SS:アーゼの待ち人
※5/19 誤字修正しました。
※短いです
「うぅ、一緒に行かないかって言ったくせに……」
大きなヒヨコのクッションをポカポカ叩いていたアーゼ様が、涙声で愚痴を呟く。
「昨日の事がまだショックだったんですか?」
「だって!」
「あれはミーアの策略勝ちでしょう。サトゥーさんは『誓約の口付け』なんて習慣を知らないご様子でしたよ」
「きーこーえーまーせーんーー」
アーゼ様が子供みたいに耳を塞ぐ。
サトゥーさんが習慣を知らなかったのは嬉しい反面、ご自分との出会いの時にサトゥーさんがした額への口付けもまた『求愛の口付け』ではない事を意味するのだから。
だからと言って「サトゥーさんと一緒に行けば良かったのに」とは決して口にはできない。
彼女はボルエナンの里に残った最後のハイエルフなのだから。
アーゼ様は里に住むエルフ達の心の支えであり、エルフを慕う他の妖精族や亜人達からは生き神様と信仰の対象にすらなっている。
「うぅ……サトゥーのバカ……」
この姿を見せたら、信仰する気も失せるに違いない。
それともサトゥーさんを狙った刺客が放たれるかしら?
もっとも、世界樹を穢していた「魔海月」の群れを一撃で始末した彼に勝てる者はいないだろうけど。
やがて慣れない愚痴に疲れたアーゼ様がクッションを抱えたまま眠ってしまったので、私は静かに樹上の家の掃除の続きに戻った。
◇
「アーゼ、元気出せ?」
「そうよアーゼ! 蜜菓子くれない?」
樹上の家のバルコニーで黄昏れるアーゼ様を羽妖精達が慰めている。
でも、アーゼ様の反応は薄い。
サトゥーさん達が出発して、まだ2日しか経っていないから仕方ないけど……。
そこに思わぬ来客が現れた。
「ルーアさん、お久しぶりです。これお土産です」
「え? サトゥーさん?」
転移魔法でやってきたサトゥーさんが、餞別に差し上げた妖精鞄を渡してくる。
中を見てみると大きな肉塊が入っていた。たぶん、獣系だと思う。ネーアなら美味しい調理方法を知っているだろう。
私が教えるまでもなく、スタスタとバルコニーで不貞腐れるアーゼ様の方に向かうサトゥーさんを見送る。
「ただいま、アーゼ」
「サ、サトゥー! ど、どうして?」
「アーゼの顔を見たくて帰ってきました」
うげっ、砂糖を吐きそう。
サトゥーさんがさらりとスケコマシな発言をする。
アーゼさまは「あわあわ」と上手く言葉にできていないが嬉しそうだ。
帰ってきたのは一人だけでミーア達はいない。
「サトゥー、出ていったんじゃないのかよ?」
「アーゼ捨てて、新しい女――」
「ちゃんと、お土産もあるよ」
「わかってるじゃねぇか!」
「わ~い、蜜菓子だ!」
「ひゃっほ~! コンペイトウもあるぜ!」
サトゥーさんは如才なく小袋に入ったお菓子を羽妖精達に分け与えて、小さな乱入者を無力化してしまった。
再会というには早すぎるけど、アーゼ様の元気が戻って良かった。
バルコニーでは二人がイチャイチャした会話を始めたけれど、あの2人なら放置しても過ちは犯さないだろう。
サトゥーさんはその気が充分ありそうだけど、アーゼ様が拒否する限りは若者にありがちな暴走もしそうにない。
後は羽妖精に任せ、私はネーアの所に今晩の宴会の段取りを打ち合わせに向かった。
アーゼ様のお話が全く無いのも寂しかったので、幕間プロットの冒頭を切り取ってSSに仕立ててみました。







