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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十二章

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12-20.王都の長い夜

※2014/9/29 誤字修正しました。


 サトゥーです。質量兵器と聞くと強そうなのに、投石機と聞くと弱そうに聞こえるのは何故なんでしょう。人の頭ほどもある岩が飛んできたら、充分危険だと思うのです。





 割れた天井から落ちてきた土埃の噴流とリザの魔刃砲の残光が部屋を満たし、魔刃砲で粉砕された岩弾の欠片が部屋を飛び回る。

 それらに少し遅れて、砕けた天井の瓦礫が落ちてきた。


 オレは瓦礫に押しつぶされそうなメイドを、素早く横から掻っ攫って助ける。

 土埃で周囲の視線から隠されているので、気軽に縮地が使える。


 崩落する天井や岩弾に当たって、聖騎士の二人が怪我をしたようで、体力ゲージが半分になっている。

 一方で、ソムリエっぽい男性給仕は自力で難を逃れたようだ。やはり、男はそうでないとね。


 そこに、腹に響くような重い震動が断続的に襲ってきた。


 揺れる足場に驚いて、さっき助けたメイドさん達が左右から抱きついてくる。

 緩みそうな頬を「無表情ポーカーフェイス」スキルの助けを借りて耐え、マップを開いて状況を確認する。


 マップの3D表示で、館の倒壊が始まっている事がわかった。


 間違いなく、先ほどの岩弾4連発のせいだろう。

 リザが迎撃した一発を除けば、攻城戦に使うような岩弾が直撃したのだから無理もない。


 オレは急いで館の中の使用人達の位置を確認する。

 意外に少ない、全部で23人だ。オレは常時発動している「理力の手(マジック・ハンド)」で彼らを館の外へと運び出すために捕獲していく。


 幸い、岩弾の直撃を受けて即死した者はいないようだ。

 瀕死の人間が何人かいるが、それはオレ達が脱出してからの対処でいいだろう。


 オレが必死で脱出の手配していた数秒の内に、室内で事件が起こっていた。


「――ぐっ、な、何をする」


 くぐもった悲鳴が土埃の向こうから聞こえた。

 AR表示では、カタナ使いのバウエン氏が瀕死になり、その横にいるジュレバーグ氏も半死半生の重傷を負っていた。


 その横では、レーダーの光点を赤く染めた中年男――神殿騎士のジゾンがいるようだ。


 ――さっきの空爆はこいつの暗殺をアシストする為だったのか。


 レーダーを頼りに、そちらに向かって足元の瓦礫を蹴りつける。

 土煙の向こうで、ゴキンという重い音と神殿騎士ジゾンのくぐもった悲鳴がする。


 瓦礫の軌跡に一瞬だけ埃が晴れた空洞ができる。

 ジュレバーグ氏の背中に魔剣を突き立てていたジゾンが、忌々しそうに剣を抜いて後退した。

 さっきの瓦礫はジゾンの肩の骨を砕いたようで、片手が力なく下に垂れている。


「ちっ、無手の分際で邪魔をしおって――『邪刃無双』」


 悪態の最後の「合言葉コマンド・ワード」を受けて、ジゾンの魔剣が黒く染まる。

 そして、その黒が手から体に移ったように、全身を黒く染めていく。


 ――まあ、誰も最後まで待たないけどさ。


 崩れ始める床をものともせず、ジゾンの左右から「雑草」のヘイム氏の大剣と「草刈り」のリュオナ女史の大鎌が襲い掛かる。


 ジゾンが爪先で引っ掛けたカタナ使いのバウエン氏をヘイム氏の前に蹴り上げて、その進攻を妨げる。

 続いて襲ってくるリュオナ女史の大鎌が僅かに肩を掠めたが、黒く染まった身体の上を滑るように鎌の刃が流れた。

 大振りの一撃が避けられて隙だらけになったリュオナ女史の胴に、ジゾンが大振りの魔剣で牽制して彼女を後退させ、その場を抜け出す。


 黒く染まったジゾンがゴキブリの様な低い姿勢で駆け出した先は、なぜかオレとリザのいる方向だ。

 左右から女給仕さん達に抱きつかれたオレがカモに見えたのだろう。


 確かに、使用人たちの脱出作業に意識の大半を使っているオレには対処が難しい。


 ――だが、オレの傍には頼もしい護衛がいる。


「リザ」

「承知」


 急接近したジゾンが、オレの前に立ちふさがるリザに片手半剣バスタード・ソードサイズの魔剣を突き入れてきた。


 それをリザが魔刃を宿した銀のナイフで受け流す。


「バカな、食器に魔刃だと?!」


 彼はさっき天井の岩を迎撃したリザを見ていなかったのだろうか?

 確かにさっきの砲撃でリザは魔力の大半を使ってしまっていたが、既にオレの「魔力譲渡(トランスファー)」によって再チャージ済だ。


「まだ、魔力が残っていたとはなっ――『毒刃』」


 ジゾンの合言葉コマンド・ワードを受けて、彼の魔剣の表面に赤黒い光が漏れ出す。


「触れるだけで肉が落ちる『腐敗毒』だ。貴様の鱗で防げると思うなら向かってくるが良い」


 こちらを萎縮させる為の発言だろうが、それは悪手だ。

 余計な発言をしている間にリザの準備が終わっていた。


 リザの手には赤く輝く槍がある。


 銀のナイフを核に魔刃で編み上げて作った槍だ。燃費が悪いので普段は使わないが、その威力は普通の魔槍に匹敵する。


 リザの赤い槍が、ジゾンの毒の魔剣を弾き、そのまま片腕を抉る。

 僅かに魔剣から飛散した毒液は、リザの身体の表面に作られた赤い皮膜――部分展開された「魔力鎧」によって防がれる。


 肩を貫かれても攻撃を続けようとしたジゾンだが、それは叶わない。

 ジゾンが剣を振り上げるより早く、リザの槍が目にも止まらないような速さでジゾンの両膝と剣を持つ手首を貫いた。


 ――いやはや、容赦ないな。


「魔刃で作った槍、だとっ」


 為す術なくリザの四連撃で無力化されたジゾンが、床に崩れ落ちる。

 ジゾンが自分の身体の陰から、何かを取り出すのが見えた。


 黒い拳くらいの塊が三つ――自爆用の魔導爆弾か!


 幸い、気がついているのはオレだけだ。

 ヤツの手から起動した魔導爆弾が離れた瞬間、使用人達の脱出作業に使っていない「理力の手」で触れてすばやくストレージに収納する。

 ジゾンの目には、急に爆弾が消えた様に見えただろう。


 ジゾンが驚きの言葉を発するよりも早く、くるりと回転したリザの尻尾の一撃で男の意識は刈り取られた。


 ――まったく、自爆はロボットか研究所だけにしてほしい。


 この一連の騒ぎの間に、この部屋を除く館内の人間の脱出はなんとか完了した。

 館の完全倒壊までさほどの時間もない、オレ達もさっさと逃げ出すべきだろう。


 当然ながら、そう考えたのはオレだけではないようだ。


「ここは危ない、全員脱出しろ!」


 魔剣の「吸精」や「脱力」の効果で動けないジュレバーグ氏に代わってヘイム氏が人々に指示を出す。


 既に館は下の二階が圧壊して、この五階の窓の高さは10メートルほどになっている。

 ここにいるメンバーなら、このくらいの高さからでも脱出できるだろう。


 オレは左右から抱きついている女給仕さん達の腰を抱き上げて、崩れる館の壁から飛び出した。

 ステレオで聞こえる悲鳴で耳が痛い。


 崩れた館から剥落する瓦礫を自在盾で防ぎながら、土埃で視界の悪い大地に降りる。

 大量の瓦礫で足場が悪いので、実際には埃の陰に隠れて地表付近を天駆で移動した。


 脱出したオレ達を狙って従魔の背に乗った男達から、クロスボウの短矢が飛んでくる。

 狙いはリザが捕縛して肩に担いだジゾンのようだ。


 埃の遮蔽を利用して撃ち出した「誘導気絶弾(リモート・スタン)」の魔法で短矢ボルトの軌道を逸らす。


 ついでに8発ほど従魔の頭を狙ってやったのだが、対策がしてあったらしく、従魔の手前に出現した魔法の盾を蹴散らしただけで、本体には届かなかった。

 攻撃の機会を失った敵が屋敷の上空を飛び越える。


 ――自重せずに120発で狙うべきだったか。


 後悔と共に着地し、館の下敷きにならないように距離を取る。

 着地に失敗して動けなくなった聖騎士を、「理力の手(マジック・ハンド)」で掴んで強引に危険地帯から投げ飛ばす。

 多少怪我をするかもしれないが、圧死するよりはマシだろう。


「この二人の手当てを頼む」

「は、はい」


 オレは両手に抱えたメイドさんを先に脱出させていた使用人達に委ねる。

 悲鳴がやんだと思ったら二人共、気絶していたようだ。


 先ほど狙撃に失敗した4体の従魔が、ジゾンを始末しようと再襲撃してきた。


 だが、迎撃態勢は既に整っている。


「…… ■■■■■■ 光槍乱舞マルチプル・レイ・ジャベリン

「「「…… ■■■■ 光槍レイ・ジャベリン」」」


 シガ八剣達とジェリルが唱えた光の槍が、従魔達に襲い掛かる。

 絶命した従魔が慣性のままに突っ込んでくるが、そこに大盾を抱えた老騎士が割り込んだ。


「《防げ》聖盾プリトウェン」


 盾の周囲に広がった青い光が、1トン以上ありそうな従魔の屍骸を受け止める。


 ここまで空気だったが、この老騎士レイラスもシガ八剣の一人だ。

 公都で第三王子と一緒にいた時も、ほとんど会話した事がないので人となりは知らないが、黄肌魔族との戦いでも生き残っていた人だけあって防御力はなかなかのようだ。


 墜落した従魔から逃げ出そうとする「自由の光」の構成員達を、リュオナ女史とヘイム氏が嬉々として追いかけていった。





 オレはそれを横目にマップを開いて周囲を確認する。


 今日の昼に伯爵家のお茶会に魔物が出現したからか、王都を巡回する騎士や衛兵の数が普段の三倍近い。

 騎士や兵士でマスクしたが、特定の館を囲んでいるなどの不穏な様子もない。


「自由の光」を屋敷に匿っている貴族なら一緒に何か行動を起こすかと思ったのだが、自分の屋敷内に百名以上の私兵を抱え込んでいるくらいで動きは無い。

 もっとも、他の上級貴族の屋敷も似たような状況なので特筆するほどの事でもないだろう。

 例の「自由の光」の精鋭三名も、この機に乗じてシガ八剣暗殺のダメ押しにくるかと思ったが潜伏先の屋敷から動いていない。


 一国の首都でこれだけ大胆な襲撃をするヤツらだ。これで終わりじゃないだろう。

 さっきのが陽動だとしたら、本命はやはり王城か?


 オレは人の動きから何かわからないか、もう一度、マップを見つめなおす。


 視界の隅に動きがあったのは、そんな時だ。


「旦那様、警邏中の騎士の方がお見えです」

「……通せ」


 埃で汚れた礼服を着た家令が、ジュレバーグ氏にそう報告している。

 あれだけの騒ぎだから、一番近くにいた巡回隊が気が付いたのだろう。


 マップで詳細を見る。

 第十二騎士団の部隊か、部隊長はレベル34ほどだ。巡回隊の部隊長クラスにしてはレベルが高い。


 巡回隊に不似合いな大盾をもった者が6名に、火石が先端に付いた長柄武器を持った者が10名、魔法使いが4名、その他10名の合計30名の部隊だ。

 戦争に行くような過剰な戦力だが、この装備や兵数は王都に出没する大型の魔物に対抗する為の選択だろう。


 こちらに向かってくる男を見て、隣に控えていたリザに緊張が走る。


「どうかした?」

「ご主人様、御警戒を。あれは迷賊のボスだった男です」


 リザにそう指摘されて、AR表示を再確認する。

 男の名前はルダマン――迷宮の地下で魔人薬を密造していたヤツだ。


 だが、オレ達に捕縛されてギルドの牢屋に入れられたアイツはギルド長に直談判して、王都の「犯罪奴隷部隊(ムラサキ)」に入ったはず。

 どういうツテで普通の騎士団に移籍したのか……。


 今晩の騒動はまだまだ続きそうだ。


※次回更新は、10/5(日)の予定です。


●人物紹介(抜粋)

【ジゾン】   12-19で登場。神殿推薦枠のシガ八剣候補。戦闘狂の中年男。

【ルダマン】  迷賊王の二つ名を持つ犯罪者。かつてサトゥー達に捕縛された。

【ジュレバーグ】シガ八剣、第1位、レベル54、70歳越え。二つ名は『不倒』。リザに負けた

【ヘイム】   シガ八剣、第3位、レベル52。二つ名は『雑草』。大剣使い。

【バウエン】  シガ八剣、第6位、レベル40台中盤。30歳前後。二つ名は『風刃』。刀使い。

【レイラス】  シガ八剣、第7位、レベル40台後半。60歳越え。第三王子と一緒にいた盾使い。

【リュオナ】  シガ八剣、第8位、レベル40台中盤。20代後半。二つ名は『草刈り』。大鎌使い。

【ジェリル】  ミスリルの探索者。中層の「階層の主」を討伐したレイドのリーダー。二つ名は『紅の貴公子』。

【自由の光】  大陸西部にあるパリオン神国を拠点に活動する魔王信奉者。過激なテロ活動が得意。シガ王国から持ち出された魔人薬の密輸に関わっていた可能性が高い。

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まさかのルダマン再登場(;^ω^)
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