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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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7-8.オオカミとストーカー予備軍

※2/11 誤字修正しました。

 サトゥーです。ストーカーという言葉が有名になったのは意外に最近なのではないでしょうか? 一途なのも相手に迷惑をかけない範囲ならいいのですが……。





「ご主人さま、この先の山裾で街道が分かれているそうです。どちらに向かえばいいですか?」

 御者台から呼びかけてきたルルの言葉に、オレは実験を中断する。

「ナイスよ、ルル! さあさあ、早く行かないとっ!」
「イチャイチャ、終了」

 アリサが背中を押してオレを御者台へと行かせようとする。オレの膝の上で寝ていたタマをミーアに預ける。ポチはナナの膝枕で寝ている。非常に羨ましい、晩御飯の肉を進呈するから代わってくれないだろうか。

 ミーアのセリフは言いがかりだと思う、ナナと向き合って実験していただけで、決してイチャイチャしていた訳では無い。

 ちょっとナナと膝を突き合わせて、送受信双方が「信号(シグナル)」の魔法を使わないといけない所を、受信側が「信号(シグナル)」無しでも信号を受信できないかを試していたんだ。

 おまけに、視線がナナの胸にいかないように、顔に固定していたのに酷い言われようだ。

「まったく見詰め合った上に、手まで繋いじゃって、まったく!」
「有罪」

 オレは直ぐに「魔力感知」スキルを取得できたんだが、ナナが感知できなかったので信号を送るタイミングに、ナナの手の平を指で叩いて合図を出していた。

 あくまで実験だ。
 やましい事は無い――ちょっと役得だと思ったのは内緒だ。

 話を逸らすように御者台に顔を出して、ルルに指示を出す。
 今居る山道から、森の中にニ方向に伸びる道が見える。片方は直進して森の向こうのダレガン市に続いている。ここからでも森の向こうに微かに外壁らしきものが見える。


「まっすぐ行かずに左折してくれ」
「はい、わかりました」
「あれ? ダレガン市って、まっすぐって言ってなかった? そこで船に乗って一気に公都まで行くって言ってたのに」

 そういう予定だったのだが、この先の街に行くのはマズいのだ。

「このまま行くとストーカー予備軍に遭遇するんだよ」
「げっ、まさかオッパイさん?」
「ちょ、ちょっとアリサ。一応、ご主人様の主家筋のお嬢さんなんだから、ちゃんとカリナ様って呼ばないと」

 ルルが注意してくれるが、ルルはルルで「一応」って付けてるあたり、カリナ嬢の評価が判る。
 この先にあるダレガン市には、カリナ嬢と、お付きらしい武装メイドさん達が3人ほど同行している。流石に騎士ゾトルとか従騎士ハウトを付けるのは無理だったみたいだ。カリナ嬢も自領の盗賊退治とか仕事がいくらでもあるだろうに。困った人だ。

「かりな~?」
「いざ、じんじょーに、勝負なのです!」

 ポチとタマが嬉しそうに御者台の方へ飛んできた。そういえば、2人はカリナ嬢との勝負が好きだった。

 はじめはオレを苛める悪いヤツみたいに思って、オレを守るためにカリナ嬢と対戦していたみたいなんだが、どうも3人は波長が合うらしく良く勝負していた。カリナ嬢も2人を殴るのに抵抗があったみたいで防戦中心だったらしい。2回に1回くらいは、2人のスタミナ切れでカリナ嬢の勝利。そうじゃない場合は両者スタミナ切れで終了だった。

 2人はキョロキョロと周りをみて「かりな、いない~?」「いないのです」と言っている。
 そんな雑談をしている間に、分岐点に偵察に行っていたリザが帰ってきた。今日は移動範囲に盗賊が居ないので騎乗しているのはリザだけだ。

「ご主人さま、この先の分岐路で、人族の集団がいました。武器を打ち合う音が聞こえたので、盗賊かもしれません」
「盗賊退治~?」
「頑張るのです!」

 ポチとタマは盗賊と聞いてカリナ嬢の事は頭から消えてしまったようだ。
 ここから目視できないが、マップで確認した限りでは、リザの見つけたのは盗賊では無い。数人の武芸者と、残りは近隣の農民達だろう。





 街道の交差するそこは少し開けた広場になっていた。広場の中心では2人の武芸者風の男女が剣を交わしている。その戦いを、20人ほどの農民達が遠巻きに観戦している。
 どうやら賭け試合らしく、農民達は口角泡を飛ばすという表現がぴったりの興奮具合だ。

 広場には何台もの荷車が止まっている。空荷なのでダレガン市に納品した帰りなのだろう。

 ポチ達が参加したがったが、ここにいる武芸者達はレベル4~7くらいなので、ポチ達の相手には不足すぎるので禁止した。

 ポチとタマがオレの左右からウルウル目で強請(ねだ)ってきたが、ここで折れると弱いもの虐めになるので耐えた。2人は尚も諦めきれないようだったが、馬を寄せてきたリザが両手に掬って持って行ってくれた。
 珍しく不貞腐れたポチが、リザに抱えられて死体のポーズで脱力している。だら~んのポーズは久々に見たな。何時までもリザに抵抗していたタマもポチを見て思い出したらしく、ポチと同じポーズでぶら下がっていた。

 さて、ポチ達の相手は、彼らじゃない。
 レーダーの外縁部に、森の中に狼の群れに追われている3人ほどの傭兵達が、こちらに向かって逃げてきているのが映っている。狼の群れが農民達の集団になだれ込んだら酷いことになりそうだ。誘導矢(リモート・アロー)で始末してもいいが、ポチ達の闘争心と食欲を満たすために犠牲になってもらおう。

 馬車を広場の隅に止めて、獣娘3人だけを連れて狼が出てくるあたりに向かう。
 ポチの耳がピクピクする。どうやら狼の気配を感じたようだ。

「ご主人さま、オオカミなのです!」
「にゅ~? いる?」

 タマやリザはまだ聞こえないらしい。リザが視線で窺ってきたので、頷いておく。

「ニイさん強そうな護衛だな。出場するか? 負けても怪我するだけだが、勝ったら大銅貨1枚だ。悪くないだろう?」
「いや、森の様子がおかしいって、この子が言うんでね」
「そうかい?」

 賭博の元締めらしき男が声を掛けてきたが、適当に返事をしておいた。もう200メートルを切っている。
 元締めも狼の声が聞こえたらしく、農民達に指示して移動させている。武芸者らしき5人ほどの男女と元締めが何かを話している。
 彼らが来る前に始末をつけよう。

 ダミーの呪文を唱えて「防護柵(フェンス)」を発動して5つの透明な馬柵を配置して陣地を構成する。

 森を飛び出してくる傭兵達が馬柵に飛び込まないように、前に出て受け止めて馬柵の陰に転がす。

「逃げて! 狼の群れなの」
「私達が、時間を稼ぎます。だから早く」

 転がされた3人のうち軽傷の2人が、オレ達に警告してくれるが、不要だ。オレは3人に安心するように言う。

「大丈夫だよ。直ぐに始末するから、馬柵の影で休んでいて」

 オレの言葉の途中で、傭兵達を追って森から出てきた狼が、次々に馬柵に串刺しになる。なんとか回避した狼もポチやタマの小剣で他愛なく始末されていく。
 馬柵を迂回しようとした集団は、リザの槍が遠間から刺し貫いていく。傭兵たちが「すごい」とか「強い」とか呟いているのが聞こえたが、聞き流す。

 馬柵を飛び越えてオレに向かってきた不幸な狼は、顎を蹴り飛ばす。途中で馬柵に当たってタマの前に飛んで行ってしまった。

「危ない~?」
「ああ、スマン」

 タマは文句をいいながらも、狼に手早く止めを刺していく。3人は瞬く間に20匹近い狼を倒してしまった。森の中に、まだ3匹ほどいたが、奥のほうへ逃げていったので追撃はしないでおいた。

「すごいぞ、チビ!」
「狼が子犬みたいだったぜ!」

 はじめは狼の声に怯えていた農民達も、いつの間にか観戦していたみたいだ。彼らが口々に賞賛の声を送っている。

「チビじゃないのです! ポチなのです!」
「タマ~なの」

 リザは淡々と狼を捌いているが、ポチとタマは狼を片手に勝利のポーズを取って勝ち誇っている。すぐにリザに叱られて解体作業に戻っていった。

 賭博の元締めや5人いた武芸者は、ダレガン市に向かって逃走中だ。ある意味潔い行動だ。むしろ、半数近い農民達が逃げていなかったのが不思議だ。





 狼の解体はリザ達に任せて、馬柵の影でへたり込んでいる傭兵の方に向かう。3人とも女性だ。一人が5レベルで小剣スキルを持っているが、残り二人は3レベルでスキルは何も無い。大怪我をしているのは3レベルの一人だけだ。

「大丈夫か?」
「はい、助かりました」
「ごめんなさい、こんな所に人がいるとは思わなくて」

 たしかにゲームだったらトレインというかMPK寸前だったからな。反省して貰おう。オレは喋る気力もない大怪我の傭兵少女に、応急処置をしながらも苦言を言っておく。

「この子達がいなかったら大惨事だ。無理な狩りは止めた方がいい」
「私が悪いんです。初依頼だったから森の奥まで深追いして逆襲されちゃって……」

 リーダーらしい女傭兵が言い訳する。最年長の彼女でも18歳で、他の2人は15~16歳だ。命を落とす前に、慎重に行動できるように学習して欲しいものだ。
 応急処置はだいたい終わったが、体力の微減が止まらない。少女を抱え上げて裏向けたら背中に3条の爪痕が刻まれていた。これは痕が残るな。10人並みの容姿とはいえ、女性には辛いだろう。
 魔法薬(ポーション)は使わないつもりだったが、仕方ない。怪我のせいか意識が朦朧としている少女の口に魔法薬(ポーション)を流し込む。背後から咎めるような視線を感じたので、口移しで飲ませるのは自重した。

 この時、彼女達を助けた為に、やっかいな人間に手がかりを与える嵌めになってしまった。口止めをしておけば良かったと後悔をしたが、見捨てても寝覚めが悪いので行動自体を悔やんではいない。

 魔法薬(ポーション)の効き目に驚く彼女達を置き去りにして、オレ達は出発する事にした。解体したオオカミから出たモツの半分は、観戦していた農民達や傭兵少女達に分け与えた。涎を垂らさんばかりの期待に満ちた目で見られて、流石に無視できなかった。
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