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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十章

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244/738

10-17.仮の住処

※10/5 加筆修正しました。

※10/5 誤字修正しました。


 サトゥーです。家の購入というと住宅ローンという重荷を背負い込む、人生に3度ある試練の一つだと言います。マイホームの購入は、異世界でもそれなりに大変なようです。





「解毒の魔法薬が品切れ? 待ってくれよ、先週、王都から錬金素材が届いたばかりじゃないのかよ?」

「はい、ギルド専属の錬金術士たちが頑張って調合してくださったんですけど、コカトリスを討伐するとかで『業火の牙』が全部買い占めてしまったんですよ」

「ちっ、赤鉄証(アイアン)の連中か」


 本物のコカトリスか。ちょっと見てみたいかも。

 でも、コカトリスって、石化のイメージがあったんだが、毒も使うんだな。


「ですので、市内の薬屋か錬金術の店を回っていただくしか……」

「あの辺の店は、太守の息が掛かってるからギルドの薬局の倍はするじゃねえか。なあ、1本くらい残ってないのか?」


 男はなおも食い下がっている。職員のお姉さんは困り顔だ。


「蜘蛛毒用や蟻毒用の魔法薬ならありますが、汎用のは1本も無いんです」

「何種類も買う金なんて無いよ。仕方ない蜘蛛毒用の魔法薬を2本くれ、あと下級回復薬を3本だ」

「はい、解毒薬が1本あたり銀貨2枚に、下級回復薬が1本あたり銀貨1枚になります」


 なかなか安い。

 探索者の男が、小銭混じりの金をカウンターに並べて金を払っている。計算が苦手みたいだ。


「次の方」

「ああ、失礼。並んでいたわけではないのですよ」


 紛らわしい場所にいたのを軽く詫びる。


 薬の買取をしているか聞いてみたが、専属の薬師や錬金術士との兼ね合いがあるので、不足している品以外は少量しか買い取れないそうだ。


「でも、大抵の品は不足しているんですよ。この都市の周辺は薬草も生えてませんし、迷宮で素材を集めてくる探索者兼錬金術士もいますが、消費に追いつかなくて慢性的に不足しているんです」


 止血用の軟膏と消毒用のアルコールだけは潤沢に在庫があるらしい。不足している魔法薬なら一定の品質以上であれば、ギルドの売値の八掛けで買い取ってくれるそうだ。

 試しに、水増し薬を出して鑑定してもらったら、大銅貨4枚と言われた。


「回復量は水準ギリギリですけど、安定度が素晴らしいですね。これなら迷宮に潜っているあいだに腐ったり品質が低下する事もないでしょう」


 魔法薬って腐るのか。

 後でアリサの宝物庫(アイテムボックス)や皆の妖精の鞄(マジック・ポーチ)の中にしまってある魔法薬を確認しないとね。


 そういえば、セーリュー市で沢山買った竜白石があるので、買取ができるか確認したら、あるだけ売ってほしいと懇願されてしまった。


 この前、セーリュー市に手紙を出しに行った時に商人から聞いたのだが、最短の北周りルートが止まっているために、南回りルートを使うので時間がかかると言われていたから、そのせいだろう。

 なんでも、レッセウ伯爵領で中級魔族が暴れて都市が一つ滅んだらしいので、流通が止まっていても仕方ない。


「いえ、そちらの話は、もう勇者様が討伐してくださったので、解決したのですが――」

「竜?」


 彼女が言うには、レッセウ伯爵領と王都の間にあるゼッツ伯爵領の峠に竜が棲み付いたらしい。そのせいで、王国の北周りの街道が完全に封鎖されてしまい、流通が止まっているそうだ。迷惑な話だ。


「王国会議が再来月に開かれるので、王国騎士団だけでなくシガ八剣様方も出陣して竜を排除してくださるそうなので、しばらくの我慢ですね」


 オレは、黒竜ヘイロンと公都で会ったシガ八剣の2人を比較して、封鎖は当分続きそうだと確信した。


 さて、そんな事情はともかく、商売に戻ろう。


 魔法の鞄から、小瓶を取り出してカウンターに置いた。中には粉末にした竜白石が、300グラムほど入っている。この小瓶一本で、解毒薬30本ほどの材料になる。


 買い取り価格は銀貨30枚と言われた。

 買った時の値段が18キロほどの小樽一つで金貨10枚だ。不純物を取り除いて粉末にすると10キロほどまで減ってしまうのだが、それでも仕入れ値の20倍で売れる計算になる。


 異常な暴利に少し引いてしまったのを、薬局のおねえさんは誤解したようだ。


「錬金術士の方に、素材だけを売れというのが失礼なのは重々承知していますが、万能解毒薬は足が早いので、一度に沢山納品されても捌けないのです」


 なので、万能解毒薬が欲しい人が来てから、ギルドに詰めている専属の錬金術士に練成してもらうのだそうだ。


 オレは竜白石の粉末が入った小瓶を2本と、水増し魔法薬を5本ほど納品する事にした。さっきの探索者を見かけたら、解毒薬が買えるかもしれないと教えてやらねば。





「士爵さまのご要望に合う屋敷は、この3つです」


 ギルドの不動産を扱う部署の職員の男性が、迷宮都市の地図を指差しながら紹介してくれている。


 紹介されたのは、職人街の中にある工房、富裕層エリアにある屋敷、牧場や農場の近くにある屋敷の3つだ。牧場傍の屋敷は、10年ほど空き家だったそうで、多少の修復が必要だと言われた。


 多少悩んだ末に、乳製品や野菜を仕入れ易いという理由で牧場傍の屋敷を選んだ。


 アリサに「現物を見ないで家を買うなんてアリエナイ」とか散々言われたが、ダミーの家の品質なんて気にするだけ無駄なので、即決で購入する事にした。気に入らなければ買い換えれば済む事だしね。


 市価の半額の金貨150枚という手頃な値段だったのだが、ふらりと現れたギルド長の口利きで、さらに半分になった。

 この屋敷が立地の割に高いのは、この都市では珍しい木造建築だからだそうだ。好事家なら飛びつきそうなものだが、修繕費用が高いので買い手がつかなかったらしい。


 年間の税金は、屋敷の規模や場所によって変わり、この屋敷の場合、金貨15枚ほど掛かる。この税金も赤鉄証所持者は半額になると教えられた。これは1軒目の家にしか割引が無いそうなので、複数の家屋を持つ探索者はいないらしい。


 魔法の鞄から取り出した金貨と引き換えに、屋敷の登記書類と鍵束を受け取る。登記手続きは、契約(コントラクト)のスキル持ちの人がやってくれた。





 ギルドでの用事も済んだので、連れだって建物の外にでる。

 そこには期待に満ちた目で、こちらを見上げる子供達の視線があった。


 ちょっと怖い。


 この前の荷運び人の幼女たちを先頭に、3~40人の子供達が遠巻きにこちらを見ている。その向こうでは、屋台の主人たちまでこっちを窺っているようだ。そうか、さっきの探索者に蹴飛ばされるほど入り口を塞いでいたのは、食事を振舞ってもらえるかもしれないと集まっていたからなのか。


 誰も何も言わないが、張り詰めた空気の中を子供達のお腹の音が響く。

 あまりこうしていても迷惑だろうし、奢ってやるか。


 アリサ達に小銭を渡して、子供達に食事を振舞ってやるように頼んだ。


「さあ、幼女達! ペンドラゴン士爵が御飯を奢ってくれるわよ。みんなでお礼を言いなさい!」

「「「士爵さま、ありがとう」」」


 お礼を言う多数の幼女と、少数の男の子達の言葉に手を振り返す。


「にく~?」

「アリサ、お肉がいいのです!」

「栄養が偏るからダメよ。野菜炒めか腹持ちのいい煮込み料理にしましょう」


 どの料理を振舞うか相談するアリサ達に、屋台のおっちゃん達から売込みの声が上がる。


「嬢ちゃん、うちの粥は肉も野菜も入っているから腹持ちいいぜ?」

「何言ってやがる、うちの団子汁が一番だ。野菜も入ってるし、うちの肉団子は腹持ち最高だぞ~」

「よっしゃ、両方行こう! みんな、好きな方に並びなさい! 振舞うのはどちらか一方だけよ」


 選ぶのが面倒になったアリサの言葉に、2つの屋台の間を子供達の視線が彷徨う。結局、出遅れたら食いっぱぐれると思ったのか、1人が並ぶとすぐに2つの列ができた。混沌としそうな子供達を、ポチとタマが通行の邪魔にならないように整列させていた。


 満腹になった子供達に別れを告げ、オレ達は購入したばかりの家に向かった。





「うげっ、雑草だらけじゃない」

「まかせて~?」

「草刈り装備装着なのです!」


 雑草が生い茂る屋敷を前に、うんざりしたアリサの愚痴が漏れる。タマとポチは、ポーチから取り出した草刈り鎌を手にポーズを付けている。ナナまで長柄の草刈り鎌を取り出している。前の街道でもそうだったが、この3人は草刈りが好きだよね。


 館の門を封鎖する大きな南京錠に鍵を差し込んで回す。少し錆びていたが、力ずくで開ける。


 さて、屋敷の中、正確には敷地内にある厩舎の陰に、5人ほどの子供達がいる。恐らく、空き家に不法滞在している孤児だろう。レベルも低いみたいだし、草刈りついでにナナ達に見に行くように指示する。


「ナナ、ポチとタマを連れて厩舎の方を調べてきて」

「イエス、マスター」

「らじゃ~」

「なのです!」


 3人は厩舎までの雑草を掻き分けて、道を作りながら進んでいく。

 残ったオレ達は、井戸を確認に行く事にする。途中の雑草はアリサが器用に空間魔法で刈り取ってくれた。


 井戸は釣瓶を下げる滑車が腐っていて、地面に残骸が転がっていた。井戸にゴミが入らないようにする蓋の横には、縄の付いた桶がある。その桶は少し湿っていた。恐らく、さっきの孤児たちが使っていたのだろう。


「てーへんだー」

「大変なのです!」

「緊急事態を告げます! 命が危険で危ないのです。至急救援を求めます」


 厩舎に行っていた3人が駆け戻ってきた。

 どうやら、孤児達は単なる不法滞在者ではなかったようだ。


※10/5 屋敷の購入周りを修正

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