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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第九章

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9-25.公都での探索(2)

※2016/4/3 誤字修正しました。


 サトゥーです。元の世界に居たときは気にも留めませんでしたが、普段何気に食べているものでも、材料が何かとかどうやって作られているのかとかを知らないことが多いと異世界に来て実感する事が多々あります。





「こんにちは、ご無沙汰しています」

「おう、こりゃサトゥーの若旦那。久しぶりじゃねぇですか」

「お久しぶりです、ペンドラゴン士爵様」


 公爵城の厨房で、ニコヤカにオレを迎えてくれたのは、あいかわらず敬語が不自由な料理長さんだ。大剣片手に鎧姿で戦場を駆け回るのが似合いそうな人だが、繊細な宮廷料理を作らせたらシガ王国でも5本の指に入るほどの人だ。もう一人は、そんな料理長をサポートする華奢な青年料理人さんだ。


 ここへオレを案内してくれたメイドさんが、壁際に控えて期待に満ちた目を向けてくるが、今日は料理をしに来たわけじゃないんだよ。


 手土産代わりの竜泉酒と妖精葡萄酒(ブラウニー・ワイン)を、鞄から取り出して料理長さんに渡す。妖精葡萄酒は、珍しいものの流通していないわけではないので身バレはしないだろう。竜泉酒は逆に、珍しすぎて全く流通していないので、鑑定してもマイナーな酒造の酒くらいの認識で済むはずだ。


「葡萄酒ともう1本はシガ酒かい?」

「すみません、士爵様、お気を使わせてしまって」

「いえ、いいんですよ。旅先で珍しい酒を見つけたので、お世話になった皆さんに進呈しようと思って持ち帰ったものですから」


 実際、天麩羅や煮凝りのレシピの代わりと言って、野菜の飾り切りや飴細工のやり方なんかを色々と教えてもらった。ポチ達のキャラ弁は、その成果だったりする。


 当たり障りの無い会話が一段落したところで、本題に入った。


「赤い漬物か? 福神漬けって名前は知らねぇですが、桃の酢漬けにルルの塩漬けあたりなんかは、赤かったはずだ、です」

「そうですね、ニンジンとガボの実の葡萄酢漬けなんかも赤いですが、どちらかというと橙色ですから違いますね」


 残念ながら両名共に福神漬けを知らなかった。

 赤い漬物を色々挙げてくれたんだが、そもそも大根を公都に着いてから見かけないんだよ。お陰で、和風ハンバーグに使う大根が欠品状態だ。焼き魚に、大根おろしを付け過ぎて、在庫切れでも起こしたのか?


「材料が判っているなら自分で漬けて見ちゃどうだい?」

「大根と蓮根を使うのは判っているのですが、調味料が何か判らないんですよ」


 たぶん、塩や酢は使うと思うんだが、あの赤い色が何から出ているのかサッパリ記憶にない。着色料だけじゃないよね?


「ここいらじゃ大根を栽培するヤツはいねぇですから」

「ただの迷信なんですが、大根を植えるとオークが出ると昔から言い伝えが残っているんですよ。たしか、クハノウ伯爵領やセーリュー伯爵領あたりでは栽培していたはずですよ」


 大根が無いんじゃ望み薄だ。

 2人の情報に感謝の言葉を返して、お暇する事にした。壁際で控えていたメイドさんがすごく残念そうな顔をしていたので、「内緒だよ」と断ってから、こっそり焼き菓子の包みを1つ持たせてやった。羽妖精やエルフに連日配っていたから、手持ちがあまり無いんだよ。





 クハノウ伯爵領やセーリュー伯爵領に行くにしても夜が更けてからじゃないと目立つので、今日は公都で旧交を温める事にしよう。


 公爵城を出る前に飛空艇整備工場に寄って、工場長さんにも、妖精葡萄酒を1本進呈しておいた。もちろん、竜泉酒をケチった訳ではない。彼は赤ら顔の酒飲みタイプみたいな外見に反して、強い酒が苦手らしいのでやめておいたのだ。妖精葡萄酒は、アルコール度数が1~3度しか無い上に甘くて飲みやすい。


 不自然にならないように注意して、空力機関の制御について聞いてみたんだが、公都にある飛空艇の空力機関は、出力特性の似たフィンだけを集めて作ってあるそうだ。そのせいで、たまに怪魚を討伐したという話が出ても、新しい飛空艇が増える事はほとんど無いと愚痴を聞かされた。この間の中古の空力機関も、整備後は現在運行している飛空艇の予備機関として保管されているのだそうだ。


「サトゥー殿は、タルビアという国を知っているかね」


 何その、ビール好きが住んでそうな国。


「王国の西方、死の砂漠を抜けた先にあるパリオン神国のさらに南西にある国なのだが、そこでは、浮遊甕という人が入れるほどの小ささの飛空艇が作られているそうなのだよ」


 工場長さんが紙にペンを走らせて、その構造を簡単に描いてくれる。

 イモムシの子供を吊り下げて、酸の海にでも落下しそうな形をしている。なんというか着陸脚のついた単なる酒甕みたいな形だ。甕の底に小さなフィンがついてあり、そのフィンを台座ごと回転させることで、発生する浮力を均一化する工夫がしてあるそうだ。

 シガ王国でもマネをして作ろうとした事があったらしいのだが、この間のオレみたいにまともに浮かべる事もできずに大破してしまったそうだ。

 戦場での偵察に便利かもしれないと研究されたそうだが、鳥人族を雇ったほうがマシという結論になったらしい。

 工場長さんは、浮遊甕そのものではなく、そこに使われている機構を大型の飛空艇に使えないかと考えているそうだ。


「そうだ、サトゥー殿、例の王子の話は聞いたかね?」


 オレが第三王子と揉めていた事を知っている工場長さんが、何気ない風を装って、最新のニュースを色々教えてくれた。王子は、病を理由に聖騎士団を強制引退させられ、王位継承権も失って、片田舎にある直轄領の離宮で蟄居させられる事になったそうだ。


 正直なところ、王子の事など忘れていたのだが、工場長さんの親切に、礼を言っておいた。





 オリオン君に挨拶をしに行くと嫌がられそうなので、華麗にスルーした。後で、訪問したけど会えなかったと、お詫びの手紙を届けて体裁を整えることにしよう。


 まず、お世話になったウォルゴック前伯爵夫妻の館に寄って、お土産に妖精葡萄酒やエルフ達と一緒に作った金細工のオルゴールを贈った。魔法道具ではなく普通にゼンマイを巻くタイプのヤツだ。


 あまり長居せずにお暇し、今度はロイド侯の館に向かう。


 先触れに出しておいたメッセンジャーからは、無事にアポイントを取れたと報告を受けた。忙しい人だから、会えるか判らなかったが、例の放火貴族の顛末だけは話しておかないといけないと思っていたので、早々に会える事になって良かった。


 ロイド侯の館では、熱烈な歓迎を受けた。館の正面扉を開けた先にメイドがズラリと並んで待っているとか、それなんてギャルゲ? と聞きたくなってしまったよ。だが、案内された先で待っていたロイド侯に抱きしめられたのは、勘弁してほしかった。


「ペンドラゴン卿には、何と礼を言っていいか判らんよ」


 ロイド侯の話では、ポトン准男爵は対外的には健康上の理由から自主的にプタの街の守護役を辞任し、彼の派閥から新しい貴族がその後任に着く事になったそうだ。


 自由の翼の残党は、現ボビーノ伯とロイド侯による共同討伐隊によって始末させられたらしい。残念ながら、ポトン准男爵の息子を初めとする数名の貴族の子弟達は捕縛後に、服毒自殺してしまったそうだ。


 事件解決から2週間も経っていないのに仕事が早い。


「ダザレス侯なる人物については、公爵閣下からマキワ王国に問い合わせの親書を送っていただいているのだが……」


 歯切れが悪いので、ロイド侯が話すまで待ってみた。言いにくそうにしていた彼だったが、「紛れもない事故だ」と断ってから、放火貴族の乗った船が、水棲の魔物の大群に襲われて沈没した事を話してくれた。しかも問題の放火貴族一派だけでなく、同乗していた兵士まで一人残らず魔物に喰われてしまったそうだ。


 なるほど。「事故だ」と断るはずだ。普通に聞いたらロイド侯や現ボビーノ伯が結託して始末したようにしか聞こえない。もっとも、たとえ口封じだったとしても放火貴族の自業自得なので別に構わない。なので「事故では仕方ありませんね」とだけ答えておいた。


 信じていますアピールに微笑を足しておいたのだが、ロイド侯の顔色が悪い。なぜだ? 忙しい人みたいだし、心労が重なって疲れているのかもしれない。


 ロイド侯は、今回の事件の詫びにと、彼の派閥が保有する鉱山や事業をいくつか進呈すると、言い出した。さすがに大盤振る舞いすぎる上に、貰っても確実に持て余すのでやんわりと断る。

 すると、今度は、来年度末に太守が交代する予定の大河河口にある貿易港を有するミトトゲーナ市の次期太守に推挙してもいいと打診されたが当然断った。太守なんて面倒そうな地位はやりたい人に回してあげてほしい。


 その後は宝飾品や美姫――やはり一桁の幼女だった――なんかを差し出されたが、どちらも間に合っているので断り続けたら、最後は、派閥内の後継者のいない子爵家の養子に、と言われてしまった。


 どうも、普通に断っているのに口止め料を吊り上げているような様相を呈してきたので、もし良かったら、秘蔵の魔法の書などがあったらしばらく貸してほしいと、こちらからお願いしてみた。


 すごくホッとした顔のロイド侯を見て、ちょっと悪いことをしていた気分になった。別に礼とか詫びとかはいらないんだが、何か受け取っておいた方が安心するなら貰っておこう。


 ロイド侯の一門は土系の魔法に秀でた人物が幾人もいたそうで、書庫にあった魔法書は土系に偏っていた。


 ヘタに選んで秘蔵の品を持ち去っても悪いので、一緒に来ていた家令のお爺さんに、お勧めを数冊選んでもらった。彼も土魔法スキルを持っているので最適だろう。10冊ほど選んでくれたので、その中から興味深そうな5冊ほどを選んで借りた。残り5冊は、今度返しに来た時に貸してもらおうと思う。書庫の壁際に近隣諸国の配置が描かれた地図があったので、無断で1枚撮影させてもらった。


 長居するのも悪いので、本を借りた後にタイミングを見計らって退出させてもらった。

 お疲れのロイド侯に、彼の好きなテンプラの夕食を振舞ってあげれば良かったと気付いたのは彼の館を出た後だった。





 顔を見せようと思ったのだが、セーラは、テニオン神殿で修行中のようだ。

 邪魔をしたら悪いので、テニオン神殿には寄らず、そのまま下町まで繰り出した。出店を冷やかしながら、福神漬けっぽいものを探したが見つからない。


 あるお店で、赤い漬物があるという話を聞いて向かってみたら、売っていたのは赤カブの漬物だった。ご飯には合いそうだが、ちょっと違う。


「マしター?」

「マしター違う?」


 そう足元から呼びかけられて、視線を落とす。

 なんだ、ナナが仲良くしていたアシカ人族の兄妹か。彼らは鼻をスンスンさせながら、キョロキョロと周りを見回している。マスターと言えていない所が可愛いな。


「ナナは?」

「ナナいない?」


 オレの周りをクィクィと体をゆすりながら回って、ナナがいないか探している。

 でも、オレのズボンの裾を捲ってもナナはいないと思うんだ。


 ナナは、この2人に、ずいぶん懐かれていたみたいだ。今度来るときはナナも連れてくると約束して、ナナから預かっていた砂糖菓子の小袋を2人に渡してあげた。ヘコヘコといった感じに頭を上下しながら礼を言って去っていく兄妹を見送る。


「そこの若旦那、漬物買わないかい?」

「おや、小母さん。出店もされていたんですね」


 オレに声をかけてきたその人は、昨夜泊まらせてもらった女呪い士(まじないし)フツナさんのお母さんだった。彼女の勧めてくれたのはキュウリや瓜を醤油と味醂で漬けた漬物だそうだ。なかなか美味いというか、この味付けは福神漬けじゃないか? ちょっと酸味が強いが、こういう味だったはずだ。


 このレシピは、昨日酒盛りをしていた娼婦のお姉さんの一人が、フツナ母に伝授したモノらしい。


 それまでは、普通の酢漬けを売っていたそうだが、このクハノウ漬けを売り始めてから売れ行きが良くなったそうだ。味醂や醤油が高いので儲けはそれほど増えていないという話だったが、こうやって話している間にも客足が途絶えることが無かったので、固定客がいるのだろう。


 その日の晩、フツナ母にクハノウ漬けを伝授した娼婦のお姉さんに、漬物のレシピを教えてほしいと頼み込んでみた。交渉が難航するかと思ったのだが、レシピは二つ返事で、気前よく教えてもらえた。彼女は、クハノウ伯領の出身で、地元で食べていた漬物のレシピをアレンジして伝えたそうだ。元々はクハノウ伯領の特産品である丸大根を漬けるのが本来のレシピらしい。「久々に故郷(くに)のクハノウ漬けが食べたいわ」と呟いていたので、大根を買うついでに買ってこよう。


 稼ぎ時を逃した彼女に、レシピ伝授の礼も兼ねて数枚の金貨を渡しておいた。その行為は彼女のプライドを刺激するものだったらしく、夜半まで彼女のテクニックの洗礼を浴びる事になった。


 キスマークが自己治癒で綺麗に消えているのを、「遠見(クレアボヤンス)」で確認して、集合住宅を後にした。


 さて、夜の間に大根の生産地――クハノウ伯領まで飛ぼう!


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― 新着の感想 ―
[一言] 梅干しが赤いのは赤紫蘇を一緒につけるから、なので、あの赤みはその辺りからなのかもですね
[一言] 福神漬けは醤油と砂糖、味醂だから わざわざ着色しないと茶系色だそうですよ 更に赤くしたのは「カレーに添えるために茶系を避けたため」なので”赤い”福神漬けになる発展経路がないのでは?
[一言] 差し詰め、福神漬け探して三千里? 平行進化か、過去に召還された勇者たちが持ち込んだり再現した文化が多分にありそうですね。 先に出て来たケチャップ(赤ダレ)用のトマトですが、リアルだと原種で…
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