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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十二章

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12-28.カミ

※残酷な表現にご注意ください。

※2014/12/15 誤字修正しました。

※2014/11/22 一部変更しました。

 サトゥーです。フィクション世界の主人公達は、どうして絶対勝てないような敵に立ち向かえるのでしょう?

 逃げられる時は逃げて、捲土重来を図るのが良いと思うのです。





「――予想が正しかったら何よ?」

「強敵さ」


 月を四分割するような黒い線を見上げながら、アリサの問いに精一杯の軽口で答える。

 敵と判断するには早計かもしれないが、オレの心の奥底から「アレは共存できないモノ」だと何かが囁く。


 やがてシガ王国の圏内に入ったのか、黒線の横にAR表示が現れた。


 ――UNKNOWN。


 それはかつて狗頭の魔王と砂漠で戦った時に現れた、幼女の姿をした謎の存在と同じ表示だ。


 幅10メートル、高さ9キロ、人影かと思ったが異様に細長い……。

 もっと太く感じたのだが、それは黒線が光を吸い込んでいるせいでそう見えるのだろう。

 ゆったりと降ってきたそれが、王都の上空100メートルほどで滞空する。


「何アレ? 髪の毛?」

「でも、すっごい魔力を感じるよ」


 三本の黒線を見上げたアリサの呟きにミトが答える。


 ……髪の毛?


 言われて見れば、確かにそう見えない事もない。


 ――神の髪の毛?


 なんだろう、この今まで感じた事のない怒りは。

 これがオヤジギャグを聞かされたOL達の気分なんだろうか。


 ……だが、恐怖は消えた。


 よく考えたら、神が死ぬ事は実証済みだ。

 それに、いかなる神の一部かは判らないが、アレは神の本体ではないはずだ。


 たかだか、部分召喚された神の一部ごとき、神剣で消滅させてやるっ。


「ご主人様、珍しく怒ってない?」

「――怒ってないよ?」


 アリサのヤツめ、なかなか鋭い。

 黄金の兜越しによく判ったな。


「ちょっと、始末してくるよ」

「へ? ヤバいヤツじゃなかったの?」

「これがあるからなんとかしてみせるよ」


 オレは鞘に納まったままの神剣を掲げ、黄金の兜の中で外から見えない笑顔を作る。


「ご主人様、お供します」

「ポチだって、お供するのです」

「マスター、随伴を希望します」


 リザ、ポチ、ナナが同行を申し出てきたが、それに頷くわけにはいかない。

 かつて、「不死の王」ゼンから現れた「神の欠片」を聖剣で攻撃したときも、破壊するどころか干渉する事もできなかった。

 リザの持つ竜槍なら、あるいは通じるかもしれないが、分が悪すぎる賭けだ。


「ダメだ。悪いけど連れていけない。相手が悪すぎるんだよ」


 オレが諭すように告げると、三人は素直に聞き分けてくれた。


 マントをくいくいと引っ張る方を見ると青い顔をしたミーアと、泣きそうな顔のタマの姿があった。


「ダメ、あれはダメなの。絶対、なの」

「かえろ~?」


 不安がっている二人を剥がすのは可哀相だが、あれが動き出したら王都が壊滅する予感がある。

 オレは二人を優しく引き離してリザに預ける。


「みんなはここにいて。ここからはオレの仕事だ」


 オレが移動したら、この子達の防備が下がってしまうが、装備を交換しているヒマは無い。

 オレはナナに引き際の判断を任せ、アリサとリザに撤退時には躊躇うなと言い含めた。





 三本の黒線に向かって、王城から紅蓮の火炎が飛来した。

 上級魔法か禁呪かは判らないが、その火炎は黒線に命中するなり蒸発するように消えてしまった。

 黒線の一本の根元がくるりと渦巻き状に形を変え――。


 オレは閃駆で黒線と王城の間に割り込む。

 ギリギリで称号を「神殺し」に替えるのが間に合った。


 ――ムチのように黒線が王城を打擲ちょうちゃくしようと襲いかかってきたのを身体の前に構えた神剣で受け止める。


 神剣に触れた黒線が、闇色の火花を上げて二つに裂ける。

 飛び散る火花が薄れ消えてゆく時に、その火花の本来の色が見えた。それは濃い、とても濃い紫色だった事が判った。


 ――くっ、重い。


 オレは閃駆で慣性に抵抗したが、それでも一瞬で王城に激突する寸前の場所まで押されて来てしまった。


 眼下の王城には、セーラやムーノ男爵領の人達がいる。国王や宰相だって、見捨てるには交流を持ちすぎた。

 バカな攻撃をした宮廷魔道士のシガ三十三杖達は自業自得だが、他の人達まで見捨てる気はない。


 裂かれた黒線が一旦、王城から距離を取る。

 二つに裂けた部分の黒線も、裂けただけで泳ぐような軌道で黒線の本体の方に巻き戻っていく。


 オレは天駆で王城から離れ、上空の黒線に近寄っていく。

 ストレージから取り出した聖剣デュランダルの魔力を吸い上げて、その魔力を神剣に注ぐ。

 魔力を注ぐたびに漆黒の刃が少しずつ伸びていく。

 聖剣の魔力を全て注ぎ終わった時には刃の長さが10メートルを超えていた。


 これで準備完了まで、あと一手だ。


 魔力を一定量まで注いだあと、オレはその言葉を知った。

 神剣から、その言葉が伝わってきたのだ。


 オレは最後の言葉を告げる――。


「神剣よ。《滅び》を」


 それは告げるべきではなかったのかもしれない。


 ――月夜に真闇が訪れた。


 神剣に触れた光が滅ぶ。


 ――夜空に静寂が訪れた。


 神剣に触れた空気が滅ぶ。


 ――そして、神剣に触れた黒線が蒸発するように靄となって剥離していき、漆黒の神剣の刃に吸い込まれるように消えていく。


 オレは閃駆で黒線を遡り、瞬き一つの間に9キロ上空の端まで滅ぼし尽くした。


 残り二本。





「なんだ、思ったよりも簡単じゃないか――」


 黒線のあまりの脆さに気が抜けて、そんな独り言が口をついて出てくる。


 だが、眼下に見えた光景に、オレの浮ついた心が冷水を掛けられたように冷えていく。


 眼下に小さく見える王城の一角がごっそりと無くなっている。

 幸い、王城の人達が集まっている本楼閣は無事のようだが、もし神剣の「聖句」を使った場所が本楼閣のあたりだったら、取り返しの付かない事になるところだった。


 ――反省、反省。


 深く反省するのは後回しにして、今は事態の収拾を優先しよう。


 AR表示で判る滅びの範囲はだいたい数百メートル未満だ。

 黒線を地上に被害がでない高空まで釣ってから始末するのが良いだろう。


 黒線に射程の長い「光線」で攻撃し、オレを襲ってきたところを《滅び》状態の神剣で消していく。

 さっきから空気がなくて苦しいが、体力ゲージやスタミナゲージを見る限り、一時間や二時間は大丈夫だろう。我ながらチートな身体だ。


 二本目の黒線を消したところで、黒線の主体性のなさというか、スケルトンのような知性のなさが気になった。

 MMOなどのノンアクティブモンスターのように、他の黒線が攻撃されても自分が攻撃を受けない限り、反応がない。


 斥候の神霊召喚が失敗したせいなのか、そもそも黒線には別の役割があるのか、あまりに謎過ぎる。


 そんな風に思考を逸らしたのは、ほんの数秒だったのだが、その数秒が問題だったようだ――。





 東北東の遥か彼方から、朝日が昇ったような白い光が生まれた。

 その白光が収束し、一条の白い光の束となって最後の黒線を二つに引き裂いた。

 光は黒線を両断した後も勢いを失わずに直進し、王都の向こうにある穀倉地帯を一条の灰と亀裂に変えた。


 光が放たれたのは東北東にある霊峰、フジサン山脈の方角だ。


 オレの閃駆にも劣らぬ速さで、飛来したのは白金の鏃――全長180メートルを超える巨大な天竜だった。


 ……やはり、テンチャンのテンは天竜の天だったか。


 王祖ヤマト伝説に出てきた天竜がアレなのだろう。

 天竜は「全てを穿つ」といわれる牙で黒線を噛み砕き、牙にも劣らない角や爪で黒線を切り裂いていく。


 オレは観察をしつつも、天竜が最初の「竜の吐息ドラゴン・ブレス」で両断した上方の黒線を神剣で消しながら降下していく。


 短くなった黒線が、天竜に引き裂かれながらもその身体に巻きついていく。

 しかも、一部は天竜に同化をしているのか、白金の鱗が黒く染まっていっている。


 地上一キロほどの所で、神剣の魔力を一気に吸い上げて聖剣デュランダルに移す。

 一定以下の魔力になると聖剣の聖句のように、神剣の《滅び》も解除されてしまうようで、元の神剣に戻ってくれた。


 王都の上空にバキバキと板が割れるような音が響く。

 天竜の方からだ。


『KUROOOUUUUNN!』


 黒線に侵食されている天竜が悲鳴を上げる。

 竜語が判るオレでも意味が理解できなかったから、悲鳴で間違いないだろう。


 苦しみで地上に落ちようとする天竜の尻尾を掴み、大車輪のように空中で円を描いて王都の外に投げ捨てる。

 我ながら酷い扱いだとは思うが、これは必要な処置なのだ。

 こんな巨体が王都に落下したら、どれだけ犠牲がでるか判ったもんじゃない。


 王都の穀倉地帯を荒地に変えて、天竜が深い谷を作っていく。

 農家の皆さんごめんなさい。詠唱ができるようになったら、元に戻すから今は勘弁してほしい。





 天竜が食い散らした黒線の欠片を、マップでマーキングして神剣で順番に消していく。

 こんな物を残していたら何が起こるかわからないからね。


 その内の一つが、運悪く顔を出したモグラの魔物に触れてしまった。


 ――次の瞬間。


 ぐるんとモグラの体が裏返り、魔核を露出した状態でスライムのように不定形になって動き出した。

 周辺の瓦礫や魔物の屍骸を取り込み巨大化していく。


 レベル20だったはずのモグラが、巨大化を終えたときにはレベル50まで上昇していた。

 どうやら、このドーピングが黒線を召喚した斥候の目的だったようだ。


 オレは「誘導気絶弾(リモート・スタン)」でモグラスライムを空中に打ち上げ、真下から「集光(コンデンス)」と「光線(レーザー)」のコンボ魔法を叩き込んでヤツの魔法防御と身体を細切れにする。

 黒線の本体以外は普通の攻撃も通用するようだ。


 オレは空中を落下してくる魔核を睨みつける。

 黒線は露出した魔核に潜り込んでいた。


 オレは地面から飛び上がり、落ちてくる魔核ごと黒線を神剣で切り裂いて消滅させた。





 王都の外で小山を崩して暴れている天竜の所へ閃駆で向かう。

 どうやら我を失っているようで、小山を崩したあとに近くの街へ向かおうとしていた。


 閃駆で天竜が転がる方向に先回りして、ヤツの頑丈な鱗を蹴飛ばして止める。


『GYURORORORONN』


 しまった。体力ゲージが二割くらい減ってしまった。

 天竜は意外と脆いのか?


 正気を失ったような焦点の合わない瞳でオレの方を向き、「竜の吐息ドラゴン・ブレス」を撃ってきたのを閃駆で避ける。

 そのまま顔を動かしてブレスの火線を向けてきたので、閃駆でヤツの側面に移動し、横っ面を蹴飛ばしてブレスを天に向けて被害が出ないようにする。


 AR表示では天竜の状態が「狂乱」「侵食:魔神」になっていた。


 ――あの黒線の正体は「魔神」の一部だったのか!


 UNKNOWNだった黒線も、天竜に侵食する事で正体が明らかになったようだ。


 天竜に侵食する黒線は27箇所。その内、大量の黒線が巻きついているのは頭と尻尾、逆鱗の3箇所だ。


 ――ならば。


 手荒い真似だが、勘弁してくれよ。

 オレは神剣を片手に天竜へと肉迫する。


 正気を失った天竜の尻尾が音速を超えた速度で襲ってくる。

 天竜の鱗は聖剣すら弾き返すと、王祖ヤマトの絵本に書いてあった。

 その鱗は、あの「黄金の猪王」の魔剣すらも防いだという。


 だが、神剣の前では紙切れ同然だ。

 天竜の尻尾を切断し、尻尾に巻きついていた黒線を消滅させる。


 オレは天竜の背を駆け、その身体ごと抉って黒線を消し飛ばしていく。

 少々乱暴だが、悠長に構えていて全身を侵食されたらシャレにならない。それこそ魔王以上の被害が出てしまうだろう。

 レディーにするような行いではないが、ドラゴンの姿だと罪悪感が少ない。

 それに、天竜の体力なら充分に保つはずだ。


 オレは心を鬼にして、天竜から黒線を消していく。

 竜の血で染まりながらも、ほんの10秒後にはほとんどの黒線を消すことができた。


 ――残りは逆鱗と頭部のみ。


 ここは体ごと抉るわけにはいかない。

 黒線を掴んで剥がすしかないだろう。だが、ヘタに触ったらオレまで侵食されてしまいそうだ。

 オレは神剣を持っていない方の手の表面に魔力鎧を形成する。


 そして、そのまま掴もうとして思い留まる。


 ――相手は一部とはいえ神だ。不用意な行動は破滅に繋がると思え。


 オレは自分の思いあがりを戒めて、魔力鎧を変質していく。


 魔剣の構成素材を替えて聖剣が作れるのなら。

 そして、魔刃に聖刃のような亜種があるのなら。


 神の力も同じように、再現できるのではないだろうか。


 オレは神剣の力を借りて、魔力鎧を神気に染めていく。

 赤かった魔力鎧の光が、徐々に神剣のような漆黒へと色を変えていく。


 ――それはまるで黒線と同じ色。


 余計な事を考えるなサトゥー。

 今は――。


 オレは神気を纏った手で天竜の頭部から飛び出たアホ毛のような黒線を掴んで引き抜く。

 一際大きな天竜の悲鳴が聞こえたが、今は取り合っている場合じゃない。


 引き抜いた黒線を、反対側の手に持った神剣で消滅させていく。


 そして、最後に天竜の逆鱗に絡みついた黒線を引き剥がす時に、うっかり逆鱗まで剥がしてしまった。

 それが余程痛かったのか、天竜が一声悲痛な叫びを上げて気絶してしまう。

 逆鱗から引き剥がした黒線を、神剣で消滅させながら内心で天竜に詫びておいた。


>「魔神の落とし子」を倒した。

>「魔神の落とし子」を倒した。

>「魔神の落とし子」を倒した。


>スキル「」を得た。


>称号「神徒」を得た。

>称号「禁忌を犯す者」を得た。

>称号「拷問王」を得た。

>称号「嗜虐者」を得た。

>称号「天竜の天敵」を得た。


 少々不本意な称号があるが、今更システムを司る何者かに突っ込みはすまい。


 上級魔族を乱獲したせいか、「魔神の落とし子」を倒したせいか、オレはレベル312になっていた。

 名前のないスキル獲得表示はバグだったのか、スキル一覧には載っていない。


 精神的な疲労に気を失いそうになりながらも、オレは秘蔵の上級回復薬や治癒魔法を駆使して天竜の傷を治していく。

 切断した尻尾は予想通り繋がったが、剥がれた逆鱗や戦闘中に折れた牙や角、爪は元に戻せなかった。

 魔力を限界までチャージした上級回復薬をかけたら爪が生えてきたので、牙や角も頑張ればまた生えてくるだろう。


 疲れているせいか、どこか思考が投げやりだ。

 ここまで疲労したのは異世界に来てから初めてかもしれない。


 それに……先ほどから左手に感触がない。


 オレは左手の状態を確認する為に黄金鎧の篭手を外す。

 篭手の下から現れた左手を見て、オレは言葉を失った。


 その手は人の肌の色を失い、漆黒に染まっていたのだ……。



※2014/11/22 天竜の大きさを変更しました。


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 また、書籍版の内容に触れる感想は活動報告の「感想(ネタバレok)」の方にお願いします。



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※次回更新は 11/23(日) の予定です。遅れたらごめんなさい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔神の旋毛にピンと立ったアホ毛の三本だったりしてね? 鎧要らずのサトゥーがダメージらしいダメージを負わない所為か、魔神のアホ毛の凄さを見せつけるのに、お馬鹿な天竜を捧げた感じでしょうか? …
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