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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十一章

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11-11.吸血鬼(3)

※5/6 誤字修正しました。


 サトゥーです。ホラーだと首だけでケタケタ笑ったり、呪いで首だけになっても死ねずに怨嗟の声を上げたりするシーンがあります。

 喉も肺も無いのにどうやって発声しているのか、気になってしかたがありません。





「倒しに来たぞ! バン様!」

「セメリーは、今日も元気であるな」


 大サソリの背に乗り、ティラノと蔦を手足にした遊歩触手ローパーを連れた美女が、城の中庭で真祖と対峙している。

 青白い肌に波打つ黒髪が絡みついて、とても艶めかしい。

 彼女は真祖バンによって吸血姫となったバンパイア・ロードだ。彼女の騎虫の大サソリや護衛の魔物は、彼女によって吸血鬼化している。


 なぜ彼の配下が襲ってくるのか不思議だったので聞いてみたのだが、「ちょっとグレる時期なのである」と気楽な回答が返ってきた。

 彼らにとっては娯楽の一環なのだろう。


 それに真祖を倒しに来たと言っているセメリーだが、その青白い肌を紫色に染めている。

 言葉とは裏腹に、恋する乙女の瞳だ。


「さて、今日の先鋒はだれがする?」

「バン様、わたし!」

「いえ、ここはワタクシが」

「アタシやりた~い」


 さっきの金髪美女だけでなく、赤毛と黒髪の女性も手を挙げて自分がやりたいと主張している。

 どうやら、バトルマニアなのは彼女だけではないらしい。


「わたしの番」


 先ほどの無口な白髪の幼女吸血姫が、小さく手を挙げて中庭へ出ていく。


 幼女が小さな指の先に伸びた爪で手首を切り裂く。

 手首から噴き出る血が、生き物のように蠢き大鎌を形成していく。


 ……吸血鬼らしいというかテンプレっぽい能力だが、実にファンタジーな光景だ。

 セメリーの方は、魔物の素材でできた大剣を担いでいる。


「ふん、まさか白姫が先鋒? てっきり、そっちの金髪デブが出てくると思ったのに」

「ふ、太ってません! ちょっとふくよかなだけです!」


 セメリーがグラマーな金髪さんをデブと表現していたが、痩せているわけじゃないけど太っているとは思えない。

 2人の掛け合いなど聞こえないかのように、中庭まで進み出た幼女が大鎌をセメリーに突き出す。


「こっちの先鋒は、ティラノンよ。行け、ティラノン!」


 セメリーの微妙なネーミングセンスに少し親近感を抱いてしまった。


 その場で片足を軸に旋回したティラノの尻尾が、幼女に叩き込まれる。

 体高6メートルの巨大ティラノの割に実に身軽だ。


 幼女が大鎌でティラノの尻尾を軽々と切断する。

 だが、切断されるのは初めから想定していたようだ。


 切断されたティラノの傷口から噴き出した血しぶきが、どういう理屈なのか一気に燃え上がる。

 火炎放射器のような燃える血しぶきを体に被る寸前、幼女が霧になって回避する。

 だが、吸血鬼の能力をよく把握しているのか、血しぶきは霧になった身体を燃やす特別製のようだ。

 観戦している吸血姫達が息を呑み、セメリーの笑みが深くなる。


「……甘いのである」


 そのつぶやきは真祖から出た。


 オレのAR表示でも、幼女のダメージは軽微だ。

 ティラノの足下の影から湧き上がった幼女が、素早く両足を切り落とす。


 どうやら霧になったのはフェイクで、本体は影に溶け込んで移動していたらしい。

 影魔法ではなく「影歩きシャドウ・ウォーク」という種族固有能力だ。所持しているのは、真祖と幼女を含む数人だけだった。

 歳経た吸血鬼にのみ使える能力らしく、170歳のセメリーは持っていない。


 移動手段を失ったティラノは、抵抗するすべもなくそのまま細切れにされて灰になってしまった。

 どうやら体力(HP)が無くなった吸血鬼は灰になるらしい。


「勝者、白姫リューナ」


 無口な幼女が小さく拳を握り、こっそりと喜んでいる。

 彼女は優雅な歩みで真祖に近付くと、彼に頬を突き出す。真祖が頬に軽くキスをすると、彼女の口元が綻ぶ。


 ちょっと可愛い。





「こっちの中堅は、ロッパ! 白姫の連戦はダメだぞ?」


 口元が綻んだままの幼女が中庭に歩みだそうとしたところを、イライラしたような口調のセメリーが止める。

 幼女が真祖の方を振り向いてジャッジを求めた。


「うむ、ワンサイドゲームは楽しくないのである」


 その一言で、2回戦は、ローパー対金髪美女の戦いになった。

 金髪美女も幼女の様に、自分の手首を切って血で作った2本の短剣を手に戦闘を開始する。


 縦横無尽に襲ってくるローパーの触手を、人間を超えた素早い動きで避け、避けきれない触手は短剣で受け流す。

 このローパーの樹液は、ティラノと違って燃え上がらないようだ。

 ただし、粘性が強いのか、金髪美女の動きを鈍らせる。


 ローパーの触手の先端にある角質化したツメのような部分が、美女の服をかすめて切り裂いていく。


「あははは! ロッパ、いいぞ! そのデブっちょのみっともない身体を白日の下にさらしてやれ」

「わたしっ、は、太って、ない」


 セメリーの罵詈雑言に反論して呼吸を乱したせいか、金髪美女はついに避けきれずに複数の触手に絡みつかれ、四肢を拘束された状態で空中に持ち上げられた。


 ――なんて、エロいポーズだ。

 彼女の名誉の為に、後ろを向いて視線を逸らす。


 後ろからバチバチと電撃の様な音が聞こえてきた。

 触手の先からの電撃攻撃でも受けたのか、金髪美女が麻痺の状態異常になっている。


 この状態では霧になる事もできないのか、反撃もできないまま金髪美女の敗北が確定した。


「勝負あり、勝者ローパー」


 決着がついた様なので振り返る――なんて、スプラッタ……胴体で真っ二つにされ四肢をもぎ取られた金髪美女だった骸がローパーの触手にぶら下がっている。

 ローパーが、ぺいっと投げ捨てた金髪美女の頭部を、幼女が拾い上げる。


「無様ね」

「……無念です」


 げっ、さすが吸血鬼。

 首だけでも喋れるのか。


「心配は要らぬ。血を掛けてやれば、すぐにでも復活するのである」


 驚愕の眼差しで喋る生首を見ていると、真祖がそうフォローしてくれた。

 AR表示を確認すると、体力ゲージが徐々に回復していっている。





「こっちはロッパで連戦する。そっちは大将だ!」


 セメリーの視線は真祖を捉えている。

 彼女の視線に気がつかないかのように、真祖はオレに視線を向ける。


「ルーチンワークは怠惰を呼ぶのである。今日は趣向を変えよう。クロ殿、ガーディアンを倒した君の技を見せてはくれまいか?」

「ああ、いいとも」


 ローパーは「理力の手(マジック・ハンド)」で触手を縛って、火系の魔法で一撃で排除できるから別に構わない。


「このロッパはバン様用の特別製だ。そんなニンゲン如きに使えるものか! 私が直々にいたぶってやる」


 ……真祖用って、さっき金髪美女にも使ってたじゃないか。

 それと、どういう使い方をするつもりだったのか、聞くのが怖い。


「怪我をさせたくないんだけど、手加減のコツとか無いかな?」

「ニンゲンの分際で、手加減だと?! このセメリー様も舐められたものだ」

「安心するのである。上級吸血鬼バンパイア・ロードは、灰になっても滅びぬ」


 小声で真祖に相談したのだが、吸血姫は耳が良いようでセメリーにも聞こえてしまったみたいで血管が切れそうなくらい激昂している。

 真祖は楽しそうに、「灰の上に魔核を置いて血を垂らせばすぐ復活するから、思いっきりやって構わないのである」と煽るように告げてきた。

 本気でやったら城の侍女さん達にまで被害がでちゃうよ。


 首を落としても死なないようだから、首刈りで終わらせようか。


「バン様! こいつを倒しても条件は変えないぞ?」

「ああ、セメリーが彼に勝てたら、約束通り来月まで君の虜になろう。だが、君が負けた場合、君への命令権を得るのはクロ殿とする」


 いや、命令権とかいらないから。


 オレと目が合うとセメリーの表情が歪む。

 深い谷間を誇示していた胸元をかき寄せて、オレの視線から庇うのは止めてほしい。

 実に心外だ。


「は、破廉恥な命令はダメだぞ!」

「あらセメリー、もう負ける気なの?」


 さっきの意趣返しなのか、金髪美女が首のまま憎まれ口を叩く。


 シュールすぎる光景だ。

 本当に彼女たちは、不死の身体アンデッドなんだな。


 無詠唱で「理力剣(マジック・ソード)」の魔法を使ってガラスのように透明な剣を生み出し、それを得物にする。


「ほう、『旋風刃(ダンシング・ブレード)』系列の魔法で武器を作ったのか。実に珍しい使い方なのである」


 長い年月を生きている吸血鬼に言われると、自分が凄く変わり者のような気分になるよ。


 だが、そんな感想も、大剣を細腕で軽々と振り回すセメリーが突撃してきたので、中断する事になった。

 強引な力業だけの人かと思ったが、意外にちゃんとした剣術を使うようだ。


 170歳になるまでの間、ヒマさえあれば剣をふっていたのだろう。

 ポチの師匠のような洗練された太刀筋だ。


 ただし、エルフ師匠と比べると老獪さが足りない――それ故に読みやすい。


 おまけにセメリーの表情が豊かすぎる。

 ポチを相手にした訓練の時のように、相手のしたい攻撃をさせつつ次第に追い詰めていく。


 じり貧になってきたセメリーが、手首を切り裂いて作りだした血流が針となって襲ってくる。

 そんな苦し紛れの攻撃を、単発の「短気絶(ショート・スタン)」で蹴散らし、理力剣でセメリーの大剣を破壊する。


「くっ、このっ」


 セメリーが作りだした血剣を片手持ちの理力剣で受け、身体をねじ込むように彼女の懐に潜り込み掌打を打ち込む。

 掌が彼女の身体に触れた瞬間に、「魔力強奪(マナドレイン)」で一気に相手の魔力を奪う。


 魔力による防御を失った彼女に、そのまま掌を押し出しえぐり込むように掌をめり込ませる。

 吸血鬼も呼吸をするのか、セメリーが息を詰まらせて動きを止めた。


 手を引き戻す流れのまま、反対側の手に持っていた理力剣を首筋に叩き込み、寸前で止める。

 いや、止めてしまった。


 オレには青白い肌以外は人間にしか見えない女性の首を落とせなかった。

 いくら死なないと判っていても、生理的な嫌悪感が上回ったみたいだ。


「勝者、クロ殿!」


 だが、真祖はオレの勝利と判断したようだ。

 セメリーが地面に両手をついて咳き込む。


「クロ殿、セメリーに何を望む」


 真祖の問いかけに答えようと口を開く前に、セメリーと目が合った。

 彼女は悔しそうに口を噛みしめて、屈辱に震えている。


 嗜虐心がそそられるが、エロ方面の要求をする気は無い。

 無いったら無い。


「そうだな――」


 少しタメを入れてセメリーをドキドキさせるくらいは許してほしい。

 彼女は天性の弄られキャラの素質がある。


「――迷宮下層の名所を案内してくれないか?」


 オレの申し出は意外だったようで、セメリーは気が抜けたように「名所?」と首を傾げている。

 それが気に入ったのか真祖がオレの肩を叩きながら愉快そうに笑っている。


「名所だな! 任せておけ。キサマが今まで見たことの無いような驚天動地の名所を見せてやる」


 どうやら案内する事をオレからの新たな挑戦と解釈したのか、セメリーが気合いを入れた表情で腕を突き出してオレを指さしてくる。


 今からでも案内してくれそうな勢いだったが、そろそろ夜明けだし、今日の昼はゼナさんとデートで晩はギルド長との宴会予定だ。

 明日はカリナ嬢をお茶会と晩餐会にエスコートしないといけないから、明後日にしてもらおう。

 今晩でもいいのだが、名所を巡るなら、ちゃんと睡眠を取って休憩してからにしたいからね。


 戦いの報酬に真祖から、下層の転生者への顔つなぎをしてもらえる事になった。

 名所巡りのついでに訪問する事にしよう。


※次回更新は、3/17(月) の予定です。

 第一巻発売日までカウントダウン投稿を予定しています。

 

 そろそろタマリンやポチニウムが不足してきたので、少し補充がしたい……。





※宣伝コーナー


 発売まで後4日!

 新エピソードが一杯の書籍版「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」は、3/20(木) 発売予定です。

 Amazonは売り切れですが、楽天などではまだ予約可能です。



●サトゥーのスケジュール(現在2日目)


1日日:パレード。ゼナ出発。

2日目:カリナ迷宮1日目。ゼナ誘拐⇒救出、真祖に会いに行く。

3日目:カリナ迷宮2日目。ゼナとデート。ギルド長と宴会。ポチの肉禁止最終日。

4日目:カリナ嬢を連れてお茶会&晩餐会へ。

5日目:吸血姫セメリーの案内で下層の名所巡り。

6日目:王都へ向けて出発


※あくまで「予定」です。この通り進行するとは限りません。

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 発売日:2025年12月9日
ISBN:9784040761442



― 新着の感想 ―
サトゥーさん予定詰込み過ぎでは?(;^ω^)
倒すどころかメッチャ仲良くなってて草
[一言] 「ドウエル教授の首」では、鞴となる肺の代わりに空気ボンベを使っていました。 喋るときだけコックを開き空気を流して、声帯を振るわせるやり方です。 ファンタジーであれば、遠話などの術か詠唱抜きで…
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