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Hide-and-Seek  作者: 稀春
20/28

舞煉

 ――爆発!?

 瑞希は水面に叩きつけられる瞬間も思考を止めていなかった。

 幸い……と言って良いのかは分からないが、飛ばされた先が海であったため、それ以上の爆風の被害と着地の衝撃の心配はしなくても良い。

「……がっ……は」

 とは言え、着水には当然痛みがある。

 そしてその痛みを感じると、一瞬にして体が水深くまで無理やり押し込められる。

「……こんなことでっ」

 その叫びは空気のない水中では声にはならなかった。無論、息を吐いて無駄遣いするわけにはいかないのでするつもりもなかったが、瑞希が気合を入れるには十分なほどの役割を果たした。

「…………っ!」

 手足をばたつかせて水をかき分け、酸素を求めて海面を目指す。

 爆風は収まっているようだ。

「…………ぷはぁっ!」

 頭を出して呼吸を整える。目に入った海水が痛むが、それを無視して辺りを見渡した。

「輝!!」

 どれだけ探しても海面に輝の姿はなかった。

「……くっ」

 再度海に潜ることに躊躇いはなかった。

 息を大きく吸い、止め、頭を下げる――


 バシャッ!!


「……え?」

 不意に、瑞希の近くで水が跳ねた。

 ――何故かこんな時に子供の頃に見たイルカのショーが脳裏に浮かび上がった。水面から飛び出て、優雅に宙を舞うイルカの姿だ。

 だが、その姿は幼い頃の記憶とは重ならない。

「……輝?」

 何故ならそれはイルカなどではなかった。紛れもなく人間――久遠輝だった。


 輝は水面から跳び上がると、綺麗に地面へと降り立つや否や流れるような動作で走り出した。

「……速いっ」

 並みの身体能力ではあの速度で走ることができるはずもないのは、自身が訓練を受けた経験がある瑞希にも理解できた。

「そんな、無謀な……」

 第二漁港の敷地を風のように駆ける輝。そこではもし次の爆撃があったら逃げる術などない。

 かといって輝を呼び止めることも叶わず、ひとまず瑞希は泳いで陸上へと上がった。

「輝っ!!」

 声は届かない。輝の背が遠ざかって行く。

「……くっ」

 気付けば瑞希は自分の身も顧みずに走り出していた。

「あんの、馬鹿……急にどうしたってのよ……っ!」

 先行する輝を追っていたが、不意にその背が振り返り距離をあっという間に詰め、瑞希に肉薄してきた。

「きゃっ」

 次の瞬間、再び第二漁港を爆音が包んだ。

 しかし、その爆風が瑞希に襲い掛かることはなかった。

 何故なら――

「輝?」

「大丈夫かよ、凪流?」

 ――輝が庇ってくれたから。

 ……でも、どうやって?

「……あんた……一体?」

「今から海に戻るのも危険か。じゃ、ちょっと失礼」

 瑞希を引き寄せると、軽々と片手で抱え再び輝は走り出した。

「……ま、待ちなさい! あんたどうしたのよっ?」

 今の輝に感じるのは、とてつもない違和感だ。

 普段よりも刺々しく、大ざっぱな印象を受ける。

「今のは……舞煉(ぶれん)? それにその能力は……」

「お、流石はシーカーだな、凪流。気づくのが早い」

「気づいたも何も……いつの間に使い方を……。いえ、……あなたは誰?」

「いや、俺は久遠輝だ。間違いないさ」

「あんたはあたしを苗字で呼ばない。それにその喋り方……まるで」

 現界ではなく、鏡界の久遠輝だ。

 あの頃の、瑞希の知らない、久遠輝。

「ご名答。

 ……同化(アブソープション)……お前ならその意味が分かるだろ?」

「あんた……どうしてそれをっ?」

「それより、今は神崎ってのをどうにかしねぇといけないんだろ?」

「それは……分かったわ。ちゃんと現界の輝に意識を渡せるんでしょうね?」

「……結局はそっちか。まぁ良い。分かってたことだ。ああ、安心してくれ。俺が出てるのは一時的なものだから」

「信じるからね。……それで、勝算はあるの?」

「この日のために俺は生きてきたんでね。煉力を実際に使うのは初めてだが、使い方はマスターしている」

「……あんたの能力は」

「分かるだろ」

 そう言って輝は瑞希を抱えた方とは逆の手のひらをかざした。

「やっぱり、それ(・・)……なのね……」

「ああ……さぁて、敵さんの姿が見えたぜ」

 輝がブレーキをかけて止った。

 瑞希は輝に抱えられたまま顔を上げ、前を見た。

「おいおい……どういうことだ、これはっ」

 そこには驚きに口を歪めた神崎の姿があった。

「あんたの事情はこいつの中で聞かせてもらったよ。……俺も大概だけど、あんたもかなり歪んでるよな」

 輝が飄然と言い放つ。

「あの爆発、人工的な物じゃないよな?」

 ピクリと僅かに神崎の表情を動いたのを瑞希も見て取れた。

 それほどまでに神崎は動揺しているということだろう。

「お前の舞煉……爆破が能力と見たが?」

「うぉぉぉおおおおおお――――――――――――――――――っ!!!」

 叫び声と同時、神崎が腕を振りかぶった。


 それを、輝の舞煉が掻き消した。


 舞煉。それはハイダーにのみ与えられた力。

 彼らはこの世界でキャンセルという盾を持たない代わりに、舞煉という剣を手にしていた。


 神崎の舞煉は爆弾を自分の意のまま空間に作り出す。


 そして、輝の舞煉は――


「……雷」


 瑞希の呟きと共に、爆撃によって巻き上がった粉じんが晴れた。

 二人を包んだ雷の膜が衝撃を全て逃がし、輝と瑞希は無傷のままそこに立っていた。

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