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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十三章

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13-27.オークション三日目(2)

※2015/5/24 20:05 誤字修正しました。


 サトゥーです。ハリウッド映画が好きです。息もつかせぬジェットコースターのような窮地脱出窮地のコンボが堪りません。でも、現実はもっと穏やかでいいと思うのです。





 オークションが始まった。

 大学の講堂のようにすり鉢状になった会場の一階には、300名ほどの人間が着席している。

 オレ達がいるような貴賓席は会場の中ほどからバルコニーのように突き出て、幾つも存在していた。

 全部で30席ほどあるようだ。


 パンフレット代わりの案内嬢によると、宝珠の出品は第一部の最後の方らしいので一時間ほどは手持ち無沙汰になりそうだ。


『皆様! この「遠見筒」はセリビーラの迷宮第三一区画の宝箱より発掘されたる品で――』


 広いステージの中央で司会がマイク片手に出品物の説明を告げる。

 出品者が誰かなどの説明は含まれていなかった。


 やがて入札が始まったのだが――。


『金貨一〇』

『金貨一〇と銀貨二』

『金貨一〇と銀貨四』

『金貨一一』


 などと言った感じで、入札額が非常に渋い。


 オークション会場は少し暗めの照明になっており、口上を述べる司会や札を上げる入札者にピンスポットが当たるようになっていた。

 入札用の札は掲げると光を発する仕組みになっているらしく、札を揚げた者がすぐ判るようになっているようだ。


 複数の札が上がった場合は早い者順になるらしい。


『金貨一四』

『……他に入札者がおられませんので落札と致します。「遠見筒」の落札者は921番の方となりました!』


 司会が落札を宣言すると会場から拍手が送られる。

 手の動きと音が合っていないから、たぶん魔法道具による効果音だろう。


 落札者は名前ではなく番号で告げられるようだ。

 無用な混乱を避けるためというより、入札者が誰かわからないようにするために違いない。

 ちなみにオレの入札番号は3番だ。たぶん、ミツクニ公爵家の代理人として会場入りしたからだろう。


 それにしても軍関係の者や下級貴族が中心のせいかもしれないが、相場の三割程度の値段しかついていない。

 おそらく、会場にいる者達の狙いは「祝福の宝珠」なのだろう。

 ライバルが多そうだ。


 それなりに興味深い魔法の品が出品されていたが、それらに浮気する事なくオレは粛々と「祝福の宝珠」の出品を待った。


「クロ様、落ち着いてください。そんなに心配しなくても絶対に落札できますから」


 横の席に腰掛けた支配人から、慈母のような暖かい眼差し付きで諭された。

 やはり「ぐぬぬ」と声を漏らしたのがいけなかったのか、それとも落ち着き無く貴賓席に牽制の視線を送ったのがまずかったのか……いや、貧乏ゆすりが……。


 こほん、と咳払いを一つして威厳ある声で支配人に言葉を返す。


「心配などしておらぬ。私は落ち着いている」

「はい、勿論です」


 支配人が頷いて炭酸入りの果実水のグラスをオレに差し出してきた。

 慈母のような表情が気になるが、ちょうど喉が渇いていたところだ。


 くいっと飲み干すと、清涼な刺激が喉を滑り落ちる。


「もう、一杯頼む」

「はい」


 二杯目を飲み干すと、気持ちが落ち着いてきた。

 少し気負い過ぎていたようだ。


 本番まで、もう少し落ち着かねば。





 そして、待望の「祝福の宝珠」の番がやってきた。

 今回出品されるのはオレ達の「水魔法」「麻痺耐性」の二つ、ジェリル達の「光魔法」「詠唱」の二つ、そして他の者達が出品した「運搬」「大剣」「算術」「園芸」の四つ、この合計八つの「祝福の宝珠」が出品される。


 予定ではショボイ品から出品されるはずだったのだが、入札の渋さを懸念した運営サイドがテコ入れを図ったらしい。

 一番初めに目玉の「光魔法」を投入してきた。


 その狙いは当たったようで――。


『金貨150!』

『金貨153!』

『金貨160!』


 ――と矢継ぎ早に値段が上がっていく。


「思ったよりも伸びが悪いですね……」


 オレの横で支配人が首を傾げる。

 そういえば迷宮都市でギルド長やジェリルから聞いた話では「200年前に出た時は金貨3000枚で落札された」との事だったから、イマイチなのかもしれない。


『……金貨……920!』

『金貨930!』

『……金貨……931!』


 ジリジリと値段が上がっていくが、なかなか決着が付かない。

 聖騎士団への入団条件に「光魔法」があるからか、武門の名家や上級貴族からの入札が激しい。

 なんとしてでも落札しようとする強い意志を感じる。


 サトゥーとしての代理人も雇ってあったのだが、上限が金貨500枚だったので早々に札を降ろしてしまったようだ。


 それは良いとして、このままだと――。


「思ったよりも長引きますね。このままだと宝珠の出品が全て終わる前に、休憩時間になりそうですね」


 それはまずいな……だが、オレが介入して落札したら、肝心の「詠唱の宝珠」のところで他の貴族達に粘着されかねない。それは少し遠慮したい。


 最終的に45分もかけて「光魔法」は金貨1096枚で落札された。

 仮面を着けていたが、あれはオーユゴック公爵だろう。


 そこからは早かった。


 ――「大剣」の宝珠、金貨12枚。

 ――「算術」の宝珠、金貨31枚。

 ――「園芸」の宝珠、金貨7枚。

 ――「運搬」の宝珠、金貨5枚。


 需要が薄い宝珠は安いようだ。

 そして残りが「詠唱」「水魔法」「麻痺耐性」の順となる。


『では続きまして、迷宮都市セリビーラの中層でミスリルの探索者パーティー『獅子の咆哮』が率いる軍団が『階層の主フロアマスター、炎蛇』との激闘の末に――』


 前口上が長い!

 いいから、さっさと入札させろっ!


「クロ様――」


 支配人が繊手をオレの手に重ねて囁く。


 いかん、いかん。クールにならねば。


『――では入札を開始いたします』


 オレは素早く札を上げたが、ピンスポットはオレではなく会場の下級貴族に当たった。


 会場を見回すと6本以上の札が上がっている。


 やはり、「詠唱の宝珠」は人気らしい。

 あの無理ゲーな呪文詠唱に躓く人間は多いようだ。


 オレは5番目だと案内嬢が教えてくれた。

 なんでも、同時の場合は細いライトで札を順番に照らして通知するそうだ。


 さて、それはさておき。


 最初の下級貴族がハリのある声で金額を告げる。


『金貨10!』


 ――様子見が過ぎる。


 順番にスポットライトで照らされた貴族や代理人達が金額を告げていく。


『金貨11!』

『金貨12!』

『金貨12と銀貨1!』


 ――遊びすぎだ。


「クロ様、どうぞ」

「うむ――」


 オレはマイクを受け取って少し溜める。


 まずは前哨戦だ。

 有象無象は切り捨てて、本当に競り合う相手だけを残そう。


『金貨100』


 オレは静かにそう告げて、オレの次に入札するであろう貴賓席の一つに視線を向けた。

 門閥貴族のなんとか伯爵が告げる金額を待つ――。


 彼はオレの出方を見極めるためか、長考を続ける。


 なかなかやり手のようだ。


 相手にとって不足無し。


 そして、会場のスピーカーから声が出る。


『「詠唱の宝珠」の落札は3番の方となりました』


 ――え?


「おめでとうございます、クロ様」


 支配人の祝福の言葉と会場からの拍手が聞こえてくる。


 いや、まだ金貨30万のほとんどが残っているんだけど……。


 なんとなく、やるせなかったので残りの「水魔法」「麻痺耐性」も大人気ない値段で落札した。

 落札してから思い出したが「水魔法」と「麻痺耐性」の宝珠はオレ達が迷宮から持ち帰った品だったよ。





「クロ様、どうかなさったのですか?」


 落札品の引渡し場所へ向かう道すがら、釈然としない雰囲気が出てしまったのか支配人から心配されてしまった。


「いや、過去の落札額から考えても『詠唱の宝珠』が安すぎたと思ってな」

「そういえばそうですね」


 過去履歴によれば「詠唱の宝珠」は金貨200から400前後で落札されていた。

 その答えは先導してくれている案内嬢からもたらされた。


「それは代理人様が揚げた札のせいでございます」

「札?」


 オレは問い返しつつも得心した。


 たしか、入札可能額によって色が違ったはず。

 オレのは上限一万だったから、それを見て他の者達は入札を控えたのだろう。


 高レベル騎士達による厳重な警戒がなされた引渡し場へと入る。


 先に入室していたオーユゴック公爵の代理人が対価の確認を行なっていた。

 オレも別のテーブルに案内され、入札額に相当する金貨の袋を出していく。


 ――光点の一つが消えた。


 すかさずマップのマーカー一覧を開く。


 ――オノレッ!


「ク、クロ様?」


 知らないうちに「威圧」スキルを使っていたのか、周りの人たちが青い顔で固まっている。


「宝珠が盗まれた。我は咎人を追う。支配人は落札手続きを済ませておけ」

「しょ、承知いたしました」


 オレは支配人の返答を確認し、その場を後にした。





 宝珠を盗んだ相手は「怪盗」だ。

 オレの「詠唱の宝珠」は怪盗のアイテムボックスの中にある。他の宝珠も根こそぎ奪ったようだ。


 先日の怪盗かと思って詳細を確認したが、怪盗違いらしくピピンという可愛い名前のオッサンだった。


 それにしても逃げ足が速い。

 10秒と経たずに会場の外に出たのに、もう相手は数百メートルも彼方だ。


 閃駆で追いかけて、逃げ足の異常な速さの理由がわかった。


 ――短距離転移だ。


 レアなギフトだが逃がしはしないっ!


 ユニット配置でピピンの前に移動する。


「追っ手かっ!」


 短距離転移で下町に向かうピピン。

 どうやら、一回の跳躍で飛べるのは300メートルほどのようだ。


「ば、馬鹿なっ!」


 狼狽しつつも、ピピンは再度短距離転移を行う。


 都合五回の転移でピピンは逃げるのをやめた。

 残MP的にはもう一回だけ飛べるようだ。


 四階建ての集合住宅が立ち並ぶ界隈だが、このアタリの建物は廃屋らしく一般人・・・の姿が無い。


「どうした? 追いかけっこは終わりか?」


 鼠をいたぶるようなオレの言葉を聞いて、ピピンがニヤリと笑う。

 恐らくさっきから反応している「罠感知」や周囲の建物に潜む赤い光点達に期待しているのだろう。


「――そうさ、終わりだ」


 周囲から「オレのいた場所」に向かってトリモチ弾の雨が降り、落とし穴や投網の罠が発動する。

 意外な事に非殺傷系の罠ばかりだ。


「くくく、我輩のように転移が使えねば逃げようもあるまい」

「そのようだな」


 勝ち誇る怪盗の背後から同意の言葉を投げる。


「な、何っ!」


 驚きつつピピンが最後の転移を行う。

 なかなか諦めないヤツだが、これで終わりだろう。





 ユニット配置で移動した先には二つの人影があった。

 こちらに背を向けて立つピピンの傍らには、先日サトゥーに化けたもう一人の怪盗「シャルルルーン」が立っていた。


 なるほど、ここで落ち合う予定だったのか。


 複数にバラけられても面倒だ。

 この辺で始末しよう。


「ちょ、ちょっと! 待ちなさいよ」


 オレが縮地を使おうとした瞬間に、シャルルルーンが慌てて手を振って制する。

 ピピンの方は黙したままだ。


 シャルルルーンが天鵞絨びろうどの袋をこちらに投げた。

 袋の軌道に沿ってマーキングした光点が近寄ってくるのがレーダーに映る。


 パシッと受け取り、そのままストレージへ収納する。

 これで暢気に話しても大丈夫だろう。


 どうやら、ピピンは昏倒しているようだ。


「どういうつもりだ?」

「なによ? エルテリーナ女史から聞いていないの?」


 オレの問いにシャルルルーンが首を傾げて不思議な名前を漏らした。


 ――エルテリーナ?


 ああ、支配人の名前か。


 よく見るとシャルルルーンの所属が「エチゴヤ商会」になっている。


「そうだ、弟の居場所を見つけてくれたのはアンタなんでしょ? 感謝する。お陰であのクソ共と縁が切れた」


 ふむ、この間、支配人から頼まれた人探しの件か。


「それは重畳。その男の連行は任せた」

「わかった。ところで宝物庫アイテムボックスの中のアイテムはどうする?」

「任せる」

「じゃ、『強制開庫』はエチゴヤ商会に行ってからやるよ」


 そう告げて、ピピンを担いだシャルルルーンが屋根伝いに去っていく。

 なるほど、どうやってアイテムボックスから「宝珠」を取り出したのか疑問だったが、アイテムボックスを強制的に開くスキルがあったらしい。後で教えてもらおう。


 オレは「誘導気絶弾(リモート・スタン)」でピピンの仲間を無力化したあと、衛兵達を集めるために空に向けて花火の魔法を三発打ち上げた。

 雑魚の後始末は衛兵に任せよう。





 ストレージから「詠唱の宝珠」を取り出す。


 ふふふふふ――。


 口から零れてくる笑い声を抑えながら、その勇姿を見つめる。

 ようやくオレの手中にやってきた。


 支払いの完了は「遠話テレフォン」の魔法で支配人に確認済だ。


 もはや我が手を阻む者無し。

 オレは万感の想いを篭めて、「詠唱の宝珠」を天に翳した。

 陽の光を受けて宝珠がキラリと輝く。


 さあ! これでどんな魔法も使いたい放題だ!


※次回更新は 5/31(日) の予定です。



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 詳しくは帯か特集ページ(http://www.fujimishobo.co.jp/sp/201403deathmarch/)をご参照ください。


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― 新着の感想 ―
[一言] やべーぞ!サトゥーに詠唱の宝珠をわたすのはテロリストに核爆弾を渡すようなもんなんじゃね?!どんなことをやらかすんだ!?巻き込まれた人ドンマイ。
[一言] 盛り上がりに比して、呆気なかったな? 大物をひっかけた釣り糸が、急に軽くなった感じだ。 ラストで思い出したのが、ピィー! に刃物……
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