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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十四章

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14-17.ムーノ伯爵領(2)

※2015/12/11 誤字修正しました。

※2015/12/8 一部修正しました。

 サトゥーです。ヒロインのピンチを救うのはヒーローの条件だと聞いた事があります。最近は主人公を救うヒロインの方が多い気もしますけどね。





 翌日、オレ達の飛空艇はオリオン君と彼の従者2人を乗せて、クハノウ伯爵領の銀山へと出発した。

 同行している仲間は前衛陣とミーアの5人だ。


 カリナ嬢がついてきたがったけど、弟嫁のミューズ嬢との交流を深めてもらう為に残してきた。

 セーラには二人のサポートを頼んである。


 システィーナ王女、アリサ、ゼナさんの3人には旧ムーノ侯爵城の書庫の調査をお願いしておいた。

 書物の多くは散逸したとの事だったが、建国期よりも前の城らしいので、何か貴重な資料が残っているかもしれない。


 ルルにはゲルト料理長をはじめとした料理人達に、王都や旅の間に覚えたレシピを伝授してもらっている。

 ムーノ市の観光資源が少しでも増える事を期待しよう。





 途中、ペンドラゴン村という名前がついた、開拓村に寄ってみた。

 ここは元少年盗賊団や姥捨て川の老人達が生活している。


 オレが仮設した村だが、この一年ほどの間にちゃんとした住居や畑が整備されたようだ。


「うわー、空飛ぶ船だ」

「とんでうー」

「すげー」


 飛空艇の高度を下げると、子供達が次々に集まってきた。


 着地する場所が無いので縄ばしごを使って地上に降りる。

 ちょっと顔を見るだけなので、下に降りたのはオレ、タマ、ポチの3人だけだ。


「ししゃくさま!」

「みんな! 士爵様が来てくれたよ!」

「わー、タマちゃんとポチちゃんだ!」


 すばしっこい子供達に続いて、よったりよたりと老人達が集まってくる。

 子供達も老人達も、前に会ったときよりも健康そうな顔色だ。


「幼生体達よ、飴ちゃんを授与すると伝達します」

「ナナだ~」

「つかまう~」

「アメ美味し」


 いつの間にか降りてきていたナナが子供達に飴玉を与えていた。

 一番小さな子がナナに抱えられて、キャッキャと嬉しそうにはしゃいでいる。


 そんな姿を眺めた後、オレは老人達に声を掛けた。


「ご無沙汰しています。立派な村になってきましたね」

「それもこれも、士爵様が領主様にお願いして下さったお陰です」


 村長に就任したのは一人だけ丁寧な口調だった老人だ。

 元々文官だったらしいので、適任だろう。


 リザがお土産の樽を二つ抱えて降りてくる。


「こちらの樽が『巨人の涙』という蒸留酒で、こちらの樽は燻製肉が入っています」

「おお! 今日は宴会じゃ!」

「サトゥー様の為に宴会を開くぞ!」

「ワシの山菜団子を披露する時が来たようじゃな」

「なんのワシの焼き団子の方が旨いぞ」


 ノリノリの爺様や婆様達には悪いが、顔見せに寄っただけなので宴会には参加できない。


「そりゃ、残念じゃ。すぐに包むからちょっと待っておくれ」


 残念そうな顔の老婆が小屋に戻って、何やら作業を始めた。

 山菜団子とやらをお弁当に包んでくれるとの事だ。


 そこに森の方から粗末な弓を持った年長の少年達が走ってきた。


「サトゥー様! トトナ達は城で頑張っているか? これオレが獲った山鳥なんだ。持っていってくれよ」

「こっちの耳垂れウサギも!」

「ほう、これは立派な獲物だね」


 誇らしそうな顔の少年達から鳥や兎を受け取り、魔法の鞄から取り出した短弓と鉄の矢をプレゼントする。

 弓矢はオレの手製だが、ごくごく普通の品だ。


「わー、すごいや」

「本物の弓矢だ!」


 少年猟師達が弓矢を前に目を輝かせる。


「こ、これ貰っていいの?」

「もちろんさ、この弓矢で村の皆に美味しい獲物を狩ってやってくれ」

「任せてよ! サトゥー様!」

「うん、オレも頑張る!」


 喜ぶ少年猟師達を激励し、老婆から山菜団子のお弁当を受け取って、早々に開拓村を後にする。

 船の展望甲板で食べた山菜団子は、素朴だがどこか懐かしい味だった。





「えま~じぇんし~?」

「ご主人様、大変なのです」


 飛空艇の甲板で、実際の風景とムーノ伯爵領の地図の対比をオリオン君にレクチャーしていたところに、舳先からタマとポチが駆け戻ってきた。


「どうかしたのかい?」

「ぴんち」

「この先の森で、追っかけられてるのです!」


 タマとポチが指差す方向を調べると、数人が蛇蝙蝠スネークバットという小型の魔物の群れに追われているのが判った。

 この蛇蝙蝠は翼長一メートルほどの蝙蝠の胴体を蛇に変えたような魔物で、単独なら普通の兵士でも危なげなく勝てるくらい弱い。

 ただし、麻痺毒を持っているので、集団に囲まれると騎士クラスでも危なくなる。


 もちろん、普通の騎士クラスなら、の話だ。


「ポチ、タマ、出撃を許可する」

「らじゃ~」

「はいなのです!」


 オレの命令を聞いた二人が、甲板から飛び降りた。


「うわっ! お、おい! ペンドラゴン卿、貴公の家臣が!」


 それを見ていたオリオン君が驚いて、手すりに駆け寄った。


 バサッと音がして、風呂敷のような布を広げたタマが左舷方向に姿を見せる。

 そのままムササビのようなスタイルで、先ほど指差していた方向へ滑空していった。


「ひ、人が空を?!」

「忍者ですから」


 オリオン君の叫びを適当に流す。


 続いてズドンッと足下で大きな音がした。

 たぶん、ポチが地上に着地したのだろう。


 飛行高度が低めだったとはいえ、さすがのポチでもこの高さからだとケガをする。

 天駆の下位スキルにあたる空歩というスキルで、空中に足場を作って落下速度を殺してから着地したのだろう。

 タマの忍術に比べたら地味だが、ポチも着実に進歩しているようだ。


 土煙を上げてポチが走っていく。

 乗用車並の速さだ。


「リザ、取り舵だ」

「承知」


 舵輪を操作するリザに、飛空艇の進路をタマの向かった方角に変えさせる。


「あの子供達はいったい何を……」

「あの森のあたりで魔物に追われる人を見つけたようです」

「――あんなに遠くの人を?」


 信じられなさそうなオリオン君に、遠見筒を手渡してやった。





「犬の頭? こいつらがコボルトなのか?」

「ええ、そうみたいですね」


 オレの背後から覗き込むオリオン君の質問を肯定する。


 ポチとタマが助けたのはコボルトの族長の娘とその従者である男女2名だった。

 オレ達が到着する頃には救出劇が終わっていたので、詳しくは知らない。


 オリオン君が「犬の頭」と表現したが、正しくは犬頭の被り物をした人達だ。

 ちょっと長めの犬歯や少し尖った耳以外は人と見分けがつかない。

 少し肌が白すぎて青みがかって見えるくらいだろう。


 コボルト達の遺体が森の中に7名分転がっていたので、こっそりユニット配置で移動して回収してある。


「目覚めた~?」

「痛くないのです?」

「……ん? キャンか?」


 目覚めの兆候を察知したタマとポチが、コボルト少女の寝顔を覗き込む。


 少女が発したのはシガ国語だった。

 コボルト語ゲットのチャンスかと思ったのに残念だ。


「――違う、誰だ?」

「あわわ、なのです」


 飛び起きた少女がポチを羽交い締めにして、こちらを警戒する。

 タマはとっさに飛び退いていた。


 ポチなら簡単に脱出できたと思うが、無理に振り解いて少女をケガをさせるのを恐れたのだろう。

 困った顔のポチは可愛いが、このままにしておく訳にもいかない。


「その手を離しなさい。この子達は君の恩人だよ」

「あっ――」


 オレの言葉に少女の力が抜けたので、素早くポチを引き剥がす。

 これは恐らく「拉致」スキルの補助だろう。


「くっ、拙の仲間はどこ――まさかっ」


 拙とはまた珍しい一人称だ。


 アリサがいたら「侍かっ!」と叫んだに違いない。

 いや、あれは「拙者」だっけ。


 さて、少女の一人称はともかく、仲間が全員死んだと思い込んだ少女の誤解を解いておこう。


「お付きの二人なら大丈夫だ。瀕死の重傷だったけど、仲間の魔法使いが癒やしてくれたよ」

「そ、そうか感謝する」


 いきなり暴れられても困るので、大人コボルト達はミーアの魔法で酷い傷を癒やした後、オレの「麻酔アナシージャ」と「強制睡眠フォース・スリープ」の魔法で、階下の仮眠ベッドに寝かせてある。


 そこに階下からミーアが姿を現した。


「エ、エルフ様?!」


 ミーアを見つけた少女が、ミーアに向かって平伏する。

 まるで土下座のようなスタイルだ。


「せ、拙は今は亡きボルエフロスを祖とするコボルト、ピァーゼ・ボルエフロスと申します」

『ボルエナンの森の最も年若いエルフ、ラミサウーヤとリリナトーアの娘、ミサナリーア・ボルエナン』


 妖精語による少女の名乗りに、ミーアがこくりと頷いたあとエルフ語で正式な名乗りを返した。


「ミサナリーア様、拙と仲間達の助命を感謝いたします」


 少女は床に額を擦りつけながら言葉を紡ぐ。

 お礼を言っているのに、真剣勝負を挑むような力強さというか必死さを感じる。


「そして、その恩を返す前に願い事をする非礼をお許し下さい――」


 少女が蕩々と語った内容を纏めると、コボルト達の鉱山が枯れ、彼らの繁殖に必要な青晶と呼ばれる宝石が入手できなくなったので、その青晶を分けてほしいとの事だった。


 頼まれたミーアは首を傾げてハテナ顔だ。

 恐らく青晶という宝石に心当たりがないのだろう。


 それにしても廃鉱山に宝石か……。


 ――ん?


「もしかして、コボルト達がクハノウ伯爵領の銀山を襲っているのはその青晶とやらの為か?」

「そうだ。旅の魔法使いが教えてくれたのだ」


 少女に尋ねながら、クハノウ伯爵領の銀山を範囲検索してみる。

 未掘削領域も検索してみたが、青晶という宝石の鉱脈は見付からなかった。


「本当にあるのかい?」

「それは判らぬ。イタチ人族の魔法使いは迂闊に信用できぬが、成功報酬に青鋼あおはがねの製法伝授を約束したのだ。欲深いヤツらがその機会をふいにする事はあるまい」


 げっ、またイタチか。


 オレも青鋼あおはがねとやらに興味があるし、少し骨を折ってみよう。


 少女の相手をミーアに押しつけて、ボルエナンの森まで「遠話テレフォン」の魔法を繋ぐ。


『アーゼさん、ちょっとよろしいですか?』

『サトゥー! もちろん、いいわよ』

『青晶という物を知っていますか?』


 少し弾んだ声のアーゼさんに、青晶について尋ねてみた。

 もちろん、オレの発言は脳内発信なので、周囲の者達には聞こえていない。


『ええ、知ってるわよ。たしか、コボルトの子育てに必要な物だったかな?』

『コボルト達の青晶鉱山が枯れて困っているそうなんです。どういった場所に青晶ができるかご存知ですか?』

『ええっとね――ミスリル鉱脈の深い所で採れたはず。太い竜脈沿いのミスリル鉱脈を捜せば見付かると思うわ』


 思ったよりも詳しい情報が聞けたので、アーゼさんに愛の言葉と共にお礼を言ってから通話を切った。


 竜脈の場所は知らないが、竜脈は源泉とつながっているはずだから、街や都市を中心に検索してみよう。

 ムーノ領内を順番に検索して見たところ、魔物達が巣くう街の地下に鉱脈があるのが判った。

 街の地下1kmほどの深さにミスリル鉱脈があり、鉱脈の隙間に青晶も存在しているようだ。


 その街は巨人達の隠れ里とコボルトの占領する都市の中間付近の山岳地帯にある。


 ついでに黒竜ヘイロンの山にあるミスリル鉱脈やドワーフ達のボルエハルト自治領のミスリル鉱脈を検索したところ、前者の地下には青晶が見付かったものの、後者には無かった。


 黒竜山脈の青晶の事を教えてコボルト達を領外へ追い払うのが一番楽だが、ムーノ伯爵領の利益を考えたら、特殊な金属の精錬技術や掘削技術を持つコボルト達を恭順させて、ミスリル鉱の採掘や精錬をさせた方が良さそうだ。


 オレはムーノ城にいるアリサに「遠話テレフォン」の魔法を繋いで、鉱脈情報に関しての口裏合わせを頼んでおく。


「サトゥー」


 泣きそうなミーアが抱きついてきた。

 その後ろには必死な形相のコボルト少女がいる。


 そういえば、ミーアに押しつけていたんだっけ。


「サトゥー殿、頼む! 貴公の飛空艇でボルエナンの森まで送ってくれ。その対価に貴公の助力にはコボルトの宝剣『蒼牙』を進呈しよう! もし望むなら、青鋼あおはがねの製法伝授を約束してもいい」

「製法は魅力的ですね。ですが、今の私達は公務の最中なのです。それを果たした後ならば、貴方達が青晶を手に入れる助力をいたしましょう」

「本当か?!」


 半信半疑な少女に、オレは力強くうなずき返した。



※次回更新は下記の予定です。

 12/09(水)12:00 14-18.ムーノ伯爵領(3)

 12/10(木)12:00 14-19.ムーノ伯爵領(4)

 12/13(日)18:00 14-20.雪の王国(1)


※2015/12/8 開拓村でナナと子供達の交流を少し追加しました。



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 新刊発売まで、あと2日!(早売りのお店だと販売が始まっているようです)


 本作「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」6巻とコミック版2巻が12/10(木)に同時発売となります。

 詳しくは活動報告をご覧下さい。

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 発売日:2025年12月9日
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