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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第九章

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9-22.害虫退治(2)

※9/1 誤字修正しました。


 サトゥーです。カレールーは偉大です。野菜が多少煮崩れしてたってルーさえ入れればカレーになります。ジャガイモが溶けて粉っぽくてもカレーはカレーなのです。





「既に検討されたか確認したいのですがいいでしょうか?」

「はい、どんな意見でもいいのでお願いします」


 ジーアさんが、低い位置からウルウル目で懇願してくる。

 ああ、適当な事が言いにくい雰囲気だ。


「一箇所に集めて大出力の魔法で遠距離攻撃するというのは試されましたか?」

「はい、他の大陸にいるビロアナン氏族が試したそうなんですが、倒す端から分裂増殖したり、世界樹からの反撃をうけたりして、全て倒し終わった時には、世界樹の枝の半分と過半数のエルフの命が失われてしまったそうです」


 世界樹は、他の大陸にもあるらしい。ビロアナン氏族は、エルフの癖に火系の魔法を得意としている喧嘩っ早い一族らしい。偏見かもしれないが、エルフらしくないな~。


「あの氏族は、ちょっと他とは違ってますから……」

「ジーア、他の氏族の陰口はいかんぞ」

「すみません、長老」


 長老の横で、アイアリーゼさんが腕を組んでウンウンと頷いている。

 そういえば居たな。


「そのビロアナン氏族の世界樹は、その後、どうなったんですか?」

魔海月(エビル・ジェリー)は、全て駆除できたらしいのですが、世界樹から大地へ送れるマナが減りすぎて大陸の3割近くが砂漠や荒地になってしまったそうです」


 なかなか被害甚大だな。

 間接被害を考えたら、魔王よりも酷いんじゃないかな。


 遠距離攻撃の詳細は誰も知らなかったので、長老さんに頼んでビロアナン氏族から聞き取り調査をしてもらう事にした。


「では、2点目です。魔海月(エビル・ジェリー)を捕獲して研究などは行いましたか? 苦手な属性や嫌悪する物質を探したり、引き寄せられる誘引物質(フェロモン)のようなモノが無いか調べたりですね」

「はい、確かベリウナンとブライナンの両氏族が研究していたはずです。苦手属性は、火や熱です。逆に氷や闇なんかには耐性があるみたいです。誘引物質というのは、聞いたことがありません」

「うむ、私から両氏族に打診してみよう」

「お願いします」


 立て板に水といった感じで、オレの質問に答えてくれるジーアさんに、すかさず手配を約束してくれる長老さん。アイアリーゼさんは、その横で、ウンウンと頷いているだけだ。それでいいのかハイエルフ。


「最後に、3点目ですが、魔海月(エビル・ジェリー)に害を成すと、世界樹から攻撃されるそうですが、どの程度の害を与えると、攻撃を受けるのか判りますか?」

「鑑定スキル持ちに確認してもらいましたが、3割ほど体力を削ると世界樹から攻撃されるみたいです」


 なら、デバフで無力化できないかな?

 遠距離からの攻撃魔法が使えるなら、同様に遠距離からの状態変化魔法も使えないだろうか?


魔海月(エビル・ジェリー)を眠らせて世界樹から引き離して抹殺というのは試しましたか?」

「これもベリウナンとブライナンの両氏族から報告を受けた資料に――ああ、ありました。眠らせる事は可能ですが、魔海月(エビル・ジェリー)はお互いの距離を監視しているらしくて、一定距離まで引き離したところで、他の魔海月(エビル・ジェリー)に邪魔されたそうです」


 ジーアさんが捲っていたのは紙のファイルだ。これだけ近未来的な空間にいるのに、その辺はローテクなのが意外だ。


 ふむ、全部一度に眠らせたら、いけるんじゃないか?

 そうジーアさんに聞いてみたのだが――。


「それは無理です」


 ――即答で否定された。曰く、百匹も眠らせると最初のヤツが起きるそうだ。しかも睡眠や麻痺の耐性が強く、なかなか眠らせられないらしい。睡眠の魔法薬の魔力がクラゲに吸われてしまって効果が発揮されにくいのだそうだ。


 水系や風系の睡眠魔法も試したらしいのだが、中級以上の魔法で無いと、クラゲの周りの魔力吸収空間を突破できないそうだ。もっとも、優れた術者の場合、初級魔法でも効果を発揮したそうなので、クラゲの吸収力も完璧ではないのだろう。


 一応、長老さんに「魔海月(エビル・ジェリー)に邪魔された」詳細を問い合わせてもらうようにお願いしておいた。


 問題は数と距離だな。





 オレの手持ちで、クラゲ達の爆発的な増殖が始まる前に倒せそうなのは、「流星雨」と「光線(レーザー)」の2つだ。高威力の技は他にもあるが、超広範囲にいる1万匹を一度に倒すとなると、この2つしか思い当たらなかった。

 まず「流星雨」は論外だ。たぶん、世界樹ごと薙ぎ倒しそうだ。


 となると「光線(レーザー)」なんだが、パルスレーザー式に撃ったとしても、距離的にどうしても「線」の攻撃になるため、世界樹の枝を沢山伐採してしまいそうだ。ヘタをすると、火攻めにしたエルフ達ほどではないにせよ、相当な被害が出てしまうかも知れない。


 天駆と縮地で無双斬りするというのも考えたが、広範囲すぎて倒しきるのに時間が掛かりそうだ。光速で動ける少年漫画の主人公が羨ましい。転移魔法があれば楽勝なのに。


 力技はダメみたいだ。


 勢い込んで来たものの大して役に立たなかったのが、申し訳ない。


 長老さんもジーアさんも、「そんな事は無い」「誘引物質の件だけでも充分感謝しています」と言ってもらえたが、何かを見落としている気がしてしかたない。


 ポンポンと慰めるようにして肩を叩いてくれてますが、アナタ何もしてないですよね? ハイエルフ様?





 さて、アイアリーゼさんに当てこするよりも、何か考えよう。


「なに、ウンウン唸ってるのよ?」

「あ~ ちょっとね」


 いい考えが浮かばないまま、リビングで考え込んでいるうちに日が暮れたみたいだ。いつのまにか修練場から皆が帰ってきていたらしい。


 アリサの言葉に生返事して視線を送ると、アリサだけでなくみんなが心配そうな目でこちらをみていた。

 いや、タマはマイペースにオレの膝の上に滑り込んで丸くなった。

 ナナも普通だ。クッキーを使って羽妖精を釣り上げて遊んでいる。


「ああ、心配させて済まない。ちょっと相談事をされてね――」


 オレは、詳細をボヤかせてクラゲの事を相談してみた。


「ふーん、果樹園の害虫退治ね。地道にやるのはダメなの?」

「それは、もう試したらしいけど、ダメだったらしい」


「騒いで追い立てる~?」

「アイツラはワシャワシャと逃げていくのです」


 タマが両手をネコの手の形にして大きく手を広げて追い立てるポーズをする。

 ポチはタマの両手を怖がるように、手をワシワシさせて逃げるようなジェスチャーをしている。たぶん、逃げる虫の様子を表しているのかな?


 精神魔法の「恐怖(フィアー)」系ならできそうだけど、スクロールにできる人がいないんだよ。手持ちの魔法道具に「恐怖の鐘」っていうのがあるから、どこか人里離れた場所に行って一度効果を調べてみるかな。あ、音波系の道具だったら宇宙空間では使えないか。


「魔法」

「ああ、前に使ってくれた虫除けの魔法ですね。ご主人さま、あの魔法なら害虫退治も簡単なんじゃないでしょうか?」


 これはミーアとルル。前に野営地で羽虫が多くて眠れない事があった時の話だ。

 生活魔法を使えるエルフって、ほとんど居ないみたいだから、案外知られていないかもしれないな。「害虫避け(バグ・ワイパー)」には派生魔法も多いから、一度、公都に行って各種取り揃えてもらってみようかな。効果が出たらラッキーくらいのつもりでいよう。


「虫篭の蓋を開けて、中に美味しい肉を入れておくのです」

「罠は良い案です。ですが、エサには甘いものを推奨します」


 ポチの意見をナナが修正してくれる。

 罠は確かに良さそうなんだけど、1万個の罠を用意するとか大変そうだ。


「煙で燻すのが良いと思いますが、それで済むならご主人さまが悩むとは思えません。その害虫を食べる鳥や小動物など、樹に害を成さない天敵を放ってみてはいかがでしょう?」


 リザの意見はなかなか良いが、残念ながら、宇宙クラゲの天敵なんて思いつかないよ。この間の「大怪魚(トヴケゼェーラ)」なら、喜んで食べてくれそうだけどね。


「人形使いよろしく虫使いになって、自主的に木から退場させたら、どう?」


 アリサは、今日の探検で疲れたのかアイデアが適当だ。


「あ、あとさっきのポチの話で思いついたんだけど、虫を他の虫から離したらダメなんだったら、虫篭に入れて、その虫のいた所にそのまま置いておいたら~?」


 虫篭って何個必要になると……おや?


 ひょっとしたら、このアイデアは良いんじゃないか?


 ステップ1:眠らせて(おり)に放り込んで、その場に放置。

 ステップ2:全部詰め終わったら、(おり)を一斉に世界樹から離す。

 ステップ3:殲滅


 良いな。

 ステップ1がとんでもなく面倒そうだが、(おり)の強度さえ確保できれば何とかなりそうだ。魔法が使えれば材料の心配も無くなるし、クラゲの「吸収(アブソーブ)」という種族特性で吸われにくい種類がないか試してみよう。


 ちょっと光明が見えた。

 明日にでもジーアさんに、色々相談してみよう。


 先に夕飯の準備で席を外したルルの手伝いに向かう。今日もエルフの皆さんが食べに来るようで、広い厨房にはエルフの奥様達が何人も手伝いに来てくれていた。


 今日のハンバーグは脂分を排除した肉を5割まで増量してみた。

 ポチたちの食べる肉汁タップリのハンバーグとは別物だが、それ故にミーアは疑う事無く、肉入りハンバーグを「いつもより美味しい」と言いながら食べていた。


 ふふふ、次からは肉入り豆腐ハンバーグではなく豆腐入りハンバーグだ。


「今日もムテキに素敵なのです」

「はんばーぐ、3日れんぞく~?」

「美味です」


 獣娘さんたちにも好評だ。


「あまり同じメニューもダメだから明日は別のにしようか」

「ダ、ダメじゃないのです!」

「ん」

「ソースや付け合わせが毎回違うから、同じメニューっていう気がしないわよ?」

「毎日がはんばーぐ」


 さすがに毎日は嫌だ。


「わたしはオムライスかカレーが食べたい!」


 いつの間にか食卓に紛れ込んでいたアイアリーゼさんから、リクエストが来た。ホッペに付いたソースをルーアさんが拭いてあげている。ミーア一家以外のエルフは交代で宴席に来ているのだが、アイアリーゼさんは皆勤だ。


 どちらの料理も、ダイサク氏が食べたがっていたそうだが、最後まで再現できなかったと料理人のネーアさんが言っていた。エルフの里にはトマトが無かったのか。今度ネーアさんに数株ほど進呈しよう。


 カレーか、長らく食べていない。アリサも「はらはら、はらぺらぺーにょん、からからカルだもん」とか変な歌を歌いだした。カレーの歌らしい。


 幸いレシピは入手済みなので、必要な香辛料が無いかネーアさんに聞いてみよう。

 明日はビーフシチューだ。ミーアの分は、肉は細かくバラして食感や脂臭さが残らないようにしてみるか。


 クラゲ退治の準備もあるし、明日も忙しそうだ。


 ごめんなさい! 原稿が遅れ気味で感想返しが止まっています。

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