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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十二章

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12-18.お茶会の闖入者

※後書きに人物紹介(抜粋)を添付しました。

※2014/09/14 誤字修正しました。

※2014/09/15 一部改稿しました。

 サトゥーです。招かれざる客というのはいつの世もいるようです。江戸時代の小話ネタである京の「お茶漬ぶぶづけ」みたいに、遠まわしな帰れの意思表示があったらいいんですけどね。





「ようこそおいでくださいました、ペンドラゴン士爵様」


 空を飛び去る「飛竜騎士ワイバーン・ライダー」達の編隊から、視線を出迎えの老紳士に移して礼を告げる。


 ここはお茶会に招かれた貴族の屋敷だ。

 アシネン侯爵夫人の友人で、建国時から伯爵家として続く名家らしい。


 こんな名家なら、オレみたいなぽっと出の名誉士爵なんて使用人からも見下されそうだが、少なくとも老紳士にはそんな様子は微塵もない。


 伯爵夫人へのお土産のお菓子と贈り物を、使用人に運び込んでもらう。


 オークションの客層や宝珠を欲しがる客についての情報を集めてもらった恩があるので、お礼代わりに迷宮産の毛皮や王都で珍重される迷宮蜘蛛の糸を使った布などに加え、手作りの瀟洒なアクセサリーを持ってきてある。


 アクセサリーは元の世界の有名ブランドのニファティーの物を参考にし、アリサの意見で調整したので原価金貨3枚なのにその十倍ほどの価値になっていた。

 もちろん、作者は幾つかある偽名の一つで作ってある。


 老執事に案内されて本館を抜け、庭にあるお茶会会場へと案内される。


 会場ではレベル35の騎士をリーダーに、レベル20台の女性騎士達12人が警護を行なっている。

 皆、儀礼用の装飾が施されたピカピカの鎧を装備している。

 男性騎士はイケメンだし、女性騎士達も訓練所よりも舞台が似合いそうなくらいの美女揃いだ。


 会場には幾つもテーブルが置かれ、三十人近い貴族の女性達がお茶会を楽しんでいる。男性の貴族もいるが、人数は少ない。


 思ったよりも大きな集まりだ。


「いらっしゃい、ペンドラゴン卿。レーテルから聞いていたけど、本当に若いわね」

「本日はお招きに与りまして――」


 オレは定番の挨拶を交わした後、伯爵夫人に招かれてお茶会の席の一つに案内される。

 彼女はアシネン侯爵夫人の親友だけあって名前を呼び捨てだ。


 このテーブルにいるのはアラフォー以上の女性たちばかりで、高価なアクセサリーや服装から明らかに高位の貴族の夫人達の集まりだと判る。


「みなさん、今年は太守の任でレーテルも帰ってこなかったけれど、代わりに彼女の友人が来てくださったの」


 伯爵夫人の紹介で名乗りを上げ、お近付きの印に伯爵夫人への贈り物とは別に持ってきた小さな箱を女性達に配る。

 もちろん、伯爵夫人へのプレゼントよりはグレードを一つ落としてある。


「まぁ、私達にも贈り物なの? レーテル様のお気に入りだけあって如才ないのね」

「あらあら、まぁまぁ、なんて素敵なのかしら」

「この宝石は何かしら? ルビーにしては赤が深いし、もしかして血玉の欠片?」


 目利きの子爵夫人に、見抜かれた事を驚いてみせる事で肯定する。


 真祖バンの所で貰った素材の一つだが、血珠に比べて血玉は使い道が少なかったので、体調を良好に保つ追加効果のあるイヤリング型の魔法装身具にしてみた。

 参考にした文献によると、肩こりに効いたり女性の日が軽くなる追加効果もあるそうだ。


 ――あれ?

 プレゼントした品の相場価格が上がっている。


 迷宮都市で作った時は金貨10枚程度だったのに、夫人達がデザインの違うイヤリングを見せ合う度に価格が上がって、今では一桁違う値段になった。


 そういえば、前にアシネン侯爵夫妻に贈ったアクセサリーも異様な値段になっていたっけ。

 お茶会の贈り物にしては価値が高すぎるが、初回という事で大目に見てもらおう。


「さすがはミスリルの探索者ね。これだけの品は私達のサロンでも、婚約の申し込みくらいでしか見かけないわよ?」

「田舎者ゆえ、少々背伸びしてしまいました」


 TPOを弁えない贈り物を見て心配気に窘めてくれる伯爵夫人に、若さゆえの過ちだと素直に認めて詫びておいた。


 そんな失敗があったものの持ってきたお菓子カステラのサポートもあって、お茶会はつつがなく進み、雑談の輪に溶け込むのに成功した。


「――まぁ、お耳が早い事。もう公領の反逆の話をご存知なのね」


 サトゥーとしては知らなかったが、オレとしては軍部と関わりのない伯爵夫人が昨日の今日でもう知っている事の方が驚きだ。

 やはり、女性たちの情報網は侮れない。


「ビスタール公爵といえば、こんなお話もあるのよ――」


 もっとも、彼女達の会話は話題が飛ぶので付いていくのが大変だ。

 長い彼女の話を簡単に纏めると、前に禁書庫で会った王女様の母親がビスタール公爵の娘だったらしい。

 昨晩も陛下に会った後に禁書庫に出かけたのだが、王女には会わなかった。彼女も毎日禁書庫に篭っている訳ではないのだろう。


「キャー、凄いですわ!」

「うふふふ、なんて可愛らしい動きなのかしら」


 幾つか離れたテーブルの若い貴族の娘さんたちの間から、黄色い悲鳴があがる。

 そちらに視線をやると、蛇使いの笛に合わせて、宝石のような質感の蛇や白く長い毛に覆われた蛇がひょうきんな動きをして娘さん達を楽しませている。


 余興の為に呼ばれた芸人だろう。

 前に噴水の場所でも見たが蛇も見たことのない種類だし、ここに招かれている蛇使いの方が技量が上のようだ。


「はしたない事」


 同じ席の夫人達が、大きな声ではしゃぐ少女達に眉を顰める。

 その雰囲気を変えようと伯爵夫人がオレに話題を振ってきた。


「サトゥー様は蛇使いを見るのは初めてかしら?」

「はい、見事な物ですね」


 伯爵夫人の意図は上手くあたり、他の夫人達も娘さん達の事を忘れて話題に乗ってきた。


「去年くらいに、ケルテン侯爵が外国の芸人を招いたのが始まりだったかしら?」

「そうね。あの方が軍事以外に興味を持つなんて珍しいとサロンでも話題になりましたもの」


 そういえば魔人薬の事件の時にも、ソーケル卿が証言の中でケルテン侯爵を「軍に絶大な影響力を持つ」と評していたっけ。


「そういえば、ケルテン侯爵といえば先月は驚きましたわ」

「ええ、愛国家のケルテン侯爵が反逆の疑いを掛けられるなんて……」

「結局、軍部に影響力を持ちたいオーユゴック公爵の策略だったのかしら?」

「まぁ、ダメですわよ。憶測でそんな事を言っては――」


 ふーん、愛国家っていう評判なのか。


「前に王女様に珍しい小鳥を贈ってらしたわよね?」

「ええ、たしかビスタール公爵の手を煩わしたからと、公爵の最愛のお孫さんに贈ったそうよ」


 ビスタール公爵の孫って、あの禁書庫の王女か?

 彼女なら珍しい鳥より、珍しい本の方が好きそうだ。


 噂話に夢中の彼女達に「本がお好きな王女様ですか?」と尋ねてみたら、違うと答えが返ってきた。

 彼女達の話では、あの禁書庫の王女の同腹の妹らしい。


「翡翠のような鳥ですって」

「ケルテン侯爵の弟君が王配として招かれた、ヨウォーク王国から取り寄せたのでしょうか?」


 ヨウォークって、どこかで聞いた名前だな。

 ――どこだっけ?


「違いますわ。大陸の東の果てにしかいない珍しい種類だそうよ」

「まぁ、イタチの帝国から取り寄せたのかしら?」


 そんな他愛無い話の最中に、不躾な来訪者がやってきた。





 レーダーに赤い光点が映る。

 王都に来てから街中が騒がしい。迷宮都市よりも物騒だ。


 轟音を上げ、庭の一角にある池の底を破って例の赤縄模様の魔物が現れた。

 巨大なイボガエルのような姿をしている。なぜか、おたまじゃくしのような尻尾を持っていた。


 ――変だ。


 オレは悲鳴を上げて抱きついてくるボリューミーなご婦人を、近くの使用人に預けて立ち上がる。


 素早く展開した騎士達だったが、巨大蛙の魔物の吐いた「酸の息アシッド・ブレス」を浴びて、女性騎士達が火傷を負って地面を転がっていく。


 ――光点は転移してきたように突然現れた。


 巨大蛙の手が近くに座り込んだ令嬢に叩きつけられる。

 オレが助けに向かうまでも無く、警備隊長が身を挺して令嬢を救出した。


 ――地下道を検索したが、そこには誰も居ない。


 完全には避けられなかったみたいで、助けた令嬢と一緒に庭の端まで転がっていく。


 ――どうやって出現したんだ?


 オレは疑問を後回しにして、地面に転がっていた女性騎士が落とした剣を拾い上げて手伝いに向かう。

 尻尾に跳ね飛ばされた女性騎士の一人を受け止めて、地面に降ろしてやる。

 やはり金属鎧だと、美人を受け止めても楽しくない。


「隊長さんが来るまで、時間を稼ごうか」


 そう声を掛けて、無造作にイボガエルの前に向かう。

 巨大な目をカメレオンのようにグルリと回転させて、イボガエルが伸びる舌で攻撃してきた。


 鋼鉄の剣で舌の軌道を横に流す。

 魔力を纏わせる事ができないせいか、舌を受け流した剣が抉れている。


「舌にも酸があるようだ。盾持ちも受け止めずに受け流せ」

「「「はいっ」」」


 やけに素直な女性騎士達に、予備の武装に槍や斧があるなら取ってこいと命じて、イボガエルの攻撃をいなすのに集中する。

 迂闊に攻撃したら一撃で倒しそうなので、なるべく手加減して時間稼ぎに集中する。


「全員後退! 尻尾が来るぞ!」

「「「応っ」」」


 オレの合図でイボガエルの尻尾を避ける女性騎士達。

 一人だけ後退中に足を引っ掛けて、あられもない姿で地面に転んでいる娘もいたが見なかった事にする。


 イボガエルの舌を四回ほど受け流したところで剣が折れた。脆い剣だ。


「士爵様、これを」

「ああ、助かる」


 受け取った両手持ちの斧でイボガエルの舌を途中で切り落とす。

 噴き出す血が地面に落ちるまでの間に変質して、酸のように芝生を変色させる。


 ――このファンタジー生物め。


 オレは斧の代わりに短槍に持ち替えて、舌を地面に縫いとめる。


「よくぞ、保たせた! 士爵殿、ご助力感謝いたす」


 ようやく参戦してきた護衛隊長に華を持たせて、オレはイボガエルの注意を逸らす事と女性騎士達が怪我をしないように尽力した。


 その甲斐あってか、かなり時間が掛かったものの死者を出すことなく、イボガエルを倒すことができた。

 なぜか戦闘開始から十分くらいでイボガエルの状態が「衰弱」になり、イボガエルの体を護る魔法の防御が消えたお陰だ。


 この情報は、騒ぎを聞きつけてやってきた衛兵達に伝えておいた。





 さすがにお茶会はお開きになったが、参加者の貴族達から感謝の言葉を受け、お茶会で話す機会のなかった令嬢達からも舞踏会で一緒に踊ろうと誘われた。

 ここにいるのは、ほとんどが子爵令嬢以上なので、何人かの男爵や准男爵の令嬢くらいとしか踊れないだろうが、社交辞令として「光栄です」と答えておいた。


 お茶会の帰りの馬車で、他の場所でも赤縄模様の魔物の屍骸を見かけた。

 子供達は無邪気に魔物の屍骸に石を投げていたが、大抵の人達は不安そうな目をしていた。

 発生する場所が判らないのは、普通の人には恐怖だよな――。


 そうか、その視点を忘れていた。


 そうか、恐怖か。


 見えない黒幕の目的は恐怖を王都の人達に植え付ける事だったのかもしれない。


 もし、また魔王騒ぎが起こったら。


 もし、魔物の大群が襲ってきたら。


 王都の人達は恐怖に支配されて、前の狗頭騒ぎの時のより酷い死傷者を出すんじゃないだろうか。


 だが、それでも、その先が判らない。


 民衆を殺すだけなら、こんなに回りくどく謎な手段を取る意味がない。

「誰が」「何の為に」王都の人達に恐怖を植え付けるのだろう。


 ――最後のピースは、何なんだ。


※次回更新は 9/21(日) です。


※2014/09/14 冒頭の「ぶぶ漬け」の話を修正。

※2014/09/15 王女の説明のシーンを修正。


●活動報告にアリサSSをアップしてあります。宜しければご覧下さい。


●人物紹介抜粋

【アシネン侯爵】   迷宮都市の太守。夫人に頭が上がらない。男色家。

【アシネン侯爵夫人】 迷宮都市の貴族を纏める女傑。サトゥーの作るカステラがお気に入り。

【ケルテン侯爵】   軍に絶大な影響力を持つ。魔人薬密造やクーデターの疑いをかけられていた人物。

【ソーケル卿】    魔人薬密造で捕まった迷宮都市の下級貴族。

【ビスタール公爵】  シガ王国の北西に領地を持つ。領地で反乱が発生中。

【ヨウォーク王国】  アリサの国を併呑した小国。ビスタール公爵領の北にある(7-23,8-11参照)。

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