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8-22.勇者とサトゥー[改定版]

※2/11 誤字修正しました。

※10/17 改稿しました。

 サトゥーです。人の価値観は様々ですが、いい方は違えど「隣の芝は青い」という言葉はどこの国にもあるようです。もちろん、それは異世界にも。





「ほう? 『テンプラ』か」


 晩餐会場で、沢山の美女を引き連れて現れた勇者の最初の一言がソレだ。わざわざテンプラという単語だけを日本語で言うとか嫌らしい。


「いえ、これは天麩羅という料理です。公爵領の北方の都市では知る人ぞ知る、といった隠れた名物料理なのです」

「なあ、佐藤」

「勇者様に名前を覚えていていただけるとは光栄ですが、私の名前は、最後を伸ばすのでサトゥーとお呼びいただけると」

「そうかい、悪かったな。サトゥー」

「いえいえ、お気に為さらずに」


 サトゥーの時のオレが日本人だというのを勇者にバラすのは構わないんだが、こんな衆人環視の中でバラされるのは困る。


 ルルが差し出したテンプラの皿を受け取る勇者。


「こいつあ、驚いた。普段から美女を見慣れているが、あんたほどの美少女は初めて見たよ。あと5年早く会いたかったぜ」


 さすがの勇者も、「あと5年」のあたりを声に出さないようにするくらいの配慮はあったようだ。読唇スキルで読まれているとは思うまい。

 ルルは公衆の面前で遠まわしな厭味で侮辱されたと顔面を蒼白にしている。勇者はリーングランデ嬢とかにこっそり叱られているみたいだ。見た目はニコヤカなのだが、勇者の両サイドの2人の目が笑っていない。


 ルルの頭をポンポンと軽く叩いたあと、厨房に食材を取りに行ってもらう。

 後で、ちゃんとフォローしよう。


 ルルと交代で戻ってきたアリサを見て勇者が固まっている。


「マイハニー!」

「まあ、勇者ハヤト様、ご無沙汰しております」


 アリサが、TPOを弁えてお澄まし口調だ。それにしてもハニーって。

 リーングランデ嬢やメリーエスト皇女が小声でアリサの事を知らないか確認しあっている。他の勇者パーティーの面々は、あまりハヤトの女性遍歴に興味が無いのか天麩羅や煮凝りに舌鼓を打っている。勇者ハーレムじゃないのかな?


「生きていてくれて嬉しいよ、アリサ王女」


 外野から「王女?」とか「勇者さまと話す、あのメイドは何者?」とか姦しい。


「政変に巻き込まれて亡くなったとばかり――」


 嬉しそうにアリサに詰め寄っていた勇者の表情が凍る。


 あ、嫌な予感が。


 すいっと位置を移動して、オレと勇者の間にテーブルがくるように調整した。


「おい、サトゥー! YESロリータ、NOタッチの精神を忘れたか!」


 やはり、アリサの称号「サトゥーの奴隷」を見たか。それにしても、そんな精神が必要なほど若年層に興味は無いんだよな。


「勇者様、何の事をおっしゃっておられるのですか?」

「そうですわよ、私を窮地から救ってくれたのがサトゥー様なのです。私が奴隷という身分なのはヨウォーク王国に侵略された時に強制(ギアス)の魔法を掛けられたからなのです」


 奴隷うんぬんから後は、勇者にだけ聞こえるように耳打ちしていた。

 勇者が、メリーエスト皇女や僧侶のロレイヤさんにヒソヒソと確認しているが、2人共揃って首を横に振った。勇者パーティーでも強制(ギアス)は解除できないのか。どれだけ強力なんだ。そういえば巫女長さんにもセーラ経由で聞いてもらったが、やはり解除できないと言われた。


 結局、ロレイヤさんに真偽判定の魔法まで使ってもらって、アリサに手を出していない事を証明するはめになった。立場的には、真偽判定の魔法を受ける必要はないのだが、変に誤解されて幼女趣味(ロリコン)だと思われたくないので了承した。


「そうか、手を出していないか! いやー、お前とはいい酒が飲めそうだ」

「恐縮です」


 一晩中、幼女の魅力とかを語られたら吐きそうだ。

 積もる話もありそうだったが、勇者を独り占めするわけにもいかないので、後日の再会を約束するだけに留まり、この日の内にもう一度勇者と会話する機会はなかった。


 この前、王子にまとわり付いていた女性陣が勇者に取り入ろうとしていたが、リーングランデ嬢やメリーエスト皇女にあっさり排除されていた。


 12~13歳の少女達も勇者に話しかけていたが、ストライクゾーンから離れているのか普通の対応だった。





 その日の晩、ルルを慰めるのが大変だった。むしろ魔王と戦う方が楽だったかもしれない。


「ルルが可愛いのは本当だよ、勇者もオレやアリサと同じでルルが美少女に見えるんだよ」

「ありがとうございます、嘘でも嬉しいですご主人さま」


 耳元で砂糖菓子のような甘いセリフを囁いても、ルルには慰めるための言葉としか受け取ってもらえなかった。


 せめて好物でもと思ってリクエストを聞いたら、今までに作ったお菓子全種類と言われた。我侭を言えるようになってきたようで大変嬉しい。


 実際に作ると時間が掛かりすぎるので、ストレージに収納してある完成品を厨房で出してルルの待つ食堂に持っていく。

 ルルの横にミーアやポチ、タマが居るのが判っていたので4人分だ。もちろん、オレやアリサの分は無い。ここ最近のアリサはカロリーの摂取量が過剰だったので、現在は甘味禁止令が出ている。オレは、食事制限の必要が無いのだが、アリサに付き合って嗜好品を控えている。


 今日はルルを驚かせるために新作のお菓子も用意した。ルルと同じ名前の果実を使ったカスタードパイだ。

 このルルという果実だが、皮を剥く前が非常に不味そうに見える不遇の果実だったりする。おまけに生食するとすっぱくて食べられたモンじゃない。だが、不思議と加熱すると桃そっくりの味に変化する不思議果実だ。この果実をくれた人の話では、生食ではなく漬物に使うと言っていた。


「今日の新作は、ルルのカスタードパイだよ」


 名前を聞いて躊躇していたルルだが、観念したように一口分に切り分けたパイを口に運ぶ。


「美味しいです」


 ルルの頬に大粒の涙が零れた。あれ~? この展開は予定にないぞ。


「あのすっぱい果実がこんなに美味しくなるなんて」

「それに綺麗な色だろ?」

「はい、ありがとうございます。ご主人様の言いたい事が何となくわかります」


 それは何より。

 ルルは泣きながら、大皿のパイを口に運び続けた。


 その様子を食い入るように見つめていたミーアの口元をハンカチで拭いてやる。予備のパイをテーブルの下でストレージから出して、3人に切り分けてあげた。


「美味しい」

「甘い~」

「百点なのです!」

「うう、ダイエットさえなければ……一口、一口だけでいいから……」


 アリサが往生際の悪いことを言ってるがダメだ。絶対に、もう一口と言うに決まっている。


 その日は、ルルの横で添い寝して、彼女が眠るまで「ルル可愛いよ」と囁く事になってしまった。ポチ達がジャンケンをしていたので、今晩から日替わりで囁く事になりそうな予感がする。

 是非、予想が外れてほしい。


>「慰撫スキルを得た」





 翌日は午前中にセーラ嬢に付き合って孤児院へ、午後は結界柱工房の見学の予定だ。


 孤児院への慰問は、布教の一環でもあるようだが、慰問という名目で、体調の悪そうな子供に治癒魔法を使ってあげるのが主目的のようだ。


 ここではうちの幼女達が大人気だ。特にアリサとポチが人気で、変な遊びや学習カードでの遊びを広めているようだ。一応、文化ハザードには気をつけろとは言ってあるが、どの程度自重するかは任せてあるので、アリサ次第だ。


 今日はルルとナナは連れてきていない。

 子供達は思った事を躊躇いなく口にして、ルルを傷つけそうな言葉を連打しそうなので、置いてきた。ナナを連れてこなかったのは、幼生体――幼い子供を持ち帰ろうとするからだ。


「大変よ! ゆ、勇者様が慰問に来てくださったの」

「ええ! どうしましょう、お化粧しないといけないかしら」


 保母さんというか職員のお姉さま方が色めき立つ。ちょっと、君ら、既婚者だろう。


 勇者ハヤトがやってくると、男の子達や職員のお姉さま方が勇者に付きっ切りになる。子供はともかく、美女に加え癒し系の職員さんたちにまでチヤホヤされるとか羨ましい。しかも、普段は寄り付かない院長令嬢まで、いつの間にかやってきていた。


 イケメンめ、爆発しろ。


「ししゃくさま、ししゃくさま、これみて~」

「ういなもつくったの、これもみて」


 5~6歳くらいの幼女軍団に囲まれてしまった。前に来た時に教えた貝殻のアクセサリーだ。拙いながらに、それぞれの特徴が出ていて面白い。


 勇者は美女に囲まれているのに、オレは子供のお守りか、格差社会を感じるよ。


 勇者と視線があったので、挨拶をしておく。幼女達に囲まれて移動できなかったので、少し離れた場所からだった。なぜか、酷く羨ましそうな顔をされたが、なぜだろう。まさか、幼女趣味(ロリコン)とは言っても、ここまで幼い子供達も対象なのか? さすがに無いな。


 セーラ嬢と仲良く慰問に来ていたのをリーングランデ嬢に見られて、ひと悶着あったのは、蛇足なので省略する。





 午後の結界柱の工房見学は、久々に仲間内のみだ。ポチやタマと手を繋いで、見学通路を進む。結界柱は、主に村落で魔物の侵入を阻害するための魔法道具らしい。1本立てるだけで、半径100メートルが有効範囲になるそうだ。ただし、物理的な結界ではないので、暴走状態や人を追跡するような状況だと侵入されてしまう事があるらしい。

 結界柱の魔力は地脈から吸い上げる事でも機能するらしいが、土地が痩せてしまうので、数日に一度、地元の呪い士が魔力を補充するそうだ。


 大量の魔核(コア)を材料にするらしいので、盗難の心配をしたのだが、地面に立てられた後に、固定化の魔法を掛けるので、簡単には盗めないそうだ。村を襲うような盗賊達でも、結界柱に手を出すことは無いらしい。結界柱に手を出したら、ほぼ確実に領主の軍隊が出動するからだそうだ。


 難しい話だったせいか、両手に捕まっていたポチとタマが寝オチしてしまったので、死体のポーズの2人を両手に抱えて見学する事になった。リザが交代を申し出てくれたので、途中で2人を預けた。起きている時も可愛いが、寝ている時は、いつもと違った可愛さがある。


 やはり、平和が一番だ。





 8-21で書いたクラウソラスのレプリカは、ルルが眠った後に、徹夜で作成しました。影武者の枕元に置いた後に、ルルの横で添い寝し直したようです。


※8/12 改稿しました。

  ⇒ サトゥーが勇者に日本人とバレても良いと考えている内面描写の追加。

  ⇒ 舞踏会で後日の再会を約束する描写を追加


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― 新着の感想 ―
本当に大切に思っている女性なら、たとえ再開した時に子持ち人妻だったとしても「生きて幸せになったならそれでいい」とアリサの生存を喜ぶはず。 所詮ロリコン勇者の「マイハニー」は「処女である自分好みな幼女…
[気になる点] ここまで一定した美醜の基準って狂ってる気がする。 同じ国でも時代や地域によって容姿の判断基準って割と変わるもんだろうに…それに美醜の価値観は環境に依存する側面が大きいよな それに召喚さ…
[気になる点] この世界の美的感覚が矛盾してるような気がしますね... サトゥーと勇者はルルと同じく日本人風なのに存在するだけでモテ過ぎるし。
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