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9-4.魔狩人の街にて(3)

※2016/4/3 誤字修正しました。

 サトゥーです。いつの世も冤罪は無くなりませんが、身分差がある世界では理不尽な事で罪に問われたりするようです。日本なら司法や弁護士を信じて待つという方法もありますが、異世界だと受身でいる事は致命的なようです。





 衛兵のうち2人が馬を引いて、こちらにやってくる。


「おい、詰め所まで来てもらうぞ」

「あんなんでも貴族さまだからな。大人しくついてこい。助命の嘆願くらいはしてやるから」


 おいおい、街中で拳銃発砲どころか爆弾投げるようなマネしたやつに、果物をぶつけただけで死刑囚扱いとは。素直についていったら酷い目に遭いそうだ。


 オレは胸元から、身分証の銀のプレートを取り出して、衛兵に見せる。


「こ、これは貴族様でしたか! いったい、いつからご逗留で」

「数時間ほど前だ。そんな事よりさっきの貴族は、公都では見かけない顔だったが、ドコの何様だ? こんな街中で攻撃魔法を使うなんて、名誉あるシガ王国の貴族の所業とも思えない」


 我ながらよく言うものだ。一応、偉そうになるように言葉遣いに注意した。名誉うんぬんはともかく、街中で住民を焼き払うような魔法を使うのは人としてどうかと思う。


 言い淀む衛兵を更に追い込む。


「これはポトン准男爵も知っている所業なのか? 場合によっては公爵様やロイド侯にも注進する必要がある」


 衛兵達は、オレから目を逸らしている。

 これはグルというか、本当に准男爵が許可しているみたいだ。


 ここで衛兵達を、追い詰めているのには理由がある。

 問題の准男爵が数人の護衛を付けて、こちらに向かっているのだ。先に捕縛されたり、彼らを物理的に制圧してしまうと話がややこしくなる。


「おい、衛兵! そいつがダザレス侯に手を上げた下手人か! さっさと捕縛せんか」


 やってきた准男爵は、偉そうに衛兵に指示を出しているが、小物臭のする40前の小太りの男だ。オレが平然と腕を組んで見つめているだけで、動揺して目を泳がせている。


「ダザレス侯だと? 我が国にそんな貴族はいなかったはずだ。まさか、街の守護として任ぜられた者が、他国の貴族の暴虐を見過ごすだけでなく援助までしていたわけではないだろうな?」


 口をパクパクしている准男爵の前にゆったりした動作で近づく。無手なので、護衛の兵士達も動いていない。


 鞄から取り出した書状を、ポトン准男爵に差し出す。このプタの街に寄るという話をした時にロイド侯が一筆書いてくれたものだ。


 訝しげな顔で書状に視線を落とすポトン准男爵だが、封蝋に押されたロイド侯の印章を見て顔を引きつらせる。おそるおそる開封し、書状を読み終わった准男爵は、青い顔をしてそのまま卒倒してしまった。


 この書状には大した事は書いていないはずだ、せいぜい街に逗留しているときに便宜を図ってやってくれとか、その程度だろう。ただ、その書状からオレとロイド侯が知り合い、それもそれなりに親しい間柄だと伝わるだろう。ここでの所業がロイド侯に伝わったら、良くて守護役の解雇、さすがに処刑される事は無いだろうが、ヘタをしたら爵位を子供に譲らされて引退させられてしまうだろう。


 まさに虎の威を借る狐!

 まさか、コネをこんな風に使う事になるとは思わなかったよ。


「明日にでもポトン准男爵の館に寄らせていただく。それまでに、ダザレスとかいう男に然るべき裁きを期待する」


 気絶してしまった准男爵の代わりに周りにいる衛兵達にそう伝える。こういう輩は自己保身は得意なはずだから、これで迷惑なバカ貴族の始末を付けてくれるだろう。火魔法使い相手とは言っても、健常な状態ならともかく、半死半生の今の状態なら簡単に無力化できるはずだ。


 なぜか周りから巻き起こる拍手が、小っ恥ずかしい。


 今日も頑張れ無表情(ポーカーフェイス)スキル。



>称号「護民官」を得た。

>称号「断罪者」を得た。





 騒ぎの後に、商会に寄って情報を集める事にした。


 残念ながら商会で得られた情報は大したものがなかった。せいぜい、ボルエナン方面の山脈まで向かう旧街道についての情報だけだ。旧街道は、200年前までは普通に使われていたらしいのだが、200年ほど前に、山脈に翼竜や魔獣が棲み付いたせいで廃れてしまったらしい。

 今では10キロほど先にある最果ての村を最後に、森に没してしまったというか、雑草の海に沈んでしまっているそうだ。


 事実だったとしても、風魔法で草刈をするか、土魔法で整地すればいいかな。


 ポチとタマを連れて戻った宿からは、いい匂いが漏れ出している。


「はらはら♪」「はらへり~♪」


 オレと繋いだ手をブンブンと振りながら、2人がお腹が減った時の歌を歌っている。空腹ソングは、その時の気分で新しく作られるので、何種類あるのかはオレも把握していない。


「ただいま」

「おかえり~ ああ、良かった。宿屋の主人から、もうすぐ食事ができるって連絡があったわよ~」

「ご主人さま、こちらに運んでもらう事もできるようですが、今日は宿泊客が少ないので食堂を勧められました」

「人族以外でも問題ないか聞いた?」

「もちのロンよ。おっけーだってさ」


 ア、アリサ。その言い回しは、昭和としても古いんじゃないだろうか。

 気を取り直して、ミーアにお土産の瓜を渡す。


「それなら、せっかくだし食堂に行こうか」


 港で注文していたトマトは先に届いていたそうで、篭に入れてテーブルの上に置いてあった。ちゃんとテーブルの横には、頼んだとおりの土まで付いた状態の苗が5株おいてあった。これで、迷宮都市に着いてもトマトを確保できるな。向こうで普通に売っていたら無駄だが、その時はムーノ市で栽培してもらえばいいだろう。


 料理はシンプルな丸焼きだ。

 肉をこそいで、小鉢に入った白いソースに付けてサニーレタスっぽい葉野菜に包んで食べるらしい。ミーア用に野菜をふんだんに使ったピラフや蒸し野菜なんかが別の皿に盛ってある。


 白いソースはマヨネーズのようだ。公都で肥満が増えそうで、マヨネーズは広めていなかったんだが、普通に存在していたんだな。公都では見なかったから、この街の郷土料理なのだろうか。


 ただ、これは――


「鹿肉の野菜焼きウマー」

「まよまよ~」

「マヨなのです!」

「マヨネーズは美味しいのですが、やはり最初は何も付けずに頂くのが良いと思うのです」

「あら? 美味しいけど、このマヨネーズって」


 マヨネーズを付けた鹿肉の野菜焼きを口にしたルルが、確認するようにこちらを振り向いた。そう、ここのマヨネーズは非常にクドい。油の種類が違うのか配合が悪いのかは判らないが、あまり沢山食べたら胸焼けしそうだ。


 ちょっと拗ねたようにピラフをモクモクと無言で食べるミーアの頬をつつきながら、皆にマヨネーズを食べ過ぎないように注意する。


「貴族様には、この白タレは合わなかったかい?」

「いえ、大変美味しいですよ。この白いソースはご主人が作られたのですか?」


 様子を見ていた宿の主人が声を掛けてきた。

 だが、オレの質問に彼が答える前に乱入者があった。先程の隻腕の少年が、左腕を振りながら宿に入ってきた。


「くぅ、いい匂いだ。貴族さま、さっきはありがとう。これ借りていた銅貨2枚。本当に助かったよ」


 彼が差し出してきた2枚の銅貨を受け取る。報酬を受け取るのにも一悶着あったのだろう。彼の口の端が切れているし、右頬に青痣ができている。


「おっちゃん、オレも金が入ったからさ、この貴族さまと同じ料理だしてよ」

「無茶言うな、材料がないから無理だ」

「そんな~」

「どうせ材料があっても払えんよ。ウチの名物の焼き魚白タレ定食にでもしておけ」

「うん、それでいいや」


 ここの焼き魚マヨ定食は、銅貨2枚する。いいのか、そんな無茶な使い方で。


「そんなに使ったら、また街に入れなくならないか?」

「そんときは、そんときさ。いつ死ぬかわかんないんだから、食えるうちに美味いモン喰わないとね」


 達観しているのか、後先考えていないのか。

 獣娘三人がうんうん頷いているのが、ちょっと心配だ。


「そうそう白タレの話でしたっけ。これは、3ヶ月ほど前に街に来た片腕の魔狩人の男が、教えてくれたんですよ。同じ片腕でも、そこのコンの小僧とは違って抜け目ないヤツでね。白タレの代金として、かなりふんだくられましたけど、元はとってみせますよ」

「ちょっと、あんな目つきの悪い男と一緒にしないでよ」

「その男の名前を、聞きましたか?」

「ああ、ジョンスミスって名乗ってましたよ」


 ジョンスミスって。

 特徴を確認したが、左腕が無い事と黒髪で彫りの浅い顔つきという事しか覚えていないという話だった。なんとなくだが、メネアの国が召喚した3人目の気がする。


「そういやいつの間にか街からいなくなっていたよな」

「魔狩人なんだから魔物に殺されちゃったんじゃない」

「あの男なら、そうそう死にそうにないけどな」


 少年が、左腕一本で器用にサカナ定食を食べている。

 たまにこっそりと鹿の丸焼きをうらやましそうに見ては、サカナ定食をがっついているので、小皿に取り分けた、鹿肉を差し入れてやった。これくらいはいいだろう。


 先に食事を終え、入り口の様子を窺っていたナナがすくっと立ち上がる。


 こっそり額を隠して身体強化したナナが、目にも止まらないような動きで宿の入り口まで移動した。ホクホク顔で戻ってくるナナの両手には2人の鼠人族の幼児が抱えられている。幼児達は必死で逃げようともがいているが、身体強化されたナナの力には、まるで敵わないようだ。


「マスター、幼生体を保護しました。餌付けの許可を」


 いや、餌付けって。

 獣娘3人以外は食べ終わっているみたいだし、まだかなり鹿肉があるからいいだろう。ナナに許可を与えると、嬉しそうに2人の鼠っ子に鹿肉巻きを与えている。鼠っ子達は最初のうちこそ驚いていたが、食べていいとわかると飲み込むように食べ始めた。それに危機感を覚えたポチが、食事を喉に詰めたりとか、リザが鼠っ子達に味わって食べるように説教したりと色々あったが、賑やかな楽しい雰囲気のまま夕食は終了した。


 宿の別棟を警護してくれている傭兵は3人。皆レベル5ほどしかない上に、見破り系のスキルを持たないので甚だ頼りない。こういった傭兵達は、姿を見せる事で盗賊達を牽制するのが目的らしいからこれでいいのかもしれない。


 せっかくの宿だが、夜営の時と同じく3交代で番をする事になった。

 警戒しすぎだとは思うが、あのバカ貴族の手下が、襲ってこないとも限らないしな。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 句読点の使い方が間違っていました。 この書状には大した事は書いていないはずだ、せいぜい街に逗留しているときに便宜を図ってやってくれとか [気になる点] この書状には大した事は書いていない…
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