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Hide-and-Seek  作者: 稀春
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兄妹

 すみません。前の週は少しリアルが忙しかったので更新をお休みさせていただきました。以後、こういったことのないように気をつけます。

 何故シーカーになったのか。

 ――そう問われれば凪流瑞希は、誰かを守りたいから、と答えるだろう。

 青臭い理想論だ、と人は嗤うかもしれない。だが、何と言われようと瑞希はその信念を曲げるつもりはなかった。それが瑞希の戦う理由だったからだ。

 もちろん、シーカーが正義でないことは知っている。ハイダーの不当な扱いや、徹底した殲滅を謳っていることには、瑞希だけでなく他の多くの人も疑問を感じないはずがない。それでも、瑞希は多くの人を守るためには必要だと自分に言い聞かせ、それまでの任務をこなしてきた。

 だから。


「納得できない」


 この任務だけは納得が行かなかった。

「ま、下の立場の人間がやらされる仕事ってのは大抵が理解できないものばっかだよね」

 瑞希の兄――修司がいつものように飄々とした態度で答える。

「真面目に答えて。一体、この任務はどういう理由で遂行されるの?」

「いくら兄妹でも仕事の話する時くらい敬語を使おうよ、って言っても頷いてはくれないかなぁ?」

「そんな当たり前のことはどうでも良いわ」

「ですよねー」

「……どうして」

 修司が流石に顔を引き締めるのを見て、瑞希は改めて問いを兄にぶつけた。


「どうして、ハイダーが身を潜めて暮らす地区を殲滅しなければならないのよ?」


「…………」

 今、瑞希に告げられた任務内容。それは、最近発見されたハイダー達が集まって暮らす地区への潜入だった。偵察の次に行われるのは、殲滅に他ならない。つまり、この偵察任務が終わり次第、その地区のハイダーを皆殺しにするのだ。

 多くを助けるために少なきを殺す。それが瑞希の理屈だった。だが、この任務は違う。罪なき多くを殺すことなど瑞希にはできない。こんなこと、間違っている。

「彼らは何も舞煉を使って鏡界の人間を殺してしまおうと考えているわけじゃない。そんな風になるのが嫌で、ひっそりと暮らすことを選んだ人達なのに……それなのに、全てを殺すって……そんなの、一部のハイダーがしてしまった殺人と同じレベルの行為よ。……こんなの納得できるはずがない」

 修司は瑞希の前に置かれた紙を取り上げ、肩をすくめた。

「ハイダーの捕獲、及び虐殺自体は今までだって行われていたんだ。今回のはただ数が多いってだけだってのが俺の意見。

 俺からしてみたらお前の言っているのは、一人くらいなら殺すの良いけど数が多いと罪悪感が半端ないから無理ー、ってみたいな感じ? だって、今までハイダーを殺す任務がなかったわけじゃないでしょ?」

「それは……」

 鏡界ではキャンセルがある限り人を殺せない。でも世界から争いはなくることはなくて。それどころかハイダーを巡る水面下での争いは増すばかりで。それは全て、キャンセルを無効化してしまうハイダーの存在が狂わしている――と瑞希には思えなかった。

 だから?

「……っ」

 ――だから、どうしたと言うんだ、あたしは?

 そうだ。そんなこと知っていたはずだ。シーカーは正義ではないと。さっきだって再確認したばかりではないか。少ない存在がたとえ多い存在になろうと、より多くを救うためならば殺すことも仕方ないのだ。

 ――本当に?

「っ、どうかしていたわ。あんたの言う通りね。確かにあたしの言ったことは矛盾してたわ」

 瑞希が頭を振ってそう告げると、不意に、いつもは気楽そうに構えている兄の目が瑞希を鋭く差し抜いた。

「何がお前を惑わすのかは知らないけど、そんな迷いがあるなら銃は置いた方が良い。……この任務は他の人に回そうか」

「……待って、あたしは大丈夫。できるわ」

「ま、元々お前を選んだ理由が、年齢的にちょうど良かったからってだけだし。どちらにしろ、偵察から襲撃までは時間が空くし。それまでは瑞希の任務を少なめにしとくよ。ちょっと根詰めすぎだったからさ、最近」

「ちょっと……大丈夫だって言ってるでしょ!」

「あのね。俺は別に、お前に迷いがあるようなら、もー絶対の絶~っ対に銃を取るな!! って言ってるわけじゃないんだよ? むしろ、そういう風に考える時があっても良いと思う」

「…………」

「良い機会じゃん。――迷いは成長の糧になる。自分の中で何かが変わろうとしてるのかもしれないんだ。それは多分お前の力になると思う。だから、ちょっと休みながら自分が戦う理由を見つめ直してみたらどう?」

「……少し悔しいけれど、あんたの言葉の方がこの任務よりもよっぽど納得が行くかも」

 少なくとも非情な内容の書かれた紙っきれよりは、人間味に溢れたアドバイスだ。

「分かった。少し休ませてもらうわ。…………ありがとね」

「礼なんて言わないでくれー。何か変な気分になるから」

 肩を両手でさすりながら、怯える仕草を見せる。

 瑞希は反射的に腕を振り上げ、目の前の相手がここ最近ですっかり殴り慣れた人物ではないことを思い出した。

「……キャンセルがなかったら殴ってたかもしれない」

「それは怖いね」

 かもしれない。いや……確実に殴ってるかもしれなくもなくない気も微かにしたりしなかったりもする。

「ところで、学園の方はどうだい?」

「……急にどうしたのよ」

「いやいや、妹の学園生活が気になるのは兄として当然でしょう」

「いやいや、当然じゃないから」

「ま、仕事の話ばっかてのもつまんないじゃん」

 ……兄なりに気を遣っているんだろうか。本当に見た目と裏腹に気が良く回る人だ。

「で、どうなんだい? 何かイベントとかあるんでしょ? 俺は進学しなかったから良く分からないけどさ、学園祭とか体育祭とか遠足とか高原教室とか? あとプールとか?」

「一気に捲し立てないでよ……」

 そして最後のは少し個人の欲望が混じっている気がする。

「そうね……」

 本当の答えは決まっていたが、瑞希は少しだけ考える仕草を見せた。


「授業も案外楽しいわよ?」

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