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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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307/553

11-6.予兆

※2/18 誤字修正

 サトゥーです。迷子といえばデパートや遊園地を思い出します。デパートで涙目の迷子にズボンを掴まれて「お母さん、ドコ?」と聞かれたのは、懐かしい思い出です。
 徹夜明けの怪しい風体だったので、すぐ近くの店員さんに押し付けましたけどね。





 声に呼ばれるままに路地裏に向かったオレを待っていたのは、街娼のような胸の谷間を強調した色っぽい女性だった。

「若様、ごぶさたしております」

 オレの首に手を掛け、しなだれかかってくる女性を受け止めて睦言を交わすような姿勢を取る。

「もう、少しくらい恥ずかしがってくださいよ」
「そんな事より、何か情報があるんだろう? 先にそれを話せ」

 拗ねたように人指し指でオレの胸元を捏ねる女性に、先を促す。

 彼女は、侯爵家の子飼いの諜報員だ。
 前にヴィラス審議官の一件があってから、侯爵夫人の指示でオレに色々な情報を提供してくれている。
 主な情報はオレに悪意を持つ貴族達の噂話や、素行の悪い探索者や犯罪ギルドの動向などだ。
 なぜか手紙ではなく、娼婦や探索者の振りをして直接教えてくれる。

「もう、せっかく娼婦の振りをしているんですから、せめて髪かお尻を優しく撫でててくださいよ」
「用件が無いなら、行くぞ?」

 用件が有るのは判っているのだが、向こうのペースに合わせると延々抱き合ったままになるので、こういう態度や口調が必要になる。
 早い話が、アリサと同類の年下好きの人だ。

「真面目にやりますから! まず、魔人薬の件です――」

 結局、オレが懸念していた王都のクーデターは発生せず、ソーケル卿が黒幕だと話していたケルテン侯爵では無く、その配下の将軍が黒幕として処分されたらしい。

「――トカゲの尻尾切りなのは間違い無いのですが、証言をしたソーケル卿の叔父がオーユゴック公爵の派閥だったので……」

 その為に嫌オーユゴック公爵の筆頭だったビスタール公爵が、ケルテン侯爵の擁護に回ったそうだ。

 ビスタール公爵って誰だっけ?

 思い出せないので久々にトルマメモをチェックする。それによると迷宮方面軍の将軍の係累で、迷宮都市の北側にあるエルエット侯爵領の更に北にある大領の領主らしい。

 結局、魔人薬が見つかった倉庫を管理していた軍団の長が真犯人として処理される流れになったらしい。
 前に王都に行った時に見つけたアレか。
 まさか正規軍の倉庫に堂々と違法な品が置いてあったとは……。

「魔人薬の件は続きがありまして、押収された魔人薬は王立研究所で処分されたのですが、そのうちの一部が外部に流れまして――って、これは他の人には秘密でお願いします」
「ああ、勿論だ」

 その魔人薬は、貿易都市で一部が押収されたそうだが、何隻かの密輸船が出港した後だったらしい。密輸船の船籍は不明で、大陸西部航路に向かったそうだ。

「ふむ、所で話の後半は不要だったんじゃないか?」

 魔人薬の件には関わっていたが、主にクロとして関わっていたのでサトゥーにはそれほど詳細な情報を伝える必要は無いと思う。

「いえ、そこは枝葉でして」
「本題は?」
「はい、『自由の翼』という組織を覚えておいでですか?」
「ああ、セーラ様を攫った上に公都に魔王を蘇らせようと画策していた狂信者達だな?」

 言葉を濁したが、黄金の猪王を復活させたのは「自由の翼」の連中だ。
 もっとも、彼らの意思だったのか、「自由の翼」の幹部に憑依していた上級魔族の企みだったのかは闇の中だ。

「その魔人薬を密輸しようとしていた連中ですが、その中に『自由の光』の構成員がいたんです」
「光? 翼じゃなくてか?」
「はい、『自由の光』から放逐された過激派が『自由の翼』なのです」

 彼女の話によると「自由の光」は、大陸西部にあるパリオン神国に本部があるらしい。魔王を討伐する勇者を召喚した神を冠した国のお膝元に、魔王信奉者がいるというのも不思議な話だ。

 余談だが、シガ王国の王都には『自由の風』という類似団体がいるそうだ。
 こちらも「自由の光」の一派閥らしいのだが、穏健派というか、禁断の書物を集めて悦にいったり、背徳的な儀式の準備が好きなだけの小物の集団らしい。
 例の魔人薬にも全く関わっていなかったそうだ。

「それで?」
「はい、魔人薬が『自由の光』経由で『自由の翼』の残党に渡ったかもしれないので……」

 逆恨みした「自由の翼」の連中が魔人薬を飲んで襲ってくるかも知れないという話か。
 もっと簡潔に話して欲しいものだ。

 最後に関係ない話として、大陸西部で政情が不安定だと教えてくれた。
 今のところは通商の閉鎖や小規模な小競り合い程度らしいが、いつ戦争に発展してもおかしくないレベルになってきているらしい。

 魔王の季節の間は、国家間の戦争は起きにくいという話だったのに、どうした事だろう。やはり、魔族や魔王が背後で暗躍しているのだろうか?

 どうやら、ナツメヤシの入荷が止まっているのは、それが原因みたいだ。
 さすがにナツメヤシの安定入荷の為に戦争を止めて回るのはアレだが、シガ王国やサガ帝国から圧力を掛けて戦争を止められないのだろうか?

 イタチ帝国の迷宮で魔王を探している勇者が地上に帰ってきたら、相談してみよう。
 そういえばパリオン神国にも魔王顕現の預言があったっけ。一応、勇者ハヤトがイタチ帝国に行く前に調査していたはずなんだが……。





 ギルドのエントランスで何やら男女の言い争う声が響いている。

「だからっ! ゲルカは戦闘中にいなくなるようなじゃ無いって言ってるじゃん!」
「ギルドには報告しておいたから、単に逃げたならすぐ判るだろう?」
「どうして探しに行ってくれないのさ」
「魔法使い無しにあの区画は無理だってソソナも判ってるだろう?」
「あたしの土魔法があるじゃん!」
「火魔法使いの火力が無いと押し切られて魔物の腹の中に収まるのが関の山だ。諦めろ」

 レプラコーンの少女がリーダーらしき戦士にくってかかるが、リーダーはそれをすげなく扱っている。
 どこかで見た顔だと思ったら、公都で黄肌魔族が襲ってきた時に魔物と戦っていたヤツらか。

 わざわざ探しに行ってやる気も無いが、多少の縁もあることだし迷宮に入った時に名前検索をするくらいはしてやろう。
 ちなみに迷宮都市内にはいないようだ。

 尚も言い争うパーティーの横を抜けてギルド長の部屋に向かった。





「見ろサトゥー! この色艶――味を想像するだけで涎がでそうだろ?」

 ギルド長がガラス瓶に入った透明な高級酒を見せびらかす。
 やっぱり、そんな用事か……。

 あの瓶は、王都の有名な酒造倉のシガ酒だったはずだ。相場が教えてくれる値段からして、酒代のツケで汲々のギルド長がほいほい買えるような酒ではない。
 おそらく、出入りの商人からのワイロだろう。

「良いモノなのですか?」
「おうともさ! アンタの竜泉酒ほどの逸品とは比べようもないが、こいつ一本で男爵クラスなら身代が傾くほどの銘酒だ」

 ギルド長が「ほれほれ、飲みたいか?」と嫌らしい笑いで酒瓶を見せびらかすが、それほど飲兵衛でもないのでさほど興味は無い。それにソレ1本で傾くほど男爵の身代は安くないと思う。
 もっともそれを口にするほど子供ではないので「味見くらいはしてみたいですね」と話を合わせておいた。

「よし! それなら今晩は宴会だ! 酒の肴は士爵に任せたぞ!」

 ギルド長が嬉々とした笑顔で、酒宴の料理を押しつけてきた。
 やはり、それが狙いだったか。だけど、今晩は迷宮下層のチェックをしておきたいんだよね。
 狗頭の魔王が下層から――あるいはもっと下から――来たのなら、他にも30体くらい魔王がいるかもしれないし。

「すみません、今晩は先約がありまして。明日なら大丈夫ですが、明後日は侯爵夫人の晩餐に招待されているので」
「また、女か? その内刺されるぞ?」

 人聞きが悪い。
 まるで人を女癖が悪いみたいに言うのは止めて欲しい。少なくとも素人娘さんと火遊びはしていませんよ?

「ところで、今日呼び出したのは酒宴の打ち合わせだけですか?」
「ああ……もちろん、本題は別だ」

 言い淀んだ理由を追求したかったが、話が長くなるので流した。

「最近、迷宮都市の魔物素材の武具が高騰しているのは知っているか?」
「はい、懇意にしている武器屋から聞いています」

 聞いたのはクロでだが、別にいいだろう。
 魔物の素材の買い取り依頼が多くて、美味しい魔物の取り合いが凄いと「ぺんどら」の誰かが言っていた。

 なんでも市外の商人が相場の数割増しから倍の価格で、魔法の武具を買いあさっているそうだ。
 さっきの諜報員の話からして、大陸西部にでも流れているのだろう。

「そこで普通に素材を集めてくるならいいんだが、探索者の宿や家とかに空き巣に入るバカが出てきてね」

 しかし、宿に魔法の武器を置きっ放しにする探索者は少ないと思うのだが。
 薬で眠らせて武器をかすめ取るヤツは出てきそうだね。

「アンタみたいに大きな屋敷に住んでいる赤鉄クラスのヤツの留守が狙われているらしいから気をつけな」

 フラグっぽいが、屋敷には魔法の武具を置いてないんだよね。
 ダミーとかでも置いておいた方がいいかな?
 念の為、報知用のカカシも設置しておくか。

 ギルド長に宴会の日程を確認し、情報の礼を告げて部屋を出た。





 ギルド会館を出る時に、満身創痍な金属鎧の集団に出会った。
 貴族や騎士が主体になったパーティーだろう。普通の探索者たちはコストパフォーマンスが悪いので、こういった鎖帷子チェインメイル金属甲冑プレートメイルは使わないんだよね。

「少年!」

 お、リリオがいる。
 という事は、この集団はセーリュー市の迷宮選抜隊の人達か。
 ゼナさんのマーカーが無かったから気がつかなかった。

 ――あれ?

 オレの感じた違和感を肯定するように、リリオの言葉が続いた。

「ゼナっちが迷宮で行方不明になっちゃったの!」
※次回更新は、2/23(日)の予定です。

※2014/2/18 公爵の家名を間違えていたので修正しました。
※2014/9/12 魔人薬の処分方法を修正

 活動報告にバレンタインSSがアップしてあるので良かったらご覧下さい。
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