9-12.ボルエナンの森
※8/25 誤字修正しました。
サトゥーです。遊園地の絶叫系の乗り物を好きな人と苦手な人の差はドコからくるのでしょう。もちろん、向き不向きもあるでしょうが、その遊技機への信頼があってこそ楽しめるのかもしれません。
◇
山脈を越えて山裾と森の間にある狭い草原に、箱舟飛行船を降下させる。
「あ~、ようやく地面だわ」
「アリサったら、たった半日じゃない」
「だって、あんなに揺れるなんて思わなかったんだもの」
アリサの言葉も尤もだ。
思った以上に変な気流があったので、予想より揺れが大きくなってしまった。「風防」の魔法があったおかげで、気温低下や気圧変化の影響を受けなかったが、「気体操作」では急激な気流変化を吸収しきれなかったので揺れまでは防げなかった。
「だ、大地なのです」
「ああ、母なる大地」
そのせいで、ちょっとばかりポチとリザが可哀相な感じになっていた。
がくりと地面に崩れ落ちている。2人共、ちょっと目の焦点が合っていない。今回は揺らしていないんだけどな。それよりも、揺れないように支えた方がよかったかもしれない。
やはり馬達みたいに、睡眠薬で寝かせておいた方が良かったのかもしれないな。
アリサとミーアは乗り物酔いをしたのか、ちょっとぐったり気味だ。酔い止めの薬は飲ませておいたんだが、あまり効かなかったらしい。
ナナは平常運転だ。今も足元で風に揺れる小さな花を指でつついている。
タマは、予想外の方向に揺れるのが楽しかったのか、始終はしゃいでいたので遊園地帰りの子供のように電池切れになったみたいだ。今は、満足そうな笑顔で、草原に転がって眠っている。
怖がったり乗り物酔いをしそうなルルだが、ジェットコースターのノリだったのかオレの腕に掴まって「キャーキャー」と悲鳴を上げていたわりに、最後まで笑顔だった。上気した顔が可愛かったから特に文句はない。
日が落ちるまで、まだかなりあるが、皆の消耗が激しいので、今日はここで野営する事にしよう。
ボルエナンの森の中には魔物がいないが、今いる境界エリアにはそれなりに魔物がいる。ただ、大して強い魔物はいないので、ナナに皆の護衛を任せた。
オレはというと、山脈の途中に念願のミスリル鉱脈を見つけたので採掘に向かっているところだ。ミスリル鉱脈はかなり深い地中だったが、地表から1キロほどだったので「土壁」を4~5回使う事で、目的の深度までの縦穴を掘った。精製したらどの程度まで減るのかは判らなかったが、十数トンほど掘れたので十分だろう。足りなくなったら、また来ればいいだろう。
夕飯の準備をするには、まだまだ早いので、山々を飛び回って焼き物用の粘土をはじめ、石材や希土類なんかを採取してまわった。金脈や銀脈もあったのだが、金脈は単位体積当たりの含有量が少なすぎたので手を出すのは止めておいた。必要ならフルー金貨を溶かせばいいしね。
◇
日が翳り始めた頃に戻った野営地には、珍客がいた。
客と言っても人じゃない。ボルエナンの森に住む一角獣だ。ムーノの森にいた一角獣と違って、白馬ではなくシマウマに似た模様がある。
一角獣は無角獣と仲睦まじく、オレが配合しておいた馬用の餌を食べている。
「これは?」
「相思相愛」
「2時間前に、ふらりとやってきてイチャイチャしだしたのよ。リア充っていうかリア獣、氏ね」
「特に敵意がなかったので討伐も捕縛もしていませんが、いかがいたしましょう?」
げんなりしたアリサが毒づいているが、ユニコーンにまで絡むな。リザに討伐は不要だと告げて、ルルと一緒に夕飯の準備を始める。
今晩はミーアのリクエストで、豆腐ハンバーグをメインにした料理にする。鶏肉抜きのチキンライスにポテト、さらに小さなプリンも付ける。ここにエビフライやソーセージも付けるところなのだが、そこには食竹のフライとマカロニにしておいた。最後に型で形を整えたチキンライスに、楊枝に付けた旗を刺して完成だ。
「マメね~、キャラ弁の次はお子様ランチか」
「かわい」
「むてきにすてき~」
「そうなのです! ハンバーグだけでもサイキョーなのに、こんなに揃ったらムテキなのです!」
数時間前の憔悴が幻のように思えるくらいポチが回復している。シッポだけじゃ飽き足らず腕をグルグル回転させている。興奮するのは良いが、興奮しすぎて目を回しそうだ。
「マスター」
「なんだい?」
ナナが、不服そうな目をオレに向けてくる。暴走しそうなナナは、先に理力の手で拘束済みだ。感触が無いのが残念だ。
今回は、ちゃんと全員分用意してある。もちろんナナの分もだ。特別にナナの皿には、全3種類の旗を全て添えてある。これで暴走しないだろう。
「慧眼です。マスター、実に素晴らしい出来だと称賛します」
ナナも、満足してくれたようで何より。アリサが「子供じゃないっつーの」とかボヤいているが、言葉の割に満更でも無いようだ。
肉抜きというのも可哀相なので、別の大皿には、ワイバーンのカラアゲを積み上げてある。昨日のうちに酒ベースの出汁に漬け込んでおいたワイバーンの肉を使った。リザから「昨日のものより美味です」という感想が聞けたので、今後もワイバーンの肉は下味をつけるようにしよう。
こういうメニューだと顕著になるが、タマは好きなものから、ポチとミーアは嫌いなものから食べる癖があるみたいだ。もっとも、大皿の品はポチも好きなものから食べていた。
「サトゥー、美味しい」
「ん」
珍しく二言を話すミーアに、彼女のマネをして答える。
おかわりを要求してきたミーアに、盛り付けてやる。先に食べ終わってリザとカラアゲ攻防戦をしていたポチとタマが、その光景を見て慌てて「おかわり~」「おかわりなのです」と皿を突き出してきたので皿に盛り付けてやる。
大釜に用意したチキンライスがカラになる頃には、みな満腹になったようで、お腹をさすって就寝用のシートの上で大の字になっている。
後片付けは、リザとナナに任せて、オレは、簡単な仕組みの扇風機を作り始めた。
山脈を越えたといっても、そんなに南下していないはずなんだが、少し汗ばんできているので、快適に眠れるように作ってみた。「気体操作」で、そよ風を流せばいいと気がついたのは、扇風機を完成させた後だった。
◇
翌朝、朝食を終えてから、ミーアにボルエナンの森に入るための方法を尋ねてみたが、森から出た事が無かったらしいので知らないそうだ。
なら知っている人に聞くか。
メニューで、ミーアの両親のラミサウーヤとリリナトーアを検索してマーキングする。さて、やはり連絡相手は母親だな。
リリナトーアさんを対象にして「遠話」の魔法を発動する。
この魔法は相手に会話する意思がないと、ちゃんと発動しない。イタズラ電話攻撃みたいな事はできないようでなによりだ。
「誰?」
ミーアそっくりの声で返信がある。この声はオレにしか聞こえない。前に、ルルやポチ相手に実験したから間違いない。
「はじめまして、私は人族のサトゥーと申します。不躾な通話魔法に応じて――」
そこで、リリナトーアさんの声が割り込んだ。
「まあ! サトゥーさんですって?! ドハルが言っていた人なのかしら? そうよね! なら、ミーアを連れてきて下さったのかしら? 連れてきてくれたのね? ――」
酔っ払った時のミーアみたいな、マシンガントークが繰り出される。
5分以上も彼女の会話に割り込む事もできずに、一方的な言葉を聞かされた。オレの名前はドハルさんからの連絡で知ったらしい。ドワーフの里でミーアが言っていた「相思相愛」とか「駆け落ち」とかいう単語は、本気で受け取っていないようで安心した。
その一方で、セーリュー市のユサラトーヤ店長さんからの手紙は、まだ届いていないらしい。ドハルさんの連絡が先に届いていたのは魔法の通信だったからだそうだ。
向こうから迎えに来てくれるという話だったのだが、オレの位置がわからないということだったので、上空に向かって火球を打ち上げて合図した。
火球が消えてしばらくしてから、目の前の森が割れて、2人のエルフが現れる。
絵本のエルフが着るような緑色の服を着ている。
「「ミーア」」
「ラーヤ、リーア」
お互いの名を呼び合って抱き合う親子。
いやー、感動的な光景だ。
感動の再会を見守るオレの袖を、アリサがチョイチョイと引っ張る。
なんだ? いいところなのに?
「ねえ、あれってミーアの両親よね?」
「そうだよ」
「でもさ~」
アリサの言いたいことは分かる。
ミーアの両親は、ミーアより多少年上に見えるものの、ルルに比べても年下に見える。成長は遅い種族みたいなので、ハヤトが喜びそうだ。
父親の方は、セーリュー市のエルフの店長さんにそっくりの顔をしている。人口も少ないみたいだし、血縁なのかもしれないな。
「サトゥー」
「感謝する」
「まあ、サトゥーさんね? サトゥーさんよね。思ったより若いのかしら? 若いわよね――」
ミーアに紹介されてご両親に挨拶する。
それにしても、父親はミーアと同じく無口みたいだ。この夫婦の口数は、間を取ってくれないものか、実に話しにくい。
オレ達は、ミーアの両親に招かれてエルフの里にお邪魔する事になった。
本文中の「氏ね」は誤字ではありません。
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