14-13.オーユゴック公爵領(2)
※今回は話が進みません。読まなくても問題ないので、合わない方は気にせずブラウザバックしてください。
サトゥーです。焼き肉はレアよりもミディアムが好きです。子供の頃はウェルダン以外ありえないと思っていたのですが、年と共に嗜好や考え方は移り変わっていくようです。
◇
「はい、焼き肉」
「野菜も取ってきたわよ」
アリサとヒカルが料理の載った皿をオレに渡してきた。
目の前の焼き肉大会会場ではルルや料理大会出場者達が競うように、肉や野菜を焼いて参加者に振舞っている。
「まーだ悩んでるの?」
「なんの話?」
オレの左右に腰掛けながらアリサとヒカルが言葉を交わす。
「ポチとタマの間で肉を食べてるロリっ子いるじゃん?」
「うん、すごい楽しそうにはしゃいでる子でしょ」
「そうそれ、あの子ってば80歳なのよ」
「ふーん、それで?」
何が問題なのか判らないとヒカルが首を傾げる。
「ふーんって、70歳以上若返ってるって言ってんのに反応薄くない?」
「だって、レベル50超えの聖女なら、国を挙げて延命に尽力してもおかしくないじゃない。あのスキル構成なら、たぶん祈願魔法も使えるだろうしね」
祈願魔法はあらゆる願いを叶えられる魔法で使い手は非常に希だ。
ヒカルによると、過去には死者の蘇生に成功した例すらあったらしい。
ただし、祈願魔法の祈りを神が叶えるかどうかの基準は流動的で、祈る聖職者と叶える神の組み合わせや状況でも変わるらしい。
同じ願いを続けたり利己的な願いをしたりするのは叶いにくいそうだ。
「尽力って――『若返りの薬』とか?」
「うん、そう。セリビーラじゃ殆ど出ないけど、サガ帝国の『血吸い迷宮』なら血玉狙いの冒険者達が毎月何個かゲットしてくるから、そんなにレアじゃないしね」
その割に流通していない気がする。
そうヒカルに聞いたら「一個あたり数歳しか若返らないから。サガ帝国の貴族達が買い占めているんじゃない?」と返ってきた。
ヒカルが昔「若返りの薬」を乱獲していた頃に、門閥貴族達の家来とよく揉めたそうだ。
そういえば、パリオン神国のザーザリス法皇は150歳なのに若々しかったっけ。
彼は「若返りの薬」や「祈願魔法」で若さを保っていたのだろうか?
「それであのロリっ子が若返ったのと、サトゥーがアンニュイなのとどう関係があるの?」
「それは――」
ヒカルの質問に答えようとしたアリサを制して、自分でヒカルに話す。
「寿命で死ぬはずの人間を生き返らせてしまったんだ」
「ふーん? 死ぬ前でしょ? 建国期の頃は普通に『若返りの薬』で延命してたわよ?」
ヒカルの感覚だと、病人を魔法薬で回復させるのと大差ないようだ。
だが、問題はそこじゃない。
「本人が寿命を受け入れていたのに、それに反してオレの我が儘で生き返らせてしまったんだよ」
正確には死ぬ前だが、オレが巫女長の意志をねじ曲げたのは間違いない。
「でも、さ」
ヒカルがオレの頭を撫でる。
いつの間にか、自責の念で頭を垂れていたらしい。
「本人は楽しそうよ?」
アリサがオレの頭を平らな胸に押しつけて、会場の方に首を向ける。
彼女の指差す方向には、ポチやタマと一緒に毛長牛の丸焼きに向かって駆けていくロリ巫女長の楽しそうな姿があった。
「ちょっと、アリサ。わたしが好感度上げるトコだったのに横取りしないでよ」
「ふっふーん、そんなの早い者勝ちに決まってるじゃない!」
好感度って……。
「それにサトゥーは寿命を神聖視しているみたいだけど、それって、地球の価値観じゃない?」
「――どういう事だ?」
神聖視はしていないと思うが……。
「地球なら寿命は絶対よ。死なない人間なんていないし、クローン人間や意識をコンピュータにコピーして生きながらえるとかは、SF系の創作の中にしかなかったじゃない」
ヒカルの言葉に首肯する。
生き物が寿命で死ぬのは当たり前じゃないか。
「でも、異世界は違うのよ。死ぬ定めにないイモータルや永遠に近い時間を生きるエルフは別格としても、多くの妖精族は何千年も生きるし、普通の人族だって若返りの薬を飲みつづけたら何百年だって生きられるもの」
――前提が違うのだから、価値観だって地球とは違う。
それがヒカルの言いたい事らしい。
「それにさ、地球の延命は本人の意志を無視して周囲のエゴで苦痛を強いるイメージがあるけど、今回のは違うじゃない」
「そーね。老いたまま、ただ寿命が延びるのを拒否する老人は多そうだけど、若く健康な体に戻してやるって言われて拒否る人はまずいないわよね」
「いても宗教上の理由とかじゃない?」
「あー、輸血拒否とか色々あったっけ」
テニオン神殿の教義はどうなのだろう?
「ご主人様~?」
「一番美味しい肉を持ってきたのです!」
タマとポチが大皿からはみ出すようなステーキを持ってやってきた。
ロリ巫女長も一緒だ。
「サトゥーさん、お加減でも悪いの?」
トテトテと歩み寄った巫女長が、オレの膝によじ登って顔を覗き込んでくる。
「リリーが寿命で死ぬのを邪魔したんじゃないかって悩んでんのよ」
「――邪魔?」
アリサの言葉にロリ巫女長が困惑の表情を浮かべる。
「あっ……あの時の言葉ね? 酷いわ――」
ロリ巫女長は頬を膨らませて、こちらを睨め付ける。
やはり、オレがした事は偽善の押しつけだったのか……。
「私の恥ずかしい言葉をみんなに話しちゃうなんて!」
「――え?」
どういう事だ?
「ちょっと、状況に酔ってしまったの。好意を寄せる殿方に抱きしめられて息を引き取るって、乙女心をくすぐられるじゃない?」
――巫女長さん?
「わかる!」
「あー、それは無理ないわ」
アリサとヒカルも同意するんじゃない。
「……恨んでいないのですか?」
「あら? あの日も感謝の気持ちを伝えたのだけれど?」
確かに「ありがとう、ナナシさん」と言われた気はする。
「あの時の言葉に偽りはないの。それに今はもっと感謝しているわ」
ロリ巫女長がオレの膝の上に腰掛けて、太陽に向かって手を伸ばす。
「若いって素晴らしいわ。手も足も自由に動くし、関節も痛まない。走っても息切れしないし、転んでもすぐに起き上がれる。大好きだった肉料理だって、また食べられるのよ。それに! 食べ物の味があんなに豊かだなんて、すっかり忘れていたわ」
太陽に負けないロリ巫女長の笑顔が眩しい。
オレを慰める気持ちもあるのだろうが、その笑顔に嘘偽りはないようだ。
「今、とっても幸せよ? だから、そんな風に笑顔を曇らせないで?」
先ほどまでの鬱屈とした念いが、彼女の笑顔で洗い流されていくような気がした。
さすがは聖女様だ。
「でもさ、ご主人様とリリーってどこで知り合ったの?」
アリサが旦那の浮気を探る妻のような口調で詰め寄る。
「テニオン神殿の聖域かしら?」
ロリ巫女長が悩むそぶりを見せたので、セーラを「蘇生の秘宝」で蘇らせた時が最初だと告げる。
アリサには前に話してあったし、ヒカルは立場上「蘇生の秘宝」の存在を知っていたので問題ないだろう。
なお、タマとポチは空になった大皿の補充に向かって、この場にはいない。
「たくさんお話ししたけれど、会ったのは3回だけね」
巫女長さんとの交流は数えるほどだが、彼女と一緒の落ち着いた時間は心地よかった。
彼女の死の間際に、あんなに取り乱したのは、あの心地良い時間を失いたくなかったのか、彼女の死に仲間達の死を重ねてしまったのかはオレにもよく分からない。
あの時、オレの心にあったのは「この人をここで死なせてはいけない」という謎の焦燥感だった。
オレには「予知」や「預言」のスキルは無いが、今にして思えば、焦燥感に従って彼女の寿命を否定したのは間違っていなかったと思う。
「さ、難しいお話はおしまいにしましょう。サトゥーさん、皆の所に行って焼き肉大会をたのしみましょう!」
「ええ、そうですね」
ロリ巫女長を抱え、アリサやヒカルと一緒に会場に向かう。
今日も一日楽しもう。
◇
「――お集まりの皆様。皆様に見送られて、聖女ユ・テニオン巫女長はテニオン神の御許に昇天なさいました」
焼き肉大会の数日後、公都の貴族街にあるテニオン神殿の大聖堂では巫女長の葬儀が行なわれていた。
「自分のお葬式なんて変な気分ね」
「巫女――リリー様、誰が聞いているか判りませんから」
オレとセーラに挟まれて、ロリ巫女長――リリーが足をぶらぶらさせながら儀式を見つめている。
「ユ・テニオンの名と称号はこれより、副巫女長ネーユナが受け継ぎ、新たな巫女長に就任いたします」
まっさきに拍手したリリーを見て、ネーユナ女史が恥ずかしそうに微笑む。
リリーを若返らせたあの日――。
始めは神の奇跡としてリリーの若返りを発表する流れだったのだが、巫女長は死亡したと発表して、既に引き継ぎを済ませていた副巫女長のネーユナ女史に後を任せる事となった。
若返りの奇跡を求めて大陸中から老人達が押し寄せてくる可能性が高い、というのがその理由だ。
ロリ巫女長の方は巫女見習いリリーとして、テニオン神殿のサポートをする事になるらしい。
なお、公爵や国王、国王の影武者などリリーの昔ながらの友人達には、勇者ナナシから若返った事を伝えてある。
リリーが勇者の従者をしていた時の知り合い――剣士のブルーメ・ジュレバーグ女史や迷宮都市のセベルケーア嬢――には、おいおい伝えるという事だったので連絡を手伝っていない。
◇
「ナナとナナのマしター!」
「ナナ遊ぶ!」
ナナと戯れるアシカ人族の子供が、オレに向かって手を振る。
彼女達のお仕着せは、エチゴヤ商会の紡績工房の制服だ。
もちろん、正規職員ではなく雑用係として雇われている。
「まあ、可愛いわ」
「かわいい? みこも可愛い」
ナナにホールドされたアシカ人族の子供をリリーが愛おしそうに眺める。
外見年齢が同じなので、なんとなく微笑ましい。
「マスター、お昼休みを彩る究極のお弁当を所望します」
「お弁当は用意してないから、露店で買い食いしようか?」
「マしター、メザシ美味しい」
「マしター、タコ串美味しい」
アシカ人族の子供達のリクエストに合わせて、メザシやタコ串が売っているお店に向かう。
「お口に合いますか?」
「ええ、小さい頃によく食べたわ」
両手にメザシ串とタコ串を持ったリリーが、ちょっと自慢気だ。
童心に返って楽しんでいるのだろう。
「おばちゃん、何か食べさせてー」
「あんた、また食いっぱぐれているのかい? 漬け物で良けりゃ喰いな」
「わー、ありがとー。おばちゃん、愛してる!」
人混みの中から、既視感を覚える会話が聞こえてきた。
「最近忙しそうだね」
「うん、仕方なく娼婦をやってた子達がみんな紡績工場に行っちゃったから、客が多くて腰が痛いわ」
「紹介状も無しに雇うなんて、エチゴヤ商会も太っ腹だね」
「あはは、初めは新手の詐欺だって、みんなで噂してたもん」
「あんたは行かないのかい?」
「娼婦ができるうちは行かないわよ。贔屓にしてくれてるお客さんもいるしね」
「そうかい、なら頑張りな」
「うん、だから、もうちょっと漬け物ちょうだい!」
前にクハノウ漬けの事を教えてくれたおばちゃんと娼婦のお姉さんの組み合わせだ。
相変わらず元気にしているようだ。
声を掛けようかとも思ったが、子供連れだったので控えた。
アシカ人族の子供達を紡績工場に送ったあと、皆と合流して、音楽堂で歌姫シリルトーアの歌声を楽しんだ。
予定より少し滞在期間が長くなったが、先を急ぐ旅でもないし、別にいいだろう。
公都の人達に見送られて、オレ達の飛空艇は飛び立つ。
次の目的地は、ドワーフ自治領。
ボルエハルト市のドハル老に会いに行こう!







