ええ、かまいませんよ
※一部、暴力描写あり、グロあり、魔法ありの世界観。
十年間、次代の王を支えるために教育を受けてきた侯爵令嬢。
だが、その日、多くの貴族たちが見守る中で婚約者であった王太子から婚約解消を告げられた。
王太子の隣には子爵令嬢がいて、彼女のことを真実の愛だという。
「ええ、かまいませんよ」
婚約解消の日から日数が経ったあと。
療養中の名目で王都を離れていた侯爵令嬢のもとに王太子と子爵令嬢が現れる。
厚顔無恥にも、王太子は婚約解消の撤回と愛妾の打診をしてきた。
政務を彼女に押しつけ、挙句に子供が生まれても王位継承権は与えないなどと宣う王太子。
体を穢すことが前提の言葉に侯爵令嬢は。
「ええ、かまいませんよ」
華やかな結婚式を挙げる王太子と元子爵令嬢。
その裏で政務の書類が侯爵令嬢に預けられる。
「ええ、かまいませんよ」
王宮にいる文官は、戸惑いながらも政務を運んでくる。だが。
「ええ、かまいませんよ」
侯爵令嬢は動かなかった。
言葉だけは返すが、仕事の一切に手をつけない。
「……あの、アマリリス様。この書類は今日中に答えをいただけなければ困るのですが……」
「ええ、かまいませんよ」
微笑みを浮かべながら執務室の机に座り、ピクリとも動かない。
ただ投げかけられた言葉には返事をする。たった一言だけ。
「ええ、かまいませんよ」
「……! ひっ……」
まるで人形のようなその問答に文官は恐怖を抱いた。
政務を投げ出す王太子に代わり、民のために動いてくれるつもりなのかと思っていた。
或いは、十年尽くした王太子への愛が消せず、すがりつくようにこの立場を受け入れたと。
だが、そのどちらでもないということが嫌でも突きつけられる。
慌てて引き返すも、王太子府に任せられた仕事が進まない。
王太子は、妻となった女性の部屋に入り浸り、政務を侯爵令嬢に丸投げする。
仕事を押し付けられた侯爵令嬢は、同じ言葉を繰り返すばかりで一切、手をつけない。
周囲の人間は、彼らの振る舞いに振り回されるばかりだった。
怒鳴りつける者もいたが、そんな時でも変わらずに。
「ええ、かまいませんよ」
「……! ふざけないでください!」
怒鳴っても、威圧的に振る舞っても、睨みつけても、侯爵令嬢が動じることはない。
「ええ、かまいませんよ」
「……! 壊れてる……」
王太子府の文官たちは、仕事が進まない焦りを感じる。
王太子から捨てられたという前提でどこか見下していた面もある。
彼女が優秀なことはわかっている。
なにせ、そのために王太子の婚約者として選ばれたのだから。
だから、政務が捗るならと、本人が受け入れるならと、そう思っていた。
だが、十年。
十年も尽くしてきた結果が、王太子の振る舞いだ。
挙句に捨てたあとまで利用し、愚弄しようと。
彼女は怒るのではなく、嘆くのでもなく、壊れてしまったのだ。
ここにいる彼女は、ただの抜け殻で……人形にすぎない。
だんだんと彼女に仕事を運ぶ文官たちも諦めていった。
その噂は王宮内に伝わり、貴族たちにも伝わっていく。
侯爵令嬢の実家は沈黙を保っていた。
ただ、静かに王都を離れたという噂だけが広まる。
侯爵家は娘のことを諦め、見捨てた。
だから彼女には行き場がなく、そこにいる。
ただ仕事はせず、自身を主張することもなく、王太子へアプローチすることもない。
本当に何もせず、一日中座っている。
「……仕事をなさってください。さもなくば……食事を与えないでいいと、殿下が」
「ええ、かまいませんよ」
「……! 知りませんからね!?」
「ええ、かまいませんよ」
微笑みを浮かべながら、ただ淡々と感情を見せずにそう答える彼女。
壊れた人間というのを目の当たりにし、恐怖を覚え、文官は部屋から去っていった。
誰もいない部屋でも彼女の視線は揺らがない。
窓の外を見るでもなく、ただ机に座って正面を見ている。
「ええ、かまいませんよ」
◆
「アマリリス」
そうした状況が続いたあと、とうとう放置されていた侯爵令嬢の部屋へ、王太子が訪れる。
「すねているようだね」
「…………」
「だが、仕事はしてくれないと困る。みんなが困っているんだ」
「ええ、かまいませんよ」
「……何を言う。君は僕を愛しているだろう? そばに置いてあげるんだから、仕事をしてくれないか」
「ええ、かまいませんよ」
「そうか! ならすぐに……」
「ええ、かまいませんよ」
「…………」
「…………」
「僕をばかにしているのか」
「ええ、かまいませんよ」
「ふざけるなッ!」
王太子は机の上にある書類を手で払い落とす。
激昂する彼を前にしても侯爵令嬢は表情を変えない。
「自分で拾って片付けろ。そして今日中にここにある政務を処理するんだ。いいな!」
「ええ、かまいませんよ」
「……! いい加減にしろ! いつまですねているんだ!?」
「…………」
「……そうか。わかった。僕に愛されたくてそうしているんだね?」
「…………」
「わかった。仕事はしてもらうけれど、今夜、君の相手をしてあげよう」
「…………」
「じゃあ、部屋で準備をしているといい」
「ええ、かまいませんよ」
ほとんど表情を変えず、微笑みを浮かべたまま、淡々とそう答えた。
その答えを都合よく解釈し、王太子は部屋から去っていく。
そのあと、政務の書類は拾われることなく放置された。
◆
「アマリリス」
王太子が部屋に入ると侯爵令嬢がいた。
「君を愛してあげるから。それで機嫌をなおしてくれるかい?」
「ええ、かまいませんよ」
「……! そうか、まだ怒っているようだね。だが今夜でそれを忘れさせてやる」
乱暴に。
愛する者にする行為とは思えない手付きで。
欲望を満たそうとする王太子。
ベッドに押し倒した彼女から衣服を剥ぎ取り、一糸まとわぬ姿へ変える。
凶器などは用意していない。
長い髪の中にも、そういった物は用意されていない。
侯爵令嬢の華奢な力では、男性である王太子に力では敵わない。
最後に王太子は彼女の顔を見る。
彼女は変わらぬ微笑みを浮かべていた。
「僕を受け入れてくれるね?」
「ええ、かまいませんよ」
そして。
「ぎゃああああああああああああッ!!!?」
二人がいる部屋から悲鳴が響き渡った。
悲鳴を聞いて駆けつけてくる王宮騎士や使用人たち。
「殿下!?」
「あが、あがが……僕の、僕の……ものがぁ……!」
「ひっ……!?」
そこに広がっていたのは、見るも無残な光景。
大量の血がベッドの上に流れており、その上で王太子が股間を抑えて、涙を流し、鼻水をたらしながら荒い息を吐いている。
ベッドの上には血まみれの姿の侯爵令嬢が横たわっていた。
その姿を見て、彼女は死んでいるのかと思われた。
だが、大量の血の出所は王太子の股間からだ。
いや、侯爵令嬢も同じ場所を……?
「ええ、かまいませんよ」
ガバッ! と上半身を勢いよく跳ね上げて起こす侯爵令嬢。
「ひっ!?」
言葉を失い、思考が回らないような状況で、彼女は囁く。
「ええ、かまいませんよ」
「な、何を……、いや、それより殿下の治療を……!」
「そ、そうだ!」
「貴方がやったのですか、アマリリス様!?」
「ええ、かまいませんよ」
「ッ……! やむをえない、彼女を拘束して……」
「ええ、かまいませんよ」
壊れた侯爵令嬢に女性の使用人が近付いて体を隠そうとした。
「ええ、かまいませんよ。ええ、かまいませんよ。エエ、カマイマセンヨ、エエカマイマセンヨエエカマイマセンヨ……」
「ひぃっ……!?」
本当に壊れたかのように、ただ同じ言葉を繰り返し始めた。
その瞬間。
ボンッ!
と、小気味のいい音が鳴り響き、侯爵令嬢の首が跳んだ。
「ひぇええ!?」
「うわぁあああ!?」
「ひっ……!?」
股間の痛みで思考が回らないままの王太子も、その光景に怯える。
だが、生首が跳んだかに見えたそれには、バネのような物がついていた。
「え……」
『パンパカパーーーン!!!』
「!?」
あまりにも場違いな言葉、音が侯爵令嬢の首から聞こえる。
バネが伸び縮みし、侯爵令嬢の首だけがボヨンボヨンと跳ねる、尋常ならざる光景。
『ワタシ、ゴーレム18号ことアマリリス様が造られた人形は、役目を終えました。ミナサマ、今日までお付き合いいただき、誠にありがとうございます』
びっくり箱の中から出てきたピエロの首のように、ボヨンボヨンと跳ねる首からそんな言葉が発された。
『驚きでしょう。驚きですよね。ハイ、私はアマリリス様ではアリマセン。アマリリス様の造られたゴーレムでございます。ゴーレム18号。アマリリス様のお姿を模して造られました。ミナサマ、今日まで偽物のアマリリス様こと、ゴーレム18号にお付き合いいただき、誠にありがとうございマス』
誰もが絶句し、侯爵令嬢……ではなかったゴーレム18号の言葉を聞いた。
「偽物……!?」
『本物のアマリリス様は現在、バカンスの最中デス。十年も苦労したので、休みでイイダロウとお楽しみでゴザイマス。マタ、アマリリス様は、二度と王家とのコンヤクなんてゴメンだ、と仰せです。アイシテもいない無能の王太子の尻ぬぐいは、ソチラで勝手にヤッテくれ、とのコト』
「な……!」
顔を歪めながらゴーレム18号を睨みつける王太子。
「で、殿下、とにかく治療を……」
『マタ、ゴーレム18号に欲情し、襲いかかル者がいては不快とのことで、そうなった場合は、ソノ者のアソコをチョン切るように造られていマス。オメデトウゴザイマス』
「……は?」
「チョン、切る?」
集まった者たちの視線が、そして本人の視線が、王太子の股間へ向けられた。
大量の血の向こうには……あるべきモノがなかった。
『オメデトウゴザイマス』
「あ、あ……うわぁああああああッ!?」
王太子は己の体に起こった事態を正確に理解し、悲鳴を上げて気を失った。
『ソレデハ、オヤクゴメン』
ピーーーーーーッ。
『アト10秒でバクハツします。バクハツします。命の惜しい方は避難シテくだサイ』
「!?」
『10、9、8』
「うわあぁああああ!」
バァアアアンッ!
部屋から慌てて全員が逃げ出したところで、ゴーレム18号は跡形もなく爆発した。
◆
王太子は治療もむなしく、男性器を失った。
失意と絶望、そして怒りをにじませる王太子。
そこに。
「大変です、クーデターが! クーデターが起きましたぁああ!」
「クーデター!?」
王宮騎士団の半数近くが突如として裏切り、王宮を制圧し始める。
もともと、かの王太子を容認していた王家は、貴族からの評価が低かったのだ。
それをフォローしていたのが侯爵家と侯爵令嬢だった。
そんな彼女を手ひどいやり方で裏切り、さらに屈辱的な境遇に貶めようと画策したことで、完全に見限られた。
また政務もできない王太子に、政務ができないどころか性悪で、身分も低い子爵令嬢が次代の王妃となることも受け入れられなかった。
クーデターにより、王宮は完全制圧され、担ぎ上げられた公爵家に譲位するように王へ迫る。
一連のクーデターの立役者は侯爵家だった。
貴族間、かつ王宮内のみの出来事で、民に騒ぎが広まる前に王宮の制圧は済んだ。
抵抗する隙もなく、王は譲位を促がされ、受け入れるしかできなくなった。
元・王太子に屈辱を味わわせたアマリリスは、最後までその姿すら彼らの前に見せなかった。
元・王族たちは幽閉塔に押し込められ、そこで生涯を過ごすことになる。
「違う! 私は関係ないじゃない! だって私は!」
「お前も元・王族だ! 元・王太子の妻になったのだからな!」
「いや、いやよ、幽閉塔なんて、それも一生なんて!」
かつての子爵令嬢、真実の愛などと呼ばれた女も同じ幽閉塔に入れられる。
元・王と元・王太子、元・真実の愛の三人だけが閉じ込められた幽閉塔。
元・王妃はクーデターに気づいた時点で毒を飲み、自害していた。
◆
「知っていますか、アマリリス様」
「なぁに?」
王が変わってから半年ほどのち。
バカンスを終えた侯爵令嬢アマリリスは、新たに王子となった元・公爵令息と王宮の中庭で茶会を開いていた。
「元・王様が、元・王太子の元・真実の愛を欲望のはけ口にしているそうで」
「…………」
「それを大事な部分がなくなった元・王太子が見せつけられているというのです」
「うわぁ……」
「地獄のような光景でしょうねぇ……」
「そうねぇ。あと、元・元・元ね。まぁ、元・陛下の子が生まれることはないでしょうけど」
元・国王は薬で処置済み。
元・王太子は物理的に処置済みである。
「王族とその周辺をすみやかに排除できたので、被害は最小限に済みましたが……なんとも」
「まぁ、民の血が流れなかったのはいいことね」
「アマリリス様が与えてくださった兵のおかげでもあります」
「ああ……」
ゴーレムを駆使した戦術が、局所的な戦闘で大活躍し、より被害が抑えられたのだ。
「というわけで俺と結婚してください」
「何が、というわけなのか不明ですが」
「いえ、現状、貴方以上の女性が残っていませんし。貴方ほど教育を受け、貴方ほどの能力があり、かつ戦力まで確保できる女性、手放せませんし」
「……まぁ、そうでしょうねぇ」
侯爵令嬢も頷く。
「でも、条件がありますの」
「なんでしょう?」
「浮気をしないこと」
「ああ……」
「まぁ、この条件、約束を破ったらどうなるかはご存知でしょうけど」
「肝に銘じます。俺もああはなりたくない」
「そうでしょうね」
「では、約束しますので。俺と結婚していただけるということで?」
侯爵令嬢は答えた。
「ええ、かまいませんよ」
定期的にダン〇ンチョンパⅤ3したくなる病。




