14-18.ムーノ伯爵領(3)
※2016/4/22 誤字修正しました。
サトゥーです。戦争は嫌いです。武器や兵力を捨てたら平和になるなどと言うつもりはありませんが、人死には少ない方が良いと思うのです。ゲームみたいに、人の死なない戦争で解決できたらいいんですけどね。
◇
「太守様! 第三楼閣が破られました! 騎士ガウエン、騎士ジュランが捕虜になった模様です」
「あの二人が敗れたとなると、並の騎士では歯が立たないのでは……」
「バカもの! これは騎士試合ではなく戦だ! 数で押し包め! 弓矢で気を散らすのだ」
弱気な参謀達を偉丈夫な太守が叱咤する。
彼はコボルト達が攻める銀山近くにあるクハノウ伯爵領の第二都市セダムの太守だ。
対コボルト戦に介入する許可を貰いに来たのだが、声を掛け辛い。
ここは一度外に出てから、出直した方が良さそうだ。
太守のいた物見棟から抜け出て、適当な案内役の兵士を捕まえて太守に面会を願い出る。
外まで出直すと面倒だったので、ちょっとだけ手順を端折ってみた。
「この忙しいときに面会だと?!」
太守の叫び声が階下に届く。
「何?! ムーノ伯爵の家臣か! この状況で恩着せがましい事を言いよったら、そっ首叩き斬ってくれる」
オレの傍に控える兵士Aが気まずそうに視線を逸らした。
たぶん、太守はオレに聞こえるように発言して牽制しているのだろう。
しばらくして、兵士Bが降りてきてオレとタマを太守の所に連れていってくれた。
もちろん、面会にあたって手持ちの武器は兵士達に預けてある。
「キサマがムーノ伯爵の家臣か? 小姓に猫人とは趣味が悪い」
久々の人種差別発言にムッとしたが、ムーノ領以北では亜人に対する差別が酷いことを思い出した。
「お初にお目に掛かります、太守様。閣下を困らせているコボルト達の事で――」
「ふん、キサマが鎧袖一触で始末するとでも言うつもりか?」
「ご許可戴ければすぐにでも」
不可能だと言いたそうな太守に、不敵な笑みを向ける。
なぜかオレの足下で、小姓姿のタマまでオレの顔マネをしていた。
「半刻だけ時間をやろう。その間になんとかしてみせたなら、キサマらに感謝してやろう」
「それはありがとうございます」
普通に考えたら兵力を展開させるだけで、数刻は必要になる。
オレが少数精鋭で挑んだとしても、クハノウ伯爵領軍とコボルトが混戦状態にある現状では半刻――1時間ほどでは制圧が完了しないと踏んだのだろう。
「タマ、頼んだよ」
「なんくるないさ~、にんにん~」
タマが忍者モードになって、その場から消える。
オレは「遠話」の魔法で皆へコボルト排除の指示を出した。
「な、なんだアレは!」
「ひ、人が、いえ、犬頭共が宙を舞っています」
太守と参謀の二人は戦場に起きた非常識な光景に理解が追いついていない様子だ。
前線では獣娘達がコボルトの戦士達を掴んでは遙か高空へと投げ飛ばす。
いくら彼女達の筋力が高いとはいえ、ここまで非常識な軌道にはならない。
その行為を支えていたのはオレが渡した簡易型加速陣の応用だ。
元々はタマとポチが砂漠の射出実験を楽しむ間に編み出したワザなのだが、その事はコボルトの戦士達の矜持を守る為にも秘密にしておこう。
高空に撃ち出されたコボルト達は100メートルほど後方に待機したミーアの疑似精霊アラクネ達が、衝撃吸収用兼捕獲用の蜘蛛の巣を張って待ち構えている。
念の為、飛空艇やミーアの護衛用にナナを配しておいた。
仲間達と繋いだままにしている空間魔法の「戦術輪話」から、獣娘達に蹂躙されるコボルト達の恐怖に満ちた悲鳴や怒号が聞こえる。
太守が期限としていた半刻の期限を殆ど残して制圧作業が完了した。
『ご主人様、制圧完了しました』
『よくやった、次の行動に移れ』
『承知! ポチ、タマ行きますよ』
『ほいほい~』
『はいなのです!』
オレは「遠話」で獣娘達に指示して、介入前に戦闘不能になっていたコボルト達の回収を命じる。
クハノウ伯爵軍で捕虜になっているコボルトが拷問部屋に数名いるようだ。
こちらの回収はタマに任せよう。
『タマ、悪いけど追加任務だ』
『なんくるないさ~』
忍者タマに拷問部屋の場所を教え、それを支援するために次のアクションを起こす。
「た、太守様、山の陰から巨大な魔物が!」
「総員、退避! コボルトなど放置して避難せよ!」
ムーノ領にある山陰から現れた疑似精霊ベヒモスを見て、太守や参謀が驚きの声を上げた。
あのベヒモスはオレが作ったものなのだが、なぜかミーアやアーゼさんが召喚したモノよりも巨体になってしまっていた。
砦の耳目は十分過ぎるくらいベヒモスに集まる。
「太守様、ご安心ください。あれは私の仲間が助力を頼んだ精霊です」
「あ、あれは魔物ではないのか?!」
「はい、砦から逃走するコボルト達を殲滅します」
太守には殲滅目的と言ったが、既にフィールド上のコボルトは全て捕縛を終え、ミーアの指揮の下、アラクネ達によってクハノウ伯爵領外へ退避してある。
あのベヒモスは戦闘後にコボルト達の身柄を引き渡せと言われないための言い訳用だ。
ベヒモスが移動を終え、こちらに身体の側面を見せて静止する。
彼我の距離は300メートルほど。
「太守様。少々眩しくて音がうるさいのでご注意ください」
オレは警告した後に、ベヒモスに種族固有能力の「豪雷」を実行させる。
今回の目的は威嚇だが、周辺被害が出過ぎないように威力控えめだ。
ベヒモスの身体から生えるトゲが伸び、そこから空が白く染まるほどの雷を放つ。
「「「うぉおお!」」」
「「「目が、目がぁあああ」」」
事前に警告したのに、太守以外に実行していた人は少数だったみたいだ。
轟音が耳を叩き、吹き込んできたオゾン臭を帯びた風がオレ達の服や髪をなびかせる。
イオン化した空気が肌をピリピリと刺激した。
「な、なんだアレは」
「たった一度の攻撃であれほどの威力が……」
豪雷が地面に残した傷痕を見て、太守や参謀が息を呑んだ。
ベヒモスの位置から45度のコーン状に直線で1kmほどの範囲の山林が焼け焦げ炭化している。
その黒い道を、小さな放電を纏ったベヒモスが悠然と歩んでいく。
クハノウ伯爵領軍の前線は、あまりの光景に沈黙している。
視界の隅で、コボルト達を連れたタマが砦の外を移動する姿が微かに見えた。木々の間に紛れたようなので、もう大丈夫だろう。
「少しやり過ぎたみたいですね。コボルトを何人か捕虜にしてヤツらの本拠地を知りたかったのですが……」
太守に声を掛けたが、太守はアゴが外れそうな顔で、戦場の方を見つめるばかりで反応がない。
どうやら、本当にやり過ぎたようだ。
「――太守様?」
「あ、ああ……よ、良くやってくれた……」
ショックが醒めやらぬようすの太守に椅子を勧めると、ドスンッと腰が抜けるような速さで腰を下ろした。
「――コボルトの捕虜なら数名いたはずだ。紛争を終わらせた褒美に与える。持っていけ」
「では、ありがたくいただきます」
茫然自失に見えたが、オレの発言は聞こえていたようだ。
既に潜入したタマによって確保済みだが、言質を貰えたので罪悪感が減る。
オレは兵士に預けていた武器の一つを太守に差し出す。
「便宜を図っていただいたお礼という訳ではございませんが、こちらは私から太守様への贈り物です」
「こ、これは噂のエチゴヤ商会製の魔斧槍ではないか! 王都ではコネを使っても一年待ちだとクハノウ伯が仰っていた品――いいのか?」
「はい、もちろん」
迷惑料代わりという意味もあるが、太守の武勲を横取りしたような形になってしまったので、その埋め合わせだ。
兵士達は砦の修復に多忙な日々を送ることになるだろうが、紛争で命を落とさなかっただけマシだと思ってもらおう。
◇
「――ピァーゼ、この裏切り者が!」
「あ、兄上、それは誤解です!」
捕虜コボルトをミーアの蜘蛛型疑似精霊アラクネに渡した後、飛空艇に戻ると兄妹喧嘩が始まっていた。
「ご主人様~」
「ゴカイがロッカイで大変なのです!」
タマとポチの二人は、言い争う兄妹の傍で、どうしたらいいのか分からない様子でオロオロとしていた。
オレは風魔法の「口封じ」でコボルト兄の言葉を封じる。
本来は魔法使いの詠唱を封じるための魔法だ。
犯罪に使われる事が多かったので、一般の魔法書には掲載されていない。
「さて、ピァーゼの兄。君達の未来の為に、ムーノ伯爵の許可を貰いに行こうか」
オレはそう宣言して、飛空艇を浮上させた。
コボルト兵達とアラクネは移動中の合間に、「異界」の魔法で作った亜空間に移送しておいた。
そのまま放置して魔物の餌食となったら可哀相だしね。
クハノウ伯爵領との領境にある砦に預けることも考えたが、砦の兵士50名で屈強なコボルト戦士200名の捕虜を管理するのも大変そうなので止めておいた。
コボルト戦士達はアラクネによって繭の中なので、亜空間に移送された事にすら気付いていないはずだ。
ベヒモスの雷撃がショックだったのか、先ほどのコボルト投擲に驚いたのか、オリオン君の獣娘達への態度が妙に丁寧になっていた。
◇
「あんたにしちゃあ派手にやったもんだね」
「はい、あれくらい無茶苦茶をしておけば、クハノウ伯爵領の人達も銀山を襲ったコボルトが無事だとは思わないでしょうから」
ムーノ城へと戻ったオレはムーノ伯爵およびニナ女史と面会していた。
飛空艇の着地シーケンスに入ったところで、タマに手紙を持たせて先にニナ女史に状況を知らせておいたのだ。
「青晶とやらを必要としているコボルトが、イタチ人族の魔法使いに欺かれてクハノウ伯爵領に攻め込んだという事で間違いないかい?」
「間違いありません」
「本当にあの銀山の地下に青晶が無いのなら、その通りだ」
拘束されたコボルト妹と兄がニナ女史の質問に首肯する。
この兄妹だけをムーノ城に連れてきたのは、コボルト達ボルエフロス氏族の族長の子供達だったからだ。
移動中にコボルト妹に話を聞いた限りでは、兄の方は過激派、妹の方は穏健派の旗頭で、二人を纏めるべき族長は病床に臥せっているとの事だった。
「ご主人様! 大発見よ!」
そこに王女を連れたアリサがやってきた。
タイミングばっちりなのは、オレが「遠話」で指示したからだ。
「ターゲンコウミィの街の地下にミスリルの鉱脈があるんだって! 未知の青い宝石を見つけたって記録も一緒にあったわ!」
アリサが持つ資料はオレが用意して「風化」で強制的に劣化させて偽装したものだ。
「ずいぶん、都合のいい話だねぇ、子爵?」
「そうですね。彼らには天運があるようです」
ニナ女史の疑いたっぷりの「子爵」呼びを、「無表情」スキルで受け流し、アリサから資料を受け取る。
「この資料はムーノ侯爵時代に作られたもののようですね。当時も秘密裏に試験掘削を行なっていたようです。恐らく、時期的に考えて本格的な掘削の前に『不死の王』によるムーノ侯爵殺しの事件が起こって頓挫したのでしょう」
久々の「詐術」スキルが炸裂する。
長い間使っていなかったせいか暴走気味だ。
「なるほどね――あんた、名前は?」
「ケィージ。次期族長のケィージ・ボルエフロスだ」
ニナ女史が少し思案したあと、コボルト兄に問いかける。
「あんたに二つ選択肢をやろう。ムーノ伯爵への反逆罪で一族郎党処刑もしくは国外追放っていうのが一つ。もう一つはコボルト達が占拠する都市をムーノ伯爵へ返還し、ターゲンコウミィの街の住民となり、地下資源を得る労働力を提供するっていうのさ」
「オレ達一族に奴隷になれって事か?」
ニナ女史の言葉を聞いたコボルト兄が、牙を剥き出しにして吼えるように叫ぶ。
「そんな事をしたら、サトゥーに見限られちまうよ。こいつはお人好しだからね。賭けてもいい、あんたらにそんな処遇をしたら、あんたら一族を連れて新天地に行っちまうさ」
うん、ニナ女史の言葉は否定できない。
たぶん、その時は秘密裏に、コボルト達を黒竜山脈のミスリル鉱脈へと連れ去るだろう。
「だから、『住民』なんだよ。本当なら族長を守護に任じて統治ごと任せたいところなんだが、『コボルト』がクハノウ伯爵領の銀山を攻めた経緯があるからね。今すぐは無理だ。ドワーフ達みたいに時間をかけて、徐々に自治領への道を歩みな」
ニナ女史の話を聞き終わったコボルト兄が黙考する。
「ご厚情感謝する。必ずや、族長や長老達を説得しよう」
「私も兄者を助け、一族の意志を統一してみせます」
コボルト兄妹が熱い口調でニナ女史に答えた。
「それでいいかい、レオン伯爵?」
「うむ、承諾する」
ニナ女史の確認に、ムーノ伯爵が鷹揚に頷く。
「なら、ターゲンコウミィの街から魔物の排除を進めるかね」
「では、我らコボルト族の戦士達が先陣に立とう!」
ニナ女史の言葉に、縛られたままのコボルト兄が名乗り出る。
魔物から街を奪還する作業は、コボルト達とムーノ伯爵領軍の合同でやった方が良いのは間違いない。
だが、それだと行軍や制圧作戦立案、二つの軍隊を協調させる打ち合わせなど、膨大なタスクが待っている。
短くても数ヶ月、ヘタをしたら半年くらいは必要になるかもしれない。
街を支配するボス級の魔物さえ先に間引いておけば、オレ達がいなくてもなんとかなると思うが、さすがに大仕事を前に「お先に失礼」と言って去るのは薄情というものだろう。
「ムーノ伯爵、私達には観光省の仕事が――」
「ペンドラゴン卿!」
オリオン君が信じられないと言わんばかりの形相でオレを振り返る。
なのにオレと目が合うと怯えたように目を伏せた。……解せぬ。
「オリオン、無理を言ってはいけないよ」
「ムーノ伯爵の言う通りだね。今日たった一日で、クハノウ伯爵と揉めそうな件を解決する決定的な方法を見つけ出して、あとは実行するだけの所まで持っていってくれたんだ。これ以上おんぶにだっこだと、為政者の地位を彼に委ねた方が良いって事になるよ」
オリオン君を諭すムーノ伯爵に、ニナ女史が補足する。
「お二人ともお待ちください。観光省の仕事があるので共同戦線には参加できませんが、ターゲンコウミィの街の奪還だけは私達が行なっていきます。共同戦線は他の街や都市を奪還する時に行うという事でいかがでしょう?」
「簡単に言ってくれるね」
「そんな事が可能なのかい?」
ニナ女史が呆れたように呟き、ムーノ伯爵が信じられないかのようにかすれた声で問いかけてきた。
「私には優秀な仲間達がいますから。彼女達が一緒なら、ターゲンコウミィの街に巣くう魔物を殲滅するくらい朝飯前です」
今は昼過ぎだけどね。
※次回更新は下記の予定です。
12/10(木)12:00 14-19.ムーノ伯爵領(4)
12/13(日)18:00 14-20.雪の王国(1)
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