10-8.迷宮探索(2)
※9/22 誤字修正しました。
サトゥーです。RPGもウォーシミュレーションもFPSも位置取りが大事だと思うのです。地形効果は、なかなか侮れないものがあるのですよ。
◇
「サトゥー、敵沢山」
まるでオレが嫌われ者みたいないい方は止めてくれ。
ミーアに少し遅れて、一番前にいたタマが、遠くから接近する探索者達の足音を捉えたようだ。
「人来る~?」
タタッと後ろから前に出てきたポチが、タマの横に並んで地面に耳を当てる。
「きっと、この音は虫なのです」
ポチの言葉に被せるように、深刻そうなアリサがオレに正確な敵の数を聞いてくる。
「どれくらい来るの?」
「それは人か敵か、どっちだい?」
ちょっと意地悪な言い方をしてみた。「敵よ」と即答で返ってきたので、300匹前後と素直に答えた。
「さ、さんっ?」
「マスター、撤退を進言します」
「ご主人さま、私もナナに賛成です」
「ん」
震えるルルが腕に掴まってくる。みんな、なかなか的確で慎重な判断だ。40倍の敵数と聞いて、戦いたいと思うような脳筋だと迷宮には向かないはずだ。
「だいじょうぶ~?」
「大丈夫なのです。ご主人さまと一緒なら余裕なのです!」
いたよ、脳筋娘たちが。
ポチとタマが、不思議な決めポーズを取っている。2人の頭に手を置きながら、問いかける。
「オレが一緒じゃなかったらどうする?」
「もちろん、逃げるのです」
「すたこらさっさ~?」
おや? 脳筋じゃなくて、オレを信頼してくれていたんだ。
「うん、それでいい。格下の敵でも、3倍の数を超える敵には挑まない方がいい」
「どうしても戦いを避けられない時は?」
「どうしたらいいと思う?」
アリサの問いに質問で返す。
「そうね、地の理かな?」
「正解、相手が数を活かせない場所を利用するのがいいね」
「ネトゲーでソロ狩りする時の基本だったしね~」
なるほど、そういう知識か。
オレがやっていたMMOだとソロは一撃で倒せるような雑魚としか戦わないものだったんだが、ゲームが違えば色々違うようだ。
◇
さて、知り合いでもない探索者を助ける義理は無いんだが、せっかくの魔物だ。みなの経験値になってもらおう。
「今回は、魔物から逃げている連中がいるから、助けるためにも一戦しよう」
適当な理由を付けて戦闘を提案する。皆から即答で了解の返事が返ってきた。
「もちろん、オレが居ない時は、自分達の命を最優先にして、一目散に逃げるんだよ?」
念の為、そう釘を刺しておいた。
オレ達は少し道を引き返し、多数の敵と戦い易い段差と瓦礫が溜まっている場所に陣取った。ここなら、戦っている前衛の頭越しに、後衛が魔法や遠隔攻撃ができるだろう。
問題は回廊が湾曲しているために50メートルほど先までしか見えない事と、逃げてくる探索者達がいるので、通路に罠を仕掛けられない事だろう。
オレは、遭遇時の保険用に「誘導矢」の魔法を発動し天井の闇に隠して追従させている。もちろん、ちゃんと自重して30本だけしか出していない。
◇
回廊の向こうから、兎人族と鼠人族のパーティーが、文字通り脱兎の如く逃げてくる。まだ姿が見えないが、その後ろからは、人族の男達のパーティー、最後尾には、人族の女達のパーティーと運搬人の子供達が続いている。
「逃げろ!」
「おい、アンタら、魔物の集団が来るぞ」
「喰われたくなかったら、マゴマゴしてないで逃げろ!」
亜人パーティーが横を通り過ぎる時に、口々に危険を訴えて逃げるように忠告してくれる。3人共、7~10レベルの戦士達だ。
続く人族の男のパーティーは、探索者は3人だけで、体格のいい人族の運搬人を2人連れている。その2人は奴隷のようだ。
「おい、奴隷ども! 蟻蜜の壷を落としたら、お前らの手足を切り取って蟻どもに食わせるぞ!」
奴隷達は無慈悲な男の言葉に答える事なく無言で男の後を追いかけている。叱咤していた男探索者は、13レベルもあり、この集団の中で一番レベルが高い。2人の奴隷達は、わずか4レベルだ。
「ベッソ。『麗しの翼』が遅れてるぞ」
「ふん、ジェナは勿体無いが、壷は1個分あれば赤字にはならねえ」
「そうだな、あいつらが食われてる間に逃げ切ろうぜ」
彼らは、こちらに一瞥をくれただけで、横を通り過ぎていった。
その2集団にかなり遅れて、女性探索者のパーティーが来る。4人のうち2人が探索者で残り2人が運搬人だ。運搬人の1人は足を怪我しているようで、もう1人の運搬人に手を引かれることで、なんとか追従している感じだ。
「そこの人達! 逃げろ! 迷宮蟻が大発生しているんだ」
男っぽい喋り方だが、彼女は女性だ。20代前半で、美人ではないが愛嬌のある顔立ちをしている。青銅の穂先に木軸の短槍に木盾、それから木綿の服に木を縫い付けた鎧を着ている。この鎧って、迷宮都市で流行っているのだろうか?
「貴方たち、煙玉か閃光玉は持っていない? 追いつかれそうなのよ」
もう1人は20歳丁度の美人さんだ。胸はルルより、やや大きい程度だが、黒い髪を後ろに一まとめにした落ち着いた感じの人だ。名前はジェナさん。
残念ながら、彼女の求めるようなアイテムは無い。花火の魔法で代用はできそうだが、そんな魔法を使うなら火弾で焼き尽くした方が早い。
彼女達は俺達の手前で、後ろの運搬人達を振り返り息を呑んだ。
「イルナさん、助けて! アリが! アリが!」
「お姉ちゃん、私はいいから、お姉ちゃんだけでも逃げて」
姉妹愛を見せ付ける2人の運搬人の後ろから、人間と変わらない大きさの迷宮蟻が追い縋っている。
ポチとタマに合図する。
「えい」
「やー」
2人の投げた石が、運搬人姉妹に食いつこうとした迷宮蟻にクリーンヒットする。バランスを崩して足を縺れさせた迷宮蟻が地面を転がる。続く30匹ほどの迷宮蟻も連鎖で地面を転がって突進が止まる。残りの270匹は、まだ辿りついていない。
もちろん、連鎖で転がったのは偶然ではない。こっそりと「理力の手」で迷宮蟻の足を引っ掛けて転がしたのだ。
こちらを窺っていたリザに頷く。
「ナナ、挑発を。後衛は銃撃開始」
アリサ、ミーア、ルルの後衛組は、段差の上の安全地帯で例の軟散弾を準備している。
「この働きアリ! 過労死するまで働けと告げます!」
ナナの挑発が入り、アリ達の敵意がこちらを向く――それはいいのだが、過労死とかは心が痛いので止めてほしい。
挑発に遅れて3人の散弾が、迷宮蟻に叩きつけられた。元々、対人鎮圧用の武器なので、ほとんどダメージは入っていない。
「ポチ、タマ、行きますよ」
「がってん~?」
「しょうちなのです!」
いつものように赤い残光を残しながら、魔槍と一体になったリザが突撃していく。迷宮蟻を一撃一殺で蹂躙していく様は圧巻だ。
タマが二本の小魔剣に魔力を通し、くるくると踊るように迷宮蟻を倒していく。雑魚相手だと二刀流のタマの殲滅速度が一番早い。
ポチも魔剣に魔力を通すのに慣れてきた様で、直線的な動きで的確に迷宮蟻の甲殻の隙間に小魔剣を突きたてて倒していく。
ナナは挑発に群がってきた迷宮蟻を、魔剣と大盾によるシールドバッシュであしらっている。身体強化による怪力を上手く使って、倒すよりも押し戻したり捌く事を目的とした動きをしている。この辺の立ち回りは、スプリガンの試練場で学んだのだろう。
迷宮蟻が4~6レベルしか無いので、物足りなそうだ。
「すごい、あの硬い迷宮蟻を、あんなに簡単に倒してる」
「さっきの魔法が蟻の防御を弱めるものだったかも」
2人の女探索者たちが、運搬人姉妹に肩を貸して運んできた。はじめはリザ達に加勢しようとしていたみたいだが、加勢不要と判断したらしい。
さっきの散弾の攻撃が魔法に見えたようだ。もちろん、散弾に防御力ダウンの追加効果など無い。
「助かりました、貴族様」
女探索者のリーダーらしき愛嬌さんが、話しかけてきた。戦闘中だが、余裕があるからいいだろう。それに聞きたい事がある。なぜか会う人みんなに、一目で貴族と見抜かれてしまうのだ。その理由が知りたい。
「気にしなくていいよ。それより、一ついいかな」
「も、もちろん、街に戻ったら御礼は必ず」
「いや、そんなのはいいんだけど、どうして私が貴族だと判ったんだい?」
女探索者達は、少し気まずそうにしていたが、イルナと呼ばれていた愛嬌さんが、オレの質問に答えてくれた。もう1人の美人さんは、足を怪我していた運搬人妹の手当てをしてやっている。運搬人姉は背中の荷物が重いのか、地面に膝を突いて荒い息を整えていて周りを見ていない。
「だって、こんな迷宮に上等なローブを着て」
そうか服装の問題だったか。でも、魔法使いでもローブは着ると思う。
「おまけに、そんな高価そうな剣を腰に差して」
ナナ達の魔剣は、ちゃんと地味な鞘を用意したのに自分の分を忘れていた。
「それに」
まだあるのか。
「あんな、ドレス姿の侍女さんまで、迷宮に連れてくるなんて貴族様だけですよ」
ああ、いつもの服装なので見落としていた。
ルルの衣装がメイド服、それもアリサと一緒に悪乗りして作った「戦闘メイド」コスだった。これはスプリガンの試練場に行く時に、プレゼントした装備品だ。
ちゃんと、騎士が着る金属鎧よりは、防御力高いんだよ?
そんな気の抜ける会話の間に、リザ達は果敢に敵を殲滅していた。まるで危なげないので、後衛組は最初の一撃以降暇そうだ。
活動報告に釣りSSをアップしてあるので、良かったらご覧下さい。







