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カンジキウサギは闇夜に踊る  作者: 花街ナズナ
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【Oranges and Lemons】 (3)


一階の階段入口を入ったその瞬間だった。


予測の範囲ではあったが、二階手前の踊り場付近から、まさに銃弾の雨が降り注いだ。


銃撃戦において、上を取られるのは極めて不利である。

相手は見通しの良い位置から正確にこちらを狙うことが出来、しかも下向きに撃ちおろす弾丸は、通常なら弾道を狂わす敵となるはずの重力を味方にし、弾道が安定する。


元から命中精度が高いうえ、毎秒15発の弾丸を発射できるFN P90を複数相手にして、階段を上る作業は困難などという生易しいものではない。


銃声とマズルフラッシュの数から考え、踊り場付近から狙っている敵数は最低でも四人以上。

攻撃の切れ目を狙うのもひと苦労である。


そうこうしているうち、まさにその攻撃の切れ目が発生した時、ヒューは素早く階段の脇から踊り場付近へ銃を撃とうとした。

したが……、


その途端、足元に何かがぶつかってきた。

何か金属の塊のような感触。


すぐ足元へ視線を落としたヒューは、一瞬にして全身を恐怖が突き抜けるのを感じた。


暗闇でも見間違うことは無い。

M67破片手榴弾。


それがコロコロと階段から転がり落ち、自分の足元で止まっている。


「やべぇっ!」

とっさにヒューは階段入口を出ると、エレベーター脇へ身を隠した。


瞬間、爆発が起こる。


コンクリートが粉塵と化して喉を傷め、視界を奪う。


銃撃がいまだ止んでいるのは幸いだったが、敵が手榴弾をこれほど安易に使ってくるとなると戦い方を少々考え直す必要がある。


踊り場から身を隠しつつ、銃撃。その合間に手榴弾による攻撃。

とても自分ひとりで手が回る攻撃のされ方ではない。


そうなれば自然、選択肢は限られる。


強行突破。


今なら自分自身も含め、敵も階段の中に充満したコンクリートの粉塵と爆発による煙で視界が利かない。


これをチャンスと、一気に階段を駆け上がり、踊り場に潜んだ連中を片付ける。

思いついてからのヒューの動きは迅速だった。


ぐっと奥歯を噛み、左足にこれから走る激痛への覚悟を決めると、砕けたコンクリートで凸凹した階段入口を飛ぶように中へ入り、脇目も振らず階段を踊り場まで駆け上がってゆく。


想像した通り、左足の激痛は凄まじかったが、幸いにも堪えられる範囲の痛みだった。

だが対応しなければいけないのは痛みだけではない。


ヒューの足音と気配を察した敵の一斉射撃が階段の途中を行くヒューへ襲いかかる。

対してヒューは銃を再びフルオートに切り替えると、銃撃地点へ向けて銃を乱射し、なお駆け上がる足を止めない。


牽制としてすら意味を成したかどうか疑わしい射撃によって、負傷に加えて発射の反動を堪えることまで強制された左足が悲鳴を上げる。


焼けつくような足の痛みと、全身をかすめ、立ち込める粉塵を切り裂く敵の銃撃による恐怖を押し殺し、さらに上り続ける。


しかしその時、不運は突然に襲い掛かる。


階段の上から発射された敵の弾のうち一発が、目の前の壁で跳ね返り、ボディアーマーの隙間を抜け、左脇腹に命中した。


「ぐ、うぅっ!」

駆け続けていた足が一瞬もつれ、失速する。


跳弾は不幸中の幸いか、内臓に達する角度ではなく、筋肉組織を破壊しながら斜めに体を貫通したが、それでも受けたダメージは大きすぎる。


「……バカ野郎、死神の出番はもっと後だろが、ちっとは大人しく待ってろ!」

叫びざま、ヒューは体勢を無理に立て直すと死角になっていた踊り場の敵を射線に捉え、即座にセレクターをセミオートに直し、今度は狙い定めて敵を撃ち抜く。


一、二、三、四!


相手が固まっていたおかげもあり、踊り場の攻防は一瞬でついた。


見事に敵四人の頭を撃ち抜き、一時ながらもヒューは溜め息をついて気を抜く。


が、途端に体を緊張が満たす。

精神的なものではない。むしろ肉体的緊張。


気を抜くと同時に、左足と左脇腹から鋭くも重い痛みが身を突き抜ける。


(……くそっ、おちおち気ぃ抜くことも出来ねぇのかよ!)

心の中で悪態をつきながら、ヒューはそのまま二階まで階段を登り終えると、再び弾倉を交換し、セレクターをフルオートにする。


と、階段入口から二階へと躍り出たヒューは、四方へ向けて文字通り銃を乱射した。


わずかに三秒ほどの乱射。


弾倉の弾を撃ち尽くし、すぐに階段側へ身を隠す。


しばし間を置く。


……応戦の気配は無い。


(二階は踊り場の連中だけだったか……)

再び安堵が心に満ちそうになるのを堪える。


緊張と興奮抜きで今、全身に走る激痛に耐えるのはとてもではないが無理だ。

思いつ、ヒューは空の弾倉を交換する。セレクターレバーはひとまずセミオート。


さて、この階下の騒ぎを最後の階……三階の連中はどう思い、どう対処してくるのか。


一呼吸置くと、ヒューはまたも全力で階段を上へ上へと駆け上がり始めた。



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