8-18.決勝当日(4)
勇者ハヤト視点の続きです。
少し短めです。
※2/11 誤字修正しました。
どれだけ、剣を交えただろう。
魔法主体のはずの黄色野郎と剣で互角とか、自信が揺らぐぜ。どんな魔法か知らないが、ヤツの爪の延長線上に生えている魔法の刃が厄介だ。幾ら砕いても生えるのは反則すぎる。
鑑定スキルで見る限り、黄色野郎とのレベル差は僅かだ。
なのに、なぜ届かない。
黄色野郎の火炎攻撃を「無敵の盾」で受け止め、「最強の矛」で強化された聖剣アロンダイトで奴の防御膜を突き破る。だが、ヤツの周りに生まれる鱗状の防御膜を、貫いている間に威力が削られてしまう。
僅かばかりのダメージが通っても、ヤツの周りに浮かぶ3つの球体がヤツを癒しやがる。球体から先に始末しようにも、1つ潰している間に次を召喚されちまう。
このままだとジリ貧だ。
「ハヤト、一人で闘おうとしないで、私達はチームよ」
しまった、熱くなりすぎていた。
メリーの言うとおりだ、協力しないで難敵に勝てるはずも無い。
幸いほとんどの雑魚魔物たちは闘技場の反対側で、シガ王国の戦士達が始末してくれているみたいだ。シガ王国にはめったに来ないから知らなかったが、この国の戦士達もなかなか侮れない。いつの間にか黄色野郎から距離を取った手際もそうだが、お互いに接近しすぎないように上手く距離を取っている。
まるで誰かが調整しているみたいだ。
思わず、そんな事を考えてしまった。
バカバカしい。雑魚に見えても、あの魔物達はレベル40台だ。そんな事をする実力のあるヤツがいたら、俺達のパーティーにスカウトしたいくらいだぜ。
俺達の近くに残っていた2匹も仲間達が押さえてくれている。
ムカデ型のはルススとフィフィが担当だ。苦戦しているみたいだが、リーングランデも加勢に行ったから、もうすぐ始末できるだろう。
双角甲虫が飛び回っているが、ウィーヤリィが近くに来ないように牽制してくれている。
「ウィー、そいつは任せた。後でルススとフィフィを応援に回すから時間を稼いでくれ」
「わかったハヤト。こちらは任せてくれ」
ちがう、ウィーヤリィ、そこは倒してもいいのだろう、と返してほしかった。弓兵のくせにわかっていない。
「そろそろ作戦の打ち合わせは終わったのデェスか?」
ちっ、攻撃が来ないと思ったら……。
その余裕を後悔させてやるぜ。
「ハヤト、詠唱の時間を稼いで」
「了解だ!」
アロンダイトを構えて突撃する前に、黄色野郎の火炎攻撃が襲ってきた。
無敵の盾で強化された聖盾で、白い火炎の豪雨を防ぐ。全部は防ぎきれなかったが、多少の怪我は、ロレイヤが幾らでも癒してくれる。
「サスガ、サスガなのデース。煉獄の白焔を防ぐとは進歩したデスネ。やはり勇者は面白いのデース」
ザコを倒し終わったルススとフィフィがウィーヤリィの援護に向かう。
「リーングランデ、ロレイヤ、詠唱を始めるわよ」
3人が神授のタリスマンを利用した禁呪の詠唱を始めた。
タリスマンには幾つもの便利機能があるが、詠唱同期は戦略魔法の威力や精度を飛躍的に跳ね上げる。
メリーは回復球ごと倒すつもりだな。
しかし、ここで戦略級の禁呪なんて使ったら、この都市に無視できない傷痕が残るぞ。
「おかしいデスね。どうして青や赤が出てこないのデスか?」
黄色野郎が首を傾げてやがる。
どこか上の空のヤツの攻撃を盾で防ぐ。チャンスな気がするが、ここで後衛から離れるわけにはいかない。
「まあ、いいのデス。勇者達のダメージはイタ気持ちイイのデスが、そろそろ勇者の恐怖や絶望を味わいたいデスね」
「ふん、このM野郎が! 俺様に恐怖だと? できるものなら、やってみろ!」
「では、折角のお土産デス。存分に味わうがいいのデス」
俺はヤツの攻撃に備えて、加速の魔法薬を呷る。こいつを使うと後が無くなるが、嫌な予感がしてならない。苦い液体を飲み干す。少しずつ効果が現れ、まわりの動きが、だんだんとゆっくりになっていく。
黄色野郎の背後頭上に巨大な召喚陣が生まれる。
むざむざ、召喚を許すものか!
「《歌え》アロンダイト、《奏でろ》トゥーナス」
聖剣と聖鎧の聖句を唱える。
オレの魔力を呼び水に、聖鎧の核を成す賢者の石から溢れるような魔力が生まれる。そして、その莫大な力が、聖剣へと流れ込む。
黄色野郎の召喚陣の完成前に準備が整う。
「閃光延烈斬」
やはり必殺技は叫ぶべきだ。
亜音速で振りぬいたアロンダイトから、光の刃が召喚陣に向かって襲い掛かる。
ちぃっ。
ヤツめ、頭上の回復球の1つを閃光延烈斬の刃の前に投げつけて防ぎやがった。
重ねて閃光延烈斬を放つが、今度はヤツの足元に落ちていた魔物の死体で迎撃されてしまう。
奮戦空しく、召喚は成功してしまった。
「なん……だとっ」
それは空飛ぶクジラ。
全長300メートルを超える巨大な魔物だ。
「だ、大怪魚?!」
「うそだよ、黄金の猪王が使役していたっていう、アレ?」
「伝説の空中要塞じゃん?」
詠唱していない3人から驚愕の声が上がる。
大怪魚、どこか間抜けな名前をしたこの魔物のレベルは97だ。
信じられなくて何度も見直した。
だが間違いない。
「どんなヤツが相手でも引くわけにはいかない。ウィー、ルスス、フィフィ、ジュールベルヌを浮上させろ、主砲の使用を許可する。アロンダイトを持っていけ」
貴重な次元潜行艦が壊れるのを警戒して、次元の向こう側に隠していたが、そうも言っていられない。皇帝陛下には悪いが、艦を無事に持ち帰るって約束を守れそうにないな。
こいつの主砲を街中で使ったら大惨事は間違いないだろう。
勇者の名が地に落ちるかもしれないが、こいつを倒す方法は他に無い。主砲のコアになるアロンダイトを渡す。代わりに無限収納から予備の魔法剣を取り出した。
「いい恐怖なのデ~ス」
黄色野郎め。
いい気になっているのも今のうちだ。リーン達の詠唱が終わった時が、お前の最期だ。
大怪魚は、何を考えているのか、こちらを見向きもせずに闘技場の一角を見つめている。よくわからんが、好都合だ。案外、黄色野郎が召喚に失敗してコントロールできていないのかもしれない。
「シカシ、希望が残っていると、恐怖に雑味が混ざって、いまいちデスネ」
希望か。楽しいことを考えればいいんだな?
俺、この戦いが終わったら、孤児院に慰問に行くんだ。幼女の楽園に行くまで、絶対に死んでやらねえ。お風呂に入れてやったりとか、添い寝してやったりとか、夢が広がるぜ。
「俺様が勇者である限り、希望はいつだってあるのさ」
「笑止デスネ」
俺は気が付いていなかった。
空には、大怪魚を召喚した召喚陣が残ったままになっている。
そうだ、俺はその意味に気が付いていないといけなかったんだ。
召喚を終えても消えていなかった召喚陣から、続々と大怪魚が出現してくる。
その数は、最初のヤツを入れて7匹。
そうか、お前達が俺の死か。
なあ、パリオンさん。
あんたの世界はハードすぎるぜ。
明日からは、いつものサトゥー視点に戻ります。
長さも元通りになります。
2日連続で短い話だったので、活動報告にSSを1本載せて置きますね。
※勇者パーティ
魔法剣士リーングランデ(シガ王国の公爵の孫、王族の血を引く)
魔女メリーエスト(サガ帝国の第21皇女、豪奢な金髪の爆乳美女)
僧侶ロレイヤ(ゆるふわタイプの巨乳美女)
弓兵ウィーヤリィ(長耳族)
身軽な軽戦士ルスス(虎耳族、ポニテ)
剣の戦士フィフィ(狼耳族、ショートヘア)
斥候セイナ
書記官のノノ