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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十三章

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399/738

13-24.赤縄の秘密

※2015/5/3 誤字修正しました。

※2015/5/4 一部改稿しました(20:45)。


 サトゥーです。ノベルゲームならいいのですが、自由度が求められるRPGの強制イベントにはどうしても素直に従えませんでした。作る側になると、あの方が楽だと分かるんですけどね。





 ゼナ隊も交えた夕食を終え、オレはクロの姿でエチゴヤ商会にいた。


 なお、元宮廷料理人の作る晩餐は素晴らしかった。


 味自体はルルやオレが作るのと大差なかったが、蒸し魚に塩漬けの花を飾って小さな喜びを誘ったり、味が飽きないように要所要所で苦味や酸味を用いた小皿を挟んでバランスよく舌をリフレッシュさせてくれた。

 こういった小さな工夫や気配りが、スキルの枠を超えた宮廷料理人としての経験から来るものなのだろう。


 実に良い経験になった――。


「クロ様、何か良いことでもございましたか?」


 オレ以上に機嫌の良さそうな支配人が尋ねてきた。

 支配人の横で書類を捲るティファリーザはいつもどおりのお澄まし顔を崩さない。


「大した事ではない。それよりオークション二日目の報告を頼む」

「はい、承知いたしました」


 オークション二日目に出品したのは各種魔法薬だ。


「今回出品いたしましたのは育毛剤64瓶、元気薬288本、中級の体力回復薬24本、中級の魔力回復薬24本、栄養剤144本、腰痛解除薬20本、肩凝り解除薬20本、頭痛解除薬144本の合計952本となります」


 人気商品の育毛剤は1月分が一単位なので出品数が少ない。元気薬はダース単位での出品だ。


「腰痛解除薬や肩凝り解除薬なんて出品したのか?」

「はい、双方4本ずつを『もにたー』として、通年で繁忙状況の高い文官に配ってみたところ、なかなか芳しい評価を戴きましたので出品枠に入れてみました」


 前に冗談で作って使い道のない薬だったから、文官達に全部配ってもいいくらいだ。

 材料も迷宮上層奥ではありふれた素材しか使わないし、作る手間も大して無いのでリピーターがいるなら作ってやってもいいかな。

 元の世界にいたときは肩凝りに悩まされたから、その辛さは分かるしね。


「オークションでの競売価格の総額は金貨3592枚となりました」


 ふ~ん、そんなモノか。

 魔法剣の一割強――いや、マテ。


 何かおかしい。


 オレにしか量産できない魔法剣はともかく、魔法薬の方は材料があってレシピさえ知っていたら誰でも作れるような品だぞ?


「予想よりも高いな。何があった?」

「はい、育毛剤と元気薬が奪い合いになるのは想定の範囲内だったのですが――」


 そんな想定があったのなら、一言言ってくれたら徹夜で量産したのに。


「今回は序盤にビスタール公爵やロイド侯爵の代理人が熱戦を繰り広げてくださいましたので、他の方々も釣られて入札してくださったようです。それにどちらも予約待ちが一ヶ月を超える人気商品ですから」


 なるほど……。

 それにしても、ビスタール公爵とロイド侯はどちらも禿げていないのに、育毛剤なんて何に使うんだろう?

 身内で必要な人がいるのかな?


「体力回復薬は出征予定のある騎士のご実家の方々が、魔力回復薬はシガ三十三杖の方々が、先を争って購入されていました」

「――上級魔法薬と同等の回復効果があるという鑑定書が出回っていたようです」


 支配人の報告にティファリーザが補足する。


 上級魔法薬は一般には出回っていないので競争になるのは頷ける。

 なにせ有名な錬金術師に錬成を依頼しようにも、素材集めが面倒なので誰も上級魔法薬の作成は請け負ってくれないのだ。


 何より材料の「血珠」を得るには「死者の迷宮」というアンデッドの巣窟まで行って、吸血鬼を倒す必要があると世間では言われている。

 しかも、吸血鬼は難敵の上、「血珠」はレアドロップなのだ。

 将棋で勝っただけで手に入るルートはめったに無い。


「栄養剤は順当な売れ行きで特筆事項はありません。腰痛解除薬、肩凝り解除薬、頭痛解除薬の3種は宰相閣下の家門の方が買い占めておられました」

「――その件について宰相様から書状が届いております」


 ティファリーザが差し出してくれた書状を確認する。

 ご丁寧にも封蝋がしてある。


 支配人が手渡してくれたペーパーナイフで開封する。


「宰相閣下からはなんと?」

「宰相府からの定期購入依頼書だ」


 宰相本人が使うわけではなさそうだが、毎回薬を買うくらいなら魔法使いに癒させればいいのに。

 そんなオレの疑問が伝わったのか、ティファリーザがアイスブルーの瞳を揺らして補足してくれた。


「クロ様の肩凝り解除薬と頭痛解除薬は効果の即効性と持続性で下級回復魔法より優れます。中級以上の回復魔法には劣るかもしれませんが、そんな瑣末事に中級魔法が使える魔術士を使ったら確実に離職されてしまうでしょう」


 もしかして、ティファリーザも頭痛持ちなのかな?

 水増しレシピもある事だし、量産してみるか。


「宰相殿に定期販売に応じると返事を出しておけ。それから、その三種の魔法薬のレシピを後で渡す。適当に腕の良い連中に作らせて、同等の品質の物が作れないか確認しておけ」


 需要が多いようなら、供給者を増やしてみるのもいいだろう。

 オレ抜きのエチゴヤ商会で黒字商品が増えるのは歓迎したい。





 オークションの第二会場に下町の工場で作っている商品を出品したらしいが、こちらは普通の売り上げだったので聞き流した。

 オレの関わらない範囲で黒字であればそれでいい。


 事務処理を終え、新人奴隷のメイドが淹れてくれたお茶で喉を潤す。


 お茶請けはオレが幹部達に差し入れたモンブラン・ケーキだ。

 ルル経由で栗の良いのを貰ったのだよ。


「クロ様、不躾なお願いで申し訳ないのですが、トリルという人物の現在位置をご存じないでしょうか?」


 珍しく支配人がそんな事を尋ねてきた。

 聞き覚えの無い名前だ。


 マップで国王直轄領を検索したところ、近傍の村に一人、分岐都市に一人、王都近郊の山中に一人いる事が判った。同名は三人だけのようだ。


「判らない事は無いがなんの為だ?」

「その人物の居場所を教えるのが、有力な協力者を確保する為の条件なのです」


 ――なるほど、エチゴヤ商会の協力者作りの一環か。


 支配人が「有力な協力者」と評するなら確保に協力するのに吝かではない。


「構わんがトリルなる人物の年齢はどのくらいだ?」

「はい、11歳になる少年だそうです」

「それならば王都の北北西の山中にある洞窟の中だ。地図は必要か?」

「は、はい可能ならば……」


 ティファリーザの差し出してくれた紙に手書きでサラサラと書き込んでいく。

 等高線も描いた方が親切だが、ファンタジー世界の地図らしくなくなるので、その辺は自重した。


 もう一枚貰って洞窟内の地図も描いておく。


「何に使うのか知らないが、この地点に致死の罠があるから気をつけろと先方に伝えておけ」

「はい、畏まりました」


 明らかにやりすぎだが、クロに関してはいつでも身分を消せるので問題ない――。


 やっかい事に巻き込まれた場合、魔王と戦って死んだ事にできるからね。

 もちろん、クロを倒す魔王は自演する。


 ――そんなバカな事を考えてしまったが、どの程度までの情報を相手に伝えるかは支配人が調整してくれるだろう。

 オレが面倒事を嫌うのは知っているはずだから上手くやってくれるはずだ。


 お茶のお代わりを頼もうか迷っていると、オレの耳に幻聴が届いた。


 ――ぴぴる、ぴる。


「クロ様、その鳥はクロ様の飼い鳥ですか?」


 支配人が頬に手を当てて尋ねてくる。

 彼女の視界の先には外套掛けに止まって喉を鳴らす翡翠色の鳥の姿があった。


「――クロ様、お気を付けください」

「どうしたのです? ティファリーザ?」

「あの鳥は窓と扉が閉ざされたクロ様の執務室に侵入しました」


 ティファリーザの言葉に支配人が息を呑む。

 この部屋は防諜の為に換気自体を空気清浄の魔法道具で行なっているので、窓や扉を閉めると完全に密閉されるのだ。


 ――ぴる、ぴる。


 翡翠がこちらを見てもう一度鳴くと前と同じように――。


>ユニット名「翡翠」が所属を求めています。許可しますか(YES/NO)


 ――ポップアップ・ウィンドウが出た。


 もちろん、オレはNOを選択する。

 YESを押すまでループする強制イベントは嫌いなのだ。


 ――ぴる。


 オレに再度拒否された翡翠が悲しそうな表情で涙を浮かべて、振られた思春期の少女のように部屋の外へ飛び去った。

 その時にガラス窓を割らずに飛び去るのを、この目で確認してしまった。


 なお、マップの詳細上で確認した翡翠のステータスは以前のモノと大きく変わっていた。

 レベルは10と普通だったが、分類が幻獣、種族が「神鳥」に変わっている。


 種族固有能力には「物質透過」「短距離転移」「保護色」というのがあるようだ。

 テイムすれば優秀な諜報役になりそうな気もする――って、オレへの伝達手段がないか。ぴるぴる言われても鳴き声は翻訳できないからね。


 翡翠に付けたマーカーを追いかけると、王城の離宮へと向かっている事がわかった。

 今度こそドリス王女の所に帰ったのだろう。





 ホッとしたのも束の間、今日のオレはトラブルに愛されているらしい。

 エチゴヤ商会から隣のペンドラゴン邸に帰還したオレの元に、王都周辺に配置したカカシからの警報が届いたのだ。


 ――トン、ツー、ツー。トン、ツー。トン、ツー、トン……。


 オレはマップを開いて魔族とレベルでOR検索を掛ける。

 国王直轄領外縁部に緑魔族の擬体アバターを発見した。従魔のワイバーンに騎乗しているのか移動速度が速い。


 オレはユニット配置で王都から数キロ離れた山中へと移動した。

 あまり手早く倒すと、こちらの索敵能力がバレる可能性があるからだ。


 どうやら、緑魔族の擬体は二つほど手前の山に降り、そこからは陸路で王都に向かうつもりのようだ。


 ここで始末するのは簡単だが、せっかくなので泳がせて緑魔族の協力者を一網打尽にしよう。

 擬体とワイバーンにマーカーを付け、オレはシン少年の住む孤児院の屋上へとユニット配置で移動する。


 オレが緊急出動できないとき以外はヒカルはここにいない。


 今はグリフォンや竜達にオレのお手製の鯨肉料理を届けに行っている。

 今回は連絡用に使い捨ての遠距離信号送信装置を渡してあるので問題ない。信号が来たら迎えに行くと言ってある。


 そして、深夜の夜二刻が終わる頃、ようやく擬体が王都に侵入を果たすのが遠目に見えた。

 今回の擬体は褐色の肌を持つ外国人風の姿をしている。


「スラム街か……」


 擬体はスラム街の路地裏で眠る幾人かの乞食に声を掛けながら進んでいく。

 念のため、擬体が声を掛けた男達にはマーカーを付けておいた。


 スラムを抜け富裕層の屋敷が並ぶ界隈で、擬体はへいを跳び越えて一軒の屋敷へと侵入した。

 オレは魔素迷彩スキルを発動して擬体の後を尾行する。


 ――ここは?


 他のマーカーが屋敷内にあるのに気付いた。

 ここは殿下ことソウヤ少年の実家らしい。


 ……まさか、彼が本物の「殿下」なのか?


 横柄な態度ながらも意外に人が良い彼と、魔王という存在が結びつかなくて困惑する。


 勝手口に向かうかに見えた擬体だが、そのままそこを通過して敷地の端にある離れへと向かうようだ。


「――蜃気楼からの伝言を持ってきた」

「誰だキサマ?」


 離れから出てきた半裸の優男が擬体を訝しげに睨み付ける。


 マップの詳細情報を確認したところ、優男は没落貴族らしい。

 彼の父親が王都のお気楽オカルト集団「自由の風」に所属している以外に魔族との接点は不明だ。


「自由は光と共に」

「翼は自由を求めて風に乗る」


 何やら符丁のようなモノを聞き耳スキルが拾ってきた。

 これは良いモノを聞いた。後で宰相に通達して捕縛時に利用させよう。


「本物の百面らしいな。相変わらず、凄い変装だ……」


 ――百面? 百面相みたいな緑魔族の渾名かな?

 緑魔族はこの男と異なる擬体で何度も接触しているのか。


「それで伝言とは?」

「作戦に変更は無い。宝珠を手に入れ次第、蛇使い共に行動を開始するように伝えろ」

「なら、イタチ共の持ってきた丸薬を食料に混ぜて貧乏人に配布するのも続けた方がいいのか?」

「無論だ。蜃気楼からも中断しろとは言われていない」

「分かった」


 ――丸薬?


 それに蛇使い、か……前に検索したときは王都にいなかったはずなんだが。


「確かに伝えたぞ」

「ああ、了解した。そうだ活動資金がそろそろ心許ないんだが……」

「ふん、またそれか。酒や女に使うのは構わんが仕事を疎かにするなよ?」

「もちろんさ。蜃気楼に殺されたくないからな」


 擬体の投げた袋がドサリと優男の前に落ちて、中から金貨がこぼれ出る。

 どうやら、優男は金目当てで魔族に協力しているようだ。


 金貨の袋に飛びついた優男を、蔑んだ目で一瞥して擬体が屋敷を後にする。

 その後、3つほどの盗賊のアジトを回った後に、前に偽ローポがいたアジト跡の地下室へと向かった。


 擬体が背負っていた荷物から、何かの魔法道具を取り出すのが見えた。

 どうやら潜伏を補助するための結界発生装置らしい。


 結界の発生を確認した緑魔族が壊れたベッドに身を投げ出す。

 魔族でも疲れる事があるのか?


「ふぅ、ここならあの忌々しい白髪に見つかる事もないザマス」

「――そうでもないさ」


 慌てて起き上がる褐色の肌の擬体の首を聖剣で刎ねる。


「バ、バカな。ずっとここに潜んで網を張っていたザマスかっ!」


 そんな訳あるか――。


 首だけになった緑魔族の擬体を聖剣でみじん切りにする。

 擬体の体力が尽きたのか、擬体の小片が黒い靄になって散っていく。


 魔族を尋問する事も考えたが、明日のオークションを平和に過ごす事を優先して始末した。

 また再POP時間になったら擬体でやってくるだろうし、今回、緑魔族が接触した連中の尋問が終わってからでも問題ないだろう。


 緑魔族の本体を追跡する為の魔法は完成しているから、あとは詠唱の宝珠をゲットしたらヤツの命運も尽きるだろう。

 まったく、中ボスは魔王城で大人しく勇者を待っていてほしいよ。


 ――魔王城なんてないけどさ。


 なお、結界発生装置は人族の手による物のようなので、ストレージに回収しておいた。


 擬体が接触していた盗賊や乞食は当局に報告して後の事は任せるとして、色々と知ってそうな優男の方はクロで出向いて一切合財を吐いてもらうとしよう。


 明日のオークション三日目を平和に過ごす為にも容赦はしない!


※次回更新は 5/10(日) の予定です。


※2015/5/4 一部改稿しました。

 緑魔族と優男の接触のシーンを修正しました。


●登場人物


【クロ】

 サトゥーの仮の姿。白髪に学生服の傍若無人なヒール役。


【エチゴヤ商会】

 クロが迷賊から助け出した人達を雇用して作った商会。


【支配人】

 エチゴヤ商会の女支配人。迷賊に捕まっていた門閥貴族の娘。元探索者。


【ティファリーザ】

 エチゴヤ商会の秘書。クロの奴隷。命名のスキルを持つ美少女。


【ビスタール公爵】

 現国王の従兄弟。息子が公爵領で反乱を起こした。サトゥーを嫌っている。


【ロイド侯】

 オーユゴック公爵の家臣。

 サトゥーの料理のファン。エビ天に夢中。


【シガ三十三杖】

 宮廷魔術士の称号。


【出征予定】

 ビスタール公爵領の反乱を鎮圧するための出征の事。

 先遣騎士団は既に出発している。


【宰相】

 シガ王国の宰相。ナナシを王祖ヤマトの転生者だと思っている。

 意外に食通だった。


【ドリス】

 シガ王国第十二王女。10歳。システィーナの同腹の王女。


【翡翠・改】

 ドリス王女の元ペット。魔物化をサトゥーに解除されて神酒を飲んで回復した。

 ぴるぴると鳴く。決して「ぴぴるぴー」とは鳴かない。

 翡翠がドリス王女のペットになったいきさつは「12-18.お茶会の闖入者」を参照。


【カカシ】

 サトゥーが作った索敵用ゴーレム。


【緑魔族】

 黄金の猪王に仕えていた古参の上級魔族。語尾がザマス口調。擬体アバターという分身を作り出せる。


【シン】

 アリサが王立学院で出会った白髪の美少年。現地産の勇者らしい。


【ワイバーン】

 飛竜と書くが竜族ではなく魔物。セーリュー伯爵領ではワイバーンを食用にしている。

 とてもマズイ。ゼナさんが顔を顰めるレベル。(9-12で漬け込みレシピが開発された)


【自由の風】

 王都のお気楽オカルト集団。「自由の光」や「自由の翼」と同系列の団体だったが、本気で魔王復活を行う気がない団体。


【イタチ】

 鼬人族の蔑称。多くは大陸東端にある鼬人族の帝国の人々を指す。


【蛇使い】

 音のしない縦笛で篭に入った蛇を操る大道芸人。

 何か怪しい存在の疑いが急浮上!


【偽ローポ】

 盗賊。ローポの偽者。クロに捕縛されて牢屋に送られた。


【肩凝解除薬】

 切実に欲しい。

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ISBN:9784040761442



― 新着の感想 ―
[一言] ぴぴるぴーだと、鳥じゃなくて、バット=コウモリになるのかな、この場合w
[一言] 翡翠は、神鳥。 遠投の伏線、かな?
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