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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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10-43.ミスリル証(2)

※11/25 誤字修正しました。
 サトゥーです。どんな組織にも暗黙の了解や慣例という物があります。長い年月の間に、それらが生まれた経緯が忘れられる事もありますが、それらが無くなる事はあまりないようです。





「それでは、どうしても譲ってはいただけないのでしょうか?」
「悪いね。君が王様や大貴族様でも、応えられないんだ。それこそ、対価に『失われたジュルラホーン』や世界樹の枝とかオリハルコンの鎧を寄越すといっても無理だ」

 申し訳無さそうな顔で、紅の貴公子ジェリルがオレにそう告げる。彼は絶対に用意できない品としてあげたのだろうけど、ジュルラホーン以外なら用意してみせるのに。ジュルラホーンも、今ならコピー品くらい作れそうだ。

「諦めな、これは王祖ヤマト様がお決めになった絶対不変の慣例なんだよ」

 さっきから黙ってオレとイケメン氏の会話を聴いていたギルド長が、訳知り顔で割って入って来た。また出たか王祖。

「600年ほど前になるかね。ヤマト様がご存命の頃にも、フロアマスターの落とした貴重な伝説級の秘宝(アーティファクト)を取り合って、国の重臣が国を割るような大騒ぎが起こったんだよ」

 なるほど、普通ならフロアマスターを倒すなんて、そうそう無いだろうしね。

「それを見かねたヤマト様が、一つの規則を作ったのさ――」

 ギルド長の話を纏めると、まずフロアマスターを討伐した者達が、手に入れた品を全て国王に献上する。そして、秘宝の中から代表者が選んだ一つを除いて、国王主催のオークションに出品され、平等に競り落とされるのだそうだ。
 このオークションは、シガ王国の国民なら参加費用さえ払えば誰でも入札できる。ただし、この参加費用は、一人当たり金貨1枚もするので、富裕層や貴族以外は事実上参加できない。競り落とされて集まった現金は、その9割が最初に選んだ品と一緒に褒美として下賜されるそうだ。残り1割は、税として徴収されるが、ほとんどは出品物の警備費用として使われてしまうらしい。

「本来なら、こんな話をする前に門前払いしてお終いなんだが、あんたは将来有望な探索者だからね。特別に頼んでジェリル坊に相手してもらったのさ」
「ギルド長、ジェリル坊は止めてください」

 いやがるイケメンに、なおもギルド長がおしめがどうとか言っていたが、聞き流した。ふむ、財力に物を言わすか……。
 おっと、その前に確認しないと。彼が、褒美の品に祝福の宝珠を選んだら困るからね。

「それで、ジェリル卿は、何を褒美に望むのですか?」
「もちろん、祝福の宝珠さ」

 げっ!? 他の2つであってくれよ?

「そ、それで、どの宝珠を」
「毒耐性の宝珠だよ」

 セーフ。
 そうだよね。普通は詠唱の宝珠なんて欲しがらないよね。

「なるほど、アンタは、光魔法の宝珠狙いか」
「光魔法は競争率が高いよ。200年前に出た時は、金貨3000枚という破格の値段で落札されたそうだ」
「それは凄い」

 感心しつつも、オレはストレージのシガ王国金貨の枚数をチェックする。手持ちの金貨だけでも1~2個買える。真っ当に入札しても競り落とせそうだが、他の参加者が裏技とか使って来たら金だけあっても意味が無い。
 一応、関係者や権力者のところを回って、裏技が無いかの確認をしておこう。

 オレは、イケメンに面会に応じてくれた礼を告げ、この場をセッティングしてくれた親切(・・)なギルド長に「悪鬼殺し」という酒をプレゼントしておいた。これは、オークのガ・ホウから貰った酒で、常人が飲むと、泡を吹いて倒れるほど強い。オレでも10分ほど酔える優れものだ。翌日から3日間、ギルド長の姿を見た者はいない。後日、恨みがましい目で見られたが、味自体は大変旨いので文句を言われる事はなかった。





 次に向かったのは、太守の館。

「うむ、残念だが、貴族でも、いや、貴族ならばこそ、その不文律を犯す事はできん。もし、それを破る者がいたら、政敵が必ずそこを突いて失脚させて来るだろう」

 相談したアシネン侯爵は、真剣な口調でオレに忠告してくれる。口調は真剣だが、表情はだらしなく緩んでいる。彼の欲望の対象は、オレでは無くオレが贈った美青年の像だ。
 これは、エルフの里に帰ったついでに、そば粉を求めて公都に寄った時に買った物だ。オレには相場でしか良し悪しが判断できないので、前にトルマと行ったオカマバーの巨漢のママさんに相談して買った。彼の目利きは確かだったようで、侯爵もご満悦だ。ニマニマしながら美青年の像に指を這わせている姿は、脳裏からカットしておく。

 ママさんと像を買い付けに行く時に、子供達と楽しそうにしているセーラを見かけた。変装していたので声を掛けなかったが、レベルも1つ上がっていたので修行を頑張っているのだろう。セーラは筆まめで、頻繁に手紙を送ってくる。迷宮都市に着いて1月も経っていないのに、もう3通目の手紙が届いていた。
 未だに返事の来ない筆不精のカリナ嬢とは、大違いだ。ムーノ男爵からの手紙だと、カリナ嬢も迷宮都市で修行したいと言い出しているそうだ。ニナ執政官が、たまに説教をしているらしいが馬耳東風らしい。
 迷宮都市にはラカの防御を突破するような魔物が沢山いるので、できれば来ないで欲しい。迷惑云々よりも、あの美貌が傷つくのはあまり見たくない。領内の盗賊退治で、満足していて欲しいものだ。

 さて、美青年像とアシネン侯爵の構図を見たくないばかりに、思考が脱線しすぎた。
 侯爵に聞けそうな話は聞き終わったので、他の人に相談してみよう。





「珍しいな、貴殿が我が家に訪れるなど」

 厳しい顔をさらに険しくしたデュケリ准男爵が、ソファーを勧めてくれる。
 ここに来たのは、彼の娘を迷賊から助けた一件の後に1度来ただけだ。あの時は、御礼代わりの宴席に呼ばれ、彼が仕切っている迷宮都市内の魔法道具屋や薬屋の店主達と顔見せを兼ねて酒を酌み交わした。

 彼なら、あまり綺麗で無い方法を知っているかもと思って相談にきてみた。

「貴殿らしからぬ相談事だな。陛下に伝手があったとしても難しいだろう」
「ええ、無理なのは承知しているのですが、目的の品を手に入れる良い手はないものかと藁にも縋る思いで、皆様のお知恵を拝借しているのです」

 ナナシになれば、国王陛下にも直接交渉できそうだったけど、それもダメか。
 ふむ、裏技の存在は心配はしなくても大丈夫っぽいかな。

「手が無いわけでは無い」
「どのような手段でしょう?」
「無論、直接的な方法では無い」

 勿体つけるデュケリ准男爵の次の言葉を待つ。

「戦と同じだ。相手を知れば良い。顔の広い侯爵夫人やシーメン子爵に頼んで、君が求める品を欲しがっている人物を探せ。そして交渉するなり、その人物が入札できない状況に持って行ってやれば良いのだ」

 なるほど、情報戦か。実は裏技がありました、とかじゃなくて良かった。
 入札できない状況っていうのが犯罪臭がするけど、誘拐とかじゃなくても、金を使い込ませて入札できる余裕の無い状態に持っていけばいいかな。





 丁度、午後から侯爵夫人のお茶会に呼ばれていたので、デュケリ准男爵の案を採用して、侯爵夫人に情報収集して貰えるように頼もうと思う。
 お菓子やお茶を楽しみ、長い世間話の後に、フロアマスターの戦利品の話になった。

「まあ、サトゥー殿もお目当てのお品があるのかしら」
「はい、祝福の宝珠を。そうおっしゃるレーテル様も、何か目を付けておられるのですか?」

 ちなみにレーテルというのは侯爵夫人の名前だ。何度も通っているうちに、奥様方の名前を呼ぶ許可を貰っている。

「ええ、あの素敵なティアラを見たかしら? 王国会議の時に、あれを付けてサロンに行ったら、きっと注目の的になると思わない?」
「ええ、侯爵夫人なら、きっとお似合いですわよ」
「あの卵のように大きなエメラルドで、首飾りを作ってはいかがでしょう?」

 侯爵夫人の発言に、とりまきの奥様方が姦しく夫人をヨイショする。
 儚げな様子のデュケリ准男爵の奥方が、小さな声で「万能薬が」とか発言しているが、誰の耳にも届いていないようだ。オレも聞き耳スキルが無かったら、聞こえなかっただろう。

「食餌療法は上手く行っていないのですか?」

 息子さんの病気の事は内緒なので、主語をぼやかして聞いてみた。

「はい、野菜が嫌いみたいで、なかなか食べてくれなくて」
「以前、お渡しした調理法でもダメでしたか?」
「士爵様の料理人の方が作ってくださった物は、美味しいと言って食べていたのですが、我が家の料理人の物だと、やれ苦いとか土臭いと言って食べないのです」

 ふむ、腕の差か?
 しかし、教えたレシピは、みじん切りにして料理に混ぜたり、裏ごししてスープにしたりするやり方が多かったから、そんなに腕の差は出ないはずなんだが……。
 迷宮都市には、彼女の息子同様にビタミン不足の貴族が少なからずいるみたいなので、ビタミンサプリや青汁でも作って販売させてみようかな。試作品ができたら、さっきのお礼も兼ねてデュケリ家にプレゼントしよう。

 フロアマスターの戦利品の話で、お茶会が非常に盛り上がり、侯爵夫人はオレが頼む前に、オークションで誰がどの品を狙っているかの情報を集めると請け負ってくれた。
 ティアラも入札しないといけなくなりそうだが、情報料と考えればいいだろう。最悪、高すぎるようなら、類似品かそれより華美な品を作れば納得してくれるに違いない。





 アリサ達は、オレ抜きで上層と中層の狩場で新装備の慣熟訓練をしている。
 装甲貫通型の敵や即死系の攻撃をする敵は間引いてあるので、そうそう危ない事にはなっていないだろう。アリサの新装備には、自動展開型の防御魔法が埋め込んであるから、予想外の奇襲に遭っても転移で逃げれるはずだ。

 もう夕暮れだし、ミテルナ女史には夕飯は不要と告げてあるので、迷宮に顔を出して皆で夕飯を食べるとするか。

 皆は、蠍と蜘蛛のキメラと戦っていた。

「ポチ、ヤツの足を止めなさい!」
「あい! 分身攻撃なのです!」

 ポチが瞬動を駆使した連撃で、八本足のキメラの片側4本を破壊する。ポチの言うように、残像で分身したようにも見える。

 擱座したキメラの背に取り付いたタマが、ヤツの複眼を小剣で潰している。キメラは頭を振ってタマを振り落とそうとするが、片方の小剣から蛇腹魔刃をだして触角に絡めて耐えている。
 タマの小剣は、鞭状の蛇腹魔刃と錐状のドリル魔刃を使い分けれるように調整してみた。2種類の機能を使い分ける器用さはタマだけのようで、ポチやナナは音声での切り替えを必要としていた。

 ミーアが魔法で抉じ開けたキメラの口に、ルルの新型滑腔砲の弾丸が突き刺さる。

 ルルが使っているのは、2メートル半の長い銃身の銃で、火薬の代わりに魔力を起爆剤にして実体弾を撃ち出す。射撃の際に、砲身内に斥力を発生させて、銃身の内壁と弾丸が接触しない仕組みになっている。この回路の成型にはとても苦労したので、銃を棍棒代わりに使わないように言い含めてある。
 弾速は音速の半分くらいだが、20ミリと口径が大きいので破壊力は抜群だ。

 実際、止めを刺そうとしていたアリサの出番が無かったらしく、地団駄を踏んでいる。

「サトゥー」

 目ざとくオレを見つけたミーアが、ぽふんと音がしそうな勢いで抱きついて来た。

「ご主人さまなのです!」
「おかり~?」

 その声に気がついた皆が集まって来た。
 ポチが攻撃したのとは反対側の足を潰していたリザが、魔核を回収して戻って来るのを待って、皆を連れて迷宮の別荘に戻る。

「新装備の使い心地は、どうだい?」
「素晴らしい性能です」
「いい~」
「最高にサイキョーなのです! まさにオヤジィィって感じなのです!」

 前衛陣は、手放しの好評さだ。ポチの感想は元ネタが判らないので、後でアリサに解説して貰おう。たしか、アニメかゲームだった気がするのだが、思い出せない。

「ごめんなさい、ご主人さま。まだ加速陣を使うと上手く命中できなくて」
「ああ、あれは手ブレしたら一瞬で弾道がズレるからね。頑張って使いこなしてみて」
「はい、頑張ります!」

 両手を握り締めて気合をいれるルルの頭を撫でて、激励してやる。
 射撃スキルや狙撃スキルがMAXのオレでも、使いこなすのが難しかった銃だからね。使いこなせば、かなりの性能になるから頑張って慣熟して欲しい。

「オーバーキルね。威力が高くなりすぎて、援護する時は昔の杖とかを使った方がいいかも」
「ん、過剰」

 後衛陣からは、概ね好評ではあるものの威力が上がりすぎて困るという贅沢な悩みを言われてしまった。

「ミーアなんか膨張の範囲と威力の調整ミスで、ポチを2回くらい天井にぶつけてたもの」
「アリサ! 秘密!」

 ポカポカとアリサを叩くミーアの姿を愛でながら、盾役のナナに話を聞く。

「安全無事であると告げます。消費魔力が増えて継戦能力が低下傾向にあります。久しぶりに魔力の補充を申請します」

 鎧を脱ぎ始めたナナを、ルルが力ずくで止めるシーンがあったものの、ナナの希望通り風呂の時に魔力補充をしてあげた。魔力譲渡で良い気がするのだが、こちらの方が気持ちいいそうだ。カロリーバーと、ちゃんとした食事の違いみたいなものか。

 風呂でリフレッシュしてから、ミスリル証獲得までのスケジュールをアリサと相談する。
 Xデーは、10日後だ。
 次回更新は、12/1(日)です。
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