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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十三章

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13-29.宝珠の陰で(1)

※2015/6/3 誤字修正しました。

※2015/6/3 一部加筆しました。


※今回は視点変更が一杯です。キライな方はご注意ください。

 時系列的には 13-27と13-28 の間のお話です。

◇ミト視点◇



「ヒマすぎるぅ~」


 下町の給水塔のひとつに腰掛け、わたしは眼下を眺める。

 朝方にイチロー兄ぃに迎えに来てもらってから、ずっとここから孤児院にいるシン君を監視しているけど、本当に何も無い。


 昨晩王都にやってきた緑魔族もシン君には接触しなかったらしいし、この子は一連の事件とは無関係なんじゃないかってわたしは思っている。


 ――おっと、接触者発見!


 共同井戸まで孤児院の子供達と水を汲みに来たシン君に、性格の悪そうな男の子達が接触している。


 聞こえないな……「聴覚強化ヒアリング・ブースト」の魔法を使ってみよう。


「――の荷運びだ」

「報酬は?」

「運び終わったらメシを食わせてやる。それでいいだろう?」

「孤児院に持ち帰れる物がいい」


 あらら、なかなかいい子じゃない。イチロー兄ぃがお節介を焼くはずだわ。


 それで話は纏まったのか、水汲みを子供達に任せたシン君が男についていった。

 わたしは身隠しのマントを羽織り、屋根の上を跳んで追いかける。


「これを運べばいいんだな?」

「ああ、共同墓地を抜けた先にある倉庫だ。前も行ったから判るだろ?」


 シン君と同じ年頃の子達が何台かの荷車を引いていく。

 彼らに仕事を任せた男達は「故買狐」というグレーな商会の人間みたい。商会名通り、盗品を売り捌く故買屋なのだろう。


 衛兵達に呼び止められる事もなく、シン君達の運ぶ荷車は目的地の目と鼻の先、共同墓地までやってきた。

 そして、そこには紫色の神官服を着た三人の男達が立ち塞がっていた。


 神官服に紫色は無い。

 でも、わたしが王様をやっていた時にあんな服を着ていた連中がいた。


 ――魔神信奉者「完全なる平等」。


 鑑定スキルを発動して紫神官を確認したけど、あいつらじゃなかった。

 イチロー兄ぃに聞いていた「自由の風」っていうお気楽オカルト集団の一員らしい。


 でも何かヘン。神官達の様子がおかしい。詳しく確認したら状態が「暗示」になっていた。


「なんだぁ? おい、神官サマ? ジャマだから道をあけちゃあくれませんかね?」


 荷運びをしていた少年の一人が道を塞ぐ三人を恫喝する。


「盗人の一味よ。その荷の中に我らが陛下へと捧げるべき品がある事は判っている」

「それをおいて速やかに立ち去れ」

「さすれば、命までは取らぬ」


 三人が淡々と告げると、少年達が激昂して短剣を抜いた。


「ざけんな! 荷を途中で捨てたら、俺達が責任を取らされるんだよ。命がいらないやつから掛かってこい!」

「よかろう」


 その幼い恫喝を嘲笑し、神官たちが細剣を抜く。


 ふ~む、シン君が怪我をしても問題あるし、あいつらが何を狙ってきたのか聞いてみよう。

 木立から飛び降りて、男達の前に跳躍する。


 振り回された短剣を箒で受け止め、突き出された細剣を「自動防御オート・ディフェンス」の魔法の小盾が防ぐ。


「何やつ!」

「ども~、通りがかりの美少女で~す」


 わたしの微笑みに男は渋面を、少年達は呆れ顔を返してきた。

 なんて失礼な男達だろう。イチロー兄ぃの爪の垢でも飲ませてやりたい。


「その身のこなし――女! 貴様、シガ八剣の『草刈り』リュオナであろう!」

「まさか、こんなに早く我らの企みを勘付くとは!」

「もはや躊躇はできぬ」


 神官たちが飛びのいて細剣を降ろす。


「降参する?」


 やさしく提案したけど、わたしの言葉は無視された。

 三人の神官達が胸元から取り出した赤い何かを額に当てて一斉に口を開く。


「「「短角(ショート・ホーン)よ、我が欲望を糧に残虐なる力を」」」


 神官達の叫びと共に神官服を内側から突き破って、ゴリラのような姿の下級魔族へと変化した。


「貴方達は逃げなさい!」


 わたしの命令に少年達が荷車を必死に引いて逃げ出した。


「荷物なんて捨てなさい!」


 ――GRROUWWWN。


 その忠告を遮るように、ゴリラ達が暴風の魔法で周囲をかく乱する。

 荷車がひっくり返り、少年達が墓石と一緒に転がっていく。


 よかった、シン少年は無事みたい。

 他の子達は立ち上がるなり三々五々に逃げ出していく。


 わたしは無限収納インベントリから取り出した聖剣に魔力を注ぎ聖句を唱える。


「≪踊れ≫クラウソラス、一三枚の刃となり天空を舞え」


 聖剣が次々と下級魔族を黒い塵に変えていく。


 聖剣達の頼もしい姿を視界の隅に納めつつ、視線を巡らせて神官たちを操っていた黒幕を探す。


 ――いたっ。


 背の低い獣人族が墓地の周囲を覆う藪の中へと姿を消す。


 シン少年や荷物も気になるけど、今はアイツを追おう。

 遺跡で起きた後に、新しい「使い魔ファミリア」と契約しておくんだったよ。




◇シン視点◇



 なんだコレ?


 なんだ?


 なんなんだよっ!


 荷運びの仕事を邪魔する神官が現れたと思ったら、変なオバサンが割り込んできて、最後には人が魔物に変身した。


 おかしいだろ?


 変すぎるだろっ!


「おい! 逃げるぞ! ぼけっとするな!」


 いつもは寡黙な蜥蜴人族のジェジェが皆を急かす。

 俺も慌てて荷車の後ろを押すのを始める。


「荷物なんて捨てなさい!」


 後ろからオバサンが叫んでるけど、そんな訳にはいかない。

 この荷物運びは犯罪ギルドの仕事だ。


 荷物を壊したり、盗んだりしたら奴隷落ちよりも酷い扱いを受ける事になる。


 ――GRROUWWWN。


 後ろから吹き荒れた暴風に、荷車と一緒に吹き飛ばされる。


「ま、魔族だ!」

「逃げろ!」


 皆、我先にと逃げ出していく。

 俺もひっくり返った荷車の下から必死で這い出す。


 ジャマな箱を押しのけると、ごろりと転がって中身の女神像が姿を現した。

 こんな時なのに、なぜか目が離せない。


 その女神像に手を伸ばしたところに二度目の暴風が吹き荒れる。

 女神像を抱え込みながら、地面を転がる。


 オバサンが取り出した青く光る剣が下級魔族を黒い塵に変えていくのが見えた。

「待て!」と叫んだオバサンが墓地の向こうに跳んでいく。


 ――助かったのか?


 俺はホッとしながら、手の中の違和感に気が付いた。

 女神像が砂のように崩れていく。


 中から現れたのは紫色の宝珠。


 内側から禍々しい光を放つ宝珠を砂の中から掬い上げ、俺は陽光に翳した。



◇アリサ視点◇



 ――ヤバイわ。


「この術式はペンドラゴン卿ならどんな解釈をするかしら」


 とか。


「このお菓子もペンドラゴン卿が作られたのですわよね。多才な方なのですね」


 とか、システィーナ王女の反応がヤバイ。

 反応や思考の流れが恋する乙女過ぎる。


 お陰で、昨日の「神酒ネクター」とか翡翠の話題がほとんど無くて、助かっているんだけどさ。

 まったく、チョロインにも程があるわよ。


 もしかしたら、うちのご主人様はフラグ建築士一級の資格でも持っているんじゃないかしら?


 そのご主人様からはさっき無事に「詠唱の宝珠」をゲットしたと「遠文ショートメッセージ」の魔法で連絡が来た。

 こちらが「遠話テレフォン」を受け取れないから、メールにしたのだろう。


 普段のご主人様からは考えられないくらいの浮かれっぷりが伝わってくる文章だった。

 保存を選べないのが悔しすぎる。


 そのメッセージの最後には詠唱の慣熟と魔法欄への魔法の登録を兼ねて、「人的被害の心配の無い場所」へ行って魔法実験をするって書いてあった。

 たぶん、迷宮都市セリビーラの西に広がる大砂漠で実験をするのだろう。

 スペクタクルな光景を想像するだけでテンションが上がる。


 お茶会を早めに切り上げて、わたしとミーアも見学に行ってみたいかも。


 システィーナの惚気を聞かされて、砂糖でも吐きそうな顔をしたミーアが「むぅ?」と呟く。

 その視線の先からパタパタと足音が聞こえてきた。


「お姉さま!」


 部屋に飛び込んできたロリ王女のドリスがシスティーナに抱き付く。

 後ろから追いかけてきたドリスの側仕え達が、あわててシスティーナに主の無礼を詫びている。


 大国の姫ともなったら、同腹の姉妹でも礼儀が必要らしい。


「翡翠ったら、昨日いつの間にか鳥篭の中に帰ってきてゴハンを食べていたのに、さっき見たらまたいなくなっていたの!」

「不思議ね――」


 神酒なんて飲ませたから、小鳥に変な能力でも芽生えたのかな?


 ご主人様に報告して何か手を打ったほうがいいって言わないと。

 できればベッドの中で顔を寄せ合って――ぐへへへ。


 わたしの楽しい妄想はぴるぴると囀る鳴き声に中断させられた。


「翡翠ぃいいい!」


 いつの間にか部屋に現れた翡翠が、ドリスのドレスや髪をひっぱってどこかに連れていこうとしている。


「やん! やめて、翡翠!」


 でもドリス王女にはそれが伝わらないみたい。

 今度はシスティーナの周りをくるくる飛びながら外へ連れ出そうと頑張っている。


 翡翠が妙に必死な様子なのが気になる。

 神酒を飲んで災害感知能力でも得たのかな?


「ん、ぴるる、ぴる、ぴる」


 ミーアが翡翠の鳴きまねをすると、翡翠も「ぴぴるぴるぴる」と鳴き声を返す。


「さすがエルフ様、鳥の言葉がわかるのですね!」


 侍女の一人が感嘆の声を上げる。

 ミーアはお澄まし顔でぴるぴると続けているが、アレは鳴き声を模倣して遊んでいただけだ。

 マンガだったらミーアの横顔に汗マークが出ているに違いない。


 ミーアを助けるついでに、ちょっと桜の大樹の上から王都の確認でもしよう。


「ちょっと、お手洗いに」


 わたしはそう告げて、ミーアを道連れに専用の係までいる豪奢なトイレに二人で入る。


「ご主人様から何の連絡もないから大丈夫だと思うけど、ちょっと外の様子を見ましょ」

「ん」


 刻印版が無くて精密な転移ができないので、転移魔法で桜の大樹の上空へ飛び出す。

 今日は晴れのはずなのに、日差しが翳っている。


「アリサ、上」

「うげっ、なんじゃそりゃあああああああ!」


 短距離転移で桜の天辺に座ったわたしは、ミーアに促されて空を見上げ、目にした異常な光景に驚きの叫びを上げた。


「岩?」


 王城の上空にできた亀裂から巨大な岩石が出てこようとするのが見えた。


 城本体と同じくらいの大きさだ。

 あれが落ちてきたら、城の人達に大きな犠牲がでるだろう。


 わたしはすぐさま「無限遠話ワールド・フォン」を実行するが、ご主人様につながらない。

 着信拒否ではなく、遠話の魔法が届かないほど遠くみたいな反応だ。


「アリサ」


 ――しかたない、決断は迅速に。


全力全開(オーバー・ブースト)


 紫色の輝きがわたしを包む。

 精一杯かっこいいポーズを決め、気合を篭めて魔法名を叫ぶ。


「『転移門ゲート』よ開け!」


 気合とノリがユニークスキルの効果を底上げする。


 空に開いた民家を飲み込むような転移門がぐぐぐと広がっていく。

 でも、あの岩を転送させるには小さすぎる。


「魔法薬」


 ミーアが飲ませてくれる魔力回復薬を気合で嚥下する。

 ちょー甘い。歯が溶けそうに甘いけど、パワーが湧き出てくる。


 ご主人様の愛がわたしの魔力を瞬く間に全回復させてくれる。


全力全開(オーバー・ブースト)あぁああんど、『転移門ゲート』おーぷん!」


 魔法の重ね掛けで転移門を広げる。

 紫色の輝きが次元の切れ目にまとわり付き、ぐいぐいと転移門の輪が広がっていく。


 でも、まだ少し足りない。


 このままでも城は助かるけど、城の周囲に甚大な被害が出る。

 ゼナたん達の待機している駐車場やカリナのいる迎賓館あたりはヤバイはずだ。


「血」


 無理を重ねたせいか、指先の毛細血管が裂けて血が噴き出している。

 ハンカチを巻いて手当てしてくれるミーアに礼を言うのは後。


 二本目の魔法薬を飲み干し、本日三度目のユニークスキルを使う。


 全力全開(オーバー・ブースト)


 ギシギシと魂の奥底が軋むように悲鳴を上げる。

 親知らずを三本くらい纏めて抜いたような痛さが身体を襲う。


 前にご主人様から注意されたっけ。

 ユニークスキルを使いすぎて魂の器が壊れたら魔王に落ちるって。


 ――でも、ここで逃げちゃ、女がすたるってモンよ!


 今、無理をしないでいつするっていうのよ!


「いっけえぇえええええええ!」


 全力の魔力を載せた「転移門ゲート」が不安定に揺れながら広がっていく。

 わたしの実力じゃ、転移門を制御しきれない。


『ドライアド! 力を貸して! 乞い願うはミサナリーア! 精霊眼を備えしボルエナンの精霊使い!』

『いいよ~、ここは手伝わないと桜が散っちゃうものね』


 ミーアがエルフ語で何か叫ぶと、桜の大樹からピンク色のドライアドが現れた。


『お嬢ちゃん、桜の大樹を杖の補助具としてつないであげるから、あとは頑張りなさい』


 言葉は判らないけど、急に制御が楽になってきた。

 今にも術が解けそうだった「転移門」が静謐な水面のように凪ぐ。


 そしてついに天から巨岩が降ってきた。


 ダメッ! 少し位置が悪い。


 ――ふんぬっ。


 気合を入れて「転移門」を巨岩の落下地点にズラす。

 額の血管が裂けたのか、視界が赤く染まる。


 でも、無理をした価値はあった!


 巨岩が「転移門」を抜けて郊外の平原に出現する。地面を巨岩が跳ねる度に、震度3くらいの地震が王都を揺らす。

 そのまま巨岩は転がっていき、近くにある山を引き裂いて止まった。


「ふぅ、翡翠のお陰ね。あの子が報せてくれなかったら、わたし達はともかく王城の人達は救えなかったわね」

「アリサ」


 ミーアが差し出す魔法薬を飲みながら、さっきから警報を鳴らす緊急報知魔法道具に視線を移す。

 これは仲間に何かあった時に危機を知らせる道具だ。


 その中のリザを指すランプが光っていた。

※2015/6/3 アリサが翡翠の行動について言及するように加筆しました。


※次回更新は 6/7(日) の予定です。


 さすがにサトゥー登場まで書き終わらなかったデスよ。



●登場人物


【シン】

 アリサが王立学院で出会った白髪の美少年。現地産の勇者らしい。


【システィーナ】

 シガ王国第六王女。18歳。王城の禁書庫への出入りが許可されている。母親がビスタール公爵の娘。アリサやミーアの友人。


【ドリス】

 シガ王国第十二王女。10歳。システィーナの同腹の王女。


【翡翠・改】

 ドリス王女のペット。魔物化をサトゥーに解除されて神酒を飲んで回復した。

 種族が神鳥になっている。壁抜けをしていた。


神酒ネクター

 神気に冒されていた時のサトゥーの血が混じった上級魔法薬。

 サトゥーが誤魔化すために「神酒」と言ったはずなのに名前が変わっていた。


短角(ショートホーン)

 人を魔族へと変化させる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アリサよくやった! それにしても ひとりひとりの生きる指針とか 性向、性癖、趣味趣向を これだけ登場人物がいながら うまく書き分けていて 素晴らしいと思います。 [一言] アリサはもしや …
[一言] 前世も今生も女だけど、アリサが男前過ぎる。 アリサが前世で男に恵まれなかったのは、きっと軟弱な男の多くより頼もしかった所為でしょう。 釣り合える男が少なさそうだ。
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