14-14.ボルエハルト(1)
※2015/11/23 誤字修正しました。
サトゥーです。意外な場所での知人との再会は会話が弾みます。昼間に会ったはずなのにいつの間にか日が沈んでいたなんて事もありますよね。
◇
「素敵な光景ですね」
「ええ、これが名高いオーユゴック公爵領の大河なのですね」
ゼナさんの呟きに、システィーナ王女が答える。
現在、オレ達は大河上空を小型飛空艇で遡っている最中だ。
他の子達も楽しそうに、上部展望甲板から景色を眺めている。
ここは「風防」の魔法で守られているので、風にスカートが捲れる事も無い安全設計だ。
「いい眺め~?」
「タマ、そんな場所だと危ないのです!」
「だいじょび~」
だからと言って、タマのように細い手すりの上で仁王立ちするのはどうかと思う。
「マスター、渡り鳥の群れだと報告します」
「ん、ふらみんご」
ナナとミーアが指差す先では、でっぷりと肥満な感じのピンク色の鳥が大河を渡っている。
オレの知るフラミンゴとは少し違うが、ここではアレがフラミンゴなのだろう。
さっきまで気怠げに眼下の光景を眺めていたアリサが、急にハッとした顔になって腕を振り上げる。
「手の空いている者は左舷を見ろ!」
「アリサ? そっちは右舷よ?」
アリサの間違いをルルが訂正している。
バツの悪そうなアリサの表情とさっきの芝居がかった口調からして、何かのパロディーだったに違いない。
「ご主人様、とりあえず二羽ほど仕留めましたが、丸焼きが美味しいのでしょうか?」
リザの手にはワイヤー付きの銛と二羽のフラミンゴがぶら下がっていた。
――リザ、素早い。
「確か癖の無い鶏肉みたいな味だったから、ヤキトリにしようか」
「はい! 血抜きをしたら、綺麗な羽は洗って避けておきます」
「ああ、頼むよ」
前に海外旅行した時にフラミンゴを食べたことがあるが、まさか異世界でまで食べる事になるとは思わなかったよ。
その日の夕刻、葡萄山脈へと辿り着いた。
大河を航行する船が無くなる時間帯まで間があったので、時間つぶしに頂上付近の天鹿の群れを見物に行く。
「えもの~?」
「今度はポチが獲ってくるのです!」
「ダメだよ」
「ダメなのです?」
「うん、ダメ」
獣娘達が天鹿を狩りたそうにしていたが、天鹿の群れには少々借りがあるので手を出すのは控えさせた。
ちょっとしょんぼりしたポチが可愛かったが、ここは譲れないのだ。
その後、幻蛍窟の運行管理者と交渉して、小型飛空艇を半分水没させて直接航行する許可を貰った。
「まあ! ここが有名な幻蛍窟なのですね! リトゥーマイヤー女史が新婚の時に来たと自慢していただけありますわね」
「へー、あの堅そうな校長がねぇ~」
初見の王女とアリサが共通の知人を話題に出しながら、幻蛍窟を見回す。
同じく初見になるゼナさんが、天井の光景を見上げる余り、バランスを崩して後ろ向きに転びかけた。
「きゃっ」
「大丈夫ですか?」
「は、はい! ありがとうございます、サトゥーさん」
オレに支えられたゼナさんが、失敗を見られてか、恥ずかしそうにはにかむ。
「くぅ、ナチュラルにフラグを立ておって!」
「むぅ、ぎるてぃ」
アリサとミーアが何か呟いていたが、特にトラブルもなく、皆で幻蛍窟を堪能する事ができた。
ここは何度見に来ても楽しめるね。
◇
グルリアン市で太守に挨拶したあと、市民風の衣装に着替えて街を散策する。
大人数だと目立つので幾つかのグループに分かれた。
オレと一緒なのはアリサとカリナ嬢、そしてセーラの三人だ。
「これがグルリアン? わたくしはアンコロモチの方が好きですわ」
迷宮のレベル上げで倒した植物型魔物の「小豆投蔦」から、巨大小豆が手に入ったので、漉し餡を作るついでに餡ころ餅を作った事があった。
そういえば、ポチやタマに交ざって顔中餡だらけにしていたっけ。
「て、手掴みで食べるのですか?」
「そーよ! 箸でチマチマ食べずに、豪快に齧り付くのがマナーなの!」
困惑する上流階級のセーラに、アリサがでたらめなマナーをすり込む。
口の周りに付着したあんこを、拭き取れとばかりに顔を突き出してきた。
まったく、困ったヤツだ。
「こんな風に、ご主人様のサービス付きよ」
……嘘を吐くな。
アリサの戯れ言に乗りそうだったセーラを止め、既に手遅れだったカリナ嬢の口元を拭いてやる。
なぜか、無傷で済んだはずのセーラが悔しそうな顔をしていた。謎だ。
「あー! 貴族のお兄ちゃん!」
金物問屋の前で掃除をしていた幼女が、オレを見つけて嬉しそうに走ってきた。
……誰だっけ?
「ほら、前にグルリアン市に入る時に馬車に同乗させてやった子達よ」
アリサの補足で思い出した。
ああ、そういえば奉公先に向う村人姉妹を乗せてやった記憶がある。
「お姉ちゃんは元気かい?」
「うん、元気!」
幼女の視線がオレが手に持っていた銘菓グルリアンにロックオンしていたので、食べさせてやる。
仕事中だが一口くらいいいだろう。
「美味しい!」
一口だけのつもりだったのだが、そのままオレの手まで食べそうな勢いだったので、全部プレゼントする。
「ささ、ご主人様、お手を」
手に残った粒餡を、舌で舐め取ろうとしたアリサの額を押さえて止める。
セーラがハンカチを差し出してくれたが、ハンカチが汚れるので生活魔法の「柔洗浄」で洗い流した。
幼女とアリサから「勿体ない!」と非難の声が上がる。
きっと、二人の「勿体ない」は別のものを指しているにちがいない。
幼女が掃除していた金物屋から、知り合いが現れた。
オレの大恩人にして魔王「黄金の猪王」討伐に貢献してくれたドワーフの魔法屋店主ガロハル氏だ。
その後ろから村娘姉が出てきたが、彼女とのやり取りはアリサに任せておこう。
ペコペコと頭を下げる村娘姉に軽く手を上げて応えておく。
「ご無沙汰しております、ガロハルさん」
「サトゥー殿じゃないか!」
気さくに再会を喜んでくれるガロハル氏と固い握手を交わす。
魔法屋ではなく金物屋から出てきたのを不思議に思って尋ねてみた。
「ここの店主とは趣味があってね。『算術勝負』を挑みに来ているんだ。ドリアル氏が市長になってからはさっぱりだが、ジョジョリと3人でドリアル氏の下で『高等算術』を学んだものさ」
ガロハル氏が「楽しかったなぁ」と遠い目で空を見つめる。
これからの予定を尋ねたところ、知り合いの商人に頼んでボルエハルト市まで馬車に乗せてもらう予定らしい。
「私どももボルエハルト市に行く予定でしたので、ご一緒にいかがですか?」
「いいのかい? なら遠慮無く便乗させてもらおうかな」
そんな風に快諾されたので、同行する事になったのだが――。
「え? 飛空艇? 個人の飛空艇なんて、ボルエナンの光船くらいじゃ? え? ミサナリーア様がいるからかい?」
――と空の旅の前半くらいは、ずっとパニック状態だった。
なんだか悪い事をしてしまった気分だ。
「大丈夫ですか?」
「ああ、悪いね取り乱して……」
ジョッキに入ったエールを飲み干すとガロハル氏に、ダンディーな落ち着きが戻った。
「そ、それでボルエハルトには老師の所で鍛冶かい?」
「ええ、それもありますが、……神金が手に入ったので、ドハル氏に進呈しようと思いまして」
「神金? ハイ・エルフ様方がお作りになるという、あの?」
権威付けでハイエルフが作ると伝わっているのかな?
別にハイエルフでなくとも、賢者の石と高いスキルがあれば誰でも作れると思う。
現に、オレも普通に作っているしね。
「いいえ、ちょっとした伝手で入手した物なのです」
「なんと美しい……これが神金。神器を作るための究極の金属」
そう言いながら見せたオリハルコンのインゴットを見て、ガロハル氏は思い詰めたようにブツブツと独り言をこぼした。
「これが手に入ったとしたら、老師はきっと……ジョジョリを……」
※次回更新は 11/29(日) の予定です。
※諸般の事情により短いです。
時間が取れたら、11/24(火)付近に続きをアップするかも。と書きましたが、ごめんなさい無理でした(11/25追記)。







