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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十二章

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12-8.桜の木の下で

※2014/7/8 誤字修正しました。

※2014/8/20 加筆修正しました。


 サトゥーです。桜の木の下には死体が眠っていると言いますが、原典の名前どころか、そのお話が小説か寓話かすら知らなかったりします。





「下から見上げると壮観ね」

「まったくだな。怖いくらい綺麗だ」


 桜を見上げながら呟く。

 つんつんと袖を引かれる。ミーアだ。

 さっきの一件で壊れた馬車の代わりに借りた荷馬車に獣娘が護衛として移動したので、空いた席にミーアとルルが移動してきている。


「もう1回」

「――『怖いくらい綺麗だ』かい?」

「そう」


 ミーアがうっとりと目を瞑って口を突き出してくる。視線を逸らして反対側に向けると、アリサまで同じポーズをしていた。


 あきれて正面に座るルルに同意を求めたら、桜色に頬を染めたルルが瞬きをした後、そっと目を閉じた。

 ――君ら、事前に示し合わせていないか?


 さて、そんな馬車の中の小事など関係なく、馬車はムーノ男爵が滞在する迎賓館前へと到着する。


 馬車が一台足りない。

 どうやら獣娘達の乗った荷馬車は裏口に向けられてしまったようだ。


「ようこそ王都へ」


 玄関前に整列する侍女たちに導かれて館の中に入る。


 整列している侍女さん達はムーノ男爵領の人ではなく館付きの人のようだ。

 その証拠に彼女達はメイド服ではなく上等そうなワンピースタイプの揃いの服を着ている。


 玄関ホールにはメイド服を着たピナが待っていた。


「お待ちしておりました。士爵様、カリナ様」

「久しぶりだね。元気なようで何よりだ」

「士爵様のご活躍もムーノ領まで届いております」


 あまり長々と会話していても出迎えのメイドさん達の仕事が止まるので、適当なところで切り上げる。


 ピナはムーノ領や公都で見た戦闘メイドの格好とは違い、「昔から侍女をしていました」と言わんばかりの淑やかな仕草でオレを先導して居間へと案内してくれる。


 マップで確認したが、男爵やニナ執政官は王城の北会議室に詰めているようだ。なかなか神経を使う会議らしく、男爵のスタミナ値がすごく減っている。

 状態異常に「過労」って出ている人を初めて見たよ。


「男爵様と執政官様は事前折衝にお出かけなのでお戻りになるまで、この部屋でお寛ぎください」


 侍女達がテーブルの上に人数分の茶器とお茶請けを幾つも並べていく。お茶請けはまだ温かい焼き菓子の乗った皿と白い飴のような物が小さな器に盛られている。

 テーブルの上に置かれた鈴は侍女を呼ぶための物だろう。部屋の入り口近くで待機していた侍女達を下がらせる。


 少し遅れて裏口から入る事になった獣娘達が合流してきた。


「むむぅ~? 不法占拠~?」

「早い者勝ち」


 ミーアに取られた膝をタマが奪い返そうと狙っている。

 今日の2人は、いつもと立場が逆だ。でも、そんなに取り合うようなものでもないと思う。ポチはよじ登ったり横に座ったりはするけど、膝の上には興味が無いみたいだ。

 横に座るポチがオレと目が合って、にへっと笑う。

 それが可愛くて、思わず頭を撫でてしまった。


 さて、今後の方針を話し合いたいところだが、当然ながらカリナ嬢も一緒なので話しづらい。

 王都に用意してある自分の屋敷に戻ってから話し合うとするか。


 前に飛空艇や魔法剣を納品に寄った時に、アキンドーでペンドラゴン士爵用の屋敷を用意しておいた。アキンドーはペンドラゴン家ご用達の商人という触れ込みにしてあるのでそれなりに便利だ。

 エチゴヤの場合はナナシやクロとして武器や飛空挺などの大物の売買用なので、サトゥーとしての用事にはアキンドーを使用している。


「それにしても、強い強いと思ってはいましたけど、まさかシガ八剣のジュレバーグ卿にまで勝つとは思いませんでしたわ」

『まったく見事であった』

「恐縮です」


 カリナ嬢とラカがリザを称賛する。

 ポチやタマも自分の事のように嬉しそうだ。


 タマからオレの膝を勝ち取ったミーアは、そんな事とは関係無しに鼻歌を歌うくらいご機嫌だ。

 そんなに座り心地が良いとも思えないのだが……。


「でもさ、ペンドラゴン七勇士とか言って誤魔化したけど、このままだとリザさんとかご主人様がシガ八剣にされるんじゃないの?」


 アリサがオレの隣でカップを傾けながら、心配そうに問うてきた。

 良かった。あの「ペンドラゴン七勇士」は本気じゃなかったのか。あのドヤ顔から、てっきり本気だと思っていたよ。


「ペンドラゴン七勇士なのです!」

「七勇士~? カリナも入る~?」


 ポチやタマは能天気に発言するが、さすがにその名前は恥ずかしくないだろうか?

 アリサの発言に首を傾げたのはカリナ嬢だ。


「リザはともかく、さ、サトゥーはシガ八剣に推挙されないのではないかしら? 剣術ならポチやタマの方が強いですわよね?」

「そんな事はないのです!」

「ご主人様のが強い~」


 ポチとタマが首と手を横に振りながら、それを否定する。

 でも、とカリナ嬢は納得いかない顔だ。


 ポチやタマに迷宮都市の屋敷で散々にあしらわれていたのだ。

 カリナ嬢と接戦したオレの姿と、2人を脳内で比べているのだろう。


「……そう、そうでしたの」


 なんだろう?

 顔を伏せたまま何か納得した感じのカリナ嬢を見てると、危機感知が働く。


 表情は見えないが、口元が「ぐへぐへ」笑うときのアリサみたいに緩んでいるようだ。もっとも、もう少し上品な感じだし手で口元を隠している違いはあるが。


「サトゥー! あなたの気持ちはよくわかりました!」


 嬉しそうな顔でこちらを見て、そんな宣言をする。

 きっと、それは誤解です。


 あまりに嬉しそうな満面の笑みなので、その一言を言い出せなかった。


「ちょ、ちょっと。おっぱいさん、何か勘違いしてない?」

「ん」

「そんな感じね」


 アリサが小声で耳打ちしてくる。

 ミーアとルルも同じ感想のようだ。

 シロとクロウを餌付けしているナナも聞いていたようで「誤解もしくは乙女補正による誤認だと推測します」と自分の見解を伝えてきた。


 たぶん、自分との対戦で「わざと負けよう」として実力を隠していたとカリナ嬢が誤解した可能性が高い。

 早めに誤解を解いておかないと、面倒な事になりそうだ。





「桜鮭の王国風ムニエルでございます」


 執事っぽい格好の人が、オレ達の前に上品な盛り付けの鮭のムニエルの皿を置いて、そう説明を付けてくれる。

 この鮭は鯛のようなピンク色の鱗をしているので「桜鮭」と呼ばれるらしい。

 王都で桜が咲く季節によく食べられる縁起物だそうだ。


「ポチちゃん、いきなりフォークで刺しちゃダメ。ちゃんとナイフを使って」

「このくらいなら一口で食べれるのですよ?」

「ナイフ無くてもだいじょび~?」

「大丈夫じゃないの!」


 ポチとタマにマナーを教えるルルとアリサが大変そうだ。


「シロ、こう持つんだよ」

「こう? クロウ」

「そうそう」


 シロはクロウに教えられて、さほど苦労せずにマナーを物にしつつある。

 ナナはそんな2人の様子に目じりが下がりっぱなしだ。母娘の様にも見えるが、実年齢的にはナナの方が年下だったりする。


 オレはそれを横目に、ムニエルを見て険しい表情をするミーアに声を掛ける。


「ミーアも食べてごらん」

「魚嫌い」

「骨も少ないし、騙されたと思って食べてみなよ」

「むむぅ」


 ミーアが眉を寄せてムニエルを睨みつける。

 フォークを咥えて唸るのはマナー違反だが、可愛いので指摘し難い。


「ミーア、フォーク」

「ん」


 少しだけ鑑賞してからミーアに注意しておいた。





 食事の後のお風呂が終わっても、男爵たちは戻ってこない。

 マップに表示される男爵のパラメータが危険な水準だ。スタミナがゼロになって昏倒と覚醒を繰り返している。


 栄養剤やスタミナ回復の魔法薬を差し入れたいところだ。残念ながら、会議に出席しているのは上級貴族とその側近だけのようなので気軽に顔を出すわけにはいかない。

 ピナに回復薬セットを手渡しておく。会議の休憩時間の時にでも差し入れてほしい。


 その時に今日は引き上げる旨を伝えたのだが、ニナ執政官から絶対に引き止めておくように言いつけられているからと涙ながらに懇願された。

 仕方が無いので、男爵が帰るまで皆で夜桜見物と洒落込もうとしたが、それも止められた。

 曰く、連絡手段が無いかららしい。


「サトゥー」

「なんだいミーア」

「呼んでる」


 仕方なく窓から夜桜を楽しもうとバルコニーに向かったのだが、先に陣取っていたミーアが振り向いてそんな事を言ってきた。

 ミーアの見ていたのは桜の大樹だ。


「桜の大樹の根元に行きたいのかい?」

「ん」


 ミーアの顔がいつに無く真剣だ。


「アリサ、悪いけど男爵が帰ってきたら遠話で連絡を頼む」

「おっけー。ミーアの添い寝の番一回で手を打つわ」

「……わかった」


 部屋の隅に「帰還転移(リターン)」の魔法用の刻印板を設置する。

 添い寝一回とはアリサも無欲なものだ。分かっているとは思うけど、セクハラは禁止だよ。


 付いてきたそうなポチ達を置いて、オレはミーアを連れて桜の根元に向かった。



※次回は 7/13(日) の予定です。


※7/8 「少し遅れて裏口」から少し加筆しました。

※8/20 膝の上でご機嫌なミーアの前後の文章を調整しました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「願はくは花の下にて春死なむ」ーー西行が晩年に詠んだ思い が元ではないでしょうか
[一言] サトゥーです。桜の木の下には死体が眠っていると言いますが、原典の名前どころか、そのお話が小説か寓話かすら知らなかったりします。 アニメ『キルミーベイベー』だと思っていました。(小学生時代)…
[一言] 梶井基次郎「桜の樹の下には」は 桜の樹の下には屍体したいが埋まっている! で始まっています。この作品は、1928年12月に 「詩と詩論」に掲載された小編です。
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