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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第九章

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幕間:セーラの不運

※9/22 誤字修正しました。

※9/15 加筆しました。


※今回はサトゥー視点ではありません。

「ただいま戻りました」

「あら、セーラ様。もう、公爵様の御用はお済になったのですか?」

「はい、日程と随行員の確認だけでしたから」


 神殿の関係者用通用門のところで、神殿兵の女性に声を掛けられました。彼女は、炊き出しの時に、いつも私の護衛を務めてくれている方です。


 先ほどまで、お爺様に呼び出されて公爵城にいました。来春の王国会議には、お父様ではなく、お爺様とティスラードお兄様が、出席なさるそうです。私は、お爺様が体調を崩された時のための治療要員として、神殿から派遣される事になったのです。


 遠い王都と言っても、飛空艇なら数日の距離です。


 それに、王国会議には、サトゥーさんも参加するはずなのです。久しぶりに会えるのが楽しみです。


 そんな心の声を聞かれたわけではないはずなのだけれど。


「そうそう、セーラ様。さきほど、ペンドラゴン卿をお見かけしましたよ」

「え?! ど、どこでですか?」


 彼女の発言に、思わず大きな声を上げて衆目を集めてしまいました。巫女長さまは許してくれそうですけど、巫女頭さまや神官長さまにお小言を聞かされそうです。


 口元を手で隠して、小声で彼女に確認します。

 馬車で、この通りを北に向かわれたそうですから、きっとシーメン子爵邸に向かわれたのでしょう。私を送ってきたまま待っていてくれた馬車の御者さんに、お願いして子爵邸まで送っていただく事にしました。


「待っていれば、向こうから訪ねてくると思うんですけど……」


 そんな声が後ろから聞こえてきましたけど、今日のお仕事はお昼過ぎまでありませんから、だから何の問題もないのです。





 いきなり訪ねてしまった無礼を詫びて、シーメン子爵ホーサリス様への面会をお願いしたのだけれど、王都へお出かけだそうで会えませんでした。相変わらず、ご多忙なのね。


 そのまま帰るわけにもいかないので、今度はトルマ叔父様のいる別館にお邪魔する事にしました。いつでも、遊びにおいでと言って戴いていますし、メイドさんに先触れを出していただきましたから、都合が悪かったらそう言ってくださるはずです。


「やあ、セーラ。君の方から遊びに来るなんて、珍しいね」

「ご無沙汰しています。トルマ叔父様」


 あら? どうしたのかしら、快活なトルマ叔父様に似合わない沈痛な顔をしています。


「セーラ、昔みたいにトルマお兄ちゃんって呼んでくれないかい?」

「あら、叔父様。お子様までいる妻帯者の事を、お兄ちゃんなんて呼んだら失礼じゃないですか。どうなさったの? トルマ叔父様?」

「くくくっ、セ、セーラ様、そのあたりで許してやってくださいな」


 叔母様に縋って泣きマネを始めたトルマ叔父様に代わって、奥様のハユナ様が話し相手になってくださいました。


 早くサトゥーさんの事が聞きたいけれど、いきなり話を切り出すのも失礼だし、何か話題、話題っと……そうだ! とびっきりのお話があった!


「そうだわ、先ほどお爺様から伺ったのですけれど、春の王国会議で、准男爵位を賜るそうですわね。おめでとうございます!」

「ありがとう。名誉准男爵だから、マユナには継承できないんだけどね」


 そういえば、マユナちゃんは、どこかしら? さきほどから泣き声一つ聞こえないです。


「ああ、マユナなら寝ているよ。ペンドラゴン卿がお土産に持ってきてくれたおもちゃのお陰で、起きている時は終始ご機嫌だし、笑い疲れたらそのまま眠っちゃうから、手がかからなくて楽だよ」


 そう、その名前を待っていました。


「ペンドラゴン卿がお見えになったのですか? たしか、公都にはしばらく戻らないと伺っていたのですが……」

「巻物工房に用事ができたとかで、一人で貿易港から戻ってきたって言ってたっけ」

「サトゥーさんなら、公爵城に向かわれましたよ。なんでも、赤い漬物を探しているとか言っていたので、たぶん、お城の料理人さんの所ではないかしら」


 お城の料理人! じゃあ、すれ違いになってしまったのね。

 ハユナ様が、上手く退出できるように誘導してくださったので、早々にお暇する事ができました。さすがは、トルマ叔父様を射止めただけはあります。





「こ、これはセーラ様。このような下々の働く場所に何か御用で?」


 初めて訪れたお城の厨房には、沢山の人達が忙しそうに働いていました。案内してくれたメイドに、厨房の責任者を呼んでもらったのだけれど、ここにはサトゥーさんはいないみたい。


「ああ、士爵様なら、漬物の話を聞いた後で下町に行くとか言っていたぜ、です」


 今度は下町ですか! もうっ、サトゥーさんったら意地悪です。


 下町まで行ったのに、結局、サトゥーさんにはお会いできませんでした。その日の修行はいつもより集中できなくて、何度も巫女長さまに怒られてしまいました。





「せーら、あのね」

「せーら、マしターいた」

「こら! あんたたち、セーラ様の事は巫女様かセーラ様とお呼びなさい」


 炊き出しが終わって、お手伝いの奥様方とお話ししていた私に話しかけてきたのは、小さなアシカ人族の子供達です。一緒にいたフォリナ女神官が、私に敬称を付けなかった子供達を叱りつけます。こんな小さな子に、そんなに目くじらを立てなくてもいいと思うのだけれど。


「ましたーって何かしら?」


 私は膝を折って、子供達の目線に合わせる。これはサトゥーさんのマネだ。こうすると、子供達が話しやすいらしい。この姿勢をするようになってから、孤児院の慰問に行った時に子供達との距離が近くなった気がします。


「えっと、ええっと」

「マしターは、ナナのマしター」


 私の知っているナナと言えば、サトゥーさんの従者のナナさんだ。そういえば、ナナさんはサトゥーさんの事をマスターと呼んでなかったかしら? それに、この子達は、よくナナさんにダッコされていたのを見かけた記憶があります。


「もしかしてサトゥーさんを見たの?」

「さとぅ?」

「見たのはナナのマしター」


 少し要領を得なかったけど、もしかしたらと思って子供達の案内する方に行ってみる事にします。フォリナ女神官には、あまりいい顔をされなかったけれど、何人かの護衛を付ける事で許してもらいました。


 子供達に手を引かれて向かった先は、朝市が終わって閑散とし始めた通りです。


「せーら、マしターいたの、ここ」

「ねえ、マしターは?」


 子供達が指差す先にいたのは、漬物らしき品を片付けていた年配の女性だ。


「巫女様、この子達はなんね?」


 困惑気味のオバさんに一言詫びて、サトゥーさんの事を尋ねる。


「黒髪の15歳くらいの落ち着いた爽やかな風貌の男性で、品のいいローブを着こなしている貴公子? ひょっとして巫女さまのいい人ね?」

「ち、違います! サトゥーさんはお友達です」

「そうね、お友達は大切にせんね」


 そのオバさんからのすごく生暖かい励ましの視線がいたたまれません。


「おばちゃん、何か食べさせて、寝過ごして炊き出しに参加しそこなっちゃった」

「あんた、毎晩働いているんだから、自分で何か買いなさんね」

「地元に仕送りしたばっかだから銅貨1枚ないよ。サっちゃんから貰ったクハノウ漬けは、あんまりボリボリ貪りたくないしさ~」


 私とオバさんの会話に割り込んできたのは、20過ぎの、ちょっとはしたない服装の女性です。男の人は、こういう豊満な人に惹かれるのでしょうか?


「あ、あの」

「黒髪の若いのなら、何人でもいるけどねぇ。そうだ、この間、フツナが助けてもらった兄さんも黒髪だっけねぇ」

「ん? サっちゃんの事? サっちゃんはね、若いのになかなかすごいテクニックだったよ。お陰で寝不足なのよ」

「あんたは、巫女さまの前で何を言ってるんだい。ほら、オニギリを1個やるから、これで我慢しな」

「わーい、オバちゃん愛してる」


 お取り込み中なので、お暇しました。


「マしターいないの?」

「サトゥーさんは、いないみたいですね」

「あら? 巫女さまが、探していたのはサトゥーっていうの? サっちゃんなら、朝一番の船で公都を出るって言ってたわよ」


 そ、そんな……ヒドイですサトゥーさん。ちょっとくらい顔を見せてくれたっていいじゃないですか。教えてくれた女性にお礼を言って、私はトボトボと神殿へと足をむけました。


 でも、どういうお知り合いなのかしら?





 サトゥーさんを目撃してから10日ほどが過ぎました。


『今夜、光の丘で待つ、君の士爵』


 炊き出しの時に、そんな栞を手渡されたのです。渡した方の顔は見えなかったのですが、これは、やはりサトゥーさんなのでしょうか?


 光の丘と言えば、下町の外れにある丘で、大河に映る星空がとても綺麗な、恋人達が逢瀬を交わす場所で有名です。


 巫女の私が、そんな場所に行くわけには……でも、会うくらいならいいですよね?





「星が大河に落ちてきたみたい」


 神官兵の方に護衛をお願いしてまで来た甲斐がありました。

 でも、丘で待っていたのはサトゥーさんではなかったのです。


「フーン? 逢引にまで護衛を連れてくるなんて、さすがは大公の姫様だね~」


 白髪の少年が抜き身の剣を構えると、護衛の方達が素早く私を背後に庇います。離れて護衛してくれていたお爺様の私兵の方達も、助勢に来てくださいました。前に誘拐されたり、公都で襲撃されたせいか、常に護衛を付けて戴いていたお陰で、この暴漢からも身を守れそうです。


「あははっ、こんな少数の雑魚で、ボクはとまらないよ~?」

「これでも、若い頃は近衛騎士だったんだ。キサマごとき小僧に後れは取らん」


 銀色の光が閃き、剣がぶつかる音が響きます。


 僅か数合で、護衛の方達が地に伏せてしまいました。呆然とした私の手を引いて護衛の方が走り出しますが、瞬く間に追いついてきた白髪の少年に斬り伏せられてしまいます。


「君にはアイツをおびき出す人質になってもらわないとね。抵抗するなら両手両足をもいじゃうから、大人しくしていなよ~?」


 血を滴らせた長剣を肩に担ぐようにして、彼はこちらにゆっくりと歩み寄ります。まるで、獲物をいたぶる鼬のような動きです。


「人の庭先で、何をしておるのだ」


 サトゥーさん?


 どうしてでしょう、声も違えば体格も違うその人が、一瞬サトゥーさんのように思えたのです。黒装束のその方は、サトゥーさんよりも拳3つ分は背が高いですし、なにより、声が違います。


 その手に持つ美しい剣は、青い光を夜闇に撒き散らせながら、白髪の少年を圧倒していきます。


 あの剣は聖剣?


 でも、勇者様と体格が違いすぎます。もしかして、あの方が勇者様と一緒に公都の危機を救ったというナナシ様?


 何合か打ち合った後、白髪の少年が距離を取ります。そのまま逃げる気なのでしょう。そう思ったのですが――


長角(ロング・ホーン)よ、ボクの憎しみを糧に暴虐の力を!」


 彼は懐から取り出した長い角を、自分の額に押し付けようとしたのですが、紫の髪の人が、それを取り上げていました。この紫髪の人は、どこから現れたのでしょう?


「返せよっ」


 白刃が紫髪の人を襲いますが、何気ない動きでその刃を躱して、小さな子供をしかるときのように、その頭に拳骨を落として地に叩き伏せます。私の護衛をしてくださっていた方達もけっして弱兵ではありません。その護衛たちを一人で惨殺した白髪の少年を、こうもたやすく無力化するなんて、只者ではありません。


「どうした、ナナシ。後ろで見ているのではなかったのか?」

『こいつがヤバイ物を取り出したんでね。使う前に無力化させてもらった』


 この紫の髪の方が、ナナシという方なのね。どうして、こんなに篭った声なのかしら? ナナシ様が、どこからともなく取り出した縄が、独りでに動いて少年を捕縛してしまいました。


 ナナシ様が、手を振ると、瀕死の重傷を負っていた兵士達の傷が癒えていきます。


 あれは、無詠唱魔法?


『では、巫女セーラ。我等は、これにて失礼する。巫女長さまに宜しく言っておいてくれ。もうすぐ、公都の衛兵達がやってくるが、その白髪には近寄るなよ』


 そう言って、その2人は闇に溶けるように消えてしまいました。奇跡とも言える出会いのお陰で、私は命を拾えたようです。

 ナナシ様に癒されて、無傷で立ち上がる兵士達が、白髪の少年を取り押さえています。それを横目に見ながら、私を守って殉職した兵士達に、冥福の祈りを捧げました。


 でも、ナナシ様は、どうして私の名前を知っていたのかしら?



※9/15 セーラやサトゥーが死者や重傷者に冷たかったので、回復魔法を使わせておきました。後日の話に齟齬がでそうなので、運命の神様には引っ込んでもらいました。


※補足


セーラは覚えていませんが

・アシカ人族の子供は、ナナといつも一緒に居たので、セーラとサトゥーが仲良くしていたのを覚えています。

・アシカ人族の子供は、セーラが炊き出しでいつもゴハンをくれているので、セーラに感謝しています。


 セーラはナナシ=聖者という事を知りませんでした。巫女長さんが、「謎の聖者さまが貴方を助けてくれたのよ」としか言っていなかったのです。


 ナナシと一緒にいたのはオークのガ・ホウです。

 白髪の少年は、王子と一緒にいた戦闘狂の少年です。

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― 新着の感想 ―
やはり第三王子一味も自由の翼団のメンバーだったか こうなると第三王子は幽閉どころか処刑しとかないと示しがつかないような気がするね
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