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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十章

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10-45.ミスリル証(3)

※12/11 誤字修正しました。


 サトゥーです。忘年会シーズンには、焼肉や鍋料理などを囲んで宴会をしたものです。ただ、大晦日も元旦も仕事で、いつのまにか年が変わっていたという事の方が多かったですけどね。





「サトゥー!」


 王都からお土産を持って帰ってきたオレを最初に見つけたのは、やはりミーアだった。転移魔法を使うと精霊が慌てるそうで、数瞬だが事前に判るらしい。


 ミーアに遅れてポチとタマが別荘の方から駆けてきた。この二人は空間か魔力の揺らぎを察知して、オレの転移が判るそうだ。「なんとなく」判るだけらしいので、何を察知しているのかは2人もよく理解していないみたいだ。


「やっぱり! ご主人さまなのです!」

「おかり~」


 到着は三人同時だ。

 ミーアは、ぽふんと正面から。

 タマは、ピョンと飛んで首投げでもしそうな勢いで、オレの首に着地して肩車スタイルになる。着地の時に「ぱおだる~いん」と微妙に間違った掛け声をするのはアリサのせいだろう。

 ポチは、騎士相手でも一撃で倒せそうな勢いで頭からぶつかってきた。ミーアの後頭部にヒザが命中しないように、理力の手も使って優しく受け止める。


 涙目のポチが下から「アリサが~」と訴えている。

 どうしたんだろう?


 理由を聞いてみても、あうあう言うか、「アリサが」と繰り返すばかりで、言葉が続かない。人の悪口を言ってはダメとルルやリザに躾けられたせいか、人を罵倒する言葉が上手く出てこないようだ。


「ん、情緒不安定」


 ミーアが横抱きにしたポチの横から顔を出して教えてくれるが、ポチの事なのかアリサの事なのかよく分からない。もう少し、言葉を増やしてほしいものだ。


「けんげんがくかう~?」


 喧喧囂囂(けんけんごうごう)侃侃諤諤(かんかんがくがく)かな?

 肩車したタマが、オレの髪の毛をモシャモシャとかき混ぜながら、覗き込んでくる。

 よく分からないから、アリサ達に直接聞くか。


「お土産もあるから、食べながら話そうか」

「にく~?」

「甘味?」

「両方だよ」


 オレの言葉にテンションの上がる3人(・・)。ポチと目が合うと、ちょっと気まずそうにして「肉はベツバラなのです!」とそっぽを向いて口笛のマネをしている。

 肉が別腹なら、本腹? には何が入るのか小一時間問い詰めたい。


 別荘の扉を開けると、アリサ達の論争する声が聞こえてくる。


「だから! さっきから言ってるじゃん! 最初の一撃は、遠距離から最大威力の魔法を叩き込むべきなんだってば!」

「否定します。その一撃で倒せない場合、アリサ達後衛の命が危険で危ないのです」

「そうです。一番槍は武人の誉れといいます。我々前衛陣が突撃して敵を削り、最後の止めをアリサ達後衛が刺すのが常道でしょう」

「だって、それじゃ、リザさんやポチが怪我するじゃない!」

「アリサ、私の心配もするべきだと進言します」

「ナナは鉄壁じゃない。マギヒュドラのブレスと魔法と噛み付きの三重攻撃くらって無傷とか、中級魔族相手でもタイマンできそうじゃない」

「装備と新魔術のお陰です。称賛はマスターにこそ言うべきだと推奨します」


 なかなか白熱しているみたいだ。

 というか、マギヒュドラは魅了攻撃があるから手を出すな、って言っておいたのに戦ったのか。食事の後にでも、お仕置きだな。





「つまり、アリサ、リザ、ナナの三人が、戦術について議論しているのを、ケンカしていると勘違いしたのか?」

「そうだけど、違うのです」


 難しい。


「アリサが無茶言うのです」

「え~、ちょっとルルの滑腔砲を使って空蝉蜂鳥(ブリングバード)に攻撃を命中させろって言っただけじゃない」

「アリサ、空蝉蜂鳥は魔法の矢でも命中させるのが難しいんだから、無茶よ?」


 ルルが、テーブルに食器や食材をならべながら、アリサを窘める。


「だって、ルルは命中させてたじゃない」

「岩の上で休憩している空蝉蜂鳥を遠くから狙撃で、だけどね。あれは連動ゴーグルと銃身安定用の空間杭があったからよ。ポチちゃんみたいに動いている空蝉蜂鳥相手だと、さすがに当てる自信はないかな」


 ルルが可愛く顎に指を当てて「ん~」と考えて、アリサの言葉を訂正している。


 滑腔砲の連動ゴーグルは、砲身の照準をつけにくいという欠点をカバーする為に作ったものだ。滑腔砲につけられたスコープの画像を転送してくれる。ただ、動画を転送できるほどの速度が出せなかったので、なんとか粒子の粗い静止画を至近距離で送るのがやっとだった。

 空間杭は、滑腔砲の手ブレを無くすためのモノで、世界樹に使われていた技術の模倣だ。世界樹に使われている空間杭とは比べるのもおこがましいくらい脆弱なモノだが、銃身を固定できるので手ブレは完全に無くなる。


 これらの魔法回路の起動は、手元のボタン操作か音声入力で行う。応答のセリフはオレが吹き込んだ。開発予算の少ないゲームの時は、開発スタッフが持ち回りで声優モドキをやっていたので照れは無い。


「それで、ポチは命中させたの?」

「ちゃんと当てたのです……魔刃砲で」


 ポチの言葉は最後の方が尻すぼみにボリュームが下がっていった。なるほど、弾丸が命中しなくてヤケになって、滑腔砲の銃身を剣に見立てて魔刃砲を使ったのか。


「ポチはすごい~ まじんほ~ 曲げてた、でゴザル」


 膝の上から見上げながら、タマがポチの偉業を報告してくれた。

 魔刃砲って、軌道を曲げられるのか。どこかの最強宇宙海賊みたいだ。今度、オレも練習してみよう。


「でも、どうして滑腔砲の練習なんて?」

「接近するのが危ない敵だった時の為よ」

「それなら魔刃砲でいいんじゃない?」

「だって、フロアマスターなんて、絶対に魔法抵抗が強そうじゃない。遠隔物理攻撃手段を増やしたかったのよ」


 なるほど、それでか。

 でも、そういう目的なら、滑腔砲用の散弾もあるんだが。


「散弾なんてダメよ。フレンドリーファイヤーが怖いし、威力も弱いじゃない」

「加速陣を使えば、シャレにならない威力になるはずだよ」


 それこそ命中すれば、ジェット戦闘機だって落とせそうだからね。


「はい! 難しい話はそこまで! 続きは食後にしてくださいね」


 食事の準備を完了させたルルが、手をパンパンと叩いて注目を集め、会議の終了を宣言する。こうやって強制終了させてもらわないと、議論に夢中になりすぎて食事が冷めてしまうんだよね。





「うっはあ~! これは霜降り? どこで手に入れたの?」

「うん、王都から帰る途中で、巨大な魔物に襲われている牧場を見つけてね。その魔物を退治したお礼に貰ったんだよ」


 御用牧場だったらしくて、魔物に半分喰われた牛の肉を謝礼代わりに貰った。牧童に言わせると「傷物」の肉らしいが、この赤身と脂身の織り成す素敵な牛肉様の前では戯言と断じるしかない。もっとも、そのおかげで魔物退治の謝礼に現金ではなく現物がもらえたんだから、牧童氏の見解には感謝している。


 オレ達の眼前には、薄切りにスライスされた肉を綺麗に盛り付けた大皿が10枚。そして、その横には、湯気を上げる独特の形状の鍋がある。


「くぅ~ こっちに来て、しゃぶしゃぶが食べられるなんて思わなかったわ!」

「肉の人がぺったんこなのです!?」

「だいえっと?」


 ポチとタマが目線をテーブルの高さに下げて、横から肉の薄さを確認して、そんな感想を口にする。2人にとって、肉とは分厚くあるべきものなのだろう。


 ふふふ、その幻想をぶちやぶってあげよう。


「これはね、しゃぶしゃぶと言って――」

「そんな事より早く食べましょう!」


 オレの説明を遮ってアリサが催促してきたので、食事を始める。


 大皿の周りには、ごまだれやポン酢の入った瓶や、薬味の入った小皿が並んでいる。

 薬味には、おろした大根、人参、生姜、それに刻んだネギ、青じそ、タマネギが続き、ごまだれを作ったときに余ったゴマや、クラッシュナッツとかワサビも、それぞれ器に盛ってある。色々あった方が楽しいよね。

 牛肉の他に、カニや刺身も並べようか迷ったが、今日は、初しゃぶしゃぶという事もあって、牛肉オンリーにしてみた。


「こうやって肉を一切れ摘まんで、湯にさっとくぐらせて、タレを付けて食べるんだ」


 オレが説明しながら実演する。

 まずは、プレーンなポン酢に軽く付けて食べる。さすがは、シガ王家ご用達のオーミィ牛だけはある。昔、社長に奢って貰った神戸牛や松阪牛にも匹敵する美味さだ。とろけ具合は、この間のマグロも良かったが、やはり牛肉ならではの旨味がある。


「薬味は自分の好みで入れればいいからね。はじめは薬味無しのタレで食べてごらん」


 オレの勧めに、リザが真剣な顔で肉を一切れ摘まんで湯にくぐらせる。いつのまにやら箸使いも上手くなったものだ。

 でも、そんなに真剣な顔で食べなくていいからね。


 ポチやタマは、箸が使えないので、細いトングを用意してそれを使わせた。フォークだと湯を潜らせる時に落ちそうだからね。トングの折り返しの所には、犬猫ひよこの3種類の押し印を付けてある。ひよこ印のトングは、ナナが真っ先に掻っ攫っていった。


「んまい。A5ランクはあるわね! これなら幾らでも食べられそうだわ」

「美味しいのです! エーゴの肉はクジラやマグロなみなのです!」

「びみびみ~?」

「ごまだれが最強無敵だと告げます」

「ナナさん、ポン酢に大根おろしを入れたのも美味しいですよ」

「ん、おいし」


 皆が口々に称賛の声を上げながら舌鼓を打っている。あっさり味のお陰か、ミーアの口にも合ったようだ。

 一人、黙々と咀嚼するリザが気になったが、目じりが幸せそうだから、味に没頭しているのだろう。心の赴くまま堪能してね。

 アリサ、ポチ、タマは飲み込むような速さでバクバクと口に詰め込んでいる。百キロ以上あるから好きなだけお食べ。でも、アリサは食べ過ぎに注意だ。


「くぅ、ゴマダレ至上主義だったけど、ポン酢もいいわね! 薬味でこんなに味にバリエーションがでるとは!」

「アリサ、そんな事を言ってワサビの小皿を押してきても、騙されないのです。ポチも学習したのです」

「ゴマダレ好き」

「どれも美味~?」

「うう、美味し過ぎて食べすぎちゃいそうです」


 みんなそれぞれに付けタレを選んでいて面白い。ポチはアリサの企みを華麗にスルーしたようだ。ルルは体重を気にして食事をセーブしていたが、オーミィ牛の魅力に敗北しそうな感じだ。たまには、いいじゃないか。

 ラー油とかXO醤や豆板醤とかがあったら、もっと味のレパートリーが広がりそうだよね。XO醤や豆板醤は、たしか味噌ベースだったはずなので、一度試作してみよう。ラー油はなんだろう? 唐辛子とかかな?


 リザが、湯を潜らせた肉にワサビをちょっと載せて醤油をかけた珍しい食べ方をしていたのでマネしてみた。サシミっぽい食べ方だが、なかなかイケる。


 ただ、それを見て興味を持ったポチ、タマ、ミーアの三人がマネをして食べて、口と鼻を押さえて苦しんでいた。その様子に噴き出してしまって、三人にポカポカと叩かれてしまった。


 ワサビを紛らわすために、涙目の年少組にホットチョコレートを配る。


「う~ん、まんぷく満腹。ホットチョコか~、今度はチョコフォンデュとかチーズフォンデュとかもいいわね~」


 アリサが、ホットチョコレートを飲むポチ達を見て、そんなリクエストをしてくる。チーズフォンデュはよく食べたけど、チョコフォンデュは食べたことがないな。一度作ってみるか。


「どんな料理なのです?」

「フォンデュの肉にチョコをかけたり、チーズをかけたりするの。フォンデュ鳥は、山奥の綺麗な水のあるところにしか棲んでいないから、幻の料理といわれているのよ」

「フォンデュ狩り~!?」

「狩りに行きたいのです!」

「だうと」


 アリサの嘘話にポチとタマが乗っかるが、ミーアがすかさず見破ってしまった。ボルエナンの里にも勇者ダイサクが伝えたチーズフォンデュが存在しているそうだ。





 翌日の訓練は、フロアマスターが物理無効の場合を想定して行われたらしい。


 夕飯に戻ってきたら、全員魔力切れでダウンしていた。

 渡しておいた魔力回復薬を全部使い切るまで訓練していたそうだ。一応、帰還用の魔力を残すだけの理性があって良かった。


 オレも魔力が切れる寸前だったので、「魔力譲渡(トランスファー)」の魔法ではなく魔力回復に良い薬膳料理を出したのだが、なぜか大不評だった。

 これなら非常用にチャージしてある魔剣の魔力を引き出して魔力譲渡した方が良かったかな?


「にくない~」

「ポチは反省しているのです。だから、ちょびっとだけでも肉が欲しいのです」

「ポチ、タマ。ご主人様の与えてくださる食事に注文を付けるなど百年早いですよ」


 ポチとタマの2人は懲罰とでも思ったのか、青菜に塩な感じで情けない表情をして見上げてくる。ポチが指をちょっとだけ開いて「ちょびっと」を表現するのが可愛かった。きっと、あれは肉の厚みを表現しているに違いない。

 リザは、そんな2人を窘めているが、声に全然力がない。きっとリザも肉が無いのがショックなんだろう。ちゃんとダシには鳥ガラを使ったから、味は悪くないはずなんだけどな~


「ダイエットでもないのに、こんな食事はイヤー! もっとタンパク質を! ぎぶみー、みーと、ぷりーず!」

「魔力回復に良い料理なんだよ」


 それにタンパク質なら、ちゃんと煮豆も付けてあるじゃないか。

 他の3人は、元々野菜が嫌いじゃないので、文句無く食べてくれた。


 食事中に魔力譲渡できるだけの魔力が回復していたのだが、せっかくなので完食してもらい、アリサ達の魔力回復速度の変化を観察させてもらう。あとで魔力回復薬を再生産しておかないとね。


 なお、肉好きの4人には、魔力回復後にクジラのステーキを好きなだけ食べさせてあげた。いや、アリサは食べ過ぎる前に、途中で止めた。また、ダイエットに付き合うのはイヤだからね。


 次回は12/15(日)の予定です。


 たぶん、次回はフロアマスターとの戦いが始まるはず!

 活動報告にリザSSをアップしてあるので、よかったらご覧下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 野暮な愚考。 サトゥーが前世で社長に松坂牛を奢って貰ったと思い出していますが、この時サトゥーはおそらく、重役でないにしても管理職だったのでしょう。 ある程度以上の規模の会社では、業務以外で…
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