよう。
「うわー、なのです」
「うっひゃー」
ポチとアリサが崖を落ちていく。
アリサは途中でソリと一緒に「帰還転移」したようだが、ポチはそのまま落下中だ。
たぶん、魔法の範囲外に出てしまったのだろう。
「空中キーックなのです」
ポチが空中を蹴って減速し、体勢を立て直すのが見えた。
「たわいない、のです」
もっとも、地上でシュピッのポーズを取った直後に、上から降ってきた雪に飲まれて斜面を転がっていった。じつに、ポチらしい。
ユニット配置で皆の所に回収しようとマップを開く。
――おや?
ポチの進行方向に現地人の子供がいるようだ。
『ポチ隊員、君に緊急指令だ』
オレは遠話の魔法で絶賛滑落中のポチに指令を伝えた。
※次回更新は 12/20(日) の予定です。
次回までの間にモブ視点のSSを一本書くかも。







