11-10.吸血鬼(2)
※5/19 誤字修正しました。
サトゥーです。フランスあたりの言葉だったと思いますが、「高貴なる義務」という言葉が有名になったのはいつ頃からでしょう。
日本では漫画かアニメでしか目にしない言葉ですが、異世界では割とありふれた行為のようです。
◇
「その詰め襟に、黒髪黒目でその名前。何より平たいその顔! 『もしかして、日本人なんか?』」
『そうだよ。見ての通り生まれも育ちも日本だ』
「やはり、そうであるか」
後半、日本語で尋ねてきたので、こちらも日本語で返す。
面会した真祖は、ワカメのように縮れた天然パーマの紫髪の青年だった。
青白い肌でフランス系の顔立ちをしているのに、日本語の時だけ関西弁っぽいアクセントだった。
いや、今世と前世の容姿に因果関係はなかったっけ。
本名は「番」とか「播」という漢字だったのだろうか?
「サガ帝国の勇者ではないようだが、神隠しに遭った<迷い人>であるか?」
「その<迷い人>という言葉は知らないけど、たぶん転移者ってやつだと思う」
「ほう? 何百年か前に、聖ヘラルオン教国がサガ帝国の勇者召喚の秘儀を真似て、日本から勇者を招こうとした事があったが、また同じような事を繰り返している国があるのか……」
彼は渋い顔をしながら「誘拐犯共め」とか「また、召喚士や国の中枢を始末するか」とか物騒な事を呟いている。
彼にとっては転移者=召喚者なのか。
レベル61の真祖が、レベル40~50の吸血姫達を率いて襲えば小国くらいなら簡単に滅ぼせそうだ。
何よりオレの知る限り、この大陸に聖ヘラルオン教国という国は無い。
ここはメネア王女の為にもフォローしておこう。
「それには及ばないよ。既に上級魔族の襲撃を受けて、召喚に関わった人達は排除された後らしいからね」
「魔族も偶には良い事をするようであるな」
真祖にメネア王女から聞いた話を教えておく。
それが事実かどうかは確認していないが、あの時点で王女が嘘をつく意味がないので無闇に疑う必要もないだろう。
「色々と日本の話で盛り上がりたいところであるが、先に用件を片付けておこうではないか」
「そうだね。オレの用事は――」
オレはゼナさん達を救出した際に破壊した結界や城の事を詫びた後、ゼナさん達と一緒にいた女性達の解放を頼んでみた。
「彼女達は奴隷として正規ルートで購入した者達である」
「対価なら支払うけど?」
「金には困っていないのである」
――無理か。
「正規ルートで買ったと言うけど、まさか街まで出向いたのか?」
「まさか、である。2月に一度、迷宮上層で秘密の市場が開かれる。そこで魔核や魔物素材を売って得た金で、出品される奴隷達を買い求めるのである」
しかも、お得意様らしく、彼にしか買えない様な高価な奴隷が連れて来られるそうだ。
「奴隷達は血液の供給源として飼っているのか?」
「失敬なのである。彼女達は大切な城の使用人だ。飼うという表現は撤回してもらおう」
「失礼、先ほどの言葉は撤回させてもらうよ」
わざと挑発的な言い方をしてみたのだが、予想より激しい否定の言葉が返ってきた。
「購入した奴隷達は月に数十cc程度の血を提供してもらうが、その他には城内で侍女の真似事をしてもらうだけだ。無理やり吸血鬼にする事は無いし、無体な暴力をふるう事も陵辱することも無い」
血液の供給源というのは間違っていない気がするが、彼女達の自由意思は奪っていないようだ。
彼は吸血鬼に成ってから、次第に普通の性欲が無くなっていったそうだ。
吸血姫たちは全て彼の嫁らしいが、抱きしめて口付けを交わす程度の関係らしい。
唯一の欲求は、日に3度ほど血を一滴垂らしたワインを一杯飲む事だと言うのだから、オレのイメージする吸血鬼とは少々違う。
なんというか、女性向けの小説や物語に登場しそうな吸血鬼だ。
「希望者は5~10年ほどで解雇するが、雇用期間中に自活できるだけの教養と技術、それに数年遊んで暮らせるほどの生活費を与えてから奴隷解放する事にしているのである」
これだけの厚遇なら、雇い主が吸血鬼でも成り手が多そうだ。
教養と技術を与えるのは解放後の奴隷達を自立させる為というのもあるそうだが、一番重要なのは吸血姫たちの暇潰しの為らしい。
慈善事業が目的と言われるよりは、吸血鬼らしい所業だ。
しかし、10年もここに居たら日光浴もできないし、不健康になりそうだ。
「その心配は無用である。この大区画のはずれに光属性の魔術士の庵がある。そこで侍女達は日に一度、日光浴をするように言いつけてあるのだ」
「吸血鬼の領域に、光属性の魔術士?」
「ああ、愛娘を陵辱しようとした大貴族のバカ息子を血祭りに上げた咎で追われ、迷宮に逃げ込んだ男とその娘夫婦だ。匿い食糧や生活必需品を提供する対価に働かせているのである」
なるほどね。
少し奴隷達への配慮が厚過ぎる気がしたが、それにはちゃんと彼なりの理由があった。
「へたに虐待とか殺戮をすると勇者がやってくるからな。何事も共存共栄、ほどほどが良いのだ」
真祖は偽悪的な笑みを浮かべて、そう嘯いた。
◇
「でも、奴隷達を買うならゲルカ嬢達を攫う必要は無かったんじゃないのか?」
「うむ、必要ないな」
「では、何故?」
「今月の闇市が開かれなかった故、市場の顔役の迷賊共に事情を聞きに行く途中に瀕死の乙女を見かけてな」
真祖の話によると、ゲルカ嬢は毒刃に刺されて動けなくなって魔物達の餌食になりそうなところを、ゼナさんは剣斧蟷螂の一撃を受けて瀕死のところを、それぞれ救われたらしい。
吸血鬼と一緒だと、彼らが霧になって移動するときに毒の進行や出血が止まるそうなので、この城まで連れてきてストックしてあった魔法薬で治療してくれたそうだ。
彼の言う「霧になる」というのが、どういう仕組みなのか興味があるが好奇心を満たすのは後回しにしよう。
「慈善事業が趣味なのか?」
「ふむ、長く生きていると最大の敵はヒマなのである。目の前で見かけた不遇な者は、気まぐれで助ける事にしているのだ。それが美しい乙女なら手を差し伸べない理由はあるまい?」
「確かに」
もっとも、闇市の時にしか下層を出ないそうなので、ゼナさん達のように命を救う為に城に連れてくるのは百年ぶりだったそうだ。
◇
お人好しの真祖にゲルカ嬢やゼナさんの命を救ってくれた礼を告げ、謝礼に何か地上で調達してほしい物が無いか尋ねてみた。
「うむ、『レッセウの血潮』を所望するのである」
必要な物は無いと突っぱねられそうな気がしていたのだが、意外にも即答された。
オレの記憶が確かなら格安ワインの銘柄だったはずだ。
「珍しいワインが好みなんだな。アイテムボックスと転移魔法があるから生鮮食品や生地なんかも調達できるぞ?」
真祖が周りに侍らせている吸血姫に視線を送る。
「流行のドレス」
「ミスリル、無ければ鋼か銀のインゴット」
「可愛い小物」
「紙とインクが欲しいです」
吸血姫が口々に告げる品目を交友欄のメモ帳に記入していく。
結構な品目だが「レッセウの血潮」以外は、ストレージに既にある品ばかりだった。
すぐに渡しても良いのだが、真祖用のワインと一緒に渡した方が良いだろう。品目を読み上げてメモが間違っていない事を確認して、次に来訪する時に届けると約束する。
お暇しようと腰を上げたところを真祖に止められた。
「せっかく来たのだ、一つ勝負をしようではないか」
◇
最初のうちは接戦を演じていたのだが、真祖との勝負はオレの圧勝で終わりそうだ。
「王手」
「待て、その手はイカン」
「だが、『待った』は先ほどのが最後と言っていなかったか?」
「ぐぬぬぬ。では血珠3つを差し出すから、もう一手待ってほしいのである」
「わかった、これが最後だぞ?」
「うむ」
そう、勝負の内容は将棋だ。
真祖が用意した将棋板を挟んで勝負を始めたのだが、真祖の腕はヘタの横好きとしか言えないレベルだった。
吸血鬼産のレア素材が手に入るから待つのは良いのだが、彼との将棋は若干ストレスが溜まる。
オレは仕事で将棋アプリを作る時に、奨励会に居た事もあるメタボ氏の鬼の特訓を受けたお陰で、素人にしてはそれなりに強い。
しかも、アプリには難易度設定もあるので上手く手加減をするコツを熟知しているのだが、それでもなお真祖に勝たせるのは至難を極めた。
あからさまな隙を作っても、自爆としか思えない手を打ってくる。
何度、「待った」に応じても、彼が勝てる見込みは薄い。
もっとも、観戦している吸血姫達には勝敗は関係ないようだ。
彼女達は、真祖が子供のように「待った」を掛けたり、くやしそうに唸る姿を見せる度に愛おしそうに慈しみの視線を送っている。
まあ、人の趣味にとやかく言うのは止めておこう。
彼との将棋対決は、明け方近くに、とある人物が来訪するまで続いた。
※次回更新は、3/16(日) の予定です。
もう1話挟んでゼナさんやカリナ嬢のターンが来ます。たぶん。
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