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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十四章

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14-7.パリオン神国(2)

※2015/10/07 誤字修正しました。

※2015/10/11 一部修正しました。

 サトゥーです。たまに自分が自分でないほど理性ではなく衝動で動いてしまうときがありますが、そんな時は素直に衝動に任せる事にしています。理詰めばかりじゃ、つまらないですからね。





「名前が読めぬな――貴様の名を名乗れ」


 偉大なる主から初めての命令が下った。

 相変わらず黒頭巾の下はどのようなご尊顔が隠れているのかは判らないが、きっと偉大な方に相応しい威厳のある顔なのだろう。


 先ほどの蛮行を謝罪したいが、命令に従う方が先だ。

 お怪我も治して差し上げたかったが、自分の魔法で治したらしい――違う、ご自分の魔法で治癒なさったようだ。


「私の名はナ――」


 名乗りの途中で、それが偽名だった事を思い出して口ごもる。

 交流欄を操作してサトゥーに戻さねば。


 なぜかロックされていて変更できない――どうしたのだろう?


「ふん、さすが我と同じレベル99。人の限界に到達した者だけはある。まさか、我が強制ギアスに抵抗するとはな……」


 口ごもった為に、我が偉大なる主に誤解を与えてしまったようだ。


 案外そそっかしいヤツ――いや、用心深い方だ。


 オレは脳裏に浮かんだ不遜な考えを打ち消し、主の誤解をすぐさま訂正しようと口を開いたが、あいにく主の言葉が続いていたので、それを遮るのも憚られる。

 オレはじっとお言葉が終わるのを待つ。


「重ねて命ずる! 我に従属し、貴様の名を我に告げよ! ■■■■■ 強制ギアス


 ユニークスキルの発動らしき紫色の輝きを帯びた後、主のスキルが発動する。

 レジストしてしまったとログに出ているが、主の名誉の為に秘密にしておこう。


 さて、そろそろ名を告げても大丈夫そうだ。

 名を告げる前に、変装の為の紫色のカツラを脱ぎ捨てる。


 なぜか視界の隅の赤い蜘蛛の巣が濃くなっている。


 我が偉大なる主のお姿が隠れてしまうじゃないか……。

 オレは変装マスクを取る前に、軽く腕を振って蜘蛛の巣を払う――。





 ――なるほど。


ボク・・はシガ王国の勇者ナナシだよ」

「ようやく、我が力が届いたか――面倒を掛けおって」


 オレは黒ずくめに名を告げながら、強制耐性スキルと強制スキルにポイントを割り振る。

 ヤツ・・の「強制ギアス」を打ち消して鮮明になった思考で、状況確認と対応策検討を始める。


 先ほどの赤い蜘蛛の巣のようなAR表示が、「強制ギアス」の効果を示していたようだ。


 効果を打ち消した時に、脳細胞を痛めたのか頭痛が酷い。

 オレは「苦痛耐性」スキルがオンになっているのを確認してから、体力ゲージを見る。

 すでに「自己治癒」スキルの効果で全回復状態だ。


 黒ずくめがオレとのレベル差を無視して、スキル効果を届かせたのはヤツの持つユニークスキル「一球入魂ソウル・ショット」の効果だろう。

 たぶん、アリサの「不倒不屈(ネバー・ギブアップ)」と同系の効果を持つに違いない。


 今まで状態異常攻撃を届かせたのが、アリサ一人だけだったから少し油断していたようだ。

 パリオン神国での用事を済ませたら、カリナ嬢のラカみたいな常設型の防壁装備を作って皆にも持たせよう。


 おっとそれは後で考えるとして、操られる前に使おうとしていた「精神防壁スピリッツ・ガード」の魔法を発動しておく。

 これでヤツの「強制ギアス」や精神に作用する系の魔法対策はバッチリだ。


 他にも注意するべき「反射カウンター」っていう厄介なスキルもある。

 オレの魔法ラインナップにある「魔法反射カウンター・マジック」や「空間反射カウンター・シェル」のユニークスキル版だろう。

 魔法と同じく、一回反射する毎に再起動が必要なアクティブスキルなら、再詠唱リキャストが必要だろうから付け入るスキがありそうだ。


 ――そうだ、再詠唱・・・だ。


 ユニークスキルを持つくせに、最初の時もヤツは詠唱をしていた。


 魔王の称号もないし、名前も「ソリジェーロ」というこちら風の名前だ。

 迷宮下層のムクロの話では転生者は神が命名するらしく、生まれたときから前世の名前が命名されているはず。

 ならば、ヤツは転生者でも転移者でもないはず。


「魔王! こいつからスキルとレベルを吸い出せるように眷属化しておけ!」


 黒ずくめ――ソリジェーロが魔王に命ずるが、残念ながら彼女はオレの当て身で昏倒したままだ。


「■■■■■ 強制ギアス――」


 オレが「強制ギアス」を唱えるのを耳にしたソリジェーロが、身体の表面に紫色の波紋を走らせた。

 恐らく「反射カウンター」のユニークスキルを発動させたのだろう。

 こちらは詠唱必須スキルではないようだ。


 その様子を確認してから、オレは命令を告げる。


「――指を一回鳴らせ!」


>強制の効果に抵抗しました。


 オレが命令を告げると、ログにそう表示され、ソリジェーロの身体を包む紫色の光が消えた。

 どうやら、ヤツの「反射カウンター」は詠唱不要タイプのスキルらしいが、毎回再セットが必要のようだ。


 よし、反射されたオレ自身のスキルに抵抗できるなら、ソリジェーロの強制なんて余裕だろう。

 後は「一球入魂ソウル・ショット」にだけ注意すればいい。


 オレはスキル欄から「強制ギアス」を選んで実行する。

 詠唱が必要なスキルも魔法と同様に、一回詠唱を済ませれば次回からは必要なくなる。


 ソリジェーロが都市核の端末らしき王笏セプターを掲げるのが見えた。


 ――おっと、都市核を使った転移で逃がすと後が面倒だ。


「転移を禁ずる」

「バカめ! ■ ぐあぁあああああああ」


 ソリジェーロが王笏セプターを片手に詠唱しようとするが、途中で悲鳴を上げて中断した。

 何か吐血している上に、ヤツの状態が「衰弱:命令違反」に変わっている。

 なかなか「強制ギアス」というスキルは危険なようだ。


 オレは再びスキル欄から「強制ギアス」を選んで実行する。


「あらゆるスキルの使用を禁ずる」

「て、転移でなければ―― ■ ぬぉおおおおお」


 魔法スキル・・・を使用しようとしたソリジェーロが激痛に転げまわる。


 ……学習しないヤツだ。


 脱げたフードからようやくヤツの顔が見えた。


 白髪交じりの金色の体毛をした猿人族の老人で、顔の左半分が焼けただれ、右半分には紫色の斑点が浮き上がっていた。

 捲れ上がった右袖から覗く腕は、手首から先の体毛が暗紫色に変色している。


「どうした? 我が醜いか? 生まれた時から神のご加護を得ている貴様らには、我らの渇望など判るまい? 神の力を求めた代償のこの貴色こそが我が信仰の証!」


 えっと――。


 噛み砕くと「ユニークスキルが羨ましかったので、人から奪ったら体毛が紫色になりました」って感じかな?

 念の為に確認したが、ヤツに「強奪」系のスキルは無かった。


「これで勝ったと思うな!」


 ソリジェーロが血の涙を流しながら慟哭する。

 その叫びに合わせて、二回ほど紫色の光の波紋が彼の身体を流れる。


 どうやら、ユニークスキルは「スキル」の内に含まれないらしい。


「ユニークスキルの使用を禁ずる」


 オレは新たな禁止事項をソリジェーロに課す。


 それにしても、「反射カウンター」はともかく、スキルの使えない状況で「一球入魂ソウル・ショット」は意味がない気がする。


 ソリジェーロが「剣」と呟いて王笏セプターを振ると、みるみる内に細身の片手剣へと変形した。

 なかなかファンタジーな武器だ。


 縮地のような鋭い踏み込みで目の前に出現したソリジェーロを、前蹴りで吹き飛ばす。

 反射的に回避スキルを使おうとしたようで、耳から血を流しながら地面をバウンドしていった。


 ヤツの手から離れた片手剣に「理力の手マジック・ハンド」で触れて、ストレージに回収する。

 これで命令違反覚悟で都市核の力を使う事もできないだろう。


 ふらふらと立ち上がるソリジェーロが腰のポーチから取り出した魔法薬を飲み干しながら、胸元から一本の巻物を取り出す。


「巻物ならば――」

「魔力の使用を禁ずる」

「――くそっ」


 さすがに三回目は学習したのか、取り出した巻物を投げ捨てる。


「行動を禁ずる」


 最後の命令を告げると、ソリジェーロが動きを止めた。


 ……なんていうか、言霊使いの神様か妖怪にでもなった気分だよ。


 オレが歩み寄ると、ソリジェーロが口の中から針のような暗器を撃ち出した。

 もちろん、軽々と避けたが、その隙に脱兎のごとく出口に向けて駆け出す。


 どうやら、最後の「強制ギアス」は抵抗されていたらしい。

 便利な反面、抵抗され易いスキルなのかもしれない。


「行動を――」


 オレが「強制ギアス」を重ねがけしようとしたタイミングにあわせて、ソリジェーロの体が暗紫色の光を帯びる。

 先ほどの「ユニークスキルを禁じる」という「強制ギアス」はレジストされていたようだ。

 カウンターを警戒して、俺は言葉をとぎらせた。


「ぐぉおおおっ」


 命令違反の影響か、ソリジェーロの耳や目から血が噴き出す。


 それでもヤツは出口に向かって、風のような速さで駆け出した。

 この隙に逃げるつもりのようだが、そうはいかせない。


 魔法欄から「誘導衝撃弾リモート・スタナー」を選択し、ヤツに次々と叩き込む。


「バ、バカな――」


 何発か反射されて返ってきたが、衝撃弾程度なら何千発返ってこようと問題はない。


 BAKUWANAAAAAAAAAAH!


 奇声を発したソリジェーロの体表が歪に変形していく。


 しまった――ユニークスキルの使いすぎで魔王化してしまったようだ。

 身長が二倍近くになり、猿度がアップしてしまった。


「行動を禁ずる」


 どうやら、魔王になったソリジェーロには効かないようだ。

 鬱魔王は「強制ギアス」で支配されているようなのに、何か理不尽だ。


 ――まあ、いいか。


 楽な手段が使えないだけでいつもと同じフルボッコ・コースで良いだろう。


 既に出した命令すら反古にしたらしく、魔法やスキルを使ってきた。

 理性が失われているようで、転移で逃げ出す様子は無い。


 雨霰と降り注ぐ魔法の炎弾や雷球を聖剣で蒸発させていく。

 いかにユニークスキルで威力を上げようと、魔法そのものを破壊してやれば意味がない。


 ガオ、ギャオと叫ぶ魔王を物理で叩きのめし、抵抗できないように手足を切断する。


「やっぱり、魔王はしぶとい」


 再生系のユニークスキルも持たないくせに、魔王が手足を再生してくる。

 ときおりヤツが使う「反射」は先ほどと同じく衝撃弾の連打で剥がした。


 一番危険な「一球入魂ソウル・ショット」と「強制ギアス」の重ね業だが、紫色の波紋で発動のタイミングが見えるので、「強制ギアス」発動の瞬間にゴーレムや幻影などの身代わりを置くだけで回避できた。

 タネが判れば、さほど怖くない。


 猿魔王が適度に弱ったところで、「神気に冒された黒腕」を介して「神の欠片」を抉り取る。

 それを二回繰り返すとヤツの「魔王」の称号が「元魔王」へと変化した。


『ごのせん、こそ、きゅーきょくのわざなりぃ』

『ふーんだ。いちげきにすべてをかけるの。あとのことなんてしらないもん』


 とぼけた調子の「神の欠片」を神剣で切り裂いて消滅させておく。


 なんのドラマも無かったが、これでヤツも元の猿人に――。


 戻るはずだったのだが、なぜかサラサラと黒い砂のような靄に変わって散っていく。

 まるで、魔族のようだ。


 元々身体に変な影響が出ていたみたいだし、シン少年と違ってソリジェーロには「神の欠片」を受け入れるだけの素養がなかったのかもしれないね。





「さて、君もオレと戦うかい?」


 いつの間にか目覚めていた欝魔王に尋ねる。

 彼女は靄になって散っていくソリジェーロを一瞥した後、のろのろと立ち上がる。


「ええ、命令には逆らえないの……」


 欝魔王はこちらにふらふらと歩み寄りながら、オレの質問に首肯する。


「今も強制ギアスの影響下にあるのか?」

「これは術者を殺しても消えないって言っていたわ――」


 欝魔王が諦めた笑顔で首を振る。


「お前が受けた命令はなんだ?」

「私が命じられていたのは『部屋から出るな』と『許可無く力を使うな』『侵入者の報告』、それから『可能なら侵入者を捕縛、無理なら殺せ』の四つよ――」


 なるほど、最後の命令でオレと戦わなければならないらしい。


 そういえばオレが洗脳のような状態になったのはなぜだろう?

 曖昧に「我に従え」と命令されたから、奴隷のようになったのだろうか?


 欝魔王がゆったりとした動作で、オレの首に繊手を伸ばす。


「――だから、殺して。できれば、あまり苦しまないようにしてくれると助かるわ」


 懇願されても、敵意の無い儚げな美女を切り殺すのは抵抗がある。


 ……そうだ。


「侵入者を殺さなくていい」


 オレは試しとばかりに、「強制ギアス」の重ね掛けを行う。


「痛っ、頭が割れるように痛い」


 欝魔王が苦しんで、床に座り込む。

 オレは彼女に寄り添い、麻酔系の治癒魔法で癒す。


「ご、拷問でいたぶる気なの?」

「すまない、そんなつもりは無かったんだが……ところでオレを殺さなくていいのか?」

「……え?」


 戸惑う欝魔王が己の手を見つめる。


「嘘、命令が解除されている」


 オレの推測通り、「強制ギアス」は上書きで解除できるようだ。


「提案があるんだが――」


 オレは入り口から姿を見せる「自由の光」の連中を排除しながら、欝魔王の説得を始める。

 皆との楽しい昼御飯を犠牲にした甲斐あって、彼女の説得になんとか成功する事ができた。


「それじゃ、『許可無く眷属化を行わない』『魔王としての活動をしない』『やむを得ない場合を除き日本的な道徳を守る』でいいのね?」

「ああ、それだけ守ってくれたら十分だ」


 彼女との間で「契約コントラクト」を結ぶ。


「二つほどお願いがあるんだけどいいかな?」

「内容による」


 オレは欝魔王の言葉に耳を傾ける。


「一つ目はこの国の法皇に与えたノリオ君のユニークスキルを回収するのを手伝ってほしいの」

「ノリオ?」

「ええ、隣の国に転生した男の子……」


 欝魔王の話を掻い摘むと、誘拐されてきた豹頭族のノリオ君(9才)のユニークスキルを、闇賢者に命令された欝魔王が「眷属化」と「譲渡」のユニークスキルを使って、ザーザリス法皇に与えたらしい。

 欝魔王にスキルを回収された後のノリオ君は、その場で闇賢者に首を刎ねられて殺されてしまったそうだ。

 また、他にも闇賢者が使っていたユニークスキルを持っていた二人の転生者達も、同様にユニークスキルを奪われて殺されてしまったらしい。


 オレはユニークスキルを与えられたばかりに殺された者達に黙祷を捧げつつも、小さな疑問を抱いていた。


 ――アリサとルルを「強制ギアス」で縛ったのは闇賢者とは別の者ではないだろうか?


 アリサの持つスキルは間違いなく有用だ。

 奪い取って自分の部下に与えれば、戦力アップは間違いない。


 どうやら、闇賢者と鼬人族の皇帝以外にも「強制ギアス」を使う者がいるらしい。

 レアなスキルだから、アリサ達に「強制ギアス」をかけた宮廷魔術師と闇賢者が同一人物だと思い込んでいた。


 早めに仲間達への対策手段を用意した方が良さそうだ。


「二つ目はこの城の地下に捨てられた人達を弔ってあげたいの」

「さっきのノリオ君達かい?」

「他にも沢山……」


 闇賢者が邪魔になった者や近隣の高レベルな者達を攫ってきて、欝魔王の能力を使って「自由の光」の幹部達のレベルアップやスキル獲得に利用していたらしい。

 吸い取るだけ吸い取った後は、拷問して殺し、怨念を生み出す為の道具に使っていたそうだ。


 なかなか人非人な行いだ。

 法皇のユニークスキルだけでなく、「自由の光」の連中が不当に奪ったレベルやスキルも弔いの供物に捧げるとしよう。


「分かった。君の願いを叶えるよ」

「ありがとう……勇者」


 笑顔を見せる欝魔王に力強く頷き返した。


 さて、お仕置きを開始しよう。


※次回更新は 10/11(日) の予定です。


※2015/10/11 ギアス上書きのシーンを少し修正しました。

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