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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第七章

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7-14.グルリアン市の騒動(3)

※2/11 誤字修正しました。


 サトゥーです。人類の歴史は戦争の歴史と言った人がいるそうです。世界の戦争の発生を世界地図と円グラフで見せる動画を見たときにその言葉を実感したのを覚えています。

 異世界でも、人の業は変わらないようです。





「市内を襲撃した魔族を倒した功を称え、グルリアン市の太守よりこれらの勲章を授与するものである」


 若い太守の横に立つハゲ頭の文官さんが、目録を読み上げてくれる。ここはグルリアン市の城にある謁見の間だ。広さはムーノ城の4分の1も無いが、全身鎧に斧槍(ハルバード)を持った重装備の戦士が左右に20人ずつ並んでいる。

 この時は、「いかにもお城っぽくていいな~」とか暢気な感想を抱いていたが、実際は、オレを警戒して太守の護衛を強化していたのだと、後でアリサに教えられた。


 謁見の間にいるのは、オレだけだ。他のメンバーは、別室で待機させられている。妖精剣や短杖もアリサに預けてあるので丸腰だ。


 そうして恙無(つつがな)く太守との面会が終わり退出する。

 結局、太守さんは「大儀であった」くらいしか言わなかった。





 退出後にメイドさんに案内されて、アリサ達が待つ控え室とは違う部屋に通される。

 そこには、さっきのハゲの文官さんが居た。グルリアン市の執政官だそうだ。


「ペンドラゴン卿、此度の貴殿の助力には感謝の言葉もない。よくぞ加勢してくださった」

「私も末席とはいえ、シガ王国の貴族の一員ですから。義務を果たしたまでの事ですよ」


 そういった定型のやり取りの後に本題に入る。

 ムーノ男爵領を襲った魔族の様子や、軍勢の規模などについて話す。公爵経由で詳細は伝わっていたようで、事実確認の色合いが濃かった。続いて、今回のグルリアン市を襲撃した魔族との対比に移る。


「腑に落ちませんな。魔族の狙いが読めません」

「そうですね、ムーノ市の時のように用意周到に軍勢を準備して襲い掛かるならともかく、市内に潜入して暴れるだけでは何の意味もないですから」


 あのアイテムからして、本当に暴れさせる為だけの陽動だったのかもしれない。魔法道具「短角(ショートホーン)」については報告していない。太守の人となりや能力が判らない内は危険すぎてアイテムの存在を教えられなかった。ヘタに広まると魔女狩りでも起きそうで怖い。アリサも、報告するのは反対していた。


「ペンドラゴン卿、あなたの見解を教えてもらえますかな?」

「恐らく陽動、あるいは人々に恐怖を植え付けるのが目的でしょう」


 執政官さんは、オレの答えを予想していたのだろう。重々しく何度も頷いている。

 実際、謁見の待ち時間に検索したら、他の都市でも短角魔族(ショートホーン)が出現していた。退治されたかまでは確認していないが、武術大会が開かれている今の時期なら、誰かしら退治できる者がいるだろう。


 その後、幾つかの意見を交換して会談は終了した。

 帰る前に太守の家令に晩餐会の招待状を渡された。ポチ達を引き連れて、食の都グルリアンの食べ歩きをするつもりだったのに、貴族同士の付き合いも面倒なものだ。





 控え室に戻ったオレを出迎えてくれたのは、アリサ達だけではなかった。カリナ嬢とメイド隊が居るのは予想通りだが、見知らぬ女性が増えている。みすぼらしい服装なので、太守の使用人ではないだろう。ステータスを確認したら、やはり奴隷で「主人なし」と表示されていた。


「ペンドラゴン士爵さま、先日は失礼を致しました。この度は魔族の襲撃から助けていただき、感謝いたします」


 誰だろう? 助けた記憶なんてないんだが?


「さっきの現場で倒れてた奴隷の運搬車があったでしょ、それに乗ってたんだって」


 なるほど。でも失礼って――そうか、ボルエハルト市でミスリルの剣を譲ってくれと言っていた主従の片割れか。

 でも、どうして奴隷なんて? そう思って尋ねると悔しそうに答えてくれた。


「実はあの後、イタチ共の言葉に騙されて」


 彼女の言葉は要領を得なかったが、「鼬人族の商人が魔剣があるというので付いていった」「魔剣の対価に金貨30枚を要求された」「手持ちが金貨5枚しかなかったので、大会が終わるまでの期間、借用する契約をした」という事らしいが、どこが騙した事になるのだろう?


「騙されたのはそこからなのです。私達はダレガン市へと、まっすぐ向かったのですが、途中で虎人族や獅子人族の盗賊に襲われて魔剣を奪われてしまったのです」

「それは本物の盗賊だったのでは?」

「本物なら私も主も殺されています。ボルエハルト市に戻った私たちは、偶然、魔剣を貸してくれた商人に出会い。魔剣を盗まれた事を見抜かれたのです。今思えば、彼らは明らかに私たちが魔剣を持っていない事を知っているようでした」


 被害妄想じゃないかな?

 盗賊に襲われたかどうかなんて、ボロボロになった服を見れば判るだろうし、盗賊達が殺さなかったのも、そういう義賊風の集団なのかもしれない。


「それが、さあ」


 アリサが補足してくれたが、同じ馬車で運ばれていた女性達が皆、似たような話をしていたらしい。貴族の子弟の方は、近隣の小国にある鉱山都市に売られていったそうだ。

 彼女がここに居るのはカリナ嬢が連れてきたからだが、太守あるいは執政官に直訴したいのだそうだ。主人がいつ死ぬか判らない鉱山奴隷にされて、気が気じゃないと言っていた。


「その話が本当だとしたら、その鼬人族が詐欺で捕まるっていう話じゃなくて、鼬人族の国と戦争になるんじゃないか?」


 いや、むしろ鼬人族と戦争を起こさせたい誰かが居るのかもしれない。鼬人族の主戦派とかが居そうだ。昨日酒盛りした商人達の話だと、鼬人族の商人達が公爵領に出入りするようになったのは、15年前くらいかららしい。

 公爵領は、18年ほど前までは、7~9つの人族の小国と接していて、その向こう側には蜥蜴人族と虎人族の首長国があったらしい。鼬人族は、それらの亜人の国を併呑して大きくなり、今では帝国を築いているそうだ。

 これまでは人族の国には手を出していなかったらしいが、昨年、小国の一つが攻め滅ぼされて、公爵領と領土を接するようになったそうだ。


 まあ、戦争になるとしても男爵領まで飛び火しない事を願おう。出兵するほど兵士もいないし、ニナさんなら上手く裁くだろう。


 問題は当事者に任せる事にする。テーブルの上の鈴を鳴らして、部屋の外で待機していたメイドさんを呼んで、執政官に手紙を渡してもらう。内容が内容だけに言伝するのは憚られた。彼女に会うかどうかは執政官次第だろう。





「それにしても、トラブルの多い世界だよな」

「ファンタジー世界なんてこんなものよ」


 オレは今、アリサと連れ立って、太守の館にほど近い宝石店に来ている。もちろん今晩の晩餐会のためだ。アリサ曰く「服は十分貴族らしいけど、飾りが足りないわ」と言われてアクセサリー類を買いに来たわけだ。向こうに居た頃はシンプルなのが好きで、腕時計すらしていなかったので何を選べばいいか判らないのでアリサに同伴してもらった。


 今夜の晩餐会は、オレとカリナ嬢で出席する。奴隷や亜人を連れていくわけにはいかないので、仲間内ではナナしか候補が居なかったのだが、太守の奥方が能力鑑定(ステータス・チェック)スキル持ちなので、カリナ嬢に頼んだ。もっとも奥方は4レベルなので、能力鑑定(ステータス・チェック)もスキルレベルが低く、名前が判る程度らしいのだが、不要な冒険をする事はないだろう。早いところ、術理魔法の「偽装情報(フェイク・パッチ)」が使えるようにならなければ。


 アリサと一緒に店員の勧めるアクセサリーを色々合わせたが、好みに合うものがなかった。この世界のアクセサリーは基本的にゴツゴツしたモノが多く。宝石や金地がどれだけふんだんに使っているかが重要と言わんばかりの品ばかりだった。


 晩餐が今晩じゃなかったら自作したかった。


 アリサと女性店員の会話を聞き流しながら、相場を確認していく。やはり加工品の方が高いな。鉱脈探しの余禄で見つけた琥珀やコランダム、ジルコンとかの原石が、結構な分量貯まっている。他には翡翠や水晶もかなりあるし、研磨用の魔法道具でも作るか、山魔法にあった「研磨(ポリッシュ)」を使えるようになりたい。


 結局、「太守の前に出ても恥ずかしくない」という基準で選んでもらった。金貨30枚近く飛んだのが非常に勿体無い。





 太守の館に用意してもらった部屋、というか建物に戻ると、館付きのメイドさんが待っていて、オレに来客だと言う。

 相手は、桃色髪の王女とその一行らしい。元々、こちらから会いに行こうと思っていたので、都合がいい。オレはメイドさんに訪問を承諾したと伝えてもらい、アリサと一緒に面会する。王女とその一行について、事前に判る情報を全て(・・)アリサに伝えておいた。


「ペンドラゴン士爵殿、この度は危ないところを助けていただいて感謝いたします」


 メネア・ルモォークは、公爵領に接する小国の王女だ。年齢は16歳。レベルは9で召喚魔法スキルを持っている。なかなかレアだ。腰まである緩やかに波打つ淡い桃色の髪と碧色の瞳、彫があまり深くない顔立ちをしている。背は150センチくらいだが、腰が細く胸が大きい。Dカップまで後一歩のCカップというところだ。身分違いでなければ、2~3年したら口説いてみたい美少女だ。


 彼女は、第三王女で、小国の王子と結婚する予定だったそうなのだが、その相手国が鼬人族に滅ぼされてしまい王子が死亡したらしい。そこで次の結婚相手を探すためにも、シガ王国の貴族が沢山通う王立学院に留学する途中なのだそうだ。もちろん学院は王都にある。


 ここまで一緒に来た騎士や従士達は魔族の襲撃で半分が死亡、残り半分の3名が重傷でテニオン神殿で治療中らしい。


 王女の後ろに控えている文官っぽい服装の20過ぎの賢そうな女性は、王女付きの侍女でポニーさんというらしい。レベル7でスキルは「交渉」「密偵」「礼儀作法」を持っている。密偵スキルが怪し過ぎる。


 ここまではいい、問題は彼女の黒髪の従者だ。


 まず、少年が名乗ってくれた。男としては少し長めの黒髪に、やや大きめの黒い目で、10歳。レベルは1。スキルは「算術」のみ。背丈は132センチだ。平均身長より少し低い。所謂「男の娘」というヤツで顔だけ見ると少女にしか見えない。着ている服も女性用だ。

 アリサが放っておかないような、真正ショタだ。現に、横で「悪くない、髪はもう少し短いほうがいいな」とかブツブツ言っている。


「アオイ・ハルカです。助けてくれてありがとう」


 青井遼か遥葵かどっちだろう?


「ユイ・アカサキです。アイドルやってましたー。お兄さん、私の顔に見覚えないかな?」


 赤崎唯かな? 彼女も肩までの黒髪に黒目で、13歳。レベルは2。スキルは「演技」のみ。歌唱やダンスじゃないのか? 背丈は149センチだ。胸はBカップくらいだ。この年にしては大きいほうだろう。しかし、アイドルと言っているが見たことは無い。アリサの方を窺ったが知らないみたいだ。


「ユイ、士爵様に失礼ですよ。ちゃんとした言葉を使いなさい」


 ポニーさんがユイの言葉遣いを窘めているが、彼女は言葉を改める気はないようだ。

 読唇スキルで読む彼女の言葉は、ずっと日本語を話しているようだが、聞こえてくるのはシガ国語だ。後でポニーさんに教えてもらったが、身に着けている翻訳の指輪が、シガ国語への変換専用なのだそうだ。


 2人は名前から判るように、日本人――転移者のはずなのだが、ユニークスキルどころか、アリサが転生者や転移者は必ず持っていると言っていた「自己確認(セルフ・ステータス)」スキルも持っていなかった。オレみたいに隠している可能性はあるが、今までにない第四のタイプかもしれない。


「それで、あなたは、どの日本から来たの? この子の居た大倭豊秋津島帝国? それとも私が居た南日本連邦? まさか北日本人民共和国の人間じゃないでしょうね?」


 なるほど、そう来たか。


 今日も無表情(ポーカーフェイス)スキルは、良い仕事をしているようです。


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