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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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171/554

幕間:ダンスとお茶会

 サトゥー視点ではありません。
※9/15 誤字修正しました。

 明日、ついに社交界デビューなのです!

 前からお母様にはお願いしていたのに、まだ早いと許してもらえなかったのです。けれど、ついに。そう、ついに舞踏会に出席するお許しがでたのです。

「リナは運がいいわね」

 お姉さまは14歳になるまで社交界に出れなかったと言ってらしたから、私が12で社交界に出るのが悔しいみたいなのです。

 でも、でもでも。
 急なお許しだったので、ドレスはお母様が子供の頃の古いドレスのサイズを直したものなのです。お姉さまみたいに、新しくドレスを仕立てて欲しかったなんて我侭は言えません。そんな事を言ったら、舞踏会のお話自体が無くなりそうなのですもの。





 うわぁ、お城! お城なのですよ!

「ちょっと、リナ。お口。今日から淑女なんですから、子供っぽい仕草は注意なさい」
「まぁ、フィアったら、貴方が初めてお城に上がったときと、同じ仕草じゃない。姉妹ね~」
「ちょっと、ティーナ。リナの前では止めてよ。姉の威厳っていうものが――」

 お姉さまと、ブラテス子爵家のティーナ様が何か話していますけど、私の耳を素通りしていくのです。
 だって、お城の中には、沢山の馬車が止まっているのですもの! あれは、どちらのお家の馬車かしら。丸い車体が可愛らしいのです。まあ、ゴーレム馬車までありました! すごいです、一度乗ってみたいな~

「さあ、お嬢様、お手をどうぞ」

 お城付きのフットマンの方が開けてくれた扉の外で、待っていたお父様が手を差し出してくれました。今日はお父様が付き添い人をしてくれるのです。

「ねえ、フィア。エト次期男爵様にエスコートしてもらわないの」
「いやだわ、ティーナ。それは終わった恋なの。今日は折角、王都から王子様がいらしているのだもの」
「高望みばかりしていたら、嫁き遅れてしまいますわよ?」
「ティーナも人の事を言えないじゃない。そんな事よりも! 王子様本人は無理だとして、狙い目は、お付の聖騎士の方や将来有望なお付きの方よ」

 有力貴族の子弟なら10歳までに婚約される方が多いですけど、わたし達みたいな中堅貴族の家の者は、成人まで婚約者がいない者が多いのです。中には理想が高すぎて20歳を過ぎても独身の方がいるそうですけど、私は、せめて17歳までに結婚したいです。容姿は普通で良いから、優しい人がいいのです。





 うああ、すっごい。

 我ながら頭の悪い感想なのですが、それ以外の言葉が出てこなかったのです。
 お父様に付き添われて入った舞踏会の部屋には、100人を超える立派な衣装の紳士淑女が所狭しと歓談していたのです。

 でも! 驚くのは早かったのです。

「リナ、こちらの小会場は、今日はじめて社交会でお披露目される者たちの控え室なんだよ」

 こんなに沢山いるのに、皆さん初お披露目だなんて! やっぱり、皆さん王子様目当てなんでしょうか?
 私はお父様に紹介されるままに、小会場にいた皆様に挨拶してまわったのです。

 ああ、こんなに自分の名前を連呼したのは初めてです。

「邪魔だ。道を開けろ」
「ご、ごめんなさい」

 本会場への通路に立っていたら、怒られてしまいました。白い鎧の怖い人です。騎士さまなのかしら? 私は謝って、慌てて道を譲りました。

「やるじゃない。さっそく王子様に声を掛けられたの?」
「あ、お姉さま。違います、道を塞いでいたので怒られてしまいましたの」
「道を塞いだって、華奢な貴方が10人くらい並べる幅があるのに?」

 改めて言われるとその通りです。何か理由があったのでしょうか?





「はあ、疲れました」
「あらあら、少し喉を潤しましょう」

 お姉さま達と一緒に、本会場の端にある長椅子に腰掛けて舞踏会の様子を眺めます。あんなに来たかった舞踏会ですけど、こんなに大変だとは思いませんでした。せっかく紹介していただいた方々もほとんど覚えられませんでした。

「それは、そうでしょう。横から見ていたけれど、あなた折角紹介して頂いているのに、ずっと目を伏せていたでしょう?」
「だって、みなさん年上で少し怖いのですもの」

 メイドさんの持ってきた果実水で喉を潤します。さすが公爵様の舞踏会、我が家では滅多に口に入らない高級な果実を使っているだけでなく、氷まで入っています。

「もう、二人とも疲れるのが早いわよ」
「ごめんなさい、ティーナ。それより、さっきの人だかりは何だったの?」
「ムーノ男爵領の名物料理が振舞われていたらしいのだけれど、私が行ったときは、お皿しか残っていなかったわ。よほど美味しかったのか、オジ様方が競って食べてらしたわよ」

 美食に慣れている年配の方々が競って食べるなんて、そんなに美味しかったのかしら。一口だけでも食べてみたかったのです。

「惜しかったわね。でも、ムーノ男爵領って、初めて聞くけど、遠方の領地の方なのかしら?」
「何を言っているのよ、公爵領のお隣よ。ほら、魔族の大群に襲われたって噂になっていたじゃない」
「ああ、あの! たしか、亜人の傭兵達を連れた魔法使いの方が、数万の魔物の群れを撃退したっていう英雄譚よね」
「でも、トルマ卿のお話だから、話半分で聞いておいた方がよろしくてよ」

 私も聞いたことがあるのです。
 迎撃にいった軍隊がなす術もなく全滅させられるような相手に、わずかな手勢で瞬く間に逆転して退けたそうです。きっと、全身傷だらけの大男さんなんです。左右には獣人の美女さんを侍らせていたり、そうそう眼帯なんかがあると、もっと雰囲気が出るかも――

「リナ、疲れた?」

 ――はっ。妄想に浸ってました。お姉さまが、先程のムーノ男爵領の料理が出ていた場所で、違う料理が用意されているというので、冷やかしに行く事になったのです。





 甘い香りが鼻腔を擽ります。何の匂いかしら?
 調理用の魔法具の上に薄い生地を流して手早く焼いて、その上にスライスした赤い果実と白いフワリとした何かを挟んで巻いて終了です。
 なんて手馴れた動作なんでしょう! 前に我が家の料理人が作るのを見た事がありますけど、全然違います。

「はい、どうぞ。小さな淑女さん」
「あ、ありがとうございます!」

 料理人の方がニッコリ笑って料理を勧めてくれました。お付きの黒髪メイドさんが差し出すお皿を受け取ります。
 よく見ると、この料理人の方、使用人じゃありませんよね? だって、こんな高そうな服なんですもの。お若いけど、きっと有力貴族の方なんだわ。だって、お姉さまやティーナ様も受け取る前に挨拶しているもの。
 わたしも慌てて、名乗ります。お話しをしている間に判ったのだけれど、相手の方は、名誉士爵様だそうです。お姉さま達は爵位を聞いて興味を料理に移したようですが、こんなに若いのに自分の力だけで爵位を勝ち取ったのは凄いと思うのです。

 そんな事を考えていられたのは、料理を口にするまででした。お姉さま達が確保していた近くの椅子に腰掛け、お皿に添えられていた小さなナイフとフォークで一口サイズに切って口に運びました。

 美味しい!

 白いふわふわの甘味が口一杯に広がります。咀嚼するとあの赤い果実でしょうか? わずかな酸味と白いふわふわとは違った甘みが混ざり合って、口の中が幸せなのです。淑女らしくないですが、おもわず口元が綻んで、笑みが漏れてしまいます。

「あ、あの、初めまして!」
「は、はい、初めまして!」

 食べ終わったお皿をメイドさんに渡した所で、年若い紳士の方に声を掛けられました。相手も緊張していたようですけど、わたしの心臓もばくばくと破裂しそうなくらい動揺しています。
 その方に誘われて、はじめてダンスを踊りました。緊張で相手の足を何度も踏んでしまいましたけど、相手も私の足を踏んでいたのでおあいこです。踊り終わった後に、その方のご友人の所に誘われたのですが、少し鼻息が荒くて怖かったので、なんとかお断りしました。

 やっぱり、男の方って、ちょっと怖いです。





 もう一度、さっきの「くれーぷ」が食べたくて行ってみたのですが、もう終了していました。あの白いふわふわを使いきってしまったそうで、「ごめんね」と優しく謝ってくれました。
 不思議です。鼻も高く無いし、目元も彫りが深いわけも無いしで、美形とは口が裂けてもいえないのに目が離せません。ゆったりした余裕のある動作や優しそうな表情に魅かれるのでしょうか?

「し、士爵さま! よろしかったら、私と踊っていただけませんか!」
「はい、私で良ければ、よろこんで」

 思わず私からダンスに誘ってしまいました。緊張しすぎたせいか声が大きくなってしまって、周りの人の視線が集まってしまいました。ああ、顔が熱い。
 士爵さまも少し驚かれたようでしたけど、すぐに承諾してくださいました。

「そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ、周りの人は木石(ぼくせき)とでも思えばいいんです。わたしの事は父親や兄のようなものと気楽に思ってください」

 ガチガチに緊張した私の肩を優しく叩いて、そう囁いてくれました。少しだけ、ほんの少しだけ肩の力が抜けて、気が楽になりました。
 音楽が始まると、さっきとはまったく違った滑るような動きで、踊れるのです。小さな声で「大丈夫ですよ」「そこは、もっと気楽に」「流れに乗って王女さまのように」とか囁いて下さるのが気持ちよくて、水の中の魚のように踊っているうちに、曲は終わってしまいました。上手な人と踊るのがこんなに楽しいなんて! これからはダンスの練習は、もっと真剣にやらないといけません。
 もう一曲踊って欲しかったのだけれど、他の子達が順番待ちをしていたので、それは遠慮しました。独占したりしたら、意地悪されちゃいそうなのです。

「リナ、貴方、あんなにダンス上手だったかしら?」
「士爵さまが上手かったから、自然と踊れたんです」
「ふ~ん、年下には粉をかけない主義だから、私はパスね」

 お姉さまは扇子で顔の下半分を隠しながら悪い笑顔を浮かべています。きっと、何か思いついたのでしょうけど、ほどほどにしないと嫁き遅れるのですよ?





「本日はお招きに預かりまして――」

 サロンでお姉さまの友人達と一緒に、お茶をしていた所に訪れた人を見てカップを落としそうになりました。

 どうして士爵さまがここに?

「うふふ、リナがお気に入りみたいだったから、あなたの出したお礼状と一緒に、お茶会の招待状を入れておいたの」
「フィアに感謝なさい。他の家の子達も沢山招待状を出していて、今では争奪戦状態らしいわよ」

 お姉さまとティーナ様が、両方の耳元で囁いてくれました。
 あんなに魅力的なお姉さまたちに囲まれているのに、士爵さまは、相変わらず年に似合わない落ち着いた様子です。

 テトラ様! 話しかける振りをして、む、胸を押し付けるのは反則です。
 ああ、シオナ様まで、お二人とも同い年の士爵さまを狙ってるのでしょうか? なにか胸の奥がモヤモヤします。

 そこに我が家のメイド達が、士爵さまの手土産というお菓子を持って入ってきてくれなかったら、子供みたいに、間に割り込んでいたかもしれません。

 お菓子はムーノ巻きというもので、この前頂いたクレープとグルリアンの中間みたいな味です。クレープより少し重いですけど、青紅茶に良く合います。青紅茶もティーナ様の手土産でお持ちくださった銘柄しか飲んだことは無いのですけどね。

 お菓子にまつわる話や、爵位を賜った時のお話を聞いていて吃驚しました。だって、士爵さまがあのムーノ市防衛戦の英雄だったなんて! 全然、そうは見えません。だって、髪はサラサラだし、手だって細くてしなやかで、とても剣や杖を振るうようには見えないのです。

 用事があるそうで、晩餐の招待には応じてくださらなかったのが残念です。
 士爵さまがお帰りになる時に、お父様が、果実の入った袋を渡して何か話し込んでいました。あの果実は我が家の果樹園で取れるものなのです。苦味が強く、すっぱい上に見た目も悪いせいで害虫被害に遭うこともない手間いらずの果実なのですが、漬物にするくらいしか食べ方が無くて、最近ではガボの実の漬物に市場を荒らされているそうです。そのせいか、我が家の身代は傾き気味なのだそうです。





「こんにちは、リナ様」
「ご、ごきげんにょー、ししゃきゅさなっ」

 お庭から玄関前に出たところで、士爵さまに会って驚きました。おかげで、噛み噛みです。ああ、恥ずかしい。
 お父様に御用だそうですけど、何かしら? とってもいい匂い。
 士爵様の従者らしい黒髪の使用人さんが持つ白い箱から漂っているみたいです。何かお菓子なのかしら? ああ、はしたないと判っているのに口元が緩んでしまいます。

「これはペンドラゴン卿! ほ、ほんとうに、あの果実の新しい使い道ができたのですか?」
「はい、その果実を使ったお菓子を焼いてみました」

 たしかに、あの白フワなら、すっぱい果実も包めそうだけど、それは白フワの成果であって果実は関係無いんじゃないかしら?
 その証拠に白いふわふわがタップリ塗られた上にスライスして並べられた果実は、全然違う色だったのですもの。

「これは、あの果実では無いようですが、中に入っているのですか?」
「いいえ、上に乗っているのがその果実です。熱を加えると色が変わるのですよ」

 果物を熱するの? 普通は井戸水で冷やしたりするものなのに。
 あの茶色い果実が、淡い桃色になるなんて。なんて綺麗な色なのかしら。

 メイド達が切り分けてくれた、「けーき」を恐る恐る口に運びます。だって、みんな見つめるばかりで口にしないのですもの。

 すごい! ふわっと溶けるの。クレープとは違った食感で、食べたことのあるどんなお菓子とも違うのです。
 今度はすっぱいのを覚悟して果実の部分を切って口に入れてみたの。甘くて柔らかいツルリとした食感。噛むと苺やリンゴとは違う繊維質な感じなのです。

 もう少し食べたい。
 でも、残念ながら、一人一切れだけみたい。お皿に残った白フワをフォークでこそぎ取りたい衝動に駆られたけど、我慢です。もう社交界デビューした淑女なのですから。

「今度、ティスラード様の結婚式で、このケーキを振舞おうと思っているのです」

 ああ、士爵さまの爆弾発言でお父様が動揺しています。次々代の公爵様の結婚式の料理に使われるなんて、ものすごい名誉です。お父様が、予想外の申し出にガクガクと首を縦に振っている気持ちもわかります。
 ひょっとしたら、この二束三文の果実も、もっと売れて、我が家の財政も上向くかもしれません。

 この日の夜、お父様の部屋に呼び出されて、士爵さまとの縁談を持ちかけてみようと思うと言われました。お父様は、一代限りの名誉貴族の事をエセ貴族と言って嫌っていたはずなのに。

 えへへ、リナ・ペンドラゴンか。士爵さまが受けてくださるといいな。そしたら、毎晩2人でダンスを踊るのです。きっと楽しいに違いありません。

 美味しいケーキを食べて、素敵なお話も聞けて、今日は良く眠れそうです。
 明日もいい日になるといいな。

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