SS:南の島
※2015/10/10 誤字修正しました。
「え~、南の島って海じゃないの?」
「そうだよ。まだ開拓が終わってないから、水着なんかで行ったら虫刺されや海岸の生き物に酷い目に遭わされるぞ」
水着に浮き輪装備でやってきたアリサを脅すように告げると、アリサに続いて部屋に入ってきた年少組がくるりと回れ右して着替えに行った。
魔法でいくらでも防御できるが、それは言わないでおいた。
浜辺で遊ぶのは砂浜を整備してからでも遅くない。
「ぶーぶー!」
「口でブーブー言ってないで、着替えておいで。開拓が終わったら、ちゃんと水着でバカンスできるようにするからさ」
「ほ~い。……約束忘れないでよ?」
渋々といった様子でアリサが部屋を出ていく。
年長組の魅惑の水着姿が見られなかったのは残念だが、これから幾らでも機会があるので、後のお楽しみにしておこう。
◇
「――暑い」
「南の島だからね」
だいたい38度くらいかな?
日本の猛暑日くらいだから、赤道付近のこの島なら涼しい方だと思う。
「スイカでも食べたいわね」
「ん」
探検家ファッションのアリサが、猛暑日の犬みたいに舌を出してリクエストしてきた。
ボルエナンの里で貰ったスイカの在庫がけっこうあるから、開拓の準備が終わったら出してやろう。
「バナナ~?」
「ポチはぱいなっぷーが食べたいのです」
タマとポチが鼻をスンスンさせながら、別々の方を指差す。
マップで調べたところ、タマの指す方向にバナナ、ポチの見る方向にパイナップルがある事が判った。二人とも良い鼻だ。
「タマ隊員、ポチ隊員!」
「あい!」
「はい! なのです」
オレが呼びかけると二人が軍隊式の敬礼で応じる。
「草刈装備にて、バナナ街道とパイナップル・ラインを構築せよ!」
「あいあいさ~」
「らじゃなのです」
二人が妖精鞄から取り出したオリハルコン製の巨大な草刈鎌を構える。
シャキーンと音がしそうな勢いだ。
「とつげき~」
「ポチの前に道はなく、ポチの後ろに道ができるのです」
草刈機も顔負けの速度で二人が、ジャングルの草を掻き分けて道を作り始めた。
「ご主人様が魔法でやった方がはやくない?」
アリサの意見はもっともだが、魔法だと簡単すぎてつまらないんだよ。
◇
よく冷えたスイカやパイナップルを齧りながら、オープン型の飛空ボードで無人島を周回する。
最初は徒歩の探検を行なっていたのだが、底なし沼や猛獣といった楽しい障害がほぼないうえに、やたらとヤブ蚊や害虫が多いのにアリサが切れたのだ。
騒いだりぼやくくらいなら良かったのだが、無人島を焦土にしようとしたので徒歩の冒険は中止した。
「しゃくしゃくぅ~。やっぱ、夏はスイカよね」
真っ赤なスイカに齧りつき、眼下の森にタネを吐き出すアリサは満面の笑みだ。
どうやら機嫌は直ったらしい。
「アリサに同意すると宣言します。タネを飛ばすのが楽しくて歓喜です」
ナナは真剣な顔でスイカを齧っている。
頬を伝った果汁が胸元に流れ込むのが色っぽい。
「マスター、拭いてほしいと嘆願します」
「いいとも」
果汁が気持ち悪かったのか、襟元を片手で引っ張りながらナナが依頼してきた。
オレはその願いを快諾して、ハンカチをストレージから取り出し――。
「いいとも。じゃ、なーい!」
アリサが既視感を抱かせるセリフと共にウガーッと天に向かって吠える。
「アリサ、急に立ち上がったら落ちるわよ。ご主人様、私が代わりますから、ハンカチを貸してください」
ルルがアリサを窘めながら、オレの手から素早くハンカチを取り上げて、オレの代わりにナナの胸元を拭いてくれた。
拭く時にオレとナナの間にルルがいたので、魅惑の谷間はその片鱗さえ覗かせなかった。
――ルル、恐ろしい子。
なんとなく心の中でアリサのマネをしていると、ミーアが寄ってきた。
「サトゥー、あ~ん」
「ありがとう、ミーア。パイナップルも美味しいね」
「ん、良い」
ミーアに食べさせてもらったパイナップルを咀嚼する。
この島のパイナップルは酸味と甘みが丁度良いバランスだ。王都や公都で流通していた高級パイナップルよりも遥かに美味しい気がする。
「ぱいなっぷーはデリンジャラスなのです!」
「そうだね」
両手にパイナップル串を持ったポチが楽しそうに同意する。
それはそうと、ポチ。美味しいのデリシャスと危険のデンジャーが混ざっているよ?
タマの取ってきたバナナがまだ青かったので、闇魔法の「腐敗」をカスタマイズしたオリジナル呪文で食べごろにする。やっぱり、魔法は便利だ。
「おおう、緑色のバナナが黄色くなっただとぅ?!」
それを見たアリサが目を丸くして驚きの声を上げる。
相変わらず、大げさなヤツだ。
「うみゃ~」
「ぱいなっぷーも美味しいけど、バナナも美味しいのです」
「ん、同感」
はぐはぐとバナナを食べる皆の横で、アリサが「バナナはオヤツに入りますか」というお約束のボケをして滑っていた。
そのまま食べるだけだと飽きそうなので、バナナシェイクを作ってみる。
シェイクは大好評だったのだが、その流れでスイカシェイクやパイナップルシェイクなんかも作る羽目になってしまった。
◇
「ところでさ、リザさんは放置していいの?」
アリサが海棲の魔物と戯れるリザを眺めながら聞いてきた。
リザは魔力鎧を応用し、魔力をカンジキのようにして海上に浮いているらしい。
その内、リザも天駆をマスターしてしまいそうだ。
「おかしいな? リザには海岸でゼナさん達のパワーレベリングを頼んでいたんだけど」
リザに限って飽きて遊んでいるって事はないだろうし、何か理由があるのだろう。
「あ、見て見て! 海岸でゼナたん達が魔物を倒したのを待って、魔物を一匹連れていったわよ」
アリサが眼下を指差しながら、状況を語ってくれた。
なるほど、ゼナさん達と戦わせる魔物の順番待ちを管理していたようだ。
リザは優秀なマネージャーになれるね。
海岸ではゼナさんとセーラさんが後衛につき、カリナ嬢が前衛を務める。
アタッカーのカリナ嬢だけでは戦線が維持できないので、盾役の砂ゴーレム10体を派遣しておいた。
地上で頑張るゼナさん、セーラさん、カリナ嬢の三人を激励し、オレ達は無人島の巡回に戻り、地図を片手に開発計画を立てた。
大きな入り江のある淡路島くらいの大きさの島なので、入り江付近に港と住居を作ろう。
「どうせなら、宮殿がいい! アラビアンナイトに出てきたみたいなやつ」
ふむ、塔の上に生クリームを乗せたようなヤツだっけ?
後で絵を描いてアリサに見せてみよう。
他の子達からも色々と意見が出た。
「お菓子の家」
「肉の家~?」
「ハンバーグの家が良いのです!」
「マスター、ぬいぐるみの家が良いと訴えます」
どれが誰の発言かは明記しないが、子供らしい自由なアイデアだ。
「厨房にはオーブンや蒸気レンジが欲しいです。洗濯機は無くても構いませんけど、洗濯物を雨の日でも干せる屋根付きのお庭があると嬉しいです」
ルルだけは現実的な意見をガンガン出してくれた。
一軒家を買う主婦のようで頼もしい。
日が傾いた頃に、リザ達を迎えに海岸に向かうと、ゼナさん達三人が木陰でぐったりと倒れていた。
熱中症ではなさそうなので、レベルアップ酔いだろう。
「肉がいっぱいでわくわくなのです!」
「てつだう~」
「ポチも解体のお手伝いするのです」
海岸で大量の魔物の血抜きや解体を行うリザの所へ、タマやポチが駆けていった。
今日の夕飯は海岸でのバーベキューに変更し、新鮮な海鮮や海獣の珍味に舌鼓を打つ。
こうしてオレ達は王都での忙しい日々を忘れさせてくれる、夏休みを思わせる休暇をたっぷり満喫した。
さて、明日からはまたお仕事だ。
気合を入れて頑張ろう!
※5巻発売記念SSラッシュは今回で終了です。
次回更新は8/23(日)の予定です。次回から14章諸国漫遊編の開始予定です。
※書籍版の感想や誤字報告は活動報告の「デスマ5巻感想(ネタばれok)」までお願いします。
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